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ー 逃国の試練 ー

「…ねえ、大丈夫?」

ふと、柔らかな声が耳に届いた。顔を上げると、そこにはボロボロの服をまとった金髪の少女が立っていた。

長い髪は汚れでくすみ、頬には煤のような跡。でも、透き通った深い緑色の瞳が、俺を心配そうに見つめている。美少女、という言葉が頭をよぎったけど、彼女のやつれた姿にそんな軽い言葉は似合わない。

「え、っと…君は?」 俺は戸惑いながら口を開く。

「エリス。…あなた、見たことない服装。旅人? それとも、迷い人?」 彼女は首を傾げ、汚れたマントをぎゅっと握った。

「よく分からないんだ…。俺、急にここに来ちゃって、わけわかんなくて」 信太は正直に答えた。頭の中はまだ混乱の渦だ。さっきまでいた東京の事務所の雑音が消え、目の前には石畳と古びた建物。そして目の前の少女。

エリスのエメラルド色の瞳が、じっと信太を見つめた。汚れた金髪が風に揺れ、彼女のやつれた顔に一瞬、驚きのような光が走った。

「ここにいる人とは違った服装…やっぱり、あなたダストかも!」と声が弾む、マントを握る手が少し震えている。

「ダスト?何の話?何を言ってるの?」 言葉がまるで謎かけだ。何を言ってるのかまるで理解できない。

だが、エリスという少女はすでに俺の手を掴み、路地の奥へ引っ張っていく。細い腕なのに、驚くほど力強い。

「説明は後にして..ここ、昼でも危ないの。衛兵に見られたら、『ダスト』扱いで牢にぶち込まれるのよ!」 彼女は振り返らずに言う。路地の影に潜む視線を感じ、俺の背筋が冷え言葉が詰まる。

「ダストって…何だよ、それ?」 信太は息を切らしながら尋ねる。石畳につまずきそうになり、エリスに支えられた。

「あなたみたいな、別の世界から来た人。聖教会が『外の世界から来た悪魔』なんて呼ぶから、そういう人たちは酷い目に遭ってる。ほんと最低!」 エリスの声に怒りが滲む。彼女の汚れたマントが翻り、路地の角を曲がる。


路地を抜け、崩れかけた石壁の隙間をくぐると、街の喧騒が遠ざかった。エリスはようやく足を止め、額の汗を拭った。「ここなら…しばらく大丈夫。衛兵もこんな場所にはなかなか来ないから。」

目の前は、半壊した小屋がならんでいる。屋根は穴だらけ、壁には苔とひび割れ。まるで学生の頃みた戦前の日本の写真そのものだった。

少し進むと半壊した小屋につく、エリスは慣れた手つきで壊れた扉を押し開けると屋根に溜まっていたであろう土がパラパラと落ちる、エリスは手招きをして信太を中へ招いた。

「ここ、私の…家。まあ、ボロいけどね。」 彼女は苦笑し、床に転がる布切れを蹴ってスペースを空けた。陽光が穴から差し込み、埃が舞う中で、彼女の金髪が一瞬だけ輝いた。

「家? 君、ずっとこんなとこに?」 俺は周りを見回し、言葉を失った。壊れた陶器、焦げた木片、壁に刻まれた誰かの爪痕。まるで誰かがここで必死に生き延びようとした跡だ。

「仕方ないよ。捨て子の私が、街で堂々と歩けるわけないでしょ。」 エリスは膝を抱えて座り、暖炉であろう場所で火打ち石で小さな火を起こした。炎が揺れるたび、彼女の顔に影が落ちる。「あなた、名前は?」

「信太、佐藤信太。よろしく…って、さっきのダストとか、裂け目って何? 俺、ほんと何もわかってないんだ。突然この町?に来て…」 俺は頭を掻き、彼女の目の前に腰を下ろした。

エリスは火を見つめ、静かに話し始めた。「この国はヴェリス王国っていうの、あなたは裂け目っていう別の世界と繋がる門からあなたのようなダストが、時々迷い込んでくる」

「ダスト?」 俺は眉をひそめ、エリスの言葉を反芻した。裂け目、ダスト、ヴェリス王国。まるで夢の中の単語みたいだ。でも、目の前の少女の真剣な目と、埃っぽいこの部屋の現実感が、俺をしっかりとこの場に引き留めていた。

エリスは薪の燃える音に耳を傾けながら、ゆっくりと続けた。「うん、ダスト。別の世界から裂け目を通ってヴェリス王国に落ちてくる人たちのこと。あなたみたいに、突然現れて、何も知らないまま彷徨うの。だいたい…運が悪いと、聖教の奴らにすぐに捕まるか、殺される。」

「殺される?」 俺の声が少し震えた。彼女の口調は淡々としていたが、その言葉には重みがあって、背筋が冷たくなる。

「この国、ダストを歓迎しないんだよ。」 エリスは火をかき混ぜ、炎が一瞬大きく揺れた。「この国はね、階級でガチガチに縛られてる。頂点にいるのは聖教会と聖教騎士団。次に貴族、それから平民。で、私みたいな捨て子やダストは…まあ、ゴミ以下の存在たち。」 彼女は自嘲気味に笑ったが、その目はどこか遠くを見ていた。

「待て、ちょっと整理させてくれ。」 俺は手を上げて話を止めた。「つまり、俺は別の世界からこの…ヴェリス王国って国に迷い込んだってこと? んで、ダストって呼ばれて、歓迎されない? 捕まるか殺されるって、どういうことだよ?」

エリスは小さくため息をつき、膝に顎を乗せた。「裂け目はね、この世界のあちこちに出るの。聖教騎士団はそれを監視してる。ダストが現れると、すぐに見つけて連れていく。噂じゃ、地下の牢に閉じ込められるか、魔術の実験に使われるって言われてる。」 彼女は肩をすくめたが、その仕草にはどこか怯えが混じっていた。

「魔術?」 俺は目を丸くした。この世界、魔法とかあるのかよ?

「うん。魔術も知らないのなら本当にダストなのね?平民でも、たまに魔力を持ってる奴はいるけど…私も少しは魔術を使えるわ」 エリスは自分の手をじっと見つめ、握りしめた。「あなた、魔力持ってる?」

「へ? いや、分からないよ。どうやって分かるんだ?」 俺は自分の手を見下ろしたが、特別な何かを感じるわけでもなかった。普通の手だ。

エリスはくすっと笑い、立ち上がった。「じゃあ、試してみる? 簡単な方法があるよ。」 彼女は部屋の隅に転がっていた小さな石を拾い、俺の前に差し出した。「これ、握って。んで、なんか…強く願ってみて。なんでもいいから。火が出ろ、とか、光れ、とか。」

「マジかよ…。」 俺は半信半疑で石を受け取り、ぎゅっと握った。強く願う、って言われてもな。頭に浮かんだのは、さっきエリスが火打ち石で苦労して火を起こしてた姿だった。(…火、出ろ?)

つぶやくように考えた瞬間、石がほのかに温かくなった気がした。いや、気じゃなかった。石の表面に小さな火花がパチッと弾け、俺は驚いて手を離した。

「うわっ!」 石が床に落ち、火花はすぐに消えた。エリスは目を輝かせて俺を見つめた。

「やっぱり! あなた、魔力持ってるよ! 弱いけど、反応した!」 彼女は興奮したように手を叩いた。「これ、聖教に見つかったらヤバいよ。ダストで魔力持ちなんて、絶対目をつけられる!」

「待て待て、落ち着け!」 俺はパニックになりながら手を振った。「魔力って何? 俺、ただ石握っただけじゃん! それに、聖教ってなんだよ? なんで俺が狙われるんだ?」

エリスは興奮を抑えるように深呼吸し、火の前に戻って座った。「いい? 魔力ってのは、この世界じゃ特別な力。聖教会や聖教騎士団の連中は、魔術は国を支配には重要な部分を占めてる。平民でも魔力持ちはいるけど、ダストで魔力持ちなんて…聞いたことないわ。聖教騎士団はそれを『危険』って決めつけると思う。」

「危険? 俺、ただ火花出しただけじゃん!」 俺は声を荒げたが、エリスの真剣な表情に気圧された。彼女は首を振って、言葉を続けた。

「聖教騎士団は、この国の秩序を守るって名目で動いてる。でも本当は、魔力を独占したいだけ。ダストが魔力を持ってると、制御できない力が増えるって思うわ。だから、見つけたら即、捕まえる。で、地下の実験場に送られるか…最悪、消される。」 エリスの声は最後で小さくなり、彼女は火を見つめたまま黙り込んだ。

「消されるって…殺されるってこと?」 俺の喉がカラカラになった。さっきまでただのボロ家にいるだけだったのに、急に命の危機とか話がデカすぎる。

「そう。」 エリスは静かに頷いた。「だから、あなた、今すぐここに隠れるか、逃げるかの二択しかないよ。聖教騎士団の目って、街の至るところにあるから。市場、門番、酒場…どこでバレるかわからない。」

「逃げるって、どこに? 俺、この世界のこと何も知らないんだぞ!」 俺は頭を抱えた。別の世界に飛ばされたってだけでも頭パンクなのに、追われる立場とか、冗談じゃねえ。

エリスは少し考えてから、立ち上がって部屋の隅に積まれたガラクタを漁り始めた。ボロボロの布や壊れたナイフの破片をどかし、小さな革袋を取り出した。「…一つ、方法がある。危険だけど。」 彼女は袋を握りしめ、俺をじっと見つめた。「街の外に、ルミエ村っていう村があるの。その手のことを知ってる可能性がある人たちがいる。ダストや魔力持ちの逃亡者たちを集めてる民がいる。『灰の民』って呼ばれてる人たちがいる。」

「灰の民?」 俺は眉をひそめた。名前からして怪しすぎる。

「うん。聖教から逃げて戦っている人たちだよ。噂じゃ、裂け目について詳しい人もいる。あなたが元の世界に戻りたいなら、彼らに聞くのが一番早いかもしれない。」 エリスは袋を開け、中から粗末なマントと干し肉らしきものを取り出した。「でも、ヴェリスから結構距離があるの。聖教の追手以外に、魔物もウロウロしてるし。」

「魔物?…マジかよ。」 俺は唖然とした。魔法、騎士団、魔物。この世界、どんだけハードモードなんだ?

「決めるのはあなたよ、信太。」 エリスはマントを俺に投げ、初めて名前を呼んだ。「ここに残って、運が良ければ見つからずに生き延びる。か、村に行って、灰の民を探す。どっちも危険だけど…私、どっちでも付き合うよ。」 彼女は少し照れたように笑ったが、その目には覚悟が宿っていた。

「付き合う? お前、なんでそこまで…?」 俺は彼女の顔を見つめた。出会って数時間しか経ってないのに、なんでこんなリスクを冒すんだ?

エリスは火の揺らめく光の中で、静かに言った。「…、私にはルミエ村には色々と伝手があるの。それと、あなたがダストで、魔力持ちなら…なんか、変わる気がするんだ!」 彼女は恥ずかしそうに目を逸らし、薪をくべた。

俺はマントを握りしめ、頭を整理した。隠れるか、戦うか。どっちも怖えけど、このまま何もせず縮こまってても、何も変わらない。元の世界に戻りたい。それに、エリスの言う「変わる」って言葉が、よく分からないが胸に刺さった気がした。

「…よし、どうせ何も分からないからな、ルミエ村に行く。」 俺は立ち上がり、マントを羽織った。「灰の民って奴らに、裂け目のこと聞いてやる。エリス、案内頼めるか?」

エリスの顔に、初めて本物の笑顔が浮かんだ。「おっけ。じゃ、準備して。夜になる前に街を出ないと、衛兵に見つかる。」 彼女は素早く革袋に食料や火打ち石を詰め、動きに無駄がなかった。まるで、ずっとこんな逃亡の準備をしてきたみたいに。

「待て、夜って…今からかよ?」 俺は慌てて彼女を追いかけた。

「ダストのあなたがのんびりしてる時間なんてないよ、信太。」 エリスは振り返り、いたずらっぽくウインクした。「ヴェリス王国の夜は長いけど、聖教の目はもっと鋭い。行くよ!」

彼女はボロ家の扉を開け、風が埃っぽい部屋に吹き込んだ。俺は深呼吸して、彼女の後を追った。外には、遠くで響く衛兵の鎧の音。この世界が、俺を飲み込もうと待っていたが、エリスの胸元に掛けられている金色のネックレスが陽光に照らされ一際輝いている。

旅路を祝福しているように信太は感じた。


この小説はgrokで生成した内容を含んでおります。

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