ー 逃国の試練 ー
エリスと信太の手形と刻印が共鳴し、門がゆっくりと開いた。
星の聖壇は、霧の谷の最深部に広がる円形の聖域だった。地面は黒い石で舗装され、中央には青い光を放つ祭壇が立っている。祭壇の周囲には星脈の力が渦巻き、空中に星屑のような光の粒子が舞っていた。壁には星座のレリーフが刻まれ、まるで星空が地上に降りたような幻想的な空間だった。聖壇の上には、透明な美しい水晶が浮かんでいた。
エリスは聖壇を見上げ、目を輝かせた。「うわっ…めっちゃキレイ! ここが星の聖壇…星の導きが待ってるんだ!」彼女のネックレスが強く光り、祭壇の水晶と共鳴を始める。信太は刻印を触り、胸の熱を感じた。「…ここで、俺たちの何か試されるんだな。エリス、準備はいいか?」
エリスは拳を握り、ニカッと笑った。「バッチリ! 信太と一緒なら、絶対大丈夫!」彼女は信太の手を握り、二人は祭壇に近づいた。ティルは聖壇の入り口に立ち、杖を地面に突いた。「俺はここで待つ。聖壇は二人だけで挑むんだ。星脈の力が導いてくれるさ。頑張れよ!」
エリスと信太はティルの言葉に頷き、互いの手を強く握り合って星の聖壇の中央へと進んだ。聖壇の水晶が二人を包むように輝き、青白い光が渦を巻いて空気を震わせる。ネックレスと刻印が共鳴し、光が二人を包み込んだ瞬間、聖壇全体が眩い光に満たされた。エリスが「信太、すごい…!」と声を上げたその刹那、光は二人を完全に飲み込み、視界が白く染まった。
信太の意識は、光の奔流に引き込まれるように浮遊していた。霧の谷の冷たい空気も、聖壇の石の感触も消え、代わりに暖かな光が彼を包み込んでいた。胸の刻印が脈打ち、まるで心臓のように熱を放つ。彼は目を閉じ、深呼吸を試みたが、身体が軽く、まるで夢の中にいるような感覚だった。
「導き手、佐藤信太。星の試練を乗り越えし者よ。」
低く、しかし透き通った声が彼の意識に響いた。信太は目を開け、驚愕に息を呑んだ。彼の目の前には、広大な光の海が広がっていた。無数の星屑が漂い、遠くには青い光の柱が天へと伸びている。その中心に、黄金の輝きを放つ人物が浮かんでいた。
辺りを見回した。光の海まるで宇宙そのものが息づいているようだった。信太の胸の刻印がドクドクと脈打ち、共鳴する。まるで何か大事なものを呼び覚ますように。
「うわっ…ここ、どこだよ…?」
信太は自分の声が妙に響くことに驚きつつ、辺りをキョロキョロ見渡した。聖壇のあの硬い石の感触はなく、ふわっとした浮遊感が身体を包む。エリスの姿はどこにもない。不安が胸を締め付けるが、刻印の熱がそれを抑えるようにじんわりと広がる。
「ねえ! 王の導き手くん!久しぶり!」
突然、弾けるような明るい声が頭の中に響き渡った。長い金髪がキラキラと星屑のように輝き、黄金の光をまとったふわっとしたローブが彼女の周りで軽やかに揺れている。瞳はまるで夜空に輝く星座を閉じ込めたみたいにキラキラしていて、にっこり笑う顔はまるで陽気の塊みたい感じる。胸元にはエリスと同じ灰の民の証であるネックレスをしていた。彼女は両手を腰に当て、ちょっと得意げに胸を張った。
「じゃーん! あたし、この世界の主神セレスティア! 星と太陽の超カッコいい女神! ね、ね、びっくりしたでしょ? うふふ、信太くんのそのキョトン顔、めっちゃ面白いんだけど!」
彼女はくるっとその場で一回転し、まるでダンスでもするみたいに軽快に笑った。信太はポカンと口を開けたまま、彼女を見つめるしかなかった。この子…女神? なんか、めっちゃ普通に話しかけてくるんだけど…?
「え、待って、セレスティア? って…主神って神様!? いや、それよりエリスは!? エリスはどこだ!?」
信太は我に返り、慌てて声を張り上げた。エリスの笑顔が脳裏に浮かび、胸が締め付けられる。セレスティアは「うわっ、落ち着いて落ち着いて!」と手をパタパタ振って、信太の前にぴょんと飛び寄った。
「エリスちゃん、ぜーんぜん大丈夫だから! ほら、あの子、今ね、星の加護を授けるために灰の民の試練を自分の心でガッツリ受けてるの! カッコいいよ、エリス! 信太くんも知ってるでしょ? あの子、めっちゃ強いんだから!」
セレスティアはウィンクして、親指をグッと立てた。その陽気な態度に、信太は少しだけ肩の力を抜いた。でも、まだ頭は混乱だらけだ。
「試練…? じゃあ、俺はなんでここに? エリスと一緒にいないと…!」
信太は胸の刻印を握りしめ、セレスティアをまっすぐ見つめた。彼女は「あー、そっかそっか!」と手を叩き、まるで大事なことを思い出したみたいにニカッと笑った。
「信太くん、ここはね、キミの試練の場なの! ほら、王の導き手って、すっごい大事な役割でしょ? 王の導き手として、キミの覚悟とか、決意とか、あたしにバッチリ見せてよ! ね、どんな気持ちでエリスと一緒にいるの? どんな未来を描いてるの? ぜーんぶ、聞かせて!」
セレスティアは信太の目の前にしゃがみ込み、キラキラした瞳で彼を見つめた。まるで親友に秘密を打ち明けるみたいに、彼女の声はワクワクと弾んでいる。信太は一瞬たじろいだが、彼女のまっすぐな視線に引き込まれるように、胸の熱が言葉となって溢れ出した。
「俺…エリスを守りたい。あいつの笑顔、いつもキラキラしてて、どんな時も俺を引っ張ってくれる。あいつの光を、絶対失いたくないと思ってます。聖教の攻撃だろうと、星脈のどんな試練だろうと、エリスと一緒なら乗り越えられると思う。俺、あいつが目指してる夢が実現するまで諦めたくないって思ってる!」
信太の声は、最初は小さかったが、だんだんと力強さを増していった。胸の刻印がまるで彼の言葉に呼応するように熱を帯び、セレスティアのつけているネックレスがドンドン光が強くなる。「うわっ、めっちゃ熱いじゃん!」と目を丸くして、ぴょんと立ち上がった。
「やばい、信太くん、カッコいいこと言うね! うんうん、やっぱりエリスのこと、すっごく大事にしてるの伝わってきた! キミの心、めっちゃキラキラしてるよ! まるで星みたい!」
彼女は両手を広げ、まるで星空を抱きしめるみたいにくるっと回った。金髪がふわっと舞い、ローブの光が回りの海をさらに明るく照らす。信太は彼女のテンションに少し圧倒されつつ、なんだか心が軽くなるのを感じた。
「で、でもさ、セレスティア…さん?様?この試練って、具体的に何すればいいんだ? エリスは大丈夫なのか? 俺、ちゃんとあいつを支えられるのかな…」
信太は少し不安げに呟き、刻印のあたりの服を強く握る。エリスの笑顔が脳裏に浮かび、胸がチクッと痛む。セレスティアは「んー、ちょっと真剣モードなのかな?」と首をかしげ、信太の隣にぴょんと座った。彼女のローブがふわっと広がり、まるで星屑が舞うみたい。
「ねえ、信太くん、聞いて聞いて! 星の加護の試練ってね、実はめっちゃシンプルなの。心の強さを試すんだよ。エリスちゃんとキミの絆、めっちゃ強いよね? それが一番大事! 試練はね、キミたちがどれだけお互いを信じてるか、どれだけ一緒に進もうって思ってるか、それを確かめるの!それが星脈の力を引き出すのに必要なの!」
セレスティアは指をピンと立て、まるで授業する先生みたいにニコニコ話した。信太は彼女の言葉を噛み締め、ゆっくり頷いた。
「絆…。エリスは、いつも俺を信じてくれる。あいつがいるから、俺も強くなれる…ような気がするんだ。」
信太の声は静かだったが、確かな決意に満ちていた。セレスティアは「うわっ、めっちゃロマンチック!」と手を叩き、目をキラキラさせた。
「それそれ! それが星脈の力の源なの! キミとエリスの絆、 あたし、すっごく応援してるよ! ほら、キミの心、輝いてる! 見て見て、キミの刻印、めっちゃ光ってるじゃん!」
セレスティアは信太の胸を指差し、ワクワクした声で叫んだ。信太が慌てて胸を見ると、刻印が確かに黄金の光を放ち、彼は思わず息を吞んだ。
「これ…星脈の力って、こんな感じなのか…?」
信太は呟き、刻印にそっと触れた。温かな力が全身に広がり、まるでエリスの笑顔がそばにあるような安心感が胸を満たす。セレスティアは「そうそう!」と頷き、信太の肩をポンと叩いた。
「バッチリ! 星脈の力と繋がってるよ! エリスも今、きっと同じ気持ちで試練に挑んでるはず! だからさ、信太くん、もっと自信持って! キミ、めっちゃカッコいい導き手なんだから!」
彼女はにっこり笑い、まるで親友を励ますみたいに信太の背中をバンバン叩いた。信太は「うわっ、ちょっと痛いって!」と苦笑いしつつ、なんだか心が軽くなるのを感じた。
「セレスティア様、ありがとう。なんか、すげえ元気もらったよ。エリスと一緒に、これからも頑張るよ。」
信太はまっすぐセレスティアを見つめ、力強く言った。彼女は「やったー! それでこそ王の導き手だよ!」と両手を挙げ、まるで応援団みたいに跳ねた。金髪がキラキラ揺れ、小さな光の粒が舞う。
「よーし、じゃあ、信太くん、そろそろ現実に戻る時間だよ! エリスもキミのことめっちゃ待ってるから! ほら、試練の続き、ガッツリ頑張って!」
セレスティアは手を振って、信太にウィンクした。でも、彼女はふと「あ、そうそう!」と思い出したみたいに手を叩き、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「ねえ、信太くん、ちょっとだけ秘密教えてあげる! 実はね、あたし、ただこの世界の主神セレスティアじゃないの! キミが元いた世界の日本の神様でもあるんだよ! 本当の名前、知りたい?」
彼女は目をキラキラさせて、信太にグイッと顔を近づけた。信太は「え、なんなんですか、急に…」とたじろぎつつ、彼女のテンションに引き込まれる。
信太はゴクリと唾を飲み、彼女を見つめた。セレスティアは「えへへ、じゃーん!」と両手を広げ、まるで大発表するみたいに声を張り上げる瞬間、先ほどの美しい金色の髪が黒色に染まりだし、ローブが一瞬で豪華な巫女服に変わっていく
「アマテラス! そう、日本の最高神!太陽の女神、アマテラス!」
彼女は太陽のように笑いながら、信太の肩をポンポン叩いた。信太は完全にフリーズ。頭が真っ白になり、口がパクパク動くだけだ。
「ア…アマテラス!? え、待って、あの日本の神様!?」
信太は目を丸くし、信じられないといった表情でセレスティアをガン見した。彼女は「うんうん、そうなることでしょう!」と頷き、まるで自慢するみたいに胸を張った。
「そうそう! あたし、セレスティアって名前で星と太陽の女神もやってるけど、実は日本の天照大御神でもあるの! でもさ、名前なんてどうでもいいよね!神様ってその人が考える姿をするだけ、 大事なのは、キミとエリスの覚悟! だからさ、信太くん、エリスの導き手として、めっちゃ頑張ってよ! あたし、あんまり助けてあげれないけど、ずーっと応援してるし、ずーっと見てるから!」
セレスティアはにっこり笑い、信太の額にそっと指を触れた。温かな光が彼を包み、まるで太陽の抱擁みたいな安心感が全身を満たす。信太はまだ頭が混乱してるけど、彼女の言葉に心が熱くなるのを感じた。
セレスティアは両手を振った次の瞬間、眩い光が彼を包み、意識がふわっと遠のく。耳元で彼女の元気な声が響く。
「信太くん、エリスの光、絶対守ってね! あたし、いつも見てるから!大変なこともあると思うけど、君が導いてあげて!」
光が収まり、信太の視界が戻ったとき、彼は再び聖壇の前に立っていた。目の前にはエリスが、心配そうな顔で彼を見つめている。
「信太! だ、大丈夫!? なんか、急に光っちゃって、消えちゃって…! めっちゃ心配したんだから!」
エリスは信太の腕をぎゅっと掴み、目を潤ませながら叫んだ。信太はハッと我に返り、彼女の顔を見てホッと息をついた。
「エリス…ああ、良かった、いる…。俺、大丈夫だ。すごいことあったけど…」
信太は胸の刻印を握り、セレスティア―いや、アマテラスの笑顔を思い出した。頭はまだ混乱してるけど、エリスの温もりがそれを全部吹き飛ばす。
「すげえこと? なになに、教えてよ!」
エリスは目をキラキラさせて、信太にグイグイ迫った。信太は苦笑いしつつ、彼女の手を握り返した。
「あとでな。…エリスそれで、星の加護は得られたのか?」
信太の問いに対して、エリスは「うん! バッチリ!これ見てよ!」とニカッと笑い、胸元のネックレスを信太に見せつける。
エリスの胸元のネックレスは、まるで星空の中に太陽が宿るのように、燃え上がる輝きを放っていた。その光は、静かな波の揺らめきと、太陽が海面に映る瞬間の眩しさを同時に湛え、見る者の心を奪うほど鮮烈だった。まるで生きているかのように脈打つ光を放ち、エリスの鼓動と共鳴しているようだった。
「すっげえ…これが星の加護ってやつ?」
信太は思わず息を吞み、ネックレスの輝きに目を奪われた。エリスの笑顔がその光に照らされ、まるで星空の下で微笑む女神のように神聖で、どこか無邪気な魅力を放っていた。
「でしょ! 試練はめっちゃ大変だったけど、なんとかクリアしたんだから!」
エリスは得意げに胸を張り、ネックレスを指で軽く弾いた。すると、宝石から小さな光の粒が弾け、まるで海の泡が舞うように周囲に広がった。その光は聖壇の石壁に反射し、まるで二人が星の海に浮かんでいるかのような幻想的な空間を作り出した。
信太はエリスの瞳を見つめ、胸の刻印が再び熱を帯びるのを感じた。セレスティア―いや、アマテラスの言葉が脳裏に蘇る。「キミとエリスの絆、それが星脈の力を引き出すのに必要なの!」 エリスのネックレスの輝きは、まるでエリスの覚悟と成長を具現化したかのようだった。
「信太、なんか…すっごく安心するんだ。この光見てると、色んな人がそばにいるみたいで。」
エリスは少し照れたように笑い、ネックレスをそっと握りしめた。その仕草に、信太はエリスの中で何かしらの覚悟に似た温かなものを感じる。彼はエリスの手を握り直し、力強く頷いた。
「俺もだ、エリス。君がいるから、この世界に飛ばされても乗り越えられた。本当にお前には感謝してる。」
信太の声は静かだが、確かな決意に満ちていた。エリスは目をキラキラさせ、「うん、ありがとう!信太!」と元気いっぱいに答えた。彼女の声が聖壇に響き、ネックレスの光が一瞬だけ強く瞬いた。
外で待っていたティルが駆け付け、二人の状態を見て苦笑いをしながら声をかける。
「よーし、信太! エリス!灰の民として、加護もバッチリ手に入れたし、とりあえずは街に戻ろう、帰り道も魔物がいるから気を抜くんじゃないぞ?」
ティルの言葉にエリスはネックレスを握りしめ、キラキラした瞳で信太を見つめた。その瞳には、炎のような情熱と、太陽のような深い信頼が宿っていた。まるで彼らが共に進む未来を照らす星の導きそのものだった。
霧の谷の星の聖壇を後にしたエリス、信太、ティルの三人は、陽光に照らされた石畳の道を進んでいた。聖壇での試練を乗り越え、エリスのネックレスは星脈の力を宿し、信太の刻印も新たな熱を帯びていた。谷の霧は薄れ、岩壁が朝日を受けて輝き、三人の足取りは軽やかだった。エリスはセレナに謝罪する決意を胸に、灰の民の隠れ街への帰路を急いでいた。
ティルが先頭で杖を軽く振りながら歩いていたが、突然足を止め、鋭い視線を空に向けた。「おい、待て…! あれ、なんだ!?」彼の声は緊迫感に満ち、普段の軽快さが消えていた。エリスと信太も即座に立ち止まり、ティルの視線を追った。
谷の出口の向こう、灰の民の隠れ街の方向から、黒い煙が細く立ち上っていた。狼煙だ。一本ではなく、複数本が不規則に揺れ、空を汚している。朝の光に照らされた煙は不気味な影を落とし、遠くで赤い炎の光がチラつくのが見えた。
「狼煙…! 街からだ! 救難信号もある…街が襲われてる!」ティルが叫び、杖を握りしめた。彼の目には焦りと怒りが宿り、宝石が青く光った。「聖教の襲撃か…! くそっ、急ぐぞ!」
エリスはネックレスを握り、顔から血の気が引いた。「リシアさん…みんなが危ない! 早く戻らなきゃ!」彼女の声は震え、リシアや街の民の顔が脳裏に浮かんだ。短剣を握り、すぐに走り出そうとした。
信太は煙を見つめ、冷静に状況を分析した。「狼煙の数…大規模な襲撃だ。敵は聖教の斥候か、それ以上の戦力かもしれない。」彼の刻印が熱を帯び、危険を予感させるように脈打った。「エリス、ティル、急ぐ! 街まで全速力だ!」
「了解! 俺の結界で少しでも隠れながら行くぞ!」ティルが杖を振り、青い光の薄い膜を三人を中心に展開。敵の目から身を隠す準備を整えた。「気をつけろ、道中で敵の斥候に遭遇するかもしれねえ!」
エリスはネックレスを強く握り、目を閉じて一瞬だけ深呼吸した。「街を絶対守る。こんなこと絶対にあっちゃいけない…!」彼女は目を開け、決意を瞳に宿して信太とティルを見た。「行くよ!」
「ああ、エリス、俺たちが一緒だ!」信太は短剣を構え、エリスの隣に並んだ。刻印の熱が彼の動きを後押しし、戦いの準備が整った。




