レイズによる治療
目をギュッと閉じて、痛みを堪えるリタを見て、レイズは優しく傷痕に触れる。ワンピースのスカートの裾から手を入れ、徐々に手を上の方に伸ばしていく。
腰を通過して、くびれまで手が届く頃にはリタはどうしたら良いのかわからず、ただ顔を真っ赤にして全身を強張らせていた。
「嫌がらないのか?」
レイズは少し不安になってリタの表情を窺った。
「だ、大丈夫。薬を塗ろうとしてくれてるのよね?」
目をギュッと閉じているので、なんとなくだが、レイズがしようとしていることは分かっていた。
「ああ、そうだ。肋骨にまで手が届かない。スカートを少し上にたくし上げるが、いいか?」
レイズはただリタに薬を塗るという名目で触れたいだけだったのだが、上手くリタが治療だと勘違いしてくれたので、それを利用させてもらう事にした。
「う、うん……で、でも……」流石にそこは自分で出来ると言おうとしたリタだったが、レイズはそれを言わせてはくれなかった。ぐっとスカートが上までたくし上げられ、レイズの指が体に触れる。リタは驚いて言葉を発せられなくなった。
「痛かったら言えよ?」
レイズはリタの両腕を頭の上に重ね、右手で掴み、ヘッドボードに押しつけた。痛みで暴れられないよう、リタに覆いかぶさり、リタの左耳の辺りに顔を埋め、上半身を押さえつける。ベッドから足を下ろしていたので体勢が苦しくなり、レイズは足もベッドに乗せる事にした。
ギシギシと軋むベッドが2人の体重を支える。
「腕!腕!これ意味ある?!」
「暴れるかもしれないからな。痛みを与えないようには気をつける」レイズは素っ気なく言うと抵抗される前にリタの足を空いた左腕で大きく開脚させた。そしてレイズは自分の左腕をリタの右足の膝裏に差し込み持ち上げると、自分の左太腿の上にリタの足を乗せた。もう反対側の足も同様にする。リタは身動きが取れなくなった。
塗り薬を風魔法で左手のひら全体に広げると、その手で肋骨に触れた。
「あっ!」
くびれから下の胸辺りまでをレイズの指が上下に優しく往復する。防御壁に包まれて眠りに就く前に上半身の下着を消し去っていたのが仇になった。胸が見えそうな恥ずかしさにリタは顔を赤くさせる。レイズの指にびくっと体が反応する。
「痛むか?もう少し薬を塗り込もうか」
耳元で囁かれると、さわっとレイズの熱い息がリタの耳にかかる。
「いっ、痛くはないっ……のっ!ん……あっ」レイズの指が触れるたびにくすぐったさでリタは声を堪える。
「じゃあ、どうした?耳まで真っ赤になってる」
リタが恥ずかしがっているのを分かっていて、レイズはリタの耳元でそう囁く。
「はぅ……」
レイズの腕から逃れようと体を捻るが、レイズの右腕で両腕を頭の上に追いやられているので悶える事しかできない。
「体を捩らせて強請らなくても塗ってやるから大人しくしてろ」
「強請って……なっ……はんっ……」
レイズはこのままワンピースの裾を上にたくし上げ、脱がしてしまいたくなる衝動に堪えながら、親指で肋骨をなぞる。レイズの親指が肋骨の溝をなぞるたびにリタが小さく声を上げる様子にレイズは悦びを隠せない。つい耳元にまで悪戯を仕掛けたくなり、ふう、と息を吹きかける。
「んんんっ!」
衝動に抗うのも難しい。それ以上のことがしたくなる気持ちに屈しそうになる度にそれはダメだと理性に言い聞かせる。これは治療だ。
ぬるりと薬がリタの肌に塗り込まれるたびにリタは痛みで声を上げる。
「ああ!」
はぁはぁと2人の息遣いが交差する。耳元でレイズの息遣いが直に聞こえるリタは、キュンとなる感覚に羞恥を覚える。
これは治療、これは治療……これは治療!
リタの頭の中はパニックだ。
手が言うことを聞かなくなる気がしたレイズは肋骨を触っていた腕をスカートから抜く。その手をリタの背中に回し、抱きつく様にして羽に手を触れる。
「羽は大丈夫か?」
抱きつく形になったことへの言い訳の様にリタに羽の状態を確認する。触れた瞬間に自分の胸がドクンと脈打つ感覚があった。出会った当初に触れた時のような幸福感に包まれる。
「んあっ!」
塗り薬を羽に塗り込まれ、優しく触れるレイズの手から体温が伝わってくる。
「ここが痛むのか?」
決して痛みで声を上げたようには聞こえなかったが、痛むと言うことにしてレイズはリタの羽に触れる。
「んっ!レイズの……ああっ!手がっ、はぁ……熱いよう……!」
「薬が効いている証拠だな。もう少し量を増やすか?」
そう言いながら風魔法で薬を手のひらに再度塗布してリタの羽に塗り込む。リタの羽に触れ、薬のぬるりとした感覚を楽しむ。
「あんっ!そんな触れ方したらっ……!」
「触れ方をしたら、どうなるんだ?」
耳を真っ赤にしてリタは言葉を飲み込む。
「どうって……んっ!」
「ほら、どうなるんだ?言ってみろ」
「ち、ちがっ!……ちょっと……ん……ふわふわするだけっ……だから」
ふわふわするとはどういう事だ、と思った瞬間にレイズの中で理性の糸が切れる音がした。
「リタ……俺はお前を初めて見た瞬間からずっと……」
密着していた体を離し、リタの顎に手を添える。リタの艶やかな赤い唇を触れようと親指を動かした。
「んっ」
唇に指が触れ、指から伝わるレイズの体温にリタはドキッとする。レイズはスルッと背中に手を回し、羽の輪郭をなぞり手を遊ばせる。
「ああっ……!」唇を指で触れられ、羽を手で遊ばれて、リタは許容できる刺激の限界を迎えた。甘い声を上げて体を仰け反らせ、胸をレイズの顔に押し当ててしまう。
「ご、ご、ご、ごめん!」慌ててリタは謝るが、レイズは突如柔らかい膨らみに包まれた事で、顔を赤くして言葉を失っている。
ドンドンドン!
「リタ様?!」
扉の外でリタの声が聞こえたのか、焦ったイルの声が外から聞こえる。
ガチャ
その時、扉の鍵が解錠される音が部屋に響いた。すると解錠の音ともに、勢いよく扉が開かれた!
ドガン!
鍵をかけたはずの扉が乱暴に開けられると、イルがそこに立っていた。
「レーイーズーさーまー?!」
マスターキーを手に入れて戻って来たのだろう。部屋に駆け込んできたイルの後ろには、まだ扉を開けたばかりで鍵を持って立っているベスティアがいた。
「キャッ!」
リタが両腕を頭の上で拘束されているのを見て、ベスティアは目元を手で覆った。イルはズカズカと部屋に入ると、レイズをリタから引き剥がした。
「私の主人になんて事をなさるのですか!」
「何って……治療だが?」
「治療は私も先程行いましたので、間に合っています!レイズ様はこちらに!リタ様はこちらの椅子にお掛けくださいね」
リタにはニッコリと微笑みを見せているが、レイズに対しては鼻の上にシワを寄せて心底嫌そうな表情を向ける。器用に表情を変えるようになったものだ、と感心しながらリタはイルの示した椅子に腰掛ける。
イルにリタから引き剥がされ、渋々椅子に座ったレイズは首元のクラヴァットを緩めながらイルに嫌そうに尋ねた。
「何の用だ」
「何の用だではありません!リタ様はお目覚めになられたばかりなのですよ?!治療なら私がやりますので、レイズ様は早く埋葬業者の元に向かって下さい!」
「いやいや、今日は最終日だ。今夜のパーティーに出席したらあとは帰るだけだ。今日はもうやる事はないはずだ」
「そんなわけないでしょう!最終日だからこそ、別れのご挨拶がございますでしょう?!」
「えー?」
「えー、って子どもじゃないんだから!早く仕事に向かって下さい!」
「リタ様、お目覚めになられてよかったです」
レイズとイルの話に付き合っていては日が暮れる。そう判断したべスティアは2人の会話に割って入った。
「本日は夜会がございますが、ご出席なさいますか?出席される場合、ドレスはご用意なさっていますか?もしなければお貸しすることも出来ますが、いかがいたしましょうか?お選びになられるのでしたら、クロリア伯爵もご一緒されますか?」
レイズとイルがまだ睨み合っているので、2人の掛け合いがまた始まる前に、とベスティアは聞きたいことを一気に言い切った。
「それはいいな。リタのドレス姿が見れるならパーティーも悪くない」
「じゃあ、借りよっかな……ベスティアさん、ドレスをお借り出来るかな?」
「そうだろうと思いましたので、既にいくつかご用意しております。調整が必要な場合もございますので、早めに馬車でお迎えに上がります」
「夜会って何時からあるの?」
「夜の8時頃から集まり始めますので、日が暮れる5時頃にはお伺いいたします」
「じゃあ俺もその夜会が始まる8時前にはここに戻ってこよう。場所は王宮の広間だったな?」
「左様でございます」
「だそうですよ、レイズ様。早くお仕事へ行かれてはいかがですか?」
「そう急かすな。やっとリタの起きた姿が見れたんだ。もう少しここに」
「はい、行ってらっしゃいませー」
イルは早くレイズを部屋から追い出しリタから引き離したい。イルはレイズの言い分を無視して後ろからレイズの脇に手を入れ、無理やり椅子から立ち上がらせる。今度は立ち上がったレイズの背中を両手で扉まで押し出した。
「リタ!」
イルに押されたままレイズはリタの名前を呼んだ。なんだろう、とレイズの目を見つめると、レイズは今まで見たこともないような甘い笑顔を浮かべて一言だけ告げた。
「今夜、楽しみにしてる」
「う、うん。行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
余程リタの目覚めが嬉しかったのだろう。レイズにしては珍しく、機嫌良さそうに目尻を下げてリタを見つめる。
イルは堪らずレイズを部屋の外へ押し出し、埋葬業者の元に追いやった。
ベスティアもレイズの後でカーテシーを扉の前で行ってから静々と何事もなかったかのような表情で部屋を出ていった。
すると2人を扉まで見送ったイルは突然、クルッとリタに振り向いた。
「失礼いたします」
『洗浄』
「わっ!また綺麗にしてくれたの?ありがとう??」
「レイズ様が治療を行われたとのことでしたので。突然失礼いたしました。レイズ様の魔力がまとわりついていたので、洗浄しておきました」
リタにはイルがムスッとしている気もしたが、顔はニコニコといつも通りだ。
「なんか機嫌悪い?」
一応様子を窺っておこうとリタはイルに心配そうな顔をして聞く。しかしイルはより一層ニッコリと微笑むだけだった。
「リタ様はお気になさらなくて良いのですよ。さあ、出かける前に一度、治癒術師の元に参りましょう」
イルとリタは今夜の夜会に向けて準備を開始した。




