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報・連・相

カーテンから突き刺さる光で目を覚ます。扉がドンドンと叩かれている音がする。


「んー?」


寝ぼけ眼をシパシパと瞬かせ、目を擦る。


「リタ様、おはようございます」

朝からイルの端正でキラキラした笑顔は刺激が強い。

先に起きて用意を済ませていたイルがカーテンを開けて起こしてくれたようだ。軽装から既にいつもの執事服になっている。


「おはようー……」


まだ眠い。昼夜逆転生活から、旅をし始めて普通の活動時間帯に起きるのに体がまだ慣れていない。


ドンドンドン


「あれ?イル?ドアが叩かれてるよ?」


「あれは放っておいてよろしいのです。喧しい奴らは私が追い払ってきましょう。さあ、リタ様は身支度を整えて下さい」


まだ寝ぼけているリタは、

「ふぁ〜い」と返事をして洗面所へ向かった。

リタが顔を洗う音が聞こえ始め、イルはようやく扉を開けた。


ガチャ



「こら、イル!早く開けろよ!」


ジルクが何やら焦っている。


「リタ様がお休み中の所を邪魔しないでいただきたい。起こす役目は私がいたしますので」


ムスッとした顔をして、イルも言い返す。


「だ、男女が2人っきりでずっと同じ部屋にいるなんて不謹慎だぞ!お前だけでも起きたらさっさとこっちの部屋に来いよ」


「お断りいたします。私はリタ様をお守りする必要がございますので。執事ですから」勝った、と顔が言っている。しかもふふふん、としたり顔だ。


「ぐぬぬぬぬ!!!」執事の癖にと言いかけそうになるジルクだったが、騎士の癖にと言い返されかねないので、悔しそうに堪える。


「おいジルク、リタの部屋は開いたのか?」


隣の部屋からひょこっと顔を出したレイズが問う。


「レイズー!!こいつがー!イルがー!」自分では言い返せないのでジルクはレイズを頼った。


「イル、昨日の家に荷物を回収しに行く前に、共有しておきたいことがある。下では誰が聞いているか分からない。朝食を全員分、部屋まで運んで来てくれないか?」


「承知いたしました」


レイズにそう言われては断れない。それに、リタもジルクとレイズに報告する事がある。イルは言われた通りに朝食を取りに行く事にした。


ジルクはそんなイルに向かって、へへーん、と馬鹿にした顔をしているが、イルは無視してリタのいる部屋を後にした。


ちょうど身支度も整え終わったリタが洗面所から出てきた。


「イル、服の用意までありがとうー……あれ?レイズ、ジルク、おはようー。イルは?」


「朝食の準備!おはようリタちゃん!」


「おはよう、リタ」


「昨日は遅くまで大変だったね」


「ああ、いくつか報告事項がある」


「オレもオレも!」


「奇遇ね!私も少し分かったことがあるの!」


「朝食を取りながら会議だな」


レイズがそう言うと、ガチャッと扉が開いた。するとイルが器用に両手でトレイを持った状態で入って来た。手が使えなかった所を見るに、風魔法で上手く扉を開けたみたいだ。


部屋にはベッドしかないので、トレイをベッドの上に置き、4人で仲良く横並びでもう片方のベッドに腰掛ける。


「ありがとう、イル!」


「いえいえ、リタ様の為ならばたとえ水の中、火の中……!」


「「「祝福を」」」


もうイルのこの状態に慣れっ子の3人は朝食に手を伸ばした。今日も質素な硬いパンと申し訳程度のいぶしスクローファのスライス、ハムがプレートに数枚。スクランブルエッグがちまっと乗っかっているだけだ。


先にリタが話し始め、昨日で分かったことを出来るだけ詳細に説明した。


「ジルクとレイズはどうだった?」


「オレから先に説明するな!」


ジルクが声を上げると一同は頷いた。


「騎士団長から連絡があって、派出所を経由して荷物を王宮に運ぶことになった。ロバートさんも被害者の保護という名目で一時的に騎士団寮に入れさせて貰えることになったぜ!騎士団に入団する試験を優先に受けて貰えるよう、団長も根回ししてくれるって!以上!」


「やったー!ロバートさんとマリーちゃん、この街から離れられるね!」


「昨日は大変だったんだぞー。手続きとか書類とか書類とか書類とか……」


事務手続きが苦手なジルクは昨夜を思い出して、はあ、とため息を溢した。


「レイズのほうはどうだった?」


「今は不動産屋も厳しいらしくてな。売りに出されたところで買い手も見つからないのが目に見えていると渋っていた。埒が開かないから子爵家に会いに行ったんだ」


「ええ?!いきなり行って大丈夫だったの?!」


「そんなわけないだろ。俺は伯爵ではあるとは言え、向こうからしたら自分達になんの関係もない貴族だ。執事に追い返されかけたよ」


「うわー……大変だったんだね。それでどうしたの?」


「子爵家に由来のありそうな死者を魔力袋から何体か出して、なるほど?と言っただけだ」


「え」


「この辺だとクロリア地の隣領地、マシャーナ地のネクロマンサーが死者を弔って来ている。比較的に新参者の俺の事は知らない者もいるんだ。だから伯爵という証拠を見せただけだ」


「レ、レイズ……それは、お前の死後がどうなってもいいのか、という脅しでは?」


顔をひくつかせてリタは指摘した。


「いや、そんなつもりはなかったが?」


本当にそのつもりはなかったようで、レイズとしては伯爵というのが嘘だと思われたから、証拠を見せただけのようだった。


「それは、さぞ相手も驚いたことでしょう……」


怖かっただろうなあ……まさか死者が魔力袋から、わじゃわじゃ出てくるなんて誰も思わないもんなあ……。リタは目線を遠くに向け、見知らぬ子爵家の執事に憐れみの思いを馳せた。


「ああ、執事は慌てていたな。服が汚れるのも構わず地面に頭を擦り付けて許しを乞うて来たから、早く家の者を呼べと言ったら、すぐ応接間に通してくれたよ。話が通じる奴で助かった」


「それで子爵家の人とは会えたのか?」


ジルクが口を挟むと、うむ、とレイズは頷いた。


「政務が忙しい中、当主が対応してくれたよ。俺が懇意にしている服屋が店と家を売りに出したいから不動産屋に売れと言ってくれと言ったら快く書状を書いてくれた。子爵家の当主はいい奴だった!」


「死者はどのタイミングでしまったの?」

恐る恐る疑問を口にすると、レイズは当たり前だろ言わんばかりの言い方でリタにこう返した。


「子爵家を出た後だが?執事が招き入れてくれたからそのまま一緒に上がらせたんだ」


やっぱり、と一同が思ったのは言うまでもない。


「それで書状を持って不動産屋に行ったのですか?」


今度はイルがレイズに聞いた。


「そうだ。その頃にはだいぶ日が暮れていたんだが、不動産屋はまだ開いていたから、そのまま交渉に入った。だが、子爵家の書状を持って行ったら卑怯だとかなんとか喚いていた。落ち着かせるのが大変だった……」


食後の紅茶に手をつけて、レイズはコップを持ちながら、ふう、と疲れた表情を見せた。


「どうやって落ち着かせたのか聞いてもいいですか……?」


イルが恐る恐るレイズに尋ねると、

「俺が押さえつける訳にもいかないだろう。仮にも伯爵だからな。死者を魔力袋から」


「「「もういいです」」」


そうか、とレイズは言うと、紅茶を一口飲んだ。


「それで、今日は荷物だったか?」


コトリ、とレイズが飲み終わった紅茶のカップをトレイに乗せると、今日のスケジュールの話になった。


「そうだね!荷物を先に派出所に送って、そしたらロバートさんやマリーちゃんの荷物を整理する!家財道具とか、色々運び出す物あるだろうし。それも派出所経由で騎士団に送る?」


「そうだな、オレは派出所とロバートさんの家を行ったり来たりして調整することにしようかな」


「レイズは?」


「不動産屋にまだ用事がある。3人で行って来てくれ。一応ロバートの家までは一緒に行く」


「じゃあ、そろそろ行きますか!」


リタはトレイをヒョイっと二つとも持ち、イルに一つ手渡した。一緒にお片付けしに行こう?とリタに言われては無碍に出来ない。私がやりますと言いそうになった言葉をグッと飲み込み、微笑みで答えた。


「リタ様……!ありがとうございます」


ニコニコ2人で見つめ合っているとジルクがわざとらしく咳払いをする。


「ゲフンゲフン!はい!行くぞー」


宿屋の店主である老人にトレイを返したら出発だ。4人はロバートさんの家に向かって歩き出した。


しかし、しばらく歩いた所でリタが違和感に気がついた。通りが昨日よりも騒がしい。活気がある騒がしさではなく、不穏な空気がザワザワする感じだ。


「なんだろう?昨日より人通りも多いね?」


「嫌な予感がする。急ごう」


ジルクもリタと同じく嫌な予感がしたらしく、顔を引き締めて緊迫した様子で言った。

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