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こんな日には傘をさして。

作者: 阿片頭梔子

「私ってさ、雨が好きなんだよ。」

 僕の彼女はコーヒーカップを置き、ふとそんなことを呟いた。

 平日のカフェは閑散としている。それも個人経営のカフェなら尚更だ。曇天がカフェの静けさをさらに深めた。

 最近はお互いに仕事が忙しく、中々会えない日が続いていた。

 人というのはどんなに親しい間柄であっても、少し会わないだけでずれが生じる。久々のデートだったが、お互いに口数は少なかった。

「どうして?」

「雨の日の匂いが好きなんだ。それに全部濡らしてってくれるでしょ?」

「まぁ、雨の日特有の匂いが好きだってのは同感だな。濡れたコンクリートの匂いとか生き生きとした緑とか。それとは正反対に人はどんよりとしてるけどね。全部濡らしてってくれるってのはどういう意味?」

「人一人が変えられることなんて微々たるものじゃん。でも、一日の雨が降るか降らないかでその日の生物すべての行動が変わる。そういう意味だよ。」

 そこから、また二人の間に静寂が訪れた。

 見ないうちに彼女の雰囲気が変わったような気がする。口紅も前はルージュだったのにコーラルへと変わっている。香水も前はフローラルの匂いだったのに柑橘系の匂いへと変わっている。

 君は雨より曇りが好きじゃなかったっけ。

 吐き出してしまいそうな言葉を押しとどめるように、僕は目の前のコーヒーを飲み干す。

「前はコーヒーより紅茶が好きなんじゃなかった?」

 彼女は僕に問いかける。その言葉は純粋な疑問のようにも思えたし、何かを疑るような言葉にも思えた。

「人はずっと同じなわけじゃないだろ?」

「それもそうだね。」

 僕はそろそろ行こうかと彼女に話しかけ、彼女もわかった。と返す。カフェで会計をすまし外に出ると、いつの間にか雨が降っていた。

「私傘持ってきてないや。」

「折り畳み傘があるよ。一緒に入ろう。」

「ねぇ、今日は雨の街をぶらぶらしない?」

「いいね。」

 僕は傘をさす。色んな事を教えてほしい。少しずつ変わった貴方のことを。僕も話そうと思う。少しずつ変わった僕のことを。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 変わってしまったことを嘆くのではなくて、『もっと相手を知りたくなった』 という風に捉えているのが好きです。変化も相手の一部として受け止めているんだろうなと思いました。
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