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日常系ネガティブワールド  作者: 神楽坂かぐら
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第五話  忘れられるなら忘れたい  忘れられないから忘れたい

 今日はぐっすり眠ることができた。

 いくら昨日寝不足だったからとはいえ、学校で朝礼から下校まで寝てたのに不思議と熟睡できてしまった。

 「ふわあぁ~」と、情けない寝起きの声を出しながら腕を伸ばし起き上がる。

 心なしか目覚めも良く、足取り軽やかに洗面所へ向かう。

 顔を洗ってる最中に気付く。

 (俺、そういや今日から委員長だった......)

 急に顔色が変わる。

 またもや憂鬱な朝食をとる事となる。

「お兄ちゃんなにその顔。きもっ」

 これはデジャブだろうか。昨日も同じ事を言われた気がする。ここで言い返したら、さらに気分の悪い朝になるに違いない。そう思い、言葉を飲み込み優しく話しかける。

「俺、今日から委員長なんだ......だから、朝から気が重くて」

 (こう言ったら同情してくれるだろう)

「はぁ?お兄ちゃんが委員長?無理無理!バカじゃないの?」

 さっそく全否定してきた妹にまたもや腹が立った。

「俺にだって委員長くらいできるに決まってるだろうが」

「そんなことしたら学級崩壊するんじゃない?まぁ、せいぜいみんなに迷惑かけないようにしなよ。ごちそうさま!!」

 妹は食器を片付けながら『いってきます』と言うと俺の反論も聞かずにすぐさま家を出ていった。

 正直、心底腹が立っていた。

 同情してくれなかったから?

 妹に馬鹿にされたから?

 いや、そうじゃない。(もちろんそれもあるが)

 やりもしない人間に今からやろうとしてる人の事を嘲笑われたからだ。

 気の重い朝を過ごすはずだった俺は何故かやる気に満ちていた。

「ごちそうさま。」

 俺も食事を終え、出掛けようとする。

「委員長の仕事頑張ってね。いってらっしゃい」

 母だけは優しく励ましてくれた。

「ありがとう。いってきまーす!!」

 今日の俺は一味違う。闘志を燃やしながら前をしっかりと見つめ歩いている。

「高山ー!おはよう!」

 加藤に後ろから背中を叩かれる。

「おはよう」

 そう返すと加藤は、

「あれ?今日はなんかいつもと雰囲気が違うな」

「そうか?」

「うん。てか、お前委員長になったんだってな!頑張れよ!」

 加藤は笑いながらそう言う。

「お前なぁ、何とかしてくれても良かっただろ」

「わりぃ、誰も委員長になりたがらなかったんだよ。だから、一日中寝てる悪い生徒になってもらったんだ」

「起こしてくれても良かっただろ!」

「いやぁ、面白かったからさ」

 前から加藤はそういうやつだからそもそも期待はしていない。

「俺も体育委員になったからさ、お互いに頑張ろうぜ、委員長!」

「何がお互いだよ」

 そんな会話をしている間にもう学校へ着いてしまった。

 自分でも薄々気がついていた。

 学校が近づくにつれて自信が無くなり、さっきまでのやる気が薄れていくことに。

 自信のない俺を桜が背中を押すように出迎えてくれている。

 校舎に入り靴を履き替えて教室へ向かう。

 加藤は違う友達を見つけ、そのまま行ってしまった。

 教室へ向かう途中、廊下を歩きながら考えていた。

 (委員長って、もしや注目されるんじゃ)

 嫌な予感を感じつつ自分のクラスのドアを開ける。

 ガララーー

 いつもどおり賑やかだが、やはり何人かの視線は感じた。

 自分の席まで歩いて座ろうとした手前、ふと隣から視線を感じ目を移す。

 すると、同じく委員長になった隣の席の天道桜であろう女の子がこちらを見ていた。

 軽く会釈をしてきたが、その途中で前を向いてしまったので、前を向いたまま目を合わせずに頭を軽く下げた。

 そうして、席に座り後は最強の味方を待つだけだ。

 (そういえば、昨日教卓の上に置いたプリント、今思えばあれ印刷するの早いな。やはりあの先生仕事が出来る人だな)

 そんな事を考えていると隣から聞こえてきた

「天道さん何してるの~?」

 バレないように隣を見てみると、天道桜が周りをキョロキョロしていた。

「ううん、なんでもないよ!」

 そう言って、再び会話が始まった。

 何か忘れてるような気がしたが今はそれどころではない。

 (キンコーンカンコーン)

 最強の味方だ。そして、次に今日は敵が現れた。

「おはようー!」

「おはようございます!!」

 先生の挨拶に皆が大きな声で応える。

「よぉーし、ではHR(ホームルーム)を始める!」

「昨日の委員決めで決まった委員表を配るぞー」

 プリントが前から後ろへと順に配られる。

「で、さっそくだが今日は各委員の集まりがある。なので、参加すること!」

「えぇ~~!」

 みんなの嫌そうな声が響く。

 今回のヤジに関しては同感だ。

 むしろ、全員のヤジの二倍くらいの気持ちだ。

「うるさい!そして、もうひとつ。今日から掃除が始まる。」

「えぇ~~」

 うるさいと言われたからか少し小さめのヤジになった。だが、委員の集まりに比べると掃除なんてものは俺にはどうでもいい。

「それでだ!順番をどうするか考えたのだがな。まず最初は見本として委員長にやってもらうことにした!」

「おぉ~~!」

 生徒の反応を聞いて先生は自慢げに続ける。

「いやぁ~、良いアイデアだろ」

「うん、先生!ナイスアイデア!」

 (ん?ちょっと待てよ)

 一瞬の空白の時間を経て状況を飲み込むことができた。

 (いや、そこのヤジにうるさいはないのか。)

 と、突っ込んでいる場合ではないことは分かっていたものの為す術もなく、自分が不利な状況になっていくのを見届ける事しか出来なかった。

「というわけで、分かったな?委員長!」

「はいっ!」

 隣でもう一人の人気者の委員長が返事をする。 

「あれぇー?このクラスの委員長は一人だっけな?」

 悪魔だ。昨日までは味方だったはずなのに。

「はい......」

「頼りないなぁー。まぁ、とりあえずよろしく!」

「はいっ、それじゃあHR終わり!」

 こうして、憂鬱な朝がさらに憂鬱になったのであった。

 この時はまだ、放課後にこれ以上憂鬱になるなんて思うはずもなかったーー

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