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村の青年

 村はもともと人の少ないさびれた村だったようだが、疫病のせいで、さらに陰気な様相をしていた。

 人通りはなく、畑は荒れている。

「村長の家は、あっちの丘の上だよ」

 ナキの指さした先に、確かにほかの家より、大きな家が見えた。

「お前の家はどこなんだ?」

「ナキは……村長さんの家に住んでいるの」

 ジャックの問いに、ナキは答える。

「お前、村長の家の使用人の娘か?」

 村長の親族であれば、『村長さん』という呼び方はしないだろう。

 それに、いくら人がいなくても、こんな幼い子供を一人で山に行かせるようなことはしないに違いない。

「違う。ナキはみなしごなの」

 ぶんぶんとナキは首を振る。

 どうやら、親を亡くしたナキを村長が面倒を見ているらしい。

 ジャックは、ナキの手が荒れているのに気付いた。

 身体も細く、それほど栄養状態もよくない。

 村そのものが貧しいというのもあるだろうが、扱いは養女というより使用人と思われた。

 ただ、少女の目の光は澄んでいて、まっすぐに育っているのは間違いない。

「ふうん」

 ジャックは感情の見えぬ顔で頷く。

 どんな環境に育ったとしても、まっすぐに育つ人間と、ねじ曲がって育つ人間がいる。少女は前者なのだろう。

 以前のジャックであれば、後者の人間の方が賢く、上等な人間だと信じて疑っていなかった。

 だが、今の彼はなぜか、前者である少女がまぶしいと感じる。

 それは、新しいジャックの身体が『天使』の作ったものだからなのかもしれない。

「ナキ?」

 農夫と思われる十八歳くらいの青年が、ジャックに抱かれたナキに気づいたようだった。

 男は、ナキとジャックとアザゼルを怯えた様子で見ている。

 もともと他所から人が来ることのなさそうな村だ。警戒心が強いのは当然だろう。

 まして、アザゼルはともかくジャックの人相はすこぶる悪い。

「こんにちは。私たちは旅の者ですが、山中でこの子がオーガに襲われていましたので」

「そ、そうですか」

 アザゼルの朗らかな笑みに青年は警戒心を解いたようだった。

「足を怪我してしまったようなのですが、お医者さまはこの村におられますか?」

「医者はおりません。ただ、村長が隣の村の医者を呼びにやったと聞いております」

「病人は村にどれくらいいるのですか?」

「今はほとんどの人間が何らかの症状が出ていて、石になってしまったものが五人もいます」

 青年は答えてからぶるぶると体を震わせた。

「そうですか」

 アザゼルは頷く。

「石になった人はどうするのですか?」

「……神殿の裏の小屋に置いてあります。まるで生きているように見えるので、どうしたらよいかわからないのです。あと、墓掘りのじいさんが石になっちまったというのもありますが」

「石になった方はご年配の方が多いのですか?」

 アザゼルの目が鋭くなる。

「ええ、まあそうですね。まだ症状が出ていないのは、おいらを含めて、二十より下の人間だけです」

 青年はため息をついた。

「ちなみに、一番『若い』のは、どなたでしょうか?」

「村長の孫息子のジン君でしょうね。なにせ、まだ三歳ですから」

「……なるほど」

 アザゼルはあごに手を当てて考え込んだ。

「では、すみませんが、少しの間だけ、ナキちゃんを預かっていただけないでしょうか?」

「どうして?」

 首をかしげたのは、ジャックの腕の中のナキだ。

「うん。あのね、ちょっとだけ、バタバタするからね、小さい子はいない方がいいと思うんだ」

 にこりとアザゼルは笑う。

「構いませんが」

 青年が頷くと、アザゼルはジャックの腕の中のナキを青年に託す。

「じゃあ、行こうか」

「俺も行く前提なんだな──そんな気がしていたけど」

 ジャックはため息をつく。

「当り前です。むしろ、君がいないと話が始まりません」

 不思議そうに見守るナキと青年に別れを告げ、二人は村長の家へと向かった。

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