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【完結】美人の先輩と虫を食う  作者: 吉田定理
春の章
8/44

2 G=肉球 × 新郎④

 飲み会の主役は確かに新入生の僕である。

 席順はこうだ。僕のいる側が、先輩、僕、凜ちゃんの順。向かい側が石橋さん、斎藤さん、須藤教授。つまり両手に花なのだ。

 最初は極度の緊張でなかなか料理がのどを通らなかったけど、時間が経つにつれて雰囲気に慣れてきた。お酒はまだ飲めないのでコーラだけど。

「はい、じゃあそろそろ偉い会長によるお話の続きをやります!」

 ビールの三杯目が来た頃、先輩が立ち上がった。

「やってていいぞ。その代わり酢豚はおまえ以外の全員で食っておくからな」

 斎藤さんが太い腕で酢豚の皿を引き寄せ、僕の皿にどかっと盛り付けてくれた。さらに斎藤さん自身の皿にも。

「えー! 斎藤くんひどっ! それ私が食べたくて頼んだのに!」

「遠慮なくいただくっす」石橋さんは箸でひょいひょいと取っていく。

「よし、いただこうか」「いただきます」須藤教授と凜ちゃんも次々と酢豚を取り始めたので、一気に酢豚が減っていく。

「みんなダメ! 偉い会長によるお話はあとでやります!」

 先輩も酢豚の取り合いに加わって、卓上は壮絶だ。どうやらみんな先輩の演説は遠慮したいらしい。

「ハイ、タコカラダヨ」中国人の店員さんがタコの唐揚げを持ってきた。

「私のだ! 斎藤くんにはあげません!」

「てめえ、それは俺が頼んだんだぞ!?」

 先輩と斎藤さんが争奪戦を始める。さっきからそんなことばかりである。この二人は特に酒が進んでいる。

「この二人、めっちゃ飲みますね」心配になって向かいのイケメン――石橋さんに声をかけた。

「毎回こんな感じっす」石橋さんはのんきに戦いを眺めながら、マイペースにちびちびとカシスオレンジをなめている。それだけで絵になる人だ。

 僕が骨付きチキンを食っていると、凜ちゃんが枝豆を差し出してきた。争奪戦の隙を突いてちょこちょこと食べ物を盗んできては、僕にくれるのである。

「どうぞ」

「あ、ありがとう」

「これもどうぞ」今度は春巻き。

「ああ、どうも……」

「渡辺さん」

「な、何?」

「その骨、ください」

「ほね……?」

 僕がしゃぶった後の、チキンの骨を指差す凜ちゃん。

「えっと、チキンならこっちに……」

「チキンではないです。この骨がいいです」

「な、な、なんでそれ!?」

「お願いします」

 なにこの女子高生!? 僕が食った後の骨をどうする気なのか? 怖い。怖すぎる……!

「か、考えさせてください……」

 僕は春巻きをモシャモシャとかじった。

「あー! 私が取っておいた春巻きがない!」

 先輩の悲鳴。僕は盛大にむせた。

「渡辺くんが食べてる!? なんで!? 枝豆も消えてるし!」

「いや、これは、その……」凜ちゃん、先輩の皿から取ったのかよ!?

「私が取りました。渡辺さんは悪くないです」悪びれる様子もなく手をあげる凜ちゃん。「猪俣先輩、どんくさかったので」

 さらっとすごいこと言ったし……。

「ど、どんくさい!? 渡辺くんは主役だから許すけど、凜ちゃんは許すまじ! くすぐりの刑に処す!」

「渡辺さんが盗んだのを見ました」そう言って僕を引っつかみ、後ろに隠れて盾にする凜ちゃん。

 秒で売りやがった!? 先輩がニヤニヤして襲い掛かってくる! 僕は女子高生と先輩に挟まれて、抱き着かれて、押し倒されて、もみくちゃにされた。

 僕の顔面に押し付けられている柔らかくて温かい何か……。ほのかな甘い香り……。息が苦しい……。

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