種族の力を発揮します
「立ったままだと辛いだろうから、ベッドに腰かけようか。」
アイザックは先にベッドの端に座り、リタをちょいちょいと手招きした。自分の隣をポンポンと叩く。
アイザックにパタパタと走り寄り、叩かれた場所に座る。
「じゃあ、背中に触れるよ。」
アイザックはリタの少し斜め後ろに体をずらし、一声掛けてからそっと触れたが、手が冷たかったのかもしれない。
リタがビクッと体を強張らせた。
「ひゃっ」
少しひんやりとした滑らかな手の感触に声を上げてしまい、気恥ずかしさで口を片手で覆った。
照れているリタの反応に喜んでいる自分がいることにアイザックは気がつかないフリをした。
集中、集中、これは仕事。自分に言い聞かせるように、リタの魔力の巡りを丁寧に探した。
タオルが肩甲骨にかかっている。このままだとタオルが邪魔で上手く羽化出来ないかもしれない。
「羽が生える辺りにタオルがかかっているから、悪いけど腰まで弛ませてもいいかな?」
「ひゃい!」
緊張から変な返事をしてしまったが、言われるがままにするしか選択肢はない。人差し指を肩甲骨の間、つまり背骨に沿ってスッと引き下げられ、一気にタオルが腰まで落ちてしまった。
胸元を手で押さえていなければ上半身は完全に裸になっていた事だろう。
つい意識してしまって顔が俯きガチになる。
アイザックは恥ずかしがるリタに悪戯心が働いて、背中を触れるか触れないかの距離で掌をさわさわと上下に何度か往復した。
何も知らないリタは大人しく素直に撫でられているが、撫でる必要はなかったのは内緒だ。
もはやスイッチがオンになったアイザックを止める者はここに誰一人としていない。
「私の魔力をリタさんに押し当ててみるよ。分かるかな?」
この世界で年頃の男性が女性に治療や付与魔法を施す目的以外で魔力を押し当てるのは、女性に対して恋愛感情があることを示す行為又は「そういうコトをスル」時にする行為だが、それをリタに言ってしまうともう触れさせて貰えないかもしれないので黙っておく。
異世界人でもない限り、魔力を持つ者は生まれてからすぐ使い始め、言葉を自在に喋る頃には教えられなくても無意識にある程度使えるものである。高度な使い方は学院に入学してから学ぶ。
あくまでこの魔力を押し当てる行為は異世界人に体内に巡る魔力を自覚させるための特別な方法なのである。
「あっ……あったかい。」
リタの発言も聞く人によっては誘っているようにしか聞こえないかも知れないが、アイザックはただ魔力を押し当てているだけだ。
「そのまま全部脱いでしまってもいいんだよ?」
アイザックは単に魔力を押し当てるのにもタオルが邪魔だなと思った。
「からかわないで下さい!」
意外にもリタが初心な反応を見せるので、ついアイザックは雰囲気に乗せられて軽口を叩いてしまったことを反省する。
「そうだね、今は君を羽ばたかせないといけないんだったね。ほら、ここに力を入れるように意識してごらん?」
リタの苦言はさらりと大人な対応でかわされた。焦っているのは前世でも経験人数0のリタだけである。
アイザックは両手をリタの肩に置くと、両親指を肩甲骨の窪みに沿わせ、グイッとツボを刺激するように押した。
親指が当てられている部分に血流が集まるのを感じる。徐々に圧迫感が増し、刺激されている所がムズムズと痒くなって来た。次第に痒みはチリチリと痛み出し、血が吹き出しそうな感覚にリタは堪らず声を上げた。額が少し汗ばんでいる。
「んんんんん!ああっ!」
胸を突き出す恥ずかしい格好になっているが、リタにそれを構っている余裕はない。痛みが身体中を走り、大き叫び声を上げる。
アイザックはリタを安心させようと耳元で囁く。
「大丈夫、私に身を任せて。安心して解放して良いんだよ?」
ゾクゾクとする声に腰が砕けそうになる。
「んっ!」
背中の中央に口づけを落とし、魔力の動きを理解させる。リタは背中に柔らかい物が当たったと分かった瞬間、アイザックによってリタの魔力が外に出されようとしている感覚が一気に強まった。
「そろそろかな」とアイザックが呟いた時だった。
パン!
水風船が割れる時の音が体を駆け巡り、ビクビクと体が跳ね上がった。それはとても心地よく、体がふわふわ浮き立つような快感が押し寄せてきている。上気した顔はだらしなくとろけきっているのが自分でも分かるが、初めての感覚に体が言うことを聞かない。
「ああ……はあんっ。」
放心しているリタの背中に現れたソレを触りながら、アイザックは後ろからリタの耳元で囁いた。
「ずいぶん気持ちが良さそうだね?初めての魔力解放は異世界人特有の現象だけど、ここまで気持ちよさそうな子は私も初めてだよ?最初は痛かったでしょ?でも解放しちゃうと一気に快楽が押し寄せてくるらしいね。まだ気持ちイイの?」
「いやっ……ダメ、そこ触っちゃ!」
今まで無かった体のパーツはとても敏感で、アイザックに撫でられる度、なんだか胸がキュンキュンする。妖精の羽は絶対アレだ。親しい間柄しか触っちゃイケナイ系パーツだ。
本能的な危険を察知し、アイザックからさっと距離を取る。
窓がないので部屋はランプと扉の外から漏れてくる光だけで少々暗いが、まだ昼前だと言うことだけは分かる。日中からなんてことを!
「リタさんが辛そうだったからなんとかしてあげたくて。そんなに警戒しないで。ごめんね?」
全く悪びれていないのがありありと分かるのは、アイザック瞳がゆらゆらと揺らめき、欲望を語っていたからだ。お互いの熱気で部屋がどことなくいやらしい雰囲気に満ちているのも一役買っていた。
その空気を払拭しようと、我に帰ったリタは努めて明るい声を出す。
「いえ、とんでもないです!なんか醜態を晒してしまったようですみません。せっかく羽を出してくださったのに失礼しました。えっと、ありがとうございました。」
「さすが精神年齢は私と近いだけあって、礼儀がキチンとしているね。すっごくイイ。」
リタを見つめるその様子はまるで悪戯が成功して喜ぶ少年だ。
本当の事を言うと服と羽を出す難易度はそう変わらない。どちらも結局アイザックの魔力で誘導するのだから、痛みと快楽を伴わない分、服の方がまだ優しい。先に一気に魔力を解放する羽を出した場合、衝撃で痛みと快楽が発生するが、服が先だった場合、徐々に解放される分、羽ほどの身体的影響はないだろうと言われている。
ギルド長に就任する際に引き継がれた文献で学んだ知識を教えるつもりもアイザックはなかった。
アイザックの言葉に顔を赤らめながらも、たった今生まれたばかりの背中の羽に、そっと手を触れてみた。四枚ある羽は女王蟻と同じ形状をしており、キラキラと瑞々しい光沢を放っている。
「羽は収納できるみたいですね。4枚とも背中の上に重ねて、羽で背中一面を覆うことが出来ます。飛んでいない時は羽で背後を防御出来そうです。」
「うん。妖精の羽は見た目通りじゃなく、戦闘時は刃のごとく鋭くなる上に元々強度は鋼並みにある。触れようとしても通常時は手が弾かれてしまうようになっているしね。今は生まれたてだったから触れられただけで、金輪際、リタさんが意識しない限り、私はリタさんの羽に二度と触れられないよ。」
「まさかそれを知っていて、さっき触れたんですか?」
「こんな機会は一生に一回と無いだろうと思ってね。意外と柔らかくて驚いたよ。すっごくキモチ良かった。」
含みのある言い方が少し気になるが、魔力の使い方の感覚が誘導してもらったおかげで体感できたのはありがたい。
耐性がないので顔がつい赤くなってしまうのも許せるぐらいには。
「これで大方自由に魔力が使えるようになったはずだ。高度な魔法については追々説明していこう。まずは全身に体内から魔力が漏れ出すイメージをして、体に這わせてから詠唱する。やりたいことを連想させる用語であればなんでも良いよ。さあ、着るものを出してみて。」
「昨日のワンピース!」
言われた通りのイメージを頭に浮かべ、詠唱と言えるほどカッコ良いセリフではないが、それでもリタの声に魔力が応えた。
音もなくタオルの下に現れたのは、まさしく昨日のワンピースだった。ただし大事な物を忘れて行為の後のような格好になってしまった。
「あわわわわ!下着!ブラ!パンツ!あと靴!」急いでそれを口にすると胸の突起が隠された。
その様子をみていやらしくニヤニヤするアイザックにジト目を返すと一息ついた。
アイザックはリタの目に怯む事なく、ただ楽しそうな笑顔を見せた。
「これでやっと外を案内できるね?」
なるほど、異世界での生活は前途多難である。
素敵な異世界生活の一日は、まだ始まったばかり。