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オルゴールが奏でる永遠の調べは、君と共に。

作者: 辻堂安古市



なろうラジオ大賞参加作品です。










 祖母が亡くなった。


 両親に捨てられた僕を育ててくれた人だった。決して裕福とは言えなかったが、幸せだった。


 煩雑な手続きを終え遺品を整理していると、古びたオルゴールが見つかった。


 


 

 



─── (かなで)。どうしても辛い時は これを鳴らしなさい──





 オルゴールを回すと、柔らかな旋律が部屋に広がる。その音は染み入るようで、心の痛みを和らげていく。昔から辛い時はいつも聞いていたっけ。





─── 一つだけ 注意。三周目は ───





 明日からどうしようか。とりあえず、学費は払えないから中退して……


(いっそ、別世界にでも──)





 オルゴールは三周目に入っていた。


(──あ…?)


 次の瞬間、僕は光に包まれた。







 









 目を開けるとそこは見知らぬ部屋。



「ここは……?」


「あなたが……音を奏でる人?」



 目の前にいたのは、銀髪の少女。

 











 彼女の名はリリ。

 戦乱に疲れた王国の王女だった。


 様々な決断を強いられる毎日。彼女の心は孤独に沈んでいた。今も1人居室で涙を流していたところだった。そんな折、心地よい旋律が流れてきたと思った途端に、目の前に僕が現れたそうだ。


 

「もう一度、聞かせて貰えませんか?」


「ああ、いいよ」


 僕はオルゴールを回しその音色を響かせると、リリの頬に涙が伝った。


「こんなに温かい音……初めて」



 僕たちはお互いの身の上を話し、語り合った。

 そして、愛し合うようになっていった。










 戦争は終わった。僕は彼女を、王国の人々を慰めるべく、毎日オルゴールを奏でた。どうやら、これは本当に「心を癒す」力を持っていて、回す程に力が増すようだ。





 だけど気付いてしまった。

 今の僕には元の世界の記憶がほぼない。


 つまり、代償は使用者の「記憶」だ。




 

 でも力を使わずに、リリが戦後の難局を乗り切るのは難しそうだ。


 僕はリリを守りたかった。


「君を忘れてしまうかもしれない。それでも……君を守りたい」


 リリは首を振り、僕の手を強く握った。


「私も一緒に。絶対に貴方を忘れないし、私を忘れさせないわ」


 僕達は一緒にオルゴールを回した。永遠の平和と人々の安寧を祈って──

















 城下町の外れの小さな家。

 男が絵を描き終わり、筆を置いた。



「終わったの?優しいお顔ね」


「この人だよ。時々夢に現れて、『幸せかい?』って尋ねるんだ」


「なんて答えるの?」


「そんなの決まってるじゃないか」



 2人は暫く見つめ合うと、一緒に笑いだす。




 男は絵を窓際に飾り、妻と子と一緒に食事の準備を始めた。



 優しく微笑む老婆の絵。

 その側には、古びたオルゴールが──









お読みいただき、ありがとうございました。




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― 新着の感想 ―
美しいお話でした。オルゴールの音が、本当に聞こえてくるようです。
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