第10話 死守(ししゅ)
アレンは正面から突っ込んだ。
防御を捨てた特攻。魔王の黒い槍が、無慈悲にアレンの横腹を抉る。鮮血が舞う。
それでもアレンは倒れない。歯を食いしばり、口から血を吐き出しながら、魔王の体にすがりつくようにして剣を突き立てようとする。
「アレン!」
僕の目に涙があふれる。たまらず叫んで、駆け出そうとした。ポーションがある。僕のリュックには、まだ最高級の回復薬が残っている。あれを使えば――。
「来るなッ!!」
アレンが、今まで聞いたこともないような怒号を上げた。振り返った彼の顔は、苦痛に歪みながらも、必死に目で僕を制止していた。
『動くな。隠れていろ。絶対に出てくるな』
その目が語っていた。死に瀕しているというのに、彼はまだ僕の安全を案じている。自分の命が風前の灯火なのに、荷物持ちの僕を守るという「勇者の責務」を、そして「友との約束」を全うしようとしている。あれほど善戦していた彼が、防御も回避も捨てて、ただひたすらに魔王の前に立ちはだかり続けている。
「……しつこい虫だ」
魔王の瞳に、初めて微かな苛立ちが浮かんだ。黒い槍が、無数に増殖する。アレンはふらつく足で剣を構えた。勝機などどこにもない。それでも彼は笑った。血まみれの口元で、不敵に。
「言っただろ……おまえだけは俺が守る」




