魔力欠乏症
「うらああああああ!」
最初に攻撃したのはジルクだ。
腰に差していた剣を一気に抜き、棍棒を持ったオークに向かって斬りつける!
ザシュッ!
背を向けていたオークは不意を突かれて背中に傷を負う!
プツプツと血の球が滲み出て、ジワッと血が流れ出す。
「グオオオオオオオオオオ!」
傷を負ったオークが痛みで叫び声を上げる。レイズは後ろに回り、リタを両手で握るオークの首を短剣で刺す!
グサッ!
ビクビクッとオークが体を痙攣させる。刺し込んだ短剣を勢いよく抜くと、プシャッと血が吹き出した。
リタを握っていたオークの両手が緩む。その隙にイルはオークの腕を狙って詠唱する。
『風斬』
スパッとオークの二本の腕が風魔法で切り落とされる。
レイズは徹底的に殺すつもりで血が吹き出た箇所にもう一度短剣を突き刺した!
首を切り落とすつもりで刺した短剣では切り落とせず、骨で剣が止まってしまう。
オークがレイズの短剣を抜こうにも両手失い抜く事ができない!オークは腕で刺さった短剣を払い退けようと暴れる!
レイズは短剣を抜いては刺し、抜いては刺しを同じ傷に何度も行った。
最後の仕上げにもう一度狙いを定めてオークの首に短剣を刺す構えをとる。
『霊魂に告ぐ、爆風弾!』
短剣を力一杯オークの首に突き立てる!風魔法で威力の増した短剣がオークの首に刺さる!
バンッ!!!
刺した箇所に風魔法が短剣を起点に当たり、オークの首が爆発した。ビチャッと頭と胴体が切り離され、体が膝から崩れ落ちた。頭は爆発で吹き飛び、木にグチャッと音を立ててぶつかった。2匹のうち1匹のオークは絶命した!
レイズがとどめを刺していた間、イルは切り落とされたオークの腕からズルッと落ちたリタを抱き止めていた。
「リタ様!」
イルはリタに声をかける。
「グッ……!」
身体中を食いちぎられ血がドクドクと流れている。美しかった4枚の羽も無残な姿になっていた。唯一残っている1枚の羽も所々千切られてボロボロだ。
イルはオークから離れ、ジルクとレイズを置いて撤退の姿勢を取る。
「リタを安全な所へ!」
レイズは棍棒を持つオークに今度は攻撃しながらイルに向かって叫んだ。
イルはすぐさま距離を取り、見えない所まで離れられたのを確認すると、リタを地面に横たえた。そして体力回復薬を自分の魔力袋から取り出す。
リタの口に瓶に入った液体を全て流し込む。少しだけ顔色がマシになったが、血を失いすぎている。輸血する術をイルは持っていない。体力回復薬で凌ぐしかない。イルは魔力回復薬も同様に口に流し込んだ。しかし急速にリタの魔力は失われていく。
リタの手がピクピクと小刻みに痙攣を始めた。魔力欠乏症に陥っている!
レイズとジルクがいる方向に顔を向けるが、まだ戦闘中の剣や打撃音が聞こえる。まだ助けは呼べそうにない。
「リタ様!お気を確かに!」
「んっ……イ………ル……」
「リタ様!」
このままではリタを失ってしまう!イルは想像して涙をハラハラと流す。
「イル、受け取ると言って……」
「何を仰るのです?リタ様からのものであればなんでも受け取ります!どうか、どうか気を確かに!」
リタはそれを聞いて弱々しくニコッと微笑んだ。
「これ……」
リタは手の中に握っていた小さな針をイルにグサッと突き刺した!不死者であるイルに痛覚はない。ただ、何かが突き刺さった違和感を覚えた。
「わ!何をなさるんです!」
いきなり針を刺されて驚いたイルは突き刺さった針に手を触れる。
『じ……譲渡』
不意打ちでイルの血を魔道具針に与えると、針が青く発光する。魔力登録が完了した。
「リタ様?!これは……!」
「使って……羽を……オークが……足が……」
リタの意図に気がついたイルは涙を乱暴に袖で拭き、顔を引き締めた。
僕の魔力の質でリタ様と同じ事ができるか分かりません、と弱音を吐きそうになるが、そうも言っていられない。事態は一刻を争っているのだ。イルは腹を括った。
最大限の効力を出せるよう、一言一句を震える声で丁寧に詠唱する。
『偉大なる創造神のカイルスよ、人族の罪を許したまえ。大地を司る素晴らしきサートゥルよ、女神へハーデスの力を授かりしリタ様への忠誠を持つ我を受け入れよ。不死者の願いをここに叶えたまえ!』
『糸紡ぎ!』『縫合!』
無事詠唱は成功した。あとはこれがリタに上手く反映されるかだ。
光属性魔法で治癒促進魔法を唱える。それを糸状に変化させ、リタの食いちぎられている箇所を縫い合わせる。
針が突き刺さる度に小さな痛みが走る。
「グッ!」
しまった、という顔をしたイルは目に涙を浮かべながら、それでもリタの体に針を刺す。
「申し訳ありません……!知識が及ばず、どうしたら痛みを与えずに縫合出来るのかが分かりません……!暫く痛みますが、どうかお許し下さい」
「だい……じょう……ぶっ!」
イルが一針一針進める度に、リタは小さく呻き声をあげる。
イルの頬を涙が伝う。
見える傷は縫い合わせた。あとは欠損した羽をどうにかしなければならない。
リタの魔力は未だに失われ続けている。このままでは魔力欠乏症に陥り、挙句の果てには命を落とす。種族の象徴を失った者の末路だ。
「リタ様、羽が……!魔力が……!」
イルは説明を試みるが、上手く言葉にならない。
「オークに……食べ……」
リタは遠のく意識の中でイルに何があったかを伝える。
リタの言葉で、イルはやる事が決まった。
欠損部位を掻き集めるしかない!
「リタ様、ここでお待ち下さい。羽を掻き集めて参ります。すぐに戻ります!」
イルは立ち去る前に、リタに魔力をありったけ送ることにする。
『創造神のカイルスよ、大地の神サートゥルよ、女神へハーデスたるリタ様の従僕である我に力を!針よ、私の魔力を吸い上げ、糸で縁を結べ!』
「リタ様、お願いします!どうか受け取って下さい」
コクリと頷き、リタはボソボソと音にならない声を振り絞る。
『その糸は私に縁を授けるものとする』
白く発光する一本の糸が2人にぐるぐると巻きついた。
『魔力譲渡!』イルが叫ぶ。
『魔力ドレイン』口をほぼ動かすことなく、リタは詠唱を頭の中で浮かべる。
2人に糸が密着し、パッと消え去った。リタの魔力を確認すると、普段の半分くらいには回復している。
イルは少しばかり抵抗出来る程度の魔力を残し、残りを全てリタに捧げた。
魔力譲渡が無事成功したことにホッとしたイルは間髪を入れず、更に出来るだけ頑丈な風魔法の守護をリタにかける。
『あらゆる障害から我が主人を護り給え!旋風防壁!』
リタを中心に風が渦を巻く!リタは風の防壁に包まれた。
「くっ!」
慣れない魔法を連発したことでイルは立ちくらみを起こした。自分の体に構っている場合じゃない!イルは痛むこめかみを押さえながら、リタの奪われた魔力を辿ってジルクとレイズの元に向かった!
イルがリタを抱えてその場を去った後、残されたレイズとジルクは残り1体のオークに苦戦を強いられていた。
生きた状態の妖精の羽を取り込んだことで棍棒を持ったオークは、膨大な魔力を体内に宿した。リタの羽を食らった事でオークが凶暴化したのだ。幸いもう片方はその前でレイズが仕留めた。早く撤退したいが、背中を見せればこちらがやられかねない!
「フヘヘヘヘヘヘヘヘ」
ドス黒い緑色の体色から紫へ変化していく。イノシシのような牙は鋭さを増し、口にはサメのような歯が並んでいる。体長にも変化があり、グッと一回り大きくなった。
リタの魔力でオークは、上位の魔獣であるハイオークに進化を遂げてしまった!もしレイズがもう片方を仕留めていなかったら2匹のハイオークを相手にする所だった。しかし安心はしていられない!ハイオークに進化した魔獣は知性を持って動き出した!
「グハハハハハハアハハアアア!」
楽しそうに棍棒を振り回し、レイズに振りかぶる!
ブンッ!
既の所でそれをかわし、短剣でハイオークの腕を目掛けて斬りつける!
ガッ!
棍棒で受け止められ、短剣が突き刺さってしまった!
ニヤリと口をハイオークは歪ませると、レイズの頬を拳で殴る!
バンッ!と音がした時には既に吹き飛ばされて木にぶつかった後だった。
「レイズ!」
「バカッ!ジルク、前を見ろ!」
レイズに気を取られて目を一瞬ハイオークから離したその時。
ブンッ!
ハイオークがジルクに棍棒をフルスイングした!
バキッ!
木の枝に背中からぶつかり、ジルクも吹き飛ばされた!
レイズは吹き飛ばされた衝撃で棍棒から抜けた短剣で、再度オークを斬りつけた!
しかし短剣をまた封じられ、レイズがハイオークと押し合いになっていると、ジルクがハイオークの背中を狙って攻撃した。
ザシュッ!
「ウギャアアアアアアアアア!!」
攻防が何度か繰り返され、レイズがハイオークの首を目掛けて短剣で突きを繰り出した!
グサッ!
ジルクもハイオークの背中目掛けて剣で切りつけた!
ブシュッ!
2人の攻撃が同時にハイオークに当たり、首と背中からドクドクと血が吹き出した。
レイズとジルクはハイオークを倒した!
「レイズ様!ジルク様!」
イルがリタの応急処置を終えて戻ってきた。
「イル!リタはどうした!」レイズは凄い剣幕でイルに向かって言った。
「羽です!魔力が急速に失われています!このままでは……!早く、リタ様の羽を探し出して下さい!」
リタは羽を失った所為で、きっとあのままではもう長く持たない。
「わかった!俺はこっちのオークの腹を裂く!」
「オレはこっちのオークをやる!」
「私は林の中に少しでも残骸が落ちていないか確認して参ります!腹の中から見つけたら教えてください!」
イルは林の中に漂うリタの魔力を隈なく探し回った!




