第1話 異質(いしつ)
鼻をつくのは、鉄錆と古い血の匂い。視界を塞ぐのは、世界を拒絶するかのようにそびえ立つ、黒鉄の巨大な扉。魔王の間。僕たちはついに、この長い旅の終着点へと辿り着いたのだ。
「……はぁ、……ッ、はぁ……」
静寂な回廊に、荒い呼吸音だけが響いている。僕の目の前には、三人の背中があった。どれもボロボロで、見るに堪えないほど傷ついている。
先頭に立つ勇者アレン。かつて王都を出発した日、太陽の光を浴びて輝いていた白銀の鎧は、原形を留めないほど砕け散っている。左足は不自然な方向に曲がり、剣を杖代わりにしなければ立つことさえままならない。
その右隣、戦士のガイル。「鉄壁」と呼ばれた巨漢の彼は、今はもう片腕がなかった。三日前の四天王戦、僕に向かって飛んできた溶解液を、その身を盾にして受け止めた代償だ。
そして左隣、聖女のマリア。慈愛に満ちていた彼女の肌は、今は土気色に変色し、血管が黒く浮き出ている。致死性の瘴気から僕を守るための結界を、自らの生命力を削って維持し続けた結果だった。
満身創痍。死の淵を歩く亡者。それが、世界最強と謳われた勇者パーティの現状だった。
――ただ一人、僕を除いて。
「……アレン、水だ。少しだけでも飲んでくれ」
僕は背負っていた巨大なリュックサックから水筒を取り出し、震えるアレンの口元へと運んだ。僕の体は軽い。服には泥汚れひとつなく、擦り傷ひとつない。まるで遠足にでも来たかのように、僕だけが不自然なほど健康で、無傷だった。




