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纏めた荷物

人だかりがある。よく見てみるとロバートの店の前だ。


「ロバートさんじゃないか?真ん中にいるの」


視力の良いジルクが先に気がついた。


「おい、どうなっているんだ?なんの騒ぎだ!」


ジルクが率先して人だかりの中に突っ込んで行った。流石騎士団の分隊長、こういう時に頼りになる!


「ジルクさん!聞いてくれ!纏めてあった荷物が……!」


ジルクに気がついたロバートが助けを求める。


「街の人に言ってくれ!あの荷物は危険だと!返すように言っているんだが……!」


「待ってくれ、荷物がなくなったのか?!この人だかりはなんだ?」


店の扉を見ても、壊された様子もなく、押し入られたようには見えない。


「ジルクさん達が来るまでに、先に店で荷物を運び出しやすいように整理しに来たんだ」


昨日より顔色の良くなったロバートが焦りながら説明する。


「そしたら店の鍵が開いていて、荷物が一つ残らず消えていたんだ!だからもし持って行った奴がいるなら返して欲しい!」

ロバートは再度人だかりに向かって叫んだ。


「それで、この人だかりは?」


「この辺で店をやっている奴に聞き回っていたんだ。話を聞いているうちに段々人が集まってきてな。これ幸いに、と問題のある製品の返品をするために纏めていた物だから、返してくれと訴えていた所だ」


「事実、そういうことだ。あれは王宮騎士団引き取ることになっている。これで罰する事はないと、ここで誓う。むしろ返して貰えればその者に銀貨50枚、いや、話によってはそれ以上出す!心当たりのある物はオレの所に来てくれ。派出所か宿屋にいる。いつでも構わない」


辺りがしん、としたところで中年の男性が声を上げた。


「夜中にまでせっかく作業したのに、残念だったねえ」


「なんだって?!」


「うわあ、ロバート!お前、急に大声を出さないでくれよ。びっくりしたー」


「俺は夜中にまで作業なんてしていない!その時間は疲れてマリーと寝入っていた」


ロバートは男に詰めてかかった。


「本当か?まあ、俺も酔っ払ってたからなあ。ずっと閉めてたのに、珍しく店で遅くまで作業してるな、と思ったんだが……」


見間違いかな、と男が首を傾げる。


「そいつはどんな奴だったか覚えているか?」


「いやー、何分暗かったからなあ。今思えば暗闇で作業するわけないよな。そう考えると、うん、やっぱり誰かいたと思う。でも酔っ払ってたから自信がないなあ」


「なるほど、分かった。協力を感謝する」


それ以上有益な情報も得られそうにないので、ジルクは話を切り上げた。


「事情はわかった。このまま、こうしていても仕方がない。何か情報がある奴には最低でも銀貨1枚、情報の内容に応じてはそれ以上を渡す。何でも良い、情報があれば派出所にいる傭兵か、俺に話しかけてくれ。以上だ。解散!」


ジルクの声でゾロゾロ人が帰って行く。その前に、先ほどの酔っ払っていたという男を呼び止めた。そしてジルクが銀貨を1枚手渡すと、周囲が一瞬騒ついたが、ジルクが見渡すとそそくさと散って行った。この様子だとお金に困っている人も多そうだ。金に釣られて誰でも良いから情報を持ってきてくれることを祈った。


野次馬がいなくなったのを確認して、ジルクはロバートに話かけた。


「荷物が無くなった、と言っていたか」


「ああ、今日引き渡すことになっていたのに、本当にすまない……だが、昨日間違いなく店の鍵は閉めたんだ」


ジルクは右手を顎に添えて、ふむ、と考え始める。


「あの細い切れ端には詳しく調べられたくない、何かがあるようだな。他に残った荷物はないのか?」


「店にあった衣類は全て綺麗に無くなっていた。あとは近所の人達が買って行った服だが、さっき聞いたら既に処分した者ばかりだった。申し訳ない……」


「いや、あの時すぐに回収しなかったこちらにも非がある。オレは派出所に行って状況を説明してくる。ロバートさん、今回の事については騎士団が補填するから安心して。とにかく自分達の荷物も早く纏めてくれ」


このままではロバートとマリーも危ないかもしれない。一刻も早く街から避難させなければ。


それを聞いて少し安心したロバートはホッとした顔で、

「わかった」と言った。


「私、荷物の整理を手伝うわ!」


「私もリタ様に同行します」


「俺はとりあえず不動産屋に向かう」


「了解、じゃあ、イル、リタちゃんを頼んだぞ。行ってくる」


ジルクは去って行く時、路地裏に続く道にフードを被った者が見えた。その者から視線を向けられている気がする。ジルクが近づくとスッと路地裏に入って行くのが見えたので、追いかけようとしたが、路地裏に続く道を見ても誰もいなかった。


確かに誰かいたはずだが、実際には誰もいない。まさか、オレが見間違いをしたのか?疲れているにかもしれないな……そう思い直し、ジルクは派出所へ急いだ。


残されたイルとリタは、ロバート達の私物を整理するために店を後にした。


「なんでこんなことに……一体誰が……」ロバートは両手で頭を抱え、髪の毛を掻きむしった。


「私達が昨日お店で作業していたのを誰か見ていたのかな?」


「分かりません。すぐに昨日、騎士団に受け渡していたら、こんな事にはならなかったのかもしれません」

イルが首を横に振る。

「そうかな?あれだけ荒れ果てていたら、騎士団に引き渡すよう言われてすぐにはい、どうぞ、って渡せたと思う?」


「それもそうですね。ですがタイミングが良すぎませんか?私達が整理して運び出しやすい状態になったのを狙ったかのように盗られるとは……」


「かと言って不動産屋とか子爵家がやったとは思えないしなあ。そっちルートから引越しの話が渡ったところで、荷物が残されているとは限らないし」


「そうでもないのではありませんか?引越しの話を聞いて、急いで荷物を回収しに来たら、ちょうど整理されていたのかもしれません」


「たまたま引越しと荷物の整理を同時に作業しただけなのにね。引越しは最初、するつもりがなかったし。荷物の整理と引越しが同時に重なったせいで起こったってことも考えられるのね」


「その可能性もあります」


「じゃあ不動産屋と子爵家も怪しいってこと?」


「そうなりますね」


「ブランドネームタグの考案者って誰なんだろう?ロバートさん、服の縫製を行っている外注先の担当者って誰か教えてもらえない?」


「構わないぞ。外注先はすぐ隣の街にある。しかし俺が店を閉める時に挨拶に行ったら、その担当者も異動すると行っていた。だからもう隣街にはいないだろう。有名な服飾店で働かせて貰える事になったと喜んでいたな。確か……店の名前はベロサルト、だ。人族の国で一番獣人族に近い街にあるとか言っていた気がする。あまり確かではないから調べると良い」


イルが懐から紙を取り出し、メモを取っている。


「その担当者さんのお名前は?」


「タイラー・サストラーノと言う。20代半ばの若い男だ」


「ありがとう、調べてみるわ。騎士団寮に持っていける物は限られているわ。調理用具は必要だとして、家財道具は置いて行く事になると思う。あとは衣類や雑貨は持って行けると思う。今日中にまとめて、明日にはここを出て行ける用意をしましょう。家とお店に関してはレイズがなんとかしてくれていると思う」


「何から何までありがとう……リタ様たちがいなければ、今頃俺はベッドで死んでいたことだろう」


「ロバートさん、大丈夫。これからは上手く行くよ!」


「そうだと良いな……。さあ、マリー自分の服をまとめなさい。お父さんはお母さんの物をまとめてくるから……」


お母さんという言葉を聞いて、リタはハッとした。


「もしかして、亡くなった奥さんもお店の服を着て……」


「細長い布切れを首元に縫い付けた時、試作品を着て見るとは言っていたが……まさか、ずっと……?!」


「奥さんの遺品を見せてください。イル、今度は焼いちゃダメよ」


「申し訳ありません、前回は手元に置いておきたくなかったので……」


「今日は大丈夫、すぐ騎士団が引き取れる用意があるから!もし私が思っている通りだったらそのまま引き渡しに派出所に行こう」


「承知いたしました、申し訳ありませんでした」


「ううん、昨日燃やしたのは良い判断だったと思う。近くにあっても嫌だし」


「そう言っていただけますと幸いです……ああ、今日もリタ様はお美しい!慈愛の心が溢れんばかりにその輝きが」


「ロバートさん、遺品を」


「こっちだ」


イルの扱いが分かってきたロバートも、承知した、とばかりに奥さんが使っていた物を纏めた部屋に案内してくれた。


「ここの部屋にある物は全て妻の物だ」


「衣類はこのクローゼットに?」


「そうだ。今開けよう」


ロバートさんが開けたクローゼットにはワンピースが3着とコート1着だけがハンガーにかけられていた。あまり着る物もなかったのか、少ないなと思ったが、試作品とは言え、店の服に手をつける必要があるぐらい困窮していたのなら、3着でも十分だったのだろう。


「もし原因があったら取り除いても良いですか?」


「もちろんだ。布切れは持って行ってくれ」


ワンピースの一つを手に取る。薄らとかかったホコリを手で払う。着古した感があって少し黄ばんでいる。


「これは大丈夫ね」


「ああ、それは妻が昔から気に入って着ていた服で……結婚してすぐに買った服だから、その……」


恥ずかしいのか、ごにょごにょと尻すぼみになってロバートが答える。


「じゃあ、あと2着のほうは……」


手始めに残った2着の内の1着を手に取る。しかしそれも問題なさそうだった。


「最後の1着は……」


「それだ。それが試作品のはずだ」


リタはロバートが試作品だと言うそれを手に取った。

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