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皆のお腹事情

「あ、じゃあ、ご飯食べに皆で外に行きましょうよ!」


パンッと両手を胸の前で合わせて、リタは提案した。


しかし、ロバートはスツールから立ち上がりかけた腰をまた落とし、事情を説明する。


「普通の飯屋はことごとく閉店しちまってな。この街に残された飯屋は、ぼったくりな上にスクローファが食う餌みたいなもんで、食えたもんじゃない。食材を買いに行くしかない」


「じゃあ、分かった!私とイルとマリーちゃんでお買い物に行ってくるから、ロバートさんの家のキッチンを借りても良い?家でゆっくりして待っててよ!」


「俺の分はいらない。マリーの分だけで良い。金を渡すから待っててくれ、家に取りに行ってくる」


こんな時にまでお金の心配をして、自分の分はいらないというロバートの体調がリタは心配になる。ここは多少強引に押し切って、何か消化に良い物を食べさせよう。


「もう、良いの良いの!とにかくロバートさんはお家でゆっくりしてて!分かった?」


「お父さん、わかった?!」


マリーがリタの口調を真似てそう言うとロバートは疲れた顔をクシャッと歪め、ありがとう、とお礼を言った。本当はここに座っているのも辛いのだろう。ふうと息を吐くと家に戻ると言ってロバートが席を立った。後で何か処置を施したほうが良いかもしれない。


そんなことを考えながら、リタはイルとマリーを連れて店を後にした。


「マリーちゃん、市場に連れて行ってくれる?」


「いいよお、お姉ちゃん、マリーに着いてきて!」


「お、お姉ちゃん……!いい響きだわあ……よし!お姉ちゃん、お料理頑張っちゃう!」


「リタ様、私の分も作っていただけませんでしょうか」


「作るよ?当たり前じゃない!楽しみにしてて!」


「リタ様の手料理が食べられるなんて、これ以上嬉しいことはございません……!ああ、今日はリタ様が一段とお美しく、輝きを放って……緑の艶やかな髪はまるで女神が降臨されたかのような……そしてその唇はまるで……」

不死者であるイルは食べ物を食べなくても活動できる。人族は食べ物から魔力を補充していると仮定した場合、イルはじゃあ、何で補充しているのだろうか?不死者になったことで人族とは異なる存在となったのかもしれない。


ちなみにリタは、霊魂が全て魔法を行使できる理由として、その存在自体が電池のようなものだからではないかと考えている。魔法石も効力を発生させたい装置に触れているだけで魔法石から魔力が供給される。従って、霊魂は大気に触れているだけで魔力の補充が可能なのではないかとの解釈を下した。


イルは人族だが、生者とは異なる。しかし霊魂は体内で活動しているようだし、心臓も動いており、血流も流れている。


普通の生きている人族とパッと見、違いはない。


ただ、違いというなれば、食べ物や飲み物がなくても生きていられるようだということや、眠らないこと、普通の人族では持ち得ないほどの魔力を備えていることぐらいだ。


それらの特徴から、イルは生者よりも、存在としては霊魂に近いのではないかとリタは思っている。恐らく大気に触れている全身から魔力を補充しているのではないか、と。


だから食べ物や飲み物を取る必要はないのではないだろうか。とはいえ、何か口にしたくなることはあるようだ。たまにイルは趣味や付き合いのような形で食事を摂取する。


「これ長くなると思うから、早く行こうマリーちゃん」


「えっ?う、うん、でもお兄ちゃんほっといていいの?」


「大丈夫、勝手についてくるから」


見てはいけないものを見たと言うような目をイルに向けると、イルは手で胸を押さえ、まだ感動していた。


そのようなやり取りを挟みつつ、リタは市場に着き、自分のお腹に手を当てて、献立を頭に浮かべた。リタも空腹感はあるが、特に食べられない物はないので、お腹が要求するままに好きに食材を選ぶ事にする。


体調を考慮すると、イルとリタ、ロバートとマリーで別のメニューを考えた方が良さそうだ。

イルとリタの献立は気にする必要はないだろうが、後の2人には何か消化の良くて、且つ、栄養のある物を食べさせなければならない。


リタは手当たり次第、4人分の食材を買い込んだ。農産物もあまり好調ではないようで種類は少なかったが、一種類に対する量は十分にあったので気にせず買うことが出来た。


念のため、多めに3日分の食糧を調達することにした。肉もアメリゴ都市と比べても高価ではあったが、気にせず購入した。アメリゴ都市であれば4人の食材を3日分購入したところで、銀貨10枚弱ぐらいだろうが、ここでは30枚支払った。


更に、異常に高価な体力回復薬と魔力回復薬を、薬屋と言うには程遠い、雑貨屋で購入した。するとイルが不思議そうにリタに聞いてきた。


「リタ様、まだ回復薬類のストックは私の魔力袋にもございますよ。わざわざここで購入しなくてもよろしいのでは?」


「私もそう思ったんだけど、他の街で仕入れるのが難しい時があったら困るから買っちゃった。それに、お金は私達皆そこそこ持ってるけど、回復薬はそれと比べたら心許ないじゃない?だからいいんだー。あと出来るだけここの街にお金を落として経済を回さないと」


「左様ですか。そこまで考えていらしたのですね!出過ぎたことを申し上げました。お許し下さい」


「いいの、イル。心配してくれてありがとう!」


「お礼を言われるほどでは……その、わ、わたしは!リタ様の事をいつだって考えておりますので……」と何故かイルは照れてもじもじしだした。その様子がとても可愛らしかったのでふふふっと笑い声を上げながら、今だ、と荷物をイルに押し付けた。


「荷物、イルの魔力袋に入れて置いてくれる?」


悪戯っ子のような目つきでイルを見つめると、イルは喜んで、とニッコリ微笑んだ。


こうして必要な物が揃ったので、またロバートの待つ家に戻った。


マリーが家の中に飛び込むと大きな声で帰りを知らせた。


「お父さん!ただいまー!」


「おかえりー」


廊下を進み、居間を通り過ぎてマリーはロバートの声がした寝室へ走って行った。その背中に向かってリタはロバートの看病をマリーに頼む。


「マリーちゃん、私ご飯作ってるから、ロバートさんの様子を見ててあげて!ご飯が出来たら呼ぶね」


寝室の方で「はーい」と小さな声が聞こえた。


「さて、イル!手伝ってくれる?野菜を剥いて欲しいの」


「承知いたしました」


一緒にキッチンに立てることが嬉しいのか、いつになく蕩けた笑顔を見せるイル。上機嫌に鼻歌交じりに渡した野菜の皮を素早く剥き出した。


リタは手に入れた日本米とは異なる種類の米を手に入れられたので、それをロバートとマリーに使う。リタが作ろうとしているのはリゾットだ。米もイタリアで使用されている種類によく似ている。日本米とは異なり粒の大きさが倍以上あり若干細長い。


ジレオンはオレンジの見た目をしているが、味はトマトだと覚えていたので、硬い皮をイルには剥いてもらっている。リッコブローもリゾットに添える用として茹でてもらった。


コンソメのキューブなんて便利な物はないので、いぶしスクローファと野菜のカボロッシュ、キノコのルームシュなどで大量に出汁を取る。塩や胡椒で味を整えれば出汁の出来上がりだ。


次に米を適量取り、見知った分量以上の作った出汁と一緒に鍋に入れた。米がふやけて柔らかくなったらイルが切ってくれたジレオンを投入。出汁を取ったいぶしスクローファや野菜もリゾットに加える。塩でさらに味を整えたら皿に盛り付ける。最後にリッコブローを散らせば完成だ。


出汁は一部リゾットに使い、一部自分達用にも使う。素早く簡単、ミートスパゲティのソースに出汁を使うのだ。具材はリゾットに使ったものとほぼ同じなのでとても楽なメニューだ。スパゲティをイルに茹でてもらい、リタは素早くミートソースを作った。


あとはテーブルに並べて……と思ったが椅子が2脚しかないことを思い出し、イルにロバートから鍵を借りてスツールをお店から取ってきてもらう事にした。


イルがスツールを2脚持って帰って来た時には小さなテーブルに四つの皿がキチキチに並べられ、食事の準備ができていた。


「マリーちゃん、ロバートさん、ご飯が出来たよー!食べにおいでー!」


「やったーご飯だー!ご飯だー!」


すぐにマリーの喜びの声が聞こえ、寝室のドアが開く音がした。マリーと一緒にロバートも居間の方へやってくる足音がする。


居間にやってきたロバートを確認すると、イルは借りた鍵をロバートに返した。ロバートはイルから鍵を受け取ると、設置されたスツールに目を向けた。


するとロバートとマリーは気を利かせたのか、スツールを選んで座った。病人は椅子へと言ってもスツールを譲ってくれなかったので、仕方なくイルとリタは椅子に腰をかけた。

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