リタにプレゼント
リタが着せ替え人形の役目を終えてゲッソリした顔で3人の元へ戻って来た。
「リタちゃんお疲れ様!オレはピンクのワンピースね」
ジルクは気に入ったワンピースを店員に伝えた。ジルクはリタには明るい色が似合うと思った。
「私はあの純白の総レースのワンピースで」
イルは何を想像したのか、顔をポリッと掻きながら恥ずかしそうに言った。
「俺は……ゴホン!黒いのにする」
レイズはクロリア地でネクロマンサー補佐をするリタを思い浮かべながら黒を指定した。決して自分がよく着る服と同色を、と思ったのではない。ゴホン!
「さすが伯爵様!お目が高いですわあん!あの黒いワンピースはただの黒いワンピースではございません!私のデザイン技術と魔獣の紡ぎ出した糸をこの店で織り込んだ、それはそれは手の込んだ一級品なのでございますわあん!」
マダムローぺネペが興奮した様子でレイズを褒め称えた。
「そうしましたら、今おっしゃった3着をそれぞれが購入され、ドメスティカ様が着て帰られるローブとスカートはクロリア伯爵様が購入される、でよろしいでしょうか?」
接客担当者が確認する。
「え?私は良いよ、自分で買うよ!」
「いいの、いいの。リタちゃん、調査費用受け取ってないだろ?だからせめてプレゼントさせて!」
「そうです、リタ様。お気になさらず。その、私が差し上げた指輪とこちらを着て頂ければ、そのっ!ゲフ!」
イルは言い切る前に、変な声を上げたかと思えば、鼻を押さえて悶えている。どうしようもなく痛い人だ。
「ゴホン!まあ、なんだ。いつも補佐を頑張って貰ってるから、その褒美だな」
「えー、いいの?!みんな……!ありがとう!嬉しい!」
リタ感激して、花が咲くような笑顔を見せた。
4人が和気あいあいとする様子をベスティアは、ふーん?と冷ややかな目で見ている。
「それで、頼んでいた物は出来ているかしら?」
興味がない、と言わんばかりに、ベスティアは4人からすぐ目線を逸らした。店員に、本来ここへベスティアが来るに至った用件を伝える。
「あちらでお渡しいたします。どうぞ」
「後はお願いしますわね」ベスティアはレイズに今着ている分の支払いを任せた。
ジルクとイルとレイズはそれぞれ支払いを済ませ、購入した服は全てイルの魔力袋に収納した。
ベスティアも頼んでいた物を受け取れたようで、レイズ達の元に戻ってきた。
「終わりましたわ」
「じゃあ、出よう。ドメスティカ嬢、あなたに出会えたお陰で知りたい事も知れた。感謝する」
「いいえ、服も新しい物を頂きましたし、これでチャラですわ」
「今日はこの街で泊まられるのですか?」
イルがベスティアに尋ねる。
「そうよ。明日の朝、すぐここを発つわ」
「宿屋まで送ろうか?大丈夫?」
ジルクが一応女性だからと気を使って、見送りを申し出た。昼過ぎに昼食を取った店をでて、午後2時頃に店に来たはずが、時刻はもう午後4時だった。服の微調整や着せ替え人形の時間に意外と時間がかかっていたようだ。まだ日は明るいとは言え、これから暗くなってくる。女性1人で勝手に帰れとするのはあまり体裁が良くない。
「結構よ。今日はまだこれからやる事があるの。じゃあ、もう会う事もないでしょうけど」
「ああ、服に関しては、本当にすまなかった。今日は助かった。ありがとう」
「いいえ、それではご機嫌よう」
スッとカーテシーを4人に向かってすると、スタスタと人ごみの中にベスティアは消えていった。
「私達はこれからどうしようか?」
「もうこの街には用がないな」
レイズは冷たく言い放った。
「タイラー・サストラーノに会えば何か進展があると思ったんだけどなあ!これじゃあ、また振り出しに戻ったみたいじゃん!」
ジルクは大きなため息を、はあ、とついた。
「この街にあともう2泊するよりは、獣人族の国に早めに向かって情報収集したほうが、まだ何か得られるかもしれません」
イルは全員の目を見て判断を仰いだ。
「それもそうかもしれないなあ〜。じゃあ、今日一泊したらオレ達も明日の朝には出発しよっか?」
「賛成〜」
リタは小さく片手を上げると、そのまま、んーっと言って両手を上に上げ、伸びをした。
「リタ様、夕食を食べる場所を探しに行きましょうか?」
イルはリタの疲れを察して、夕食に誘った。さすが、リタをいつでも観察しているイル、出来る執事だ。
・・・
夕食から4人は宿屋に帰り、ジルクは、
「宿屋に一泊分のキャンセルをしてくるから、リタちゃん達はもう休んで」と言って、店主に話しに行った。
ここで得られそうな情報はもうないだろう。あとは獣人族の国の王宮へ向かうだけだ。
明日の朝に出発だ。
こうして夜は更けていった。




