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中編

約束の日曜日、手土産を用意してお昼過ぎに朋子ちゃんの家にお邪魔する。


朋子ちゃんは眠たげに

「いらっしゃい」と少し低めのダミ声で、やる気なそうに出迎えてくれたが、手土産を渡すと目が覚めたような笑顔で受け取ってくれた。


一緒に写真を見ながら

「なかなかいい写真がないねぇ」

しみじみされた。


改めて人から言われるとグサリと突き刺ささるものがあり、やさぐれてくる。


「だからこそ、貴女に頼んでいるんだよ」


言い方が少しヤケクソ気味に返してしまったが、彼女は気にした様子もなく探していく。


私と彼女が手にしている写真は、やはり私が半目だったり、笑いが引きつってたりするものばかりだ。

本当にいい写真がない…。


「写真はなかなか面白くて楽しめるけど、お見合い写真にするのはヤバイよ」


ハッキリ言ってくれるのは彼女の長所で、その辺もたよりにして今回の協力を仰いだのだが心が荒む。

私は全然、楽しくない。


だが私の未来ためには、ここで諦めるわけにはいかない気もするのだ。


「わかってるから、頑張って探して。探すことができたらお土産に持ってきた私お手製のシフォンケーキ食べよ」


彼女の目が真剣になり写真を探す手が早くなる。

5分後に彼女が満面の笑みをたたえて写真を差し出した。


「あったよ!これでシフォンケーキが食べれる」


写真を受け取ると、そこには自然に笑顔の私の写真が!


カメラ目線ではなく、何かの瞬間を撮ったかのような感じだ。

しかし、どの瞬間かさっぱり覚えていない。


「おおっ!こんな素晴らしい写真があったとは!

さすが私!可愛く撮れてる!そして、誰だかわからないけど、この写真を撮った人も素晴らしい!」


彼女が苦笑いをする。


「自分で自分を褒め称えれば世話ないわ。

そんなことよりシフォンケーキが早く食べたい!用意よろしく!」


ここは貴方の家なのに、私が用意するのね…いつものことだけど…。

いつもはお前がやれと抵抗をするものの…ここは素直に感謝して用意するべく台所へ向かった。


シフォンケーキを切り、紅茶を淹れていると、彼女のお兄さんがやってきた。


さっきまで眠っていたのうなボーッとした表情だ。


「久しぶりです」


ペコリと頭を下げる。


お兄さんは、覚醒したかのように目が大きくなる。


「久しぶり。また、君が用意してるの?

いつも妹がすまないね。僕も母もアイツにはもっと家のことやるように言っているんだが聞きゃしない」


「いえいえ、いつものことですから」


苦笑いしながら茶葉を蒸らす。

彼の視線がシフォンケーキに。


「よかったら、召し上がります?」


彼は笑顔で頷いた。


「遠慮なく頂くことにするよ。

実は、いつも君が持ってきてくれる手作りの土産を楽しみにしてるんだ。料理上手だね」


面と向かって褒められると少し照れる。

しかもシフォンケーキは単価が安いのだ。

原材料費を細かく計算すると100円ほどで作れる。買うより安い。

思わぬところで褒められて顔がにやけてしまう。

彼の分もシフォンケーキと紅茶を用意する。


「それで、今日はなんの用事できたの?」


「私がお見合いに使う写真を探すのを協力してもらったんです」


彼はびっくりした顔をする。


「君が恋愛に興味なさそうだったのに、

結婚に興味があったとは意外だな」


いやいや興味だけはありましたよ。

何もしなかったけど…。


「私の周囲が結婚して幸せオーラいっぱいなので、何かアクションを起こしてみようかと…」


彼は黙り込んだ。


そんなに、恋愛しなさそうだとか思われていたのだろうか?

まあ、確かにそこにつぎ込むエネルギーは持とうとしなかったけれど。

まあ、今まで何にもしてこなかったもんなあ。


人の気持ちというものは不変というものは一つもなく、時と場合と気分によってコロコロと移り変わり行くものなのだ。


今、目指すところは恋愛を経て結婚をするとものだったが、道のりは程遠そうだ。が、彼女が写真を見つけたお陰で一筋の光を掴んだ感じだ。


彼女が待ちに待っているはずなので、


「じゃあ、シフォンケーキ待っているので行きますね」


シフォンケーキを乗せたお盆を手に取り、台所を出ようとした時


「それなら、僕と付き合ってみるのはどう?

結婚も視野に入れて」


思わず振り返えってしまった。


何やら、思いがけないことを言われたようだが、彼の言葉が浸透してこない。

からかわれているのだろうか?


彼は苦笑いする。


「まあ、そんなに深く考えないで。お試しに感覚で。ダメなら辞めればいいだし」


予想外のことを言われ固まってしまう。


すると、廊下から早いスピードでこっちで向かってくる足音が聞こえてくる。


「ちょっと、シフォンケーキのはまだなの?

早くしないと、この写真がどうなっても知らないよ!」


写真を片手に彼女が台所にやってくる。


…私の唯一の写真を人質にしなくても…。


「あっ、その写真、俺がとったやつ。」


彼が、彼女から写真を取ってマジマジと写真を見つめる。

そんなに見られると恥ずかしい…。


「そうだったの?。やるじゃん、お兄ちゃん!

そのをお見合い写真にする予定だよ」


彼は酸っぱい顔で、私を見つめる。

居心地が悪さを感じて目を逸らした先に、写真の私が目に入った。


気づいたら私は彼に向き合って、

「せっかくなので、付き合ってみましょう」

と、口走っていた…。


すぐさま彼女に向かって


「おばあちゃんにお見合いの必要はなくなったと報告しに帰るね」


と、シフォンケーキが置かれたお盆を押し付け、大量にある自分の写真をまとめ彼女の家を後にした。


歩いて数分後


私は、ハタッと立ち止まる、


お兄さんの名前何だっけ?

…あと、連絡先を聞くのを忘れてた。

ついでに、私が最高にキレイ写っている写真も…。


と、思った瞬間携帯にメールが入ってきた。


「妹から連絡先を聞いた。良い返事をありがとう。嬉しかったよ。これからよろしく」


自然と頬が緩み、こちらこそよろしくお願いしますと返信する。


私が今、手にしている写真は燃えるゴミの日に出したいくらいのシロモノだけど、私が一番綺麗に写っている写真は彼の手元にあるのだ。


恥ずかしくていたたまれなくて、なんだか思わず逃げてしまったが、足取りも軽く家に帰る。


さっそく、おばあちゃんに報告したら物凄く喜んで赤飯を作ってくれた。


ただ、おばあちゃんの友達が張り切って私のお見合い相手を探そうとしてくれてたので、そこが少し断り辛かった部分はあったけど急いで断わるねと電話していた。

おばあちゃんの友達は紹介するのを残念がってたけど、喜んでお祝いしてくれた。


おばあちゃん…今まで態度に出さずに黙って見守っていてくれてありがとう。


しかし、人の気持ちは時間と共に変わりゆくものなので、結婚まで行き着かなかったら、その時は本当にごめんよと弱気にも心の中で謝っておいた。


後日、彼に名前を聞くと、しょっぱい顔をされたものの苦笑いしながら教えてくれた。


気づけば彼の姿を見つけてはドキドキするようになり、朋子ちゃんからは脳みそにお花畑が湧きまくってると冷ややかな眼差しを度々いただく。


お付き合いは順調に進み、私は無事に結婚した。


結婚式は緊張していたが、おばあちゃんは泣いて喜んでくれた。

ただ興奮の度合いが激しく、落ち着かせるのが大変だったと隣に座っていた叔母がぼやいていた…。

後で叔母から聞いたのだが、おばあちゃんも本当に結婚するのか相当怪しんでいたらしい。…なんかごめん、おばあちゃん…心配ばかりかけてます。


結婚後も何くれと差し入れをしてくれたり気遣ってくれて、結婚生活においての些細な悩みを黙って聞いていてくれたのだが、それが落ち着くと少し経っておばあちゃんが亡くなった。


おばあちゃんの葬式時に、おばあちゃんの容姿は死後に写真に残すのはあまりにも偲びないものなので、親戚達がおばあちゃんの写真を画像修正を施したものが使用された。


悲しすぎたのか亡くなった実感がないのかお葬式の間は、少しぼんやりしていた気もすが、さすがに画像修正したものに反対した。

私にとって、別におばあちゃんの容姿は大した問題ではないし。その写真別人だし!


しかし私以外の親族は圧倒的に画像修正賛成派とだったため、画像修正した写真はお葬式が終わった3年経った今でも仏壇がある部屋に存在感をもって鎮座している。


…物事は移り変わっていくものだけど、これは詐欺じゃないだろうか…しかし、誰も損をさせたり悲しませてないので問題はないのかもしれないが…はっきり言って解せぬ。


おばあちゃんが亡くなったので、私と彼がおばあちゃんの家に住むことになった。

困った時に仏壇のある部屋で、おばあちゃんの写真に語りかけてしまうのだが、その度にこれでよかったのかと首を傾げてしまう。


そんな私に叔母は

「アンタは、いつも無駄に考えすぎ!おばあちゃんは容姿のことを気にしていたから、これでよかったのよ」

とキッパリ言い切きった。

おばあちゃんが、そんなに容姿のことを気にしていたとは知らなんだが、叔母の潔さに圧倒され押し黙る。


…おばあちゃんが私を慈しみ育ててくれた事実は私の中にあるのだから私の中のおばあちゃんは私の中に生きているのだ!と、どこかで聞いたことあるような言葉を引用して、渋々納得することにしだ。

…でも、やっぱりモヤッとする。


時間が経つということは、何かを得て失っていく繰り返しの積み重ねなんだろうけど、おばあちゃんが亡くなったことは直ぐに受け入れることは出来なかった。


本も読む気にならないし、しばらく意味もなくぼんやりしたり涙ぐんだりとしていたが、傍に彼がいてくれたおかげか徐々に収まっていった。


家事をしている時に、ふとおばあちゃんを思い出す。


家にいると捕獲され褒めておだてられ載せられて、気づいたら家事をこなせるようになった…思い出したらちょっと泣きたくなってきた。


たまに厳しいところもあったけど、思い出すと、あったかい気持ちになってくることも増えてきた。


おばあちゃんの家事育成計画の成果は、彼が私のご飯を美味しそうに食べてくれることが多いので無事に他達成できている。…ありがとうおばあちゃん。


あと、彼が何気に買ってきてくれるお土産は美味しいものが多くて幸せだ。


彼がそばにいてくれて本当に良かったと思う。


結婚が決まった時におばあちゃんがあんなに喜んでた理由が少しわかった気がした。


月日が経ってしまったせいか、今では、画像修正された写真こそが祖母の姿と私の脳は認識してしまった。


けれども、ごくたまーにアルバムをめくる時、おばあちゃんと一緒に写った写真を見るたびにおばあちゃんの真の姿を目にして、そういえばおばあちゃんはこの顔だったのね…記憶というものは、思った以上に曖昧だ。



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