表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

ジャックという男

本日、何本か更新する予定です。完結まで行けるかは謎です。(一応、ハロウィンもの)

 ジャックは悪党だった。

 剣も魔術も優れた男で、戦時中であったのなら、英雄になれたかもしれない。

 いや、平時であっても、ほんの少し真面目に生きるだけで、尊敬されるだけの才は持っていた。

 が、ジャックは、人を信じない男だった。

 人を信じず、常に昏い生き方を選び続けた。


 ある時、狡猾な悪魔が、ジャックの魂をだまし取ろうとやって来たが、ジャックは悪魔を捕らえて、決してジャックの魂は地獄に入れないという誓約をさせた。

 その誓約はジャックの左手に刻まれ、ジャックの死後も有効となった。

 だが、死した悪党が、天国に行けるはずもない。

 ジャックは、天国にも地獄にも行けず、地上に戻ることもかなわなくなった。

──疲れた。

 肉体を伴わない魂は、天国に行くか、地獄に行く。

 そこで人生の徳と罪の清算が終わると、輪廻の列に並ぶことになっている。

 どこにも行けないジャックは、始祖の混沌をさまようしかない。

 万が一にも天国に向かう一筋の道が、あるかもしれないという死神の言葉を信じて。

 薄明りで、形のない魑魅魍魎の漂うその世界を、死神がお情けでくれた炎だけを頼りに進むことは、地獄の責め苦より残酷だった。


「ねぇ。君、体が欲しくない?」

 魂が疲弊し、己が何者であったかも忘れかけたある時。

 ジャックの前に金髪碧眼で、白い服をまとい、背中に羽のある男性が現れた。

──天使?

 ジャックは悪魔とは会ったことがあるが、天使を見たことなどない。

 だが、目の前にいる男は、どう見ても天使としか呼べない容姿だ。

──しかし、ここに来る天使などいるはずがない。

 始祖の混沌は、悪魔にさえ見放された空間だ。

「僕の名はアザゼル。僕を手伝ってくれれば、体をあげるよ?」

 にこやかに笑うそいつは、ジャックが思っていた()使()にしては、随分と世慣れていて、しかも腹の読めない顔をしていた。

 生前のジャックであれば、頷くことはなかっただろう。

 だが。

 ジャックは疲れていた。むき出しの魂は安息の場所を求めており、たとえ、それが地獄への誘いであったとしても、了承したであろう。

「僕と一緒に来て、失われた七つの神宝を集める手伝いをしてほしいのさ。そうすれば君の魂は浄化されて、天国に行くことを許されるはずだよ」

 満面の笑みを浮かべたアザゼルはうさん臭さ満載だったが、それでも、始祖の混沌の世界であてもなくさまようよりは、マシだ。

「行く。体をよこせ」

 ジャックが頷くと、アザゼルは、パチンと指を鳴らした。

「くっぅ」

 まばゆい光とともに、ジャックはできたばかりの肉体と魂がなじむのを感じた。

 そして、取り戻したばかりの右の手の甲に痛みが走る。

 左手にある悪魔との誓約とは違う、アザゼルとの誓約が刻まれた。

「これは……」

「うん。正直、君が素直に善行を積んでくれるなんて思っていないから、保険にね。僕をだましたり、出し抜こうとしたり、逆らったら、いつでもこの混沌に戻ってくるようにしておいたから」

 そう言って、天使にしては策士めいた笑みを浮かべたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ