ニチアメリ王国、アメリゴ都市を歩いてみよう1
「本を読んでもう察しているだろうと思うけど、ここはニチアメリ王国。アメリゴ都市のギルドだよ。私はここのギルド長をやっている。3階は、万が一異世界人が夜中に落ちてきた場合に対応する場所として、宿泊が出来るようになっている。2階は僕の執務室と異世界人が落ちてくる魔方陣。1階はギルド受付だよ。それぞれの階を行き来するには、魔力登録をしないといけないようになっていてね。だからここにいる限り、誰も来ないよ。」
「でも私は行けましたよね。なんでですか?」
「魔方陣に落ちてきただろう?そこで登録するんだよ。だから君は一時期的だけどのフロアにも行けるようになっている。」
「そういえば夜中に私落ちてきましたよね?アイザックさんはもしかしてここに住んでいるんですか?」
「いやいや、ここには住んでいないよ。でも昨日も言ったように、異世界人が落ちてくると僕に知らせが来るようになっている。昨日は自分の家で寝ていたところ、いきなりベルが鳴ったからまさかと思って来てみたんだ。ギルド長に就任したらギルドの裏にある屋敷が与えられるんだ。だから近くではあるんだよ。」
「昨晩はお休み中のところ申し訳ありませんでした……。」
とりあえず謝っておく。
「リタさんが好きで落ちてきたわけではないだろうからね、気にしないで。じゃあ早速、下の階に降りようか。」
「でも私がいきなり下に行ったら、皆さん驚きませんか?!」
やっべ、異世界人ってバレるじゃん!
「他の職員は上の階がどういう役割を果たしているのか知らないし、それに今朝私が客人を上に招いていると伝えてある。君が異世界人である事はバレないから大丈夫だよ、安心して。」
「なーんだ。じゃあ、そしらぬ顔をして妖精やっとけばいいですね。」
「はははっ!その意気だ!さあ、行こう。」
アイザックはリタの手を取ると、自分の手の甲に置いた。
「申請はすでに通ってるから、ギルドカードの発行をしよう。受付にちょっと寄るね。」
アイザックは自分の鞄を手に取り、階段へ向かって歩き出した。
階段をドキドキしながら降りると、そこは沢山の人で賑わっていた。階段から降りて来た、ギルド長にエスコートされている女は誰だと言わんばかりにギルド職員達は一様に驚いた顔をしてリタを見つめた。
妖精族である事を認めると、顔を少し赤らめそっと目を逸らす若い男性職員もいた。気になるようで、チラチラとした目線があちらこちらから向けられた。
受付にいる女性職員にアイザックが目線を合わせると、一言だけ伝えた。
「手続きを。」
「かしこまりました、カポルネギルド長。お客様?こちらの用紙をご記入いただけますでしょうか?」
渡された用紙には、名前、性別、生年月日、種族を記入する欄がある。
名前と性別と種族を自分で記入した。
生年月日はどうしよう?とチラッとアイザックの様子を窺うと、察したように教えてくれた。
「今が5678歴だから、5661歴で、誕生日は昨日の6月14日でしょ?」
なぜか艶めいて聞こえる言い方でリタの耳元で、でもギルド職員にも聞こえるように言った。
距離がしかも、ち……近い!
わざわざ昨日の誕生日を二人っきりで一夜過ごしたみたいな想像させることをギルド職員に聞こえるように言うなんて!あ、それが狙いか?
「茶化さないでください!」
一応予防線を張っておく。
「今朝はあんなに可愛かったのにどうしたの?」
もう絶対この職員さんには勘違いさせた……。
心なしかギルド職員もニヤニヤしている。
「うふふふふ!まだ17歳なのに、ギルド長もリタさんもイケませんねえ。あれ、ギルド長婚約者さんいたんですか?ぬふふふふ。程々にしておいてくださいよ?」
「違うんです……。これには事情がありまして……。」
何とか否定の言葉を紡いだものの、ごにょごにょと俯いて赤くなっているリタには生優しい目が注がれるだけだった。
アイザックはギルド職員の言葉を否定することなく、意味深な顔でニコニコしている。
「はい、発行が完了しましたよ。カードに触れるだけで魔力の登録ができますので、あとはここに触れていただけますか?」
指差された位置に触れると、カードがふわっと白く発光した。
「これでリタさんしか使用できないようになりました。登録料は既に振り込まれている分から差し引いてよろしいですか?」
えっ、どうなっているの?という顔をしたリタの代わりにアイザックが短く答える。
「ああ、それで問題ない。」
「かしこまりました。登録に銀貨三枚を使用しました。ギルドカードは身分証明書でもありますので、紛失・盗難の再発行には金貨一枚がかかります。肌身離さず管理されるよう、ご注意下さい。使用停止に費用はかかりません。それではまたのご来店をお待ちしております!ぬふっぐふふふ!」
そんなギルド職員に構う事なく、アイザックは言い放った。
「今日はこのまま直帰する。エドワードが戻ったら、そう伝えてくれ。」
「承知いたしました。デリヴァン副ギルド長に申し伝えておきます。お楽しみを!あ、間違えた。いってらっしゃいませ!」
絶対今のわざとだろ……良い子そうだったけど。
どっと疲れが襲って来たが、渡されたギルドカードが嬉しくて、機嫌を持ち直す。
「今は私が預かっておこうか?」
「お願いします。」
アイザックに預ける様子も、後ろからニヤニヤと職員に見られているのが少し気になるが、まあ、良い。もう来る気ないもんね!へへーん!
アルバートがカードを受け取り、自分の鞄にいれた。その後まるで当然のことかのように自然とリタの手を取り、エスコートしてギルドの外に出た。
後ろから、ふご!とか聞こえたがもう気にしない。あれは過去の事だ、ふっ。
「知ってる?ギルドカードを異性に預けるのは、その異性と想い合っていると思われてもおかしくない行為なんだ。リタさんって初心に見えて意外と大胆なんだね?嬉しいな。」
「ふぎゃあ!」
そりゃ、あの職員もふごっとか言うわ!これはもう絶対そういう関係だと思われたわ。私は良いけど、さっき婚約者がいたのかと聞かれていたからまだ独身だろう。アイザックさんはこれで婚期が遠のかないと良いな……。はあ。
「そんなつもりはっ!周りを勘違いさせるようなことしてすみません……」
シュンとしたリタにアイザックは追撃した。
「気にしないで、また来ることになるだろうし。国の庇護下を離れたくなったら求人をギルドに探しに来ると良い。仕事はしてもしなくても良いから、気長にね。」
くっそー!そんな訳にも行かないでしょう!また来ないといけないじゃないかー!
そんなリタの考えを見透かしていたかのようにアイザックがさらに追い討ちをかけた。
「それにリタさんは魔法だって覚えていかないといけないよ?学院なんか行かなくても、毎週私がリタさんに魔法を教えてあげるから、毎週末ここに必ず来てね?それか私の休日をリタさんにあげよう。」
「いやいやいや!アイザックさんのせっかくの休日を、私の勉強のために付き合わせるわけには行きません!」
「じゃあ毎週末ギルドに会いに来てくれるね?」
こっそり約束、と微笑まれてしまうとノーが言えない日本人、いや、今は心穏やかな優しき妖精だ。
ぐぬうと声にならない呻き声が漏れた。
「でも、それでは周りに私との関係を本当に勘違いされてしまいますよ。アイザックさん婚期遠のいちゃいますよ!」
苦し紛れにアイザックの痛そうなところをついてみる。
「勘違いされていた方が良くない?」
「はい?」
「だってその方がリタさんにも私にも都合がいいでしょう?何か不都合があったらギルドにいる私を頼れば良いし、困ったことがあったらすぐ頼れる人がリタさんは必要だよね。私も用事でリタさんに会う必要が出て来るかもしれないし。勘違いさせておいた方が出生もバレない。ほら、ウィンウィンでしょ。」
「あーー!そういうことかあー!ですよね!はい!おっしゃる通りだと思います!」
別に落胆してませんから!期待もしていませんでした!嘘です、勘違いしそうになっていた自分が恥ずかしくて、ちょっと涙目です!
「ちなみにリタさんは月々金貨二枚が与えられるからね。」
一気に現実に引き戻されました。鬼畜!女泣かせ!イケメン万歳!
そんなリタの心の中はアイザックの知ったことではない。淡々と状況を説明していく。
「その情報はギルドカードに記録される。今日行く部屋に住んでいる限りは家賃もかからないから、贅沢はできないけれど、最低限の生活はできるだろうと思う。買い物は全てギルドカードを通して行えるよ。硬貨のままやりとりする事もできる。」
自分の生活に関わることなので、真面目に話を聞く。
おおー!金貨二枚で生活1ヶ月分なら、多分価値は日本円で二十万ぐらいかな?
他にも通貨はないのか詳しい話を聞いてみるとどうやら
大金貨一枚=百万円
金貨一枚=十万円
銀貨一枚=千円
銅貨一枚=十円
鉄貨一枚=一円
といったところだった。
「もうすぐお昼だから、一緒にお昼を食べよう。おすすめのレストランがあるから、そこに向かおう。」
ギルドはどうやら街のメインストリートにあるようだった。このまま真っ直ぐ進むとレストランがあるらしい。
というか、ここここれは、デ・デ・ デートというやつでは?!
意識し始めたら急にアイザックの手を触れている自分の手が汗ばんできた気がした。
そんなリタの内心に構うことなく、普通の顔をして歩きながらアイザックが説明してくれる。
「アメリゴ都市は人族の街だけど、貿易が盛んだから、全ての種族が住んでいる。交配も可能だから半分魔族、半分人族なんて者もいるけど能力が中途半端になる。人族には羨ましがられるけど、もう片方には見下される事が多い。」
色々説明してくれているが、意識し始めたリタの耳には半分も届いていない。どうやってナチュラルにこの手を離そうか、汗ばんでいないか、顔が赤くなっていないか、そんなことばかり考えていた。
「あれ?リタさん顔が赤いね。もしかして体調悪い?」
片手はリタのエスコート。もう片方は鞄で手が埋まっているアイザックはおでこをコツンとリタに近づけた。
「もういっぱいいっぱいです!!!」
リタの鼻から勢い良く鼻血が噴き出した。




