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ー 逃国の試練 ー

日が落ちる頃、村は静寂に包まれ、月光が木造の家々を淡く照らしていた。

エリスの案内で二人はジークの言った通り、ルミエ村の北の外れへ向かった。中心部から離れるにつれ、薬草の清涼な香りが漂い、畑の輪郭が闇に浮かぶ。村の外れに、苔むした屋根の小屋がひっそりと佇んでいた。窓から漏れる柔らかな灯りが、暖かな生活の気配を漂わせている。

エリスは小屋の扉を軽く叩き、穏やかなそしてどこか怯えている小さな声で呼びかけた。「セレナさん、その…いる? エリスよ。少しお話ししたいの。」 彼女の声は夜の静けさに溶け込む。

信太はエリスの後ろに立ち、薬草の香りに満ちた小屋を見つめた。ジークの話や集会所での会話が頭を巡り、灰の民の秘密と聖教の脅威に対する疑問が胸に渦巻いていた。

扉がゆっくり開き、背の低い老女が姿を現した。白髪を丁寧に束ね、皺に刻まれた顔には穏やかで知的な光を宿した目が輝いている。セレナは細い杖を手に、エリスの姿を見て、静かに微笑んだ。「エリス…ずいぶん久しぶりね。月光の下でも見間違うことは無いよ、その金髪は変わらないね。」 彼女の声は落ち着きがあり、まるで風に揺れる葉のように柔らかだった。視線がエリスのネックレスに移り、わずかに深みを帯びた。「そのネックレス…今も大切にしているのね。さて、そちらの若い方は?」

エリスはセレナの前に立ち、温かな笑顔で答えた。「セレナ…さん、元気そうでよかった! この人は、信太。ダストで、魔力持ちなの。ルミエ村に来たばかりで、裂け目のこととか、色々知りたくて。」 彼女は胸元で拳を作りそっと握り、声を弾ませそしてセレナに抱き着く、心なしか涙も流している。感動の再開なのだろう。

ひとしきり会話を挟み二人は離れ話を始める。「それに、ジークおじさんにも聞いたんだけど「灰の民」ついて聞きたいの !セレナさんなら何か手がかりがあると思ってて…。」

信太はセレナの穏やかな視線に少し緊張しながら頭を下げた。「佐藤信太です。ヴェリス王国でエリスに助けられて、ここまで来たんです。元の世界に戻る方法を探してて…セレナさんが何か知ってるって、色々な人から聞いています。ぜひそのお力を貸していただけないでしょうか?」 彼は短剣の柄を握り、ジークの言葉――ダストが聖教の計画を狂わせる存在――を思い出した。

セレナは静かに頷き、二人を小屋の中に招いた。「お入りなさい。夜は冷えるわ。火炉のそばで、ゆっくり話しましょう。」 小屋の中は薬草の清涼な香りに満ち、棚には乾燥した葉やガラス瓶が整然と並んでいる。火炉の炎が穏やかに揺れ、木のテーブルには古びた書物と羊皮紙が丁寧に置かれていた。セレナは二人を椅子に座らせ、杖を脇に置いて火炉に薪をくべた。彼女の動きはゆっくりだが、どこか威厳を湛えていた。

「エリス、あなたがルミエ村に戻ってきたのは、運命の導きかもしれないわね。もうヴェリスから戻ってこないと思って心配していたわ」 セレナは火炉の炎を見つめ、落ち着いた声で話し始めた。「まずどこから話そうかねぇ…長くなるけどエリスあなたの話をしないといけないわね…」

彼女の声は小さかったがその声には知性を感じさせる声だった、まるで古い記憶をそっと紐解くような響きを持っていた。火炉の光が彼女の皺だらけの顔に柔らかな影を投じ、知的な瞳に深い思索の色を添えた。セレナの心は、エリスを拾ったあの夜へと遡る――陽光に照らされた森の川、冷たい水音、そして小さな命の輝き。あの瞬間が、彼女の人生に新たな使命を刻んだのだ。


セレナの心は、目の前に座るエリスを見ながら、十数年前の記憶に引き寄せられていた。彼女は灰の民として、聖教の追手から逃れ、ヴェリス王国の真実を守るために戦ってきた。だが、歳を重ねるごとに、戦いの重さと仲間の喪失が心に影を落としていた。あの夜、森の川でエリスを見つけた時、セレナは疲れ切った魂に一筋の光を見た。小さな少女の金髪が陽光に輝き、胸元のネックレスがまるで星のように瞬いていた。この赤ん坊は将来灰の民の希望になる、そんな根拠のない育てる理由がセレナに新たな責任と希望を与えた。エリスを拾うことは、単なる偶然ではなく、星が彼女を育て親だと選んだ証だと信じた。

だが、同時に、セレナの心には恐怖もあった。聖教の目はどこにでもあり、灰の民が赤ん坊を育てることは、いつ命を危険に晒すことに繋がるか分からない。

エリスを育てる決意を固めた時、セレナは彼女に灰の民の街から遠ざかることを選んだ。それは、少女に自由な心を残してやりたいという願いと、聖教の影から守りたいという切実な思いからだった。エリスがヴェリス王国に行くと言った時は喧嘩になったとしても反対を貫いた。命の危険があってはいけないからだった。反対を振り切りエリスは自分の道を進み、そしてルミエ村に戻り、この世界の秘密を求めて目の前に座っている。

セレナの胸には、隠してきた真実を明かすことへのためらいと、エリスの成長を誇る気持ちが交錯していた。彼女はエリスの純粋な瞳を見つめ、心の中で呟いた。

(この子は、星に選ばれた者なのね。私の役目は、真実を伝え、道を照らすことだ。)

「エリス、あなたの話を始める前に、遠い過去を振り返らせてちょうだい。」 セレナは静かに話し始めた。彼女の声は、まるで古い物語を語る語り部のように穏やかで、言葉の一つ一つに重みが宿っていた。

「あなたがまだ赤子だった頃、私は森の川であなたを見つけたの。あの昼のことは、今でも鮮やかに覚えているわ…。」

十数年前、ヴェリス王国の辺境に広がる深い森。太陽が空高く輝き、川の水面に黄金の光を投げかけていた。私は灰の民の仲間と共に、聖教の追手から逃れるため、森を抜けてルミエ村へ向かっていた。彼女は当時、すでに髪に白いものが混じり始めていたが、星脈の知識と薬草、回復魔法の知恵で仲間を支える存在だった。疲れ果て、聖教の斥候の足音に怯えながら、川沿いの隠れ道を進んでいた。

突然、かすかな泣き声が耳に届いた。セレナは足を止め、仲間たちに静かにするよう合図した。川の浅瀬、葦の間に小さな籠が引っかかっていた。月光に照らされた籠の中には、金髪の赤子が小さな手を握りしめ、泣きじゃくっていた。セレナの心臓が強く鼓動した。仲間の一人が囁いた。「セレナ、聖教の罠かもしれねえ。たとえ灰の民の子供であっても無視しよう。」 だが、セレナは籠に近づかずにはいられなかった。赤子の胸元で、金色に輝くネックレスが揺れていた。この赤ん坊は灰の民の希望になり、ヴェリスを救う存在になる、そう思った。

セレナは膝をつき、冷たい川の水に手を浸して籠を引き寄せた。赤子の泣き声が止み、大きなエメラルド色の瞳がセレナを見つめた。その瞬間、セレナの心に温かな光が灯った。「この子は…星に選ばれた子だ。」 彼女は赤子を抱き上げ、ネックレスをそっと手に取った。宝石は陽光を受けて輝き、まるで星そのものが宿っているようだった。仲間たちは不安げだったが、セレナの決意は揺るがなかった。「この子を連れていく。聖教に見つかる前に、アッシュヴェイルへ急ぐわ。」

森の闇を抜け、ルミエ村に辿り着いたセレナは、赤子がいた籠の中に辛うじて読める刻まれた刻印から「エリス」と名付けた。太陽を意味する名だった。彼女はエリスを自分の子のように育て、自身が灰の民であることを隠し常に一緒にいたが、その秘密はエリスには明かさなかった。聖教の目がルミエ村に及ばぬよう、一時期外で遊ぶことも禁止することもあった。それもセレナの心には常にエリスがいたからだ。灰の民として彼女を守る使命と、エリスに自由な人生を歩ませたいという願いが、彼女の胸でせめぎ合っていた。

セレナは火炉の炎から視線を上げ、エリスを見つめた。「あの夜、森の川であなたを見つけた時、私は星脈の力を感じたわ。あなたは灰の民の希望になる、…古代の民が星脈の力を封じたレガリアを見つけ出す希望になる。あなたは灰の民の人間よ、星脈の力を使うことができる。」 彼女の声は穏やかだが、言葉には確信が宿っていた。

突然の言葉にエリスは言葉を飲んでいる。それもそうだ。今まで話していた灰の民が目の前の老婆であり、育てられた自分自身、灰の民の人間だと言われたのだから

エリスはネックレスを握り、驚きと、かすかな寂しさが混じっていた。胸元のネックレスは火炉の光に輝いている。

セレナはエリスの手をそっと握り、穏やかな微笑を浮かべた。「あなたを守りたかったのよ、エリス。聖教の目はどこにでもあり、灰の民であることは命を危険に晒すことだった。私が真実を隠したのは、あなたに自由に、純粋に生きてほしかったから。だが、あなたがルミエ村に戻り、ダストである信太を連れてきた…それは、灰の民として星脈の導きが新たな道を照らし始めた証よ。」 彼女の目には、深い愛情と信頼が宿っていた。

「でも…私はそんなこと言われたってなにも分からないわ?!灰の民の街も知らなければレガリアの場所も分からない!まして灰の民の伝承の詳細も…」彼女はネックレスを握りしめ、火炉の光に照らされたその輝きを見つめた。子どもの頃、セレナやヴェリスの吟遊詩人から聞いた「王の選定」の物語が頭をよぎる。星の心玉、聖剣、そして王冠――三つの神器が揃う時、真の王が選ばれ、ヴェリス王国に新たな時代が訪れ灰の民はその末裔を守り人であるという伝説。エリスの心は、聖教の脅威への不安で揺れていた。彼女の瞳には、純粋な好奇心と、知らずに背負ってきた運命への戸惑いが混じっていた。

セレナはエリスの手を握ったまま、優しい微笑を保ちつつ、深い知性の光を宿した目で彼女を見つめた。彼女の心には、エリスの純粋さと、灰の民の者の重みを思う複雑な感情が渦巻いていた。エリスが「王の選定」の物語に触れたことで、セレナは真実をどこまで明かすか、慎重に言葉を選ばねばならないと感じていた。聖教の目がルミエ村に迫る今、誤った知識がエリスを危険に晒すかもしれない。だが、彼女の真っ直ぐな瞳を見ると、隠し続けることはできないとも思った。セレナの胸には、育ての親としての愛と、灰の民に関わる者としての責任がせめぎ合っていた。

「エリス、あなたの記憶力は昔から素晴らしいわね。」 セレナは柔らかく笑い、火炉のそばで杖を手に取った。彼女の声は、まるで古い書物を朗読するように落ち着き、言葉の一つ一つに重みが宿っていた。


「王の選定の儀…その物語は、ヴェリス王国の民の心に深く根付いている。だが、聖教がその真実を歪め、都合のいい物語に作り変えた部分も多いのよ。現皇帝と三つの神器についても、話しておくべきね。」

セレナは火炉の炎を見つめ、ゆっくりと話し始めた。「三つの神器、一つは「星の心玉」、二つの宝石からなるもので一つは現皇帝が握っていてもう一つは星落ちる地に眠ってるとされている。二つ目はセレスティアの鏡、セレスティアが降臨された水鏡の泉に眠るとされている。この世界の最高神の御姿を映した唯一の鏡、三つ目は聖剣、これも王都エテルナに隠されていると聞いてる。聖教は選定の儀に必要な本物のレガリアを揃えて真の王の生誕をしようとしている。」

エリスは目を丸くし、ネックレスを握る手に力を込めた。「それって、私がここを出ていく前には言ってくれなかった話…。」 彼女の声には興奮と不安が混じり、信太をちらりと見た。信太もまた、セレナの言葉に息を呑み、短剣の柄を握りしめていた。

信太はセレナの静かな視線を感じ、勇気を出して口を開いた。「セレナさん、聖教が全部のレガリアを集めようとしてるなら、俺みたいなダストはどう関係するんですか? ジークさんが、ダストが聖教の計画を狂わせるって言ってたけど…。」 彼の声には、元の世界に戻りたいという切実な思いと、エリスを支える決意が混じっていた。

セレナは信太の真っ直ぐな瞳を見て、静かに頷いた。「良い質問ね、信太。ダストの魔力は、星脈の力に直結しているわ。簡略して言うわね、あなたが王を導く「導き手」なのよその証拠に星脈の純粋な流れに触れた証が体の何処かに刻まれていると思うわ。」

セレナの言葉に、信太の心臓が強く鼓動した。「導き手…? 俺が王を導く? 体のどこかに刻印?」 彼は目を丸くし、思わず自分の腕や胸元を見下ろした。セレナの穏やかな声と知的な瞳が、真実の重みを突きつけてくる。元の世界に戻るための手がかりを求めてルミエ村に来たはずが、突然、自分がヴェリス王国の運命に関わる存在だと言われたのだ。信太の胸には、戸惑いと、どこか湧き上がる使命感が混じり合っていた。

エリスもまた、セレナの言葉に息を呑んだ。「信太が…導き手? セレナさん、それってどういうこと?伝承と信太の刻印が関係しているの?」 彼女はネックレスを握りしめ、火炉の光に照らされたその輝きを見つめた。子どもの頃に聞かされたおとぎ話が、現実の重さに変わっていく感覚に、彼女の心は高鳴りつつも不安で揺れていた。だが、信太の真剣な横顔を見ると、どこか安心感が芽生えた。エリスの瞳には、純粋な好奇心と、信太への信頼が宿っていた。

セレナは二人の反応を静かに見つめ、穏やかな微笑を浮かべた。彼女の心には、エリスの純粋さと信太の真っ直ぐな意志が、灰の民と導き手の運命を確かに結びつけているという確信があった。灰の民として長年守ってきた知識が、今、若い二人に受け継がれようとしている。セレナの胸には、育ての親としての愛と、ヴェリス王国の未来を託す責任感が交錯していた。「焦らないで、二人とも。」 彼女は柔らかく言い、杖を手に火炉のそばに立った。「信太、星脈の刻印は、ダストとして選ばれた者に現れる印。体のどこかに、なにかしら模様が浮き出てるはずよ。じっくり探してみなさい。」

信太はセレナの言葉にハッとし、慌てて自分の体を見始めた。「星の模様…? そんなの、見たことねえぞ…。」 彼は短剣を脇に置き、まず両腕の袖をまくり上げ、火炉の光の下で肌を確かめた。だが、特に変わった模様は見当たらない。次に、首元や胸元を指で探り、服の襟を少し下げてみた。「どこだよ…マジでそんなのあんのか?」 彼の声には焦りと好奇心が混じり、エリスが思わずくすっと笑った。

「信太、真剣じゃん! ほら、もっとちゃんと探してみなよ! セレナさんが言うんだから、絶対どこかにあるって!」 エリスは身を乗り出し、信太の動きを興味津々で見つめた。彼女のネックレスが、火炉の光を受けてきらりと輝き、まるで信太の探索を後押しするようだった。

信太は少し頬を赤らめつつ、セレナにちらりと視線を向けた。「セレナさん、ヒントとかないですか? 腕にも首にもないんすけど…。」 彼は立ち上がり、服の裾を少し持ち上げて腹部や背中を探ろうとしたが、さすがに恥ずかしそうに動きを止めた。

セレナは穏やかな笑みを浮かべ、杖で床を軽く叩いた。「信太、刻印は心臓に近い場所に現れることが多いわ。星脈の力は、命の源に宿るものだから。もう一度、胸元あたりを探してみなさい」信太はセレナの言葉に促され、服をまくり上げ、胸元を露わにした。そこには、確かに星型の刻印が浮かんでいた。奇妙なことに元の世界の時に締め付けられるような激痛が襲われた場所にその刻印がされていた。火炉の光に照らされ、青色に輝くその模様は、まるで夜空の星座のように神秘的だった。「これ…マジかよ…。」 信太は呆然と呟き、刻印を指でなぞった。

エリスは目を輝かせ、信太の肩を叩いた。「やった! 信太、カッコいいじゃん! ほら、セレナさんが言った通り、導き手の刻印だよ!」 彼女の声は弾け、ネックレスが突然強い光を放ち始めた。青白い輝きが小屋の中を満たし、火炉の炎すら一瞬かすむほどだった。エリスのネックレスは、信太の刻印と共鳴するように脈動し、星の力が目に見える形で現れた。

「そして、エリス…あなたの持っているネックレス、それは灰の民のネックレスよ。貴方の本当の親がつけてくれたものよ、導き手の力と反応しているのね」

エリスはネックレスを握り、輝きに目を奪われた。彼女の心は、驚きと興奮で高鳴っていた。エリスの胸には、運命への不安と、信太と共にある冒険への期待が交錯していた。

セレナはネックレスの輝きを見つめ、静かに頷いた。「エリス、信太…これが、導き手の証よ。あなたの灰の民のネックレスは、信太の刻印と共鳴し、星脈の力を呼び覚ます。聖教が恐れるのは、この力…、星に選ばれた真の意味王が現れる可能性を示唆している。あなたを何度止めてもヴェリス王国に行こうとしたのは導き手に出会うためだったのかもしれないわね」 彼女の声は穏やかだが、言葉には確信と希望が宿っていた。セレナの心には、育ての親としての愛と、灰の民としての使命感が響き合い、エリスと信太に未来を託す覚悟が固まっていた。

信太は刻印をもう一度見つめ、拳を握った。

エリスのネックレスの輝きが静かに収まり、小屋の中は再び火炉の柔らかな光に包まれた。信太は胸元の星型刻印を指でなぞり、セレナの言葉――自分が王を導く「導き手」だという事実――を反芻していた。彼の心は、元の世界に戻るという個人的な願いと、ヴェリス王国の運命に関わる重い役割の間で揺れていた。だが、エリスの弾ける笑顔と、彼女のネックレスが反射する光が、信太に勇気を与えていた。


時間が過ぎ、エリスはセレナの家においてある書物を読み漁るために胸に抱え、目を輝かせてセレナを見つめた。「セレナさん、信太の刻印と私のネックレスが共鳴したんだ!ヴェリス王国に行って、聖教の計画をぶっ壊して、信太の元の世界への道も見つかるよね? でも…灰の民の力がないと、聖教の精鋭には勝てない気がするんだけど…、セレナさん、灰の民の仲間って、どこにいるの?」 彼女の声は興奮と期待に満ち、ネックレスを握る手には力が込められていた。エリスの心には、子どもの頃に聞かされたおとぎ話の伝説と聖教に抗う隠れた英雄たちの噂話が冒険へのワクワクと、聖教の脅威への不安が交錯しているように見える。

セレナはエリスの熱意に穏やかな微笑を浮かべ、杖を手に火炉のそばに座った。彼女の知的な瞳には、エリスと信太の純粋な意志が、王の選定と導き手の運命を確かに結びつけているという確信が宿っていた。だが、灰の民の隠れ家を明かすことは、二人をさらなる危険に晒す決断でもあった。彼女は火炉の炎を見つめ、静かに話し始めた。「エリス、あなたの心はいつも太陽のようにまっすぐね。灰の民の仲間を求めるなら、覚悟が必要よ。彼らは聖教の目から隠れ、ヴェリス王国の真実を守り続けている。けれども、その隠れ家に至る道は、容易ではないわ。」

エリスはセレナの言葉に身を乗り出し、手を握った。「セレナさん、灰の民の隠れ家がどこか教えて!私が灰の民なら、これから絶対に聖教に負けない力が必要だよ!ヴェリス王国の秘密も、何もかも全部変えてやる!そんなことも夢じゃない!と思うの」 彼女の声には、いつもの会話に見せる口調より力が入っているように感じる。火炉の光にほのかに輝く、星脈の力が彼女を後押ししているようだった。小屋の中はエリスの熱い言葉と信太の静かな覚悟で満たされていた。セレナは杖を握り、火の光に照らされた顔に深い思案の色を浮かべた。彼女の瞳には、エリスへの母のような愛と、灰の民としての使命が交錯していた。

「灰の民の隠れ街…」セレナはゆっくりと口を開き、声を低く抑えた。「それはルミエ村の北、霧の谷の奥深くに隠されている。聖教の目が届かぬ場所、星脈の力が濃く漂う聖域だよ。でも、エリス、信太…そこに至る道は決して簡単ではない。霧の谷は永遠に立ち込める霧に覆われてる、道を見失った者を惑わす。聖教の斥候もあたりを警備しているし、谷に魔物も待ち構えているんだよ。」

エリスは目を輝かせ、書物を胸に抱きしめた。「霧の谷! なんかめっちゃ神秘的じゃん! 隠れた真実を知る英雄たちって、すごくカッコいいよね? セレナさん、どんな人たちなの? 魔法とか、すっごい武器とか使ったりする?」 彼女の声は興奮に弾み、ネックレスが再び光を放つ。まるでエリスの高揚する心に呼応するかのようだった。

セレナはエリスの純粋な情熱に小さく微笑んだが、その目は遠い記憶をたどっているようだった。「灰の民は、かつてヴェリス王国の伝説を守った者たちの末裔だよ。彼らは剣や魔法だけでなく、星脈の伝説を継承している。霧の谷の隠れ街…アッシュヴェイルは、星脈の結界に守られ、霧そのものが彼らの盾となっている。その結界をくぐるには、証が必要だね。」

信太は眉をひそめ、腕を組んだ。「霧の谷って…具体的にどんなとこなんすか? 霧の中で迷うだけでもヤバそうですけど、 何か対策とかないんですか?」 彼の声には、元の世界に戻りたい焦りと、エリスを守る責任感が混じっていた。胸の星型刻印が、まるで彼の心臓の鼓動に合わせて脈打っている気がした。

セレナは杖で床を軽く叩き、二人に視線を向けた。火炉の光が彼女の顔を照らし、瞳には決意の色が宿っていた。「霧の谷は、ただの地図ではたどり着けないよ。星脈の結界は、聖教の斥候や魔物の脅威から灰の民を守るが、よそ者には容赦ない。だが…」 彼女は言葉を切り、ゆっくりと立ち上がった。杖を支えに、部屋の隅にある古びた木箱へと歩み寄った。

エリスは身を乗り出し、目をキラキラさせながらセレナの動きを追った。 彼女の瞳には期待に弾み、ネックレスが再び光を放っている。

セレナは棚から取り出した木箱の蓋を開け、中から小さな布袋を取り出した。彼女は慎重に袋の紐を解き、掌に収まるほどの金属製の円盤を取り出した。それは古びた銀色で、表面には星座のような模様が刻まれ、中央に小さな青い宝石が嵌め込まれていた。火炉の光を受けて、宝石がまるで生きているかのように輝いている。

「これが…灰の民の通行手形だよ。」セレナは静かに言った。彼女は円盤を手に持ち、エリスと信太に差し出した。「霧の谷の星脈の結界をくぐるには、この手形が必要だよ。灰の民の祖先たちが作り上げたもので、星脈の力に反応して正しい道を示す。」

エリスは目を丸くし、興奮で身を乗り出した。「うわっ、神秘的! それ、すごい大事なやつじゃん! セレナさん、こんなすごいものも持ってたんだ!」 彼女は通行手形を手に取り、火炉の光にかざしてじっくり眺めた。青い宝石がキラリと輝き、ネックレスの光と呼応するように一瞬強く脈動した。「ほら、信太! 私のネックレスとシンクロしてるみたい!」

信太はエリスの手元を覗き込み、感心したようにまじまじと手形を見る。「マジか…これ、ただのアクセサリーじゃないんですね。セレナさん、これ持ってれば霧の谷で迷わずに済むってことですか? 何か使い方のコツとかあるんですかね?」

セレナは穏やかに頷き、杖を握り直した。「通行手形は、星脈の力に導かれる。エリスなら問題なく使えるはずだわ、手形は霧の中でも正しい道を照らす光を出す。けど、気をつけなさいよ何があるかも分からないから大事に持っておくのよ。」

セレナの最後の言葉を聞き、エリスは通行手形を大事そうに握り、胸に押し当てている。彼女は目を輝かせ、セレナと信太を見上げた。「これがあれば、霧の谷でも絶対大丈夫だよね! 私、ちゃんと守るよ!」

信太は少し眉を寄せ、腕を組んだ。「でも、セレナさん。霧の谷ってそんな簡単な場所じゃないんでしょ? 星脈の結界とか、道を示す光とか、…具体的にどんな危険があるんですか? 準備しとかないとマズイですよね?」

セレナは火炉のそばに腰を下ろし、杖を膝に置いた。彼女の表情は穏やかだったが、どこか遠くを見るような影が差していた。「霧の谷はアッシュヴェイルは星脈の力が濃く流れる場所。そこは時間も空間も曖昧で、普通の感覚じゃ方向を見失う。結界は灰の民以外の者を拒むようにできてるけど、手形があれば通り抜けられる…ただし、谷には灰の民の守護者が潜んでるわ。星脈の力を乱そうとする者を許さないものよ。それに街道に現れる今までの魔物よりも星脈の力が濃いからか段違いに凶暴なものも多いわ」

エリスはゴクリと唾を飲み込み、手形を握る手に力を込めた。「守護者と魔物…? めっちゃ怖そうなんだけど! でも、この手形があれば守護者も大丈夫なんでしょ? ね、セレナさん!」

セレナは小さく笑い、エリスの頭を軽く撫でた。「まあ、落ち着きなさい。手形で守護者を分かってるはずだわ。ただし、星脈の力を信じ、迷わず進む心が必要よ。エリス、あなたのそのネックレス…それもきっと力を貸してくれる。きっと大丈夫。」

信太は少し不安げにセレナを見た。「俺、エリスみたいに灰の民の血と関係ないですけど…大丈夫ですかね? 置いてかれないように頑張りますけど。」

セレナは信太に優しく微笑んだ。「あなたはエリスの仲間よ。手形の力は、持つ者の意志と共にある者を守る。エリスを信じて、共に進めば道は開けるわ。…それに、あなたのその冷静な頭も、きっと役に立つ。」

エリスは信太の肩をバシンと叩き、ニカッと笑った。「ほら、信太! セレナさんがこう言ってるんだから、ビビらず行くよ! 私と一緒に冒険、楽しそうじゃん!」

信太は苦笑いしながら肩をさすった。「この世界に来てからてんてこ舞いだよ...はぁ、わかった。行く当ても無いし、手がかりは灰の民が分かってるだろうし、因みにエリス、調子に乗って手形落とすなよ? それマジで大事なものなんだから。」

セレナは静かにその聡明な目でエリスを見る。「エリス、そしてアッシュヴェイルにいくとなれば必ず…灰の民の試練を受けることになるはずよ、星の聖壇での試練はとても困難なものになるはずだわ、内容に関しては口外することはできないけれども、これからの旅はとても大変なものになるはず…それでも大丈夫?」

セレナの表情はまるで自らの子供を心配するような顔だった。エリスはセレナのただならぬ雰囲気にのまれていく

「灰の民の試練を超えればあなたのネックレスは今以上に輝くことになるはずだわ、けれども危険な旅になることは間違いない、今でも私は貴方が灰の民の使命を引き受ける必要は無いと思ってるわ。ずっと自由に幸せになってほしいと今も思ってる」

今にも泣きだしそうなくしゃくしゃにした表情をエリスはセレナに向ける

「…セレナさん、それは2年前、この家を出たときに私が決めたことなの…それに育ての親のセレナさんが私に話してくれた話は今も私の導きになってる。私、本当に幸せだよね、今までも大事に育ててもらって、こうやって夢も聞いてくれる人がいる。だから、自分で決めた自分の約束を破ることは絶対にしたくない、だから大丈夫!!」

そう言い終える瞬間にエリスの瞳から大粒の涙がこぼれ落ち行く、しかし悲しいという雰囲気はなくまるで太陽のような笑顔をセレナに向けてる。

エリスの言葉を噛みしめるように一瞬下を向くセレナは、覚悟が決まったのかエリスを抱き寄せる。本当の家族のような温かい空気が流れていた。


その夜、三人は火炉を囲んで霧の谷への旅の準備を話し合った。セレナは地図を広げ、星脈の流れが強い地点や、守護者が現れやすい場所を指差しながら説明した。エリスは地図に食い入るように見つめ、時折ネックレスと手形を交互に握り、興奮を抑えきれなかった。信太はメモを取りながら、食料や装備の確認を怠らなかった。

ふと信太は火炉の揺れる炎を見つめる、胸の内に静かな覚悟を灯しているように感じる。この世界は、星脈の流れや守護者の存在といった神秘に満ち、同時に霧の谷のような未知の危険が潜んでいる。仲間と共に旅立つことで、その全てを受け入れる準備ができたと感じていた。

落選の時の屈辱や死ぬ時の恐怖や痛み、この世界に来てからの寂しさも、エリスやセレナの情熱と冷静さが、彼の心に確かな信頼を刻み、どんな試練が待っていようと、この世界の深淵を共に探る価値があると信じていた。



この小説はGrokで生成した文章を含んでいます。

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