第16話 乞命(きつめい)
僕にはただ、アレンを殺した害虫を駆除しなければならないという、事務的な思考だけがあった。僕は自分の手のひらを見つめる。指先一つ動かすだけで、空間そのものが僕の意思に従う感覚。
僕は親衛隊の群れに、軽く視線を向けた。まだ時間は止まったまま。――静寂。
ただ「邪魔だ」と心に念じた。
ドォンッ!!
一瞬にして音が戻る。それだけで、屈強な魔族たちが、まるで濡れた紙屑のようにグシャリと潰れ、存在ごと空間から拭い去られた。悲鳴を上げる暇すらなかった。
「な……ッ!?」
逃げようとしていた魔王が、足を止めて振り返る。そこにあるのは、絶望。
僕はゆっくりと歩を進めた。一歩踏み出すたびに、城全体が恐怖に震えるようにきしむ。魔王はへたり込み、床を這って後ずさる。
「ま、待て!待ってくれ!!」
魔王が両手を突き出して懇願する。
「は、話を聞け!まだ早い!余を殺すな!今ここで肉体を失えば、次の復活まで千年はかかるのだ!千年の虚無など、余にはもう……耐えられん!頼む!」
「千年?」
僕は首を傾げ、足元に転がっていたアレンの剣――折れた聖剣の柄を拾い上げた。怒りはもはや湧いてこない。むしろ冷めた笑いが口元に浮かぶ。
「悪いようにはせん!余と手を組め!世界のすべてを貴様にやってもいい!貴様は自分の力を理解していない!何者かを知らない!余は知っている!だから余を――」




