第二話
前回のサブタイトルはあまりにも酷かったので消しました。
今後、章を設置することはあるかもしれませんが、サブタイトルは今後なしにするつもりです。
部屋から出たはいいものの、この施設にいわゆる監禁されていた僕には、出口の場所など当然分からないので、とりあえずの目的は、ここを襲撃した人(おそらく達)に合流することだ。
そのために、先ほどまで僕の部屋に取り残されている彼が、部屋に来る途中に残した血痕をたどっていたのだが、どうやら失敗だったようだ。
目の前に広がる数多の死体と、その死体から流れ落ちている血溜まりを見てそう確信する。
死体は、僕の部屋に来た研究員と同じような格好をした者に、この施設で働いている警備員、頑丈そうな鎧を纏っている、おそらくこの施設に襲撃してきた兵士、それにこの施設で僕と同じく訓練を受けさせられている子どもなどと、様々だ。
死体の状況や、周辺の壁や床についている傷から見るに、始めは警備員が兵士達と戦っていたようだが、それだけでは不十分だったようで、研究員は自分の身を守るために、訓練生に兵士達と戦わせたようだ。
僕は目の前の、手の甲に256と書かれた訓練生の死体を見つめる。
彼女は兵士と刺し違え、悲痛な顔のまま息を引き取っていた。
まったく、こんないたいけな少女を、自分の身を守るために犠牲にするとは!!
ここの研究員はなんて非道なんだ!!
彼らには人間味というのはないのか!!
なんてことは別に思わないが、少し気に掛かる。
それは彼女の手に書かれている256と言う番号だ。
別に番号を書かれること自体は、この施設では珍しいことではない。
僕自身も、手の甲に52という数字が書かれていた時期があった。
それに、この数字にしても、ただ識別するためだけの番号なので、世の男子が大好きな、強さランキングとかの特別な意味などはない。
それならば何が問題かというと、数字が書かれていることが問題なのだ。
僕自身が数字を書かれていたと、あえて過去形にしたように、今はもう体のどこにも52なんて書かれていない。もちろんほかの数字も同様にだ。
この数字はたしかに、個体を識別するためのものだ。
しかし、いずれこの数字を失う者が出てくる。それは、あの男によるもので、あの男に実力を認められたものは、名前を与えられる。
名前を与えられた者は、この施設内で比較的好待遇を受ける。
自分の個室を持てたり、食事が少しましになったり、そして何より、ある程度の命の保証が得られる。
名前を持っていない訓練生は、病気になってもお構いなし、いつも通り訓練を受けさせられるし、治療なんて受けられない。
それに対して、名前を持っている訓練生は、病気になったとき、訓練を休めはしないものの、スケジュールがかなり楽になるし、訓練を早めに切り上げて、残りの時間を治療に当てることができる。
まぁ、ある種当たり前のことではあるが、明日の保証のない訓練生にとって、この名前は特別なもので、名前を持っていない者は皆名前を得ようと懸命になって訓練に取り組む。
だからといって、名前を持っていない者が弱いわけではない。
幼い頃からほとんど休まず激しい訓練を受けさせられた訓練生は、名前をもってようがいまいが、からりの力を持っていることだろう。
………同年代の中では。
そう思っていた。
しかし、目の前の彼女が兵士と刺し違えている以上、考えを改める必要があるだろう。
周りの状況から考えても、彼女だけが特別強かった訳でないことがうかがえる。
僕たち訓練生は、僕が思っていたより遙かに強かったようだ。
しかし、そうなると、襲撃者がすでに全滅している可能性が出てくる。名前を持った訓練生は持っていない訓練生に比べ遙かに強い。
まぁ、ここから出るだけなら適当な人間に聞けばいいが、出た後の生活を考えると、襲撃者に恩の一つでも売った方がいいだろう。
襲撃者がまだ生きていることを祈りつつ、再び襲撃者探しを再開する。
はぁ、あの研究員がけがをしたのがここかもしれない上、血溜まりのせいで血痕を追えないので、適当に探すしかなくなった。
面倒だな。
まっ、そのうち見つかるか…。
ーーーあの男視点ーーー
クソっ!!!
騎士団の低脳どもめ!!
よりにもよってこのタイミングか。
ようやく。ようやく成功作ができそうだったのに!!
俺の研究の何が悪いのだ!?
アレを倒すと言う目的は同じはずだ。アレはもう人道的だとか言ってられる次元の問題ではないだろう。
いや、あいつらのやってる行為の方が、ある種非人道的だとも言えるだろうに。
いや、いったん落ち着こう。今はそんなことはどうでも良い。
今はとにかく、あいつを、マルスを回収しなければ。
幸いにもさっき回収できたネームドが三人、今もすぐそばで待機させている。こいつらがいれば、最悪騎士と戦闘になっても、問題なく対処できる。
そうだ。
こいつらはまだ子どもだというのにも関わらず、長年鍛えてきた騎士達と互角以上の強さを持っている。
こいつらすらも圧倒するマルスが、さらに大人になったのならば、その実力はアレをも上回るかもしれない。
そうだ。
だからこそ、ここで立ち止まるわけにはいかない。
臆病者の国の重鎮どもに任せてはおけない。
俺自身では無理でも、俺の研究成果でアレを、彼女の敵を討たねば。
俺は三人のネームドに指示を出し、あいつの部屋へと移動を開始した。
ともに研究してきた同胞達の亡骸を避けながら進む。
ネームド達も、時々殺された訓練生を見て悲しげに顔をしかめるものの、問題なくついてきている。
気の毒に思わないでもないが、今はマルスの回収が最優先だ。そのまま黙って走って行く。
今のところ順調だ。騎士とは出会っていない。このまま何事もなく進めば、あと五分ほどでつくだろう。
しかし、そう上手く事は運ばないもので、今は騎士と、それも最も出会いたくなかった騎士とにらみ合う羽目になっている。
まずい。この状況をどうにかしなければ。
「久しぶりだなルベルト。学園長を辞めてから行方知れずだったらしいが、こんな所にいたのか」
こちらの気も知らないで。
かつての学友のシリウスは、余裕の表情で話しかけてくる。
シリウスは騎士団長だ。その表情も、実力に裏打ちされたものであり貫禄がある。
そばに控えさせているネームドが三人がかりでも勝率は低いだろう。
だが、ここを通らなければマルスの部屋にたどり着けない。
「こうして面と向かって話し合うのも久しぶりだな。学園の頃以来か?」
少し時間を稼ぐ。
シリウスもそれを知ってか知らずか、背負っている大剣に手をかけずに話に乗る。
「あぁ、そうだな。……あの頃は良かった」
「そんなことを言うようになるとは、お互いにもう歳だな」
「あぁ、お互い耄碌してきたんだろう」
言外に俺の研究がどうかしてると告げてくる。
いや、違うか。
こいつはそんなやつじゃない。
きっとこいつはただ、この状況を嘆いてるだけだ。
……そうだな。
なぜこうなったか。それもアレのせいと言えるかも知れない。
だが、それだけではない。
この現状の責任は、俺によるところが多いだろう。
それでも、今更辞める気はないが。
もう時間稼ぎも意味をなさないだろう。
どのみちこいつを倒さねば、この奥へ進めそうもない。
ネームド達に戦闘を始めるように指示する。
その様子をシリウスは、悲しげに見てくるが関係ない。
………もうお互いに戻れないところまで来てしまったのだから。
今回は早めの投稿です。
予約投稿と迷いましたが、なんだかんだで普通に投稿することにいました。
ちなみに登場キャラの強さの順はこうです。
研究員(ルベルトを含む)<<< 訓練生(名前なし)< 警備員 ≦ 騎士 ≦ 訓練生(名前あり)< 騎士団長
マルス:???