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昼食

ロバートとマリーは傍目で見て分かるほどに食事に対して喜びの表情を見せた。


「ああ、なんて素晴らしい食事なんだ」

ロバートに至っては目を潤ませている。体格からも、今までろくに食事を取っていなかったことが伺えるだけに、その様子が痛ましい。


「マリー、お祈りを一緒に捧げよう」


早く食べたくて仕方がないマリーはコクコクと素早く頭を上下させると祈りの言葉を口にした。


「「偉大なるカイルスと素晴らしきサートゥルの祝福に感謝を捧げる我らに血をお恵み下さい」」


ややかしこまった物言いに戸惑いつつも、リタとイルは簡単に祈りの言葉を捧げる。


「祝福を」


ロバートとマリーに出したジレオンのリゾットは細かく刻んだ野菜がたくさん入っており、色鮮やかで綺麗な仕上がりとなっていた。


出汁を取った野菜とトマトが合わさった食欲を唆る香りが、唾液を誘う。リゾットにしてはスープを多めによそった事で、お米と合わさってもさらりと口に流し込める。滑らかな口当たりに仕上げたリゾットは口に含んだ瞬間、ふわりと華やかな香りを醸し出す。


「美味しいよ、お姉ちゃん!これ凄いねえ!お米なのに美味しいねえ、お父さん!」


「ああ……こんなに旨いとは思わなかった……口の中で広がる旨味が強烈に味覚を刺激する。こんな旨い米料理は初めてだ……うう……」


今までずっと辛さを1人で抱えていたロバートは、久しぶりの温かい食事に感情が触発された。


「……お父さん?」


「……旨いなあ、マリー」


「うん!美味しいね!いっぱい食べて、早く元気になってね!」


「……リタさん、ありがとう。見ず知らずの私達にこんなに良くしてくれて……ありがとう……ありがとう……」


「困った時はお互い様、なんて言いませんか?だから良いのですよ。お礼だってもちろん、頂きません。ご飯を食べ終わったら、ロバートさんのお体の具合も診ましょうね」


「病気まで見てくれるのか……!なんて事だ。俺は今までなんて無礼な口を……!」


ロバートはスプーンをテーブルに置くと、スツールから腰を上げ、丁寧に横に移動させる。そして膝から崩れ落ちるようにして床に勢いよく跪くと、両手をおでこの前で組み、リタに向かって祈りを捧げる。


「ああ、偉大なる創造神のカイルスよ、この出会いに心より感謝します。大地を司る素晴らしきサートゥルよ、この方の歩む道が険しくとも安全であるようお守り下さい。そして愚かな人族が働いた無礼にどうかご慈悲をもってお裁き下さい」


「そんな、ロバートさん!どうか椅子に座って下さい!」


リタは慌ててロバートの両肩に手を置き、腰を上げさせ、スツールに座らせた。


「ロバートさん、ご飯が冷めちゃいますから、気にせず食べて下さい。ね?」


「お姉ちゃんは女神様だったの?」


「違う、違う!ただの妖精族だってば!」


「まるで伝承にある女神様のようだ……」


「え?伝承にある女神様って?」


「リタ様、それより召し上がりましょう。冷めてしまいますよ」


イルが明らかに話題を逸らした所を見ると、もしかしたら伝承にある女神様というのは、この世界の一般常識なのだろうか?そうであれば知らないのは少し都合が悪い。ここはあえてスルーして、また後で調べよう。


「そうだね!さあ、お昼を食べたらやることがいっぱいよ!皆ちゃっちゃと食べましょう!」


「はーい!」


マリーは口いっぱいにリゾットを頬張って飲み込むと、またハフハフ言いながら一生懸命に次のひとさじを口に運ぶ。


その様子がとても可愛らしかったのでリタはふふふっと笑みが溢れた。

実はその隣で、そんなリタを愛おしい者を見る目でイルが見つめている事をリタは知らない。


昼食を食べ終わり、後片付けになったところで、ロバートには、

「女神様は座っててくれ」と言われ、マリーには、

「お父さんと洗うから大丈夫なの!」と洗い物をするのを断られ、イルには、

「私の中はもうリタ様で満たされています」と意味の分からないことを言われて席を立たせて貰えなかった。


マリーが洗い物をロバートに渡し、ロバートがそれを洗ったら次はイルが片っ端から布で拭く。ロバートに次の皿を渡した後にイルが拭いた皿を受け取りマリーがしまう。連携が取れたスムーズな動きで手早く洗い物が終わった。


3人がまたリタのいる方に戻って来た。さあ、問題に取り掛かろう!


「では、まずはロバートさん、ズボンを脱いで下さい!」


「え?!」

リタの発言でロバートは固まった。


「……!!!リタ様!!それはぜひこのイルターティーにお命じ下さい!!」

何やらイルが勘違いして声を張り上げて自分の存在を主張している。


こいつは何を言っているんだ、と冷ややかな目線を送るとポッと頬を赤くし、


「よ、夜にお願いします」とイルはどもった。そんなイルは置いといて、リタは呆れ顔で笑った。


「ズボンにも紋章がないか、確認するだけよ」


「ロバート様、早くお脱ぎ下さい」

なんだ、そんなことか、と言いたげなイルの様子がありありと伝わってくる。


「お、おう、じゃあ寝室で脱いでパジャマのズボンに着替えるから……」

なぜか動揺しているロバートはそそくさとその場から去り、ズボンを手に持ってパジャマで戻って来た。


恭しく脱いだズボンをリタに渡そうとすると、イルが横から先に手に取った。ズボンの腰元にあるブランドネームタグを力任せにブチッと引きちぎる。その後でリタに渡した。


「リタ様、この布切れからやはり微量な魔力を感じます。他にもないかお調べいただけますか?」


「うん、ちょっと見てみるね」

そう言ってリタはズボンを隈なく検品する。縫い目や裾上げされた部分などを観察し、最後の仕上げにズボン全体に集中して見落としがないか確認した。


「大丈夫みたい!やっぱり元凶はそれね」

イルが手に持っているタグを指差す。このまま持っていると不吉な予感がしたので、イルはそのタグを人差し指と親指で摘む。


『燃焼』


イルが詠唱すると小さくボッと布は燃え上がり、炭から灰に変わって消えた。


「ズボンを返しますね。これでもう大丈夫だと思う。次はロバートさんの身体を診ましょうね!ここに座って下さい」


スツールを自分の前に置き、ロバートに座るよう促した。


針を手袋から取り出し、針先の留め金を外す。イルに預かって貰っていた回復薬類をテーブルに置いてもらう。


まずは体力回復薬からだ。騎士団でやった時と同じ事をやれば良い。


『治癒促進』


テーブルに置かれた体力回復薬が入った瓶からすべて出した液体のそれを、治癒促進の詠唱で囲み、水滴の形状を手のひらに保った。


「『蚊の針形状』『糸紡ぎ』」


手のひらにポヨンと出した体力回復薬を糸に素早く形状を変化させ、スッと針に通す。あとは腕の関節の内側から血流に針を流し込み、手元に戻って来たら完了だ。


「おや、身体が軽くなった気がする。何もされた気がしないんだが……」


「良かった、効果があったみたいで!何か病気に罹っていたら抗生物質とかいるな、とか思ってたの!」


「抗生物質ってなんだい?」


ロバートが理解が及ばないという顔で眉を顰めている。この世界に抗生物質ってないの?と言いたげな目でイルの顔を見ると、イルはニコニコと笑顔になった。


「リタ様はネクロマンサーの補佐を生業としていらっしゃいます。病理学にも精通していらっしゃる上に、騎士団専属の守護官でもある、高尚なお方なのです」


「素晴らしい!そんなお方だったとは……!今までの無礼をどうかお許し下さい。なんとお礼を申し上げたら良いのか、まさかそんな凄いお方に治療までしていただけるなんて、この命が続いたら必ずや頂いたご恩に報い……」


「イル!なんで言っちゃったのよ!ロバートさん恐縮しちゃったじゃない!」


むう、と膨れっ面でイルを睨む。しかし上手く誤魔化してくれたことには感謝しておく。


「事実ですから。そう、この素晴らしき英知の結晶たるリタ様こそ、私が誇りを持ってお仕えするご主人様なのです!」


イルは子どもが自慢する時のように生き生きとリタの事を語り出す。早くこいつをなんとかしないと……!リタは無理矢理流れをぶった切った。


「はい、次!魔力回復薬いくよ!」


「魔力回復薬をお使いになるのですか?ですがロバート様は平民ですので、それは……」


「後で説明するよ。でも間違いじゃないと思うの。イル、ロバートさん、私を信じて」


「もちろんです。女神様の仰せの通りに」


「リタ様にお仕えする執事である私如きがなんて口出しを……!申し訳ありません、リタ様の仰せの通りに」


「ちょっと、イル!もうやめてよそれ。ロバートさんもさっき見たいな感じで良いから!」


「女神様がそうお望みならば……ですが私に敬語はどうかおやめ下さい……執事殿のようにお接し下されば……」


「もう、分かった、分かったから!はい、ちょっと身体を診まーす」

医療従事者はこうして逞しくなっていくのか?とリタは思った。


まずはロバートの胸に掌を押し当て、魔力の流れを見る。案の定、魔力は体に流れていない。レイズやイルのような一般的な人族の貴族の魔力の流れを知っていたら余計にその知識が邪魔をして平民には魔力がないだろうと思うはずだ。


しかしリタは霊魂こそが魔力の源だと信じている。その知識があるリタの目から見れば、きっと真実が見えるはず。

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