表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三十年務めた会社を辞めてみた

三十年務めた会社を辞めてみた。


新卒で入社して、気が付けば三十年年以上同じ会社に勤めていた。


一昔前ならあと七~八年で退職というところ、今はさらに五年が追加されてしまった。


最終的に選択したのはもちろん自分だが、どうしても入りたかった会社ではなかった。


ではなかったが、入ってしまえばそこはそれ、一人の社会人として勤勉に励んだものである。


事務員として入社した。


自分の質に合っていたのか、入社したころは、初めて覚えるものばかりだったので、それなりに大変だったが、日々の業務をこなすのに否やはあまりなかったと記憶している。


自分で言うのもなんだが、基本的にまじめで物覚えもよく、要領良く熟すことができた質だ。


それが、十年十五年と過ぎていくと、業務もマンネリ化し、悪い意味で退屈になってくると、仕事中の意識が自分だけだった頃に比べて、自分に余裕が出てきているのか周りに向くようになっていく。


それがよくない。


さっきも書いたが、物覚えがよく要領良く熟せると、好むと好まざるとにかかわらず、自然と業務量が増えていく。


余裕がない頃は、自分の仕事だけに集中していたはずが、周りが見えだすと、することが多いにもかかわらず、周りのフォローもする羽目になる。


良くも悪くも経験値が上がり、中堅どころとして期待される頃である。


少々なら気分転換で構わないが、それが多くなると煩わしいことこの上ない。


元々の性格か、人付き合いが苦手で、自然と職場の人間関係も面倒になってくる。


思えば、初めて辞めたいと思いだしたのはその頃だったかもしれない。


年齢的にも、一般的に転職可能な上限でもあったし、職場関係が面倒で辞めたいと初めて家族に相談をした。


いろいろあったが、結局、二人目が生まれたこともあり、育休取得の名目で半年ほど会社を休むことにした。


復職してからも、辞めたい気持ちは減ることはなかった。


これだけ長く勤めていると、当然何カ所か異動をすることになる。


職種柄、どの異動先に行っても基本的にする業務は同じである。


業務をこなすことに雑作はないのだが、いかんせんつまらない。


家族には内緒にしているが、毎日行くのがつらかった。


自家用車で通勤することが多かったので、車内で「辞めたい!」とどれだけ叫んだことか。


出勤すればしたで、早く定時にならないかと、どれだけ時計をにらみつけたことか。


こんな自分でも、二十年以上も同じ会社にいると、昇格する羽目になった。


はっきり言ってとても嫌だった。


業務量が多くても、一人仕事であっても、まだ平社員の状態で、まわりにアドバイスをしている方が百倍もましだった。


一人仕事が好きな自分に、自分の業務をこなしながら、部下の面倒まで見ることなんて、絶対できるわけない。


どんな罰ゲームかと、人事異動を組んだ人を恨んだことか。


それから数年。


嫌で嫌でたまらなかったが、なんとか出勤し、するべきことをこなし、定時には逃げるように帰っていく毎日だった。


そしてその時が来た。


きっかけは、人事異動で上司となった人のやり方に、どうにも合わせることができなかったことだった。


ついに、限界が来たみたいだ。


幸い少ないながらも貯金はあり、退職金もそれなりにもらえるので、一年くらいならなんとか求職しながら生活できる目途はあった。


五十歳を過ぎて転職なんて、どれだけハードル高いのかと思わないでもなかったが、どうにも仕事が辛くてたまらないことをつたえると、家族は内心はともかく、辞めることを承知してくれた。


あまりにも辛いので心療内科を受診したら、適応障害の病名が付いた。


安直ではあったが、年度いっぱい病気で休みをもらい、年度いっぱいで退職することとした。


生活も大事だが、自分の心の健康も大事だと思う。


たしかに将来が未確定の状態では、しばらく辛いことが続くだろうが、職場で辛いよりは全然ましだと思うことにした。


自分の座右の銘はいくつかあるが、そのうちの一つに「天は越えられない試練を与えない」というものがある。


今までも何度かその銘に救われたし、今回もきっと何とかなるだろう。


三十年務めた会社を辞めてみた。


この後どうなったかは、今のところ内緒であるが、機会があったらまた書いてみたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お疲れ様でした。 今まで頑張ってきたご褒美で、焦らずゆっくり進めば良いと思います(о´∀`о)
取りあえず自己都合でも精神疾患があっての退職なら申請すれば1年近く失業給付がもらえます。30年事務職経験があるのなら会社の規模や給与水準を選ばなければ即戦力として再就職はそこまで難しくはないかも。
こんにちは。 お疲れ様でした。 50過ぎての転職。 すごい決断をされましたね。 家族の承認があるのなら、いいと思います。 私には想像できない人生なので、是非、続きを知りたいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ