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デソレート街

「馬車に乗ってるのは、一日6 、7時間が限界ね!」


途中何回か休憩を挟み、一行は隣の公爵領土に入り、街に着いていた。こまめに休憩を挟んだことで、時間は夕食時になっていた。休憩場所に着いてから何度かレイズ、ジルク、イル、リタで交代しながら馬車を走らせ、ようやく着いたのだ。


流石に日が落ちてきた中で馬車を進めるのは危険だ。街を抜けると街灯など一切ない道を進んで行く事になるので、暗闇の中を走ることになる。今日はこの街の宿屋に泊まるのが無難だ。


「ねえ、ジルク、ここはなんていう街なの?」


「ここはデソレート街だよ。この街は子爵が治めているんだ」


どことなく寂れた街はしんとしていて、活気もなく、アメリゴ都市とは全く違う雰囲気を持っていた。


「この宿屋に三泊しようかと思ってる。オレとリタちゃんで聞き込みに行ってる間、2人はどうする?」


「この街でする用事もないしな、俺も同行させてくれ」


「私もリタ様をお守りするので同行いたします」


「そっか、じゃあ調査は全員で行くか」


ジルクがそういうと、イルが引いていた馬車が停止し、どうやら宿屋にある馬車置き場に到着したようだった。


布を捲り、馬車の中にいる3人にイルが声をかけた。


「馬車を停車させられる宿屋を見つけたので、今日はここにしようかと思いますが、いかがですか?」


「おう、どこでもオレは良いよ。それより飯食おうぜー!腹減ったー!」


「残念ながらこの街に食事処はあまりないようです。ここに来るまでに辺りを見回していたのですが、かなり寂れているようで……。宿屋での食事になるかと」


「私はそれでも大丈夫。レイズもそれで良いよね?」


「ああ、腹に入ればなんでも一緒だからな」


「デリカシーないなあ!それじゃあ外に出よっか」


外に出ようと馬車の扉に手をかけたリタの肩に、レイズが手を置き、待ったをかけた。


「待て、フードを被れ」


「ん?なんで?」


「治安が良くないように見える。お前の羽が見えると厄介だ。隠しておけ」


「そっか、わかった」


女性が馬車を引いているのが分かると盗賊に襲われることもある世界だ。用心するに越したことはない。素直にレイズのいうことを聞いて、フードを目深にかぶった。


リタは馬車の前で全員が降りるのを待っていると、何かがぶつかってきた。


ドンッ!


「キャッ」


驚いて小さな悲鳴を上げ、後ろを振り向くと、尻餅をついた粗末な布を体に巻き付けた子どもがいた。


「ごごご、ごめんなしゃい!」


薄汚い格好のせいで喋るまで分からなかったが、どうやら女の子のようだ。歳は4、5歳ぐらいに見える。


「ううん、大丈夫だよ。あなたこそ大丈夫?」


少女の手を取り、引っ張り上げると、女の子は勢いよく頭を下げてすぐさま走り去ってしまった。


「リタ、大丈夫か?」


レイズが馬車から降りてきたようで、その様子を見てリタに駆け寄ってきた。


「私は大丈夫だよ」


ホッとした顔を見せ、気がついたかのようにハッとリタのポシェットを見つめた。


「何も盗られなかったか?」


「えっ、うん。ポシェットも無事だよ?中身もあるし。ただぶつかっただけみたい」


「なら良いんだ。油断するなよ。ここはどうやらあまり裕福な層のいる街ではないようだからな」


少女が走り去った方面をじっと見つめ、レイズは小声でリタに注意を促した。

確かにレイズの言う通り、メインストリートであるはずなのに、道端に力なく座り込んでいる人もいる。


コクリと無言で頷きを返し、宿屋の中に向かった。



「二部屋お願いします。3泊で」


宿屋に入ってすぐある受付にいるくたびれた老人に向かってジルクは部屋の用意を頼んだ。言った後でそれで良いよな、と一同の顔を見て確認すると、全員が頷いた。


すると老人は虚な目でジルクに値段だけ告げた。

「一泊銀貨20枚」


「たっか!せいぜいここなら二部屋一泊で銀貨6枚が妥当じゃないの?!」


ジルクは抗議したが、老人は頭を横に振って再度値段を告げる。


「どこも不景気なんだ。納得いかないなら他をあたってくれ。どうせ他も同じかそれ以上だろうがな」


ぐぬぬと声を上げジルクは受付に置いた拳を震わせている。


「分かりました。それで構いません」


「リタちゃん!」


「仕方ないわよ。夕食と朝食はいただけるの?」


「あるよ。大したもんは出せないがね」


「ほら、朝食と夕食付きならいいじゃない!それでお願いします」


ため息を一つついて、ジルクは渋々自分の魔力袋から一泊分の銀貨を老人に手渡した。


老人は黙ってそれを受け取ると、クイッと顎だけでついてくるように伝える。


案内された二つの部屋は隣続きになっていた。汚くはなかったが、寂しげな空気が漂っている。それぞれ2つずつベッドが並んでいる。部屋に案内したらさっさと下の階に老人は戻って行った。


「さて、部屋割りはどうする?」


「じゃあ、オレとリタちゃんがこっちで隣がイルとレイズな!はい、決定!」


「いえいえ、私がリタ様と同室の方がよろしいでしょう。執事ですから」


ニコニコ笑みを浮かべながらイルが異議を唱える。


「執事と主人が同室ってどうなんだ?間をとって俺がリタと同室で良いだろう」


「いやいや、ここは」


男同士で同室ってそんなに嫌なんだろうか?最初から4部屋借りれば良いのに、と一瞬頭を過ったが、値段を考えると今から4部屋借りるとも言えない。


3人が何やら揉め出したので、リタは良い事を思いついた、と言うようにポンっと左の掌の上に拳にした右手を乗せる。


「じゃあ、こうしよう。火球と水球のどちらかを掌の上に作り出して、色で部屋割りをしよう!せーのでやるよ!」


「面白いことを思いつくな。異論はない」


レイズが興味を持ったようで、生き生きとしだした。


「承知いたしました」


イルは相変わらずニコニコしている。


「おっしゃー!やるぞー」


ジルクもやる気満々だ。


「せーの!」


部屋割りはリタとレイズ、イルとジルクに決定した。

ジルクは不満げにしているが、決まった事だとレイズに一喝され、しょんぼりと項垂れた。


「夕食を取ったら今日はもう休もう。明日行くところがあるんだろう?」


それを合図に全員で下の階に向かった。


夕食はパンとスープとサラダだけの簡易な食事だったが、あるだけ有難いなと思い、黙って口に運んだ。恐らく他のみんなも同じように思っているのだろう。


旅の1日目はこうして幕を開けたのだった。

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