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平民と魔力回復薬

集中をさらに高める。貴族のように魔力が血流みたく全身に広がっていない。表面的なところに魔力はないのは間違いない。ならば霊魂本体か、と思い臓器パーツに集中を移す。しかし霊魂が身体の何処に宿っているかまでは分からない。心臓か?脳みそか?それとも肺か?平民にも魔力をわずかでも感じることができれば、リタの仮説はそう間違っていないことになる。


浄化を死者だったイルに唱えた時、イルの魂は白紙にもどり、魂の活動を再開、そして霊魂が生成された。すぐ状態維持をしたが、事故でリタの魔力を流してしまった。


元々貴族だったこともあり、その素質はあったのだろうが、こうして魔力回路が生まれた。その時、霊魂は特に外へ露になることはなかった。


体が崩壊して霊魂は現れるが、霊魂はそもそも球状ではないのだろうか?魔力の回路自体が霊魂?状態維持の詠唱で、崩壊することなく、まるでイルの体自体に囚われるようにして霊魂が存在しているとする。だが、魔力回路はこの時点では存在していなかった。貴族の場合、魔力回路になって霊魂が体中に巡っているとして、魔力なしと呼ばれるものたちの霊魂はどのような形状になっているのだろうか?

……囚われている?体に?体自体が霊魂を捕らえる檻の役割をしているのか?


例えばこういうのはどうだろう?命が体に宿ったその時に、霊魂も生まれる。そして、魔力の通りやすい人族やその他種族は生まれながらにして魔力回路が存在している。霊魂が生まれ、体に宿る時、魔力の通りやすい体だった場合、血液が体を巡っているように、魔力の塊である霊魂は回路を身体中に広げて、溶け込むのだ。

血液が作られるように、魔力が作られる場所が同じだとしたら?


心臓が血液を作っていると思われがちだが、心臓はあくまで血液を送り出すポンプの役割でしかない。実際は、血液を作るよう促すホルモンが分泌されると、骨髄中の造血幹細胞に働いて血球の産生を刺激する。新生児は全身の骨髄で造血を行っているが、成人すると造血の場所は脊椎骨、胸骨、肋骨などに限られるようになる。


まさか前世で好奇心から調べたことのある「血液はどうやって作られるのか」の知識がここで役立ってくるとは思わなかったが……。


魔力が通りにくい体である場合、回路はそもそも作られず、骨の中にある骨髄のように、骨の中に囚われているのだろうか?まるで骨が檻の役割を果たしているかのように……


しかし、そうと分かれば骨の構造を思い出す。新生児の間は全身の骨髄に霊魂が宿っているとする。しかし成長に伴い霊魂、つまり魔力量は食べ物を摂取しながらある程度補充はできるにしても、減少していくはずだ。そうすると効率よく生命を維持するため、全身から一箇所に集まりだすはず。ロバートは成人しているので、全身を見たところで意味がない。集中すべきは背中の長い骨の部分と、肋骨を繋いでいる真ん中の太い骨、そして肋骨だ。成人の血液がそこで作られているのは、そこが効率良いからだ。ならば魔力だって同じかもしれない。


骨の構造を思い出す。難しいことは覚えていないが、確か骨は膜で覆われている。その下に皮質骨があって、それが全体の80%ぐらい。その他スポンジみたいな海綿骨が20%を占めている。そして骨髄のある空洞がある。この辺りが怪しいな……。


だがリタはもう知っている。魔法はイメージだ。ロバートに影響が及ばないように魔力操作に気をつける。あくまでリタはCTやX線でしかないのだと自分に言い聞かせる。リタの魔力がロバートに干渉し、目当てのパーツを暴いていく。


目をしっかりと閉じ、イメージを出来る限り詳細に起こすと、ピンとくる箇所があった。骨の内部構造を良く観察する。


「あった!」


正解は目当てパーツにある骨髄全てだ!しかしどれも半透明になっており、今にも消えそうなほど弱々しい光が灯っている。


一見するとただの骨髄液だが、ここに霊魂が溶け込んでいる可能性が高い。魔力を感じることもできない。だが、間違いなくこれは魔力のはずだ。リタは確信があった。


イルに針を刺した時、血肉が腐敗していて上手く血流には乗せられなかった。イルに刺した針は血流を捉えられなかった事で深めに刺してはいたが、骨にまで届いていなかったはず。でもリタが誤って流した魔力は骨を刺激したことは間違いない。


魔力だと感じることができないのは、平民が魔力を扱えない理由と何か関連がありはず。骨髄液ではない何かを感知しているのがその証拠だ。なぜなら骨髄液は骨髄液で感知している。


それに、魔力がなければブランドネームタグに刺繍されていたおまじないがずっと効果を発している理由がつかない。

ロバートとマリーの前で詳しい事を説明するわけにはいかないので一旦そこで考察はやめ、治療に集中することにした。


「後ろを向いて、背中を見せてもらえますか?」


「あ、ああ。分かった」ロバートはリタを後ろにして、シャツを上までめくり上げた。


リタは背中を丸めるよう指示を出す。


「そのままの体勢で。動かないで」


ロバートはリタの緊迫した声でゴクリと唾を飲み込む。


『魔力回復』


あまり投入し過ぎても良くない影響があるかもしれない。瓶の1/5程度を手に取り詠唱を行う。針に糸を通し、血流ではなく、骨に向けて刺すイメージを凝らす。蚊の針の形状にしたそれを表面の皮膚から魔力操作で骨に向かって突き刺した。


幸い痛みは感じなかったようで、骨の内部まで糸が通った針を挿入しても呻き声さえ上がらなかった。


「少量投入して、様子を見ながら量を増やしていくね。もう一回手を当てさせてもらいますよ」


背中の骨の内部に投入した魔力回復薬が光っている。先ほどは全く分からなかった魔力の色も集中すれば分かるまでになっていた。今は魔力を感じることができる。とは言え、健常な平民の魔力の色が分からない以上、これで正常にまで戻せた確証は持てない。マリーも健康とは言い切れないので参考にはならなさそうだ。


貴族のレイズやイルと比べても意味はなさそうだが、比較するとロバートは全くと言って良いほど魔力感知することが出来ない。骨髄説が正しかったとしてまだ魔力回復薬を1/5は追加投与したほうがよさそうだ。


それでも僅かに感知した魔力に、自分の組み立てた理論が正しかったのだと、リタはホッと肩を撫で下ろした。


「体調はどうです?」


んーっと少し考え込んだロバートは、

「まだなにも感じないが、体力回復薬を入れて貰った時より身体がポカポカする気がする」と言った。


生命活動が活発化したのだろうか?リタはふむ、と頷き新たな考察をし始める。


「まあ、違う意味でポカポカするのかもしれんがな、ガッハッハ!」とロバートが笑ったところでジロリとイルが睨みをきかせた。


「今の発言は聞き捨てなりません!大体あなたはリタ様の許しがあるとは言え!」イルがロバートに説教し始めた。


リタは呆れ顔を浮かべながらも、イルをそのままに、心臓の動きに着目する。


『針よ、聴診器の役割を果たせ』


体の魔力の流れは感じることが出来ても、音となると別だった。こういうことは魔道具を介すると上手くいくことが多い。針の形状を通常サイズに戻し、針先に留め金を取り付ける。針を人差し指と中指の間に挟み、その状態でロバートの背中に手を置く。


魔力回復薬を投入する前より心臓の鼓動が力強く脈打っている。最初からこれもやっておけば前後で音の確認も出来たのに、と自分の行き当たりばったりさに呆れる。鼓動の力強い音にリタは嬉しい気持ちになった。


「追加投与します。今日はこれで最後ね。さあ、背中を丸めて下さい」


先程と同じ要領でリタは魔力回復薬を投与した。


その後ロバートに前を向かせ、顔色を観察するが、悪くなるどころか、土色をしていた顔がやや赤みを帯びてきたように見える。シャツをたくし上げ、前からも鼓動の音を確認する。問題なさそうだ。


ブランドネームタグで思いついた仮説も正しいはずだとリタは確信を持った。


「なんだか力が漲るようだ!頭痛がなくなったぞ!」


ロバートは明るい声で、笑顔を浮かべた。


「それは良かった!ロバートさんに元気が戻ってきた所で、荷物をお店に整理しに行きましょう!」


「今なら一気に溜め込んでいた仕事を片付けられる!女神様!」


「違うってば!リタだって!」


「……リタ様!!!必ずや私は騎士団に入団してみせましょう!この御恩はいつか必ずお返しします!」


「もう、良いってば!ほら、行きますよ!」


口ではそう言いつつも、リタはその申し出がとても嬉しかった。元気が出て本当によかった。安心した事で緊張が緩み、目が潤みかけたが、グッと堪える。


「さあ、今日中に纏めるよ!イルは箱を調達して来てくれる?流石に何かにまとめておいたほうが輸送もしやすいよね?」


「かしこまりました。ロバート様、私が箱を取ってくる間、くれぐれもリタ様の事をお願い致しますよ?」


イルはジト目でロバートを見つめるが、気にせずロバートはドンと胸を叩いた。


「今なら近所の文句を言ってくる奴らを全員蹴散らせるぐらいは出来るからな!任せとけい!ハッハッハ!」


本当に大丈夫か?と疑わしげなイルをリタは、早く早く、と急かしてロバートの家を出て行ってもらった。


「なんで俺に魔力回復薬を使ったんだ?しかもそれが効いている気がする。何が……いや、これ以上は聞くまい」


察しのいいロバートはそこまで言ってすぐ口をつぐんだ。


「そうですね、ロバートさんは知らない方が良いでしょう。そしてこの事は他言無用です。これを知られれば、ロバートさんやマリーちゃんに危害が及ばないとも言えません……」


「承知した。絶対にここであった事は言わない。きっとマリーの看病が良かったのだろうな?ハッハッハ!ありがとう、マリー!」


状況を良く理解していないマリーも、お父さんが元気になってよかった、とあっけらかんとしている。マリーが万が一漏らした所で子どもの戯言だとして扱われるのが関の山だ。マリーは大丈夫だろう。


こうして店に向かった3人は荒れ果てた店内にホウキをかけたり、衣類を上衣と下衣に分けたり、畳んだりしながらイルが戻って来るのを待った。

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