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1 希望の架け橋亭

〖アゼル〗


ハーヴェスト王国の西側に半日ほど歩く位置にある人口7000人ほどの街。


首都ハーヴェスと比べるまでもなく小さな街ではある、が、引退した冒険者や騎士団員、それとは真逆にハーヴェスを目指して奮闘する冒険者がここアゼルを拠点としている。


また少し街を離れると多くの木々に囲われているが周辺は見通しもよく、様々な農業が盛んに行われハーヴェスの台所とも呼ばれていた。


そのためハーヴェスからアゼルに向かう街道では日々多くの物資を積んだ荷馬車が犇めいている。




そんな道を積み荷だけでなく人を乗せた馬車が居た。


彼らの馬車はハーヴェストから来たにしては汚れており、もっと遠くから乗ってきたのだと分かる。


行き交う街道では荷馬車とすれ違う度、物珍しそうに彼らの馬車を見るのであった。


ただ、中にいる人物はぐっすりと寝ており、どう見られていようが知る由もなかった。






「おい、起きろエルフのあんちゃん、そろそろアゼルにつくぜ」


低い声で呼ばれたエルフは眠い目をこする、春の到来間近という朝はまだ寒々しいようで少し着崩れていたローブを着直した。





帆を開け顔を出してきたのは白い髪、白い肌のエルフだった。エルフは水がないところでは本来の力を発揮出来ないと知られている為、この辺りで見かけることはあまりない。

魔術師(ソーサラー) と見受けられるローブと (スタッフ)を身に纏う、フードをかぶってしまえば血色の悪い人間にしか見えないだろう。




彼はすっかり寝てしまったなと思いつつもまぁこの見るからに御者には必要のない屈強な筋肉を持ち、両手剣ツーハンドソードを携えた御者を襲う奴など頭の悪いゴブリンか運悪くやられた冒険者のゾンビぐらいなものだろうと考え直した。




「ああ、起こしてくれてありがとうな'ゴールド'、あと私の名前はガンダルフだ」


ガンダルフはそう言うと御者ゴールドは顎に手を当てながら自分を見て言った。


「しっかしアゼルに行きたいエルフを乗せてくれと乗り合い所で言われた時は寝言は寝て言えと思わず言ってしまったぜ、まぁ今でもあんまり信じられないけどな」


御者はエルフに疑問を投げかけるように返した。


「信じられないのも無理はない、同胞たちは水辺にいる精霊達に生かされていると言っても過言ではないからね」


エルフはそもそも自然からあまり離れない性格から人間の街では稀に見かける程度である。基本的にのんびり屋が多いものの、好奇心も強く気まぐれで旅に出るものも少なくない。寿命は約500年と極めて長命で、老化は非常にゆっくりと進行する模様。少なくとも、ガンダルフは200歳ほどであり、300歳を超えない限りは身体能力の衰えどころか外見的な老化もまだまだ遠いのである。










さて、行き来する馬車や冒険者が街道を歩く中、ガンダルフを乗せた馬車はアゼルの町に入っていく。


朝方に着いたせいか市場には露店が多く、果物や野菜がこれでもかとばかりに積まれている店がたくさんあるが、そのどれもが朝日を受け宝石のように光り輝いている。それを仕入れに来た料理人やハーヴェストからわざわざ仕入れに来たであろう人たちで街全体が活気づいていた。



「あま~い妖精のリンゴは5つで5ガメル、真っ赤なトマトマトは箱一杯で10ガメルだ!」



「さー採れたてのアマスギのシダーシロップは一瓶60ガメル、2つで100ガメル、ハーヴェスの格式を張るレストランで使ってるものだよ!」



「焼きたてふわふわ雪麦パン、時期も終わりそうだから食べるなら今のうちだ~5個で10ガメル~!」



「トレーニングをした後に食べると効果抜群なキノコ、干し菌肉、水で戻すだけでモリっとでかくなるよー!嵩張らなくて味も最高だよー!なぁ弟よ!」



「冒険者必須のアウェイクポーションはあとわずかだ!買い忘れている奴はうちの店で買っていけー!今なら魔晶石と携帯食料にも便利な干し菌肉もついて700ガメルだ!なぁ兄貴!」




思った以上の喧騒の中、色々な店がここぞとばかりに声を張り上げて客の取り合いをしているが、屈強な店番がスクワットしながら満面の笑みを浮かべ、兄弟で接客している店が一番集客していた。

デカデカと掛けられた店の看板を見るとこう書いてあった。




【マッスルストア ~筋肉は裏切らない】




ガンダルフは知識の探究者でもあり、筋肉というものに関しても豊富な知識があった、看板に書かれた文字を読むと確かにと納得したようだ。知識と筋肉、どちらも自分自身だけのものであり、裏切ることのないものだと唯一証明されているからである。

しかし証明されているからと言ってあそこまで直球とはいかがなものだろうかと思わず口にしてしまった。


「凄いなあのお店・・なんというか店が凄く暑苦しいな・・・」


声を聞いたゴールドが納得したように答えた。


「ああ、ジムとフィットのやつらか、あいつらの店は初心者に仕入れ同然の価格で売っちまってるんだよ、この町に無事で帰ってこられるようにってな、まぁそのせいで変な信者が増えてるんだがな・・・」


ゴールドに気付いたジムとフィットは満面の笑みを浮かべこちらに手を振って来た、ゴールドも手を挙げて答えたがそれに気付いた周りの客もゴールドさん!と声をあげながら手を振ってきた為、知り合いなのだと見て取れた。


ああ、なるほどな、類友ってやつだなとガンダルフは変に納得し生暖かい目で見たところでゴールドが慌てたように声をかけた。


「お、おい変な目で見ないでくれよ、あいつらがいるおかげで冒険者の死亡率が下がっているのは本当だからな」


半笑いで言っているが馬車の荷物にはプリップリのキノコがあったをガンダルフは見付けていた、このゴールドもきっとこの信者の仲間であり、ここに卸す食材も積んでいるのだろうとまた生暖かい目でゴールドをみるのであった。








市場から少し移動すると商店はほとんどなくなり目の前に見えてきたのは周囲とは違い一回り大きな建物。


その前で立ち止まるとゴールドは自慢げに言った。


「さぁついたぜ、ここが冒険者ギルド支部【希望の架け橋亭】だ」



入口はガッシリとしており扉の隣には3つの剣が重なったマークの下に冒険者ギルドと書かれた看板が掛かっていた。ようやく長旅が終ったのだと感じ嬉しくもなったが、ここに来るまでの旅は楽しいものだったのを思い出し少し寂しくもなった。



「ありがとう、ここまで安全にこれたのは君のおかげだ」


ガンダルフはお辞儀をしながら感謝を伝えた。


「よせよせ、こっちとしちゃエルフを乗せたってことだけで話のタネにならぁハハハ」


お礼には慣れていないのかゴールドは恥ずかしげに横を向きながら答えた。間違いなくここまで安全な旅ができたのは彼のおかげだろう。


そしてゴールドは積み荷を店に卸すのが残ってるからと言い来た道を戻り市場へと向かって行った。次もどこかに行くことがあるのなら彼にお願いしたいところだ、きっと彼が倒せないような敵だったら手に負えないのだから。そう思いながら希望の架け橋亭というギルドの中に入った。

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