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魔力譲渡の原理3 信頼

「じゃあ、まずはイルとやってみるね。」


「待て、先ほど、その、イルは貴族でありながら魔法が使えなかったと言ったな?」


「ええ、使えませんでした。」


「使えないのに譲渡で受け取る事は出来るのか?」


「受け取れるだけじゃなく、魔法を行使することもできました。」


「さっきリタが虫魔獣に襲われた時、イルが行使した魔法で助けられたと言っていたが、本当だったのか。

だがその時はまだ意思はなかったんじゃないのか?」


「いえ、まさにその時に覚醒したのです。魔法を行使したあたりで意識がハッキリとしました。」


「なぜ、どうやって?」


「多分ね、血流に針を刺した時だと思う。血液が固まっていて針を体に流し込むことはできなかったの。でも一応血管に針が突き刺さった状態だった。その状態で針に魔力が吸われたから、電気ショックみたいに私の魔力がイルの体を駆け巡って、物理的に回路を作ってしまったんじゃないかな。想像だけど。それで、同時に浄化もしてしまったみたい。魔法を行使した途端、体が崩壊しそうな兆候があったから慌ててすぐに状態維持をかけたらこうなっちゃった。」


「なるほど、しかしまた聞いたことのない単語が出てきたな。電気ショック?」


「つまり雷に体を打たれたのと同じ現象が起こったということ。」


「そういうことか。生きている奴に同じことをやったら、下手したら死ぬんじゃないか?」


「私は幸いもう死んでいましたので。」


「それはわかってる!」


レイズが呆れた顔をしながらイルに答えた。これで魔力を譲渡されても俺は生きていられるのか?いや、でも針を介せばいけるのか?


ブツブツと独り言を言いながら整理しているレイズにリタは、まずは現時点のイルの状態を把握してもらうことにした。


「レイズ、今のイルの魔力量を確認してみて。魔力譲渡前と後の変化を見て欲しいの。」


「分かった、ちょっとこっちへ来てくれるか?」


「仰せのままに。」


レイズはイルの肩に触れ、目を閉じると暫くイルの魔力の流れを観察していた。


「すごいな、前から魔力量は多かったのか?」


レイズ程ではないが、人族の公爵家ぐらいの魔力が体を巡っている。ちなみにレイズも子爵家に生まれながら、普通の伯爵家以上、公爵家クラスの魔力を持っている。


「いえ、以前は体に全く魔力は流れておりませんでした。」


「それにしては多すぎないか?」


「リタ様が最初虫魔獣を倒そうとなさった時に込めた魔力はかなり大きなものでしたから。私に最初に流した魔力で回路がかなり作られたのではないでしょうか?痛みや意識がないながらも、体にはもの凄い衝撃が走りましたので……」


「どれだけの魔力を込めて虫魔獣を倒そうとしたんだよ……」


「だって、虫魔獣苦手なんだもん……でも結果オーライじゃない?!」


「全く魔力をもたない死者相手に、なんでイルが貴族だとわかったんだ?」


「それはねえ、指輪よ!高位貴族は身内が亡くなると、良い生まれに来世もなるよう、願掛けとして死者に必ず何か身につけさせるでしょう?指輪とか腕輪とか、ネックレスとか。結果的にはイルは私が確認した死者の中でも一番立派な指輪をしていたのもあるんだけど、指輪に吸い寄せられるようにして、イルを見つけたの!」


「今も持っているのか?」


「いえ、私にとってはなんの思い入れもない品ですから。持っていても違和感があるだけでして。リタ様にお付けして差し上げました。」


「ゆ、指輪を渡したのか?!」


「母なるリタ様ですから。」


青白い顔でニッコリ笑う透き通った緑の瞳がどことなくリタの魔力を彷彿させる。髪までもリタの影響を受けたのか、人族には珍しい、リタと似たウエーブがかった薄い緑の髪がふわりと揺れた。身長はリタより10cm高いが、並んでいると兄妹に見える。


「……リタ、指輪はどこにつけたんだ」


「左手の人差し指だよ?ほら!」


見せられた人差し指には少しの光が当たるだけで虹色に輝いている。ダイヤモンドが一連になった指輪で、中央に一際大きなダイヤモンドが埋め込まれている。


「最初は、そんな大事なもの貰えないって断ったんだけど……」


「私だと思って受け止めて欲しい、と無理矢理お付けして差し上げました。」


「サイズが心配だったんだけど、これ、魔道具だったの!針と珍しく相性が合うようで、ちゃんと装備できたの!すぐ私の指のサイズに収まっちゃったから、外すに外せなくなっちゃって……。どんな守護がかかっているのかは良く分からないんだけど、針が弾かないから大丈夫かなって思ってとりあえず装備してるよ!」


唯一装備できた防具の装飾にとても喜んでいるリタに、外せとも言えない。


リタに不利益はないが、知らずして相手からの想いを受け取らせてもいいものだろうかとレイズは悩んだのだ。


どの指に嵌めるかは関係ないが、他者から指輪を貰った場合、相手は自分の事を一生守ると誓いをたてたことを意味する。騎士が王に指輪を贈ることもあるぐらい、指輪の意味は重い。


イルがリタに誓いを立てる程までに、リタに信頼を寄せていることに苛立ちを覚えた。


俺の方がリタを知って長いのに。いや、これは子が母に向ける信頼と同じで決して深い意味はないはずだ!イルも母なるリタにと言っている!なんだこの気持ちは嫉妬なのか?!やっぱり針は持ち歩かせないほうがいいかもしれない!いや、触れていなければ大丈夫、大丈夫だ。じゃあなんだこの気持ちは!


レイズは指輪に動揺している!


「レイズ様、早速よろしいでしょうか?」


「な、何をだ!俺は認めないぞ!」


「え?認めないって、魔力譲渡を?でも一回見ておいたほうが良くない?」


「あ!いや!こっちの話だ!」


レイズはまだ動揺している!


「大丈夫、レイズ?今日はやっぱりやめとく?」


「大丈夫だ!!み、見せてくれ!」


「うーん、じゃあ、やるよ?」


「お、おう。」


イルは横で黙ってニコニコ微笑んでいる。


レイズが落ち着いたのを確認して、リタはすうっと息を吸い込んだ。


リタが右手に装備した針をすっと手袋から抜くと、針が魔法陣を描く杖の大きさ、20cmぐらいに伸長し、リタは針に向かって詠唱した。

右手の掌には光属性の治癒促進魔法が球状になって白く発光している。


『針よ、私の魔力を吸い上げ、糸で縁を結べ!』


光の球は毛糸の球のように糸状になっていた。毛糸の球から糸が出て来る時ように、スーッと光の球から一本の糸が飛び出て来た。


糸に対して、イルに向かって行けと命じるように針をイルに向ける。


『その糸は私に縁を授けるものとする。』イルがリタの詠唱に続く。


白く発光する一本の糸が2人にぐるぐると巻きついた。


『魔力譲渡!』リタが叫ぶ。

『魔力ドレイン!』イルも同時に詠唱した。


2人に糸が密着すると、パッと消え去った。


「これで、できたのか?」


「イルの魔力量を見て?」


レイズがイルに近づき、肩に手を置く。

レイズは目を開けたり閉めたりを何度か繰り返したかと思うと、今度は手を置いたり外したりした。とうとう間違いじゃないとわかり、レイズは驚きの声をあげた。


「なんだこれは?!もはや人族ではないだろう!」


「ええ、不死者ですから。」


「いや、リタが与えた魔力も多いからだろうと思うが、これほどまでとは……!だが、魔力譲渡は確かにできているようだな!凄いぞ、リタ!やったな!」


「えへへ、頑張りました!」


「だが、魔力欠乏症を起こしている時に与えられる分にはいいだろうが、今みたいにまだ十分な魔力が体にある場合はどうなるんだ?霊魂が吸収するのか?」


「いえ、吸収はしないようです。ですから、与えられたら出来るだけ早く放出しないと苦しいのです。リタ様で満たされている感覚を放出するのは、それはもう名残惜しいのですが」


「何を馬鹿な事を言っている。早く出してしまえそんなもの!」


「そんなものって、言い方がひどくない?!」


「イルが変態みたいなことを言うからだな!」


「変態前ですがね?」


「ほら、やっぱりこいつ変態じゃないか!こんな奴に守られていてどうする!もう外せ、その指輪!気に食わん!」


「えー嫌だよ。唯一の自作じゃない魔道防具だもん!」


「レイズ様、失礼ですが、嫉妬ですか?」


「ち、違う!こんな頼りなさそうな奴の誓いを受けて嬉しそうに指輪をしているのが気に食わんだけだ!」


「はあ……見苦しいですよ、男の嫉妬は?」


「だから違うと言っているだろう!もういい!」


「誓いってなあに?」


「おや、ご存知ありませんでしたか?誓いとはですね、「それより譲渡された魔力をどうするつもりだ?ほっといたらどうなる?」


焦ってレイズはイルの会話に割り込んだ。リタが指輪の意味を知る必要はない!ないったらない!


イルはレイズの気も知らず、素直に質問へ答えた。


「このまま放置すると魔力過多で魔力欠乏症と同じ症状に陥ります。その後、体に巡る魔力量が増えます。」


「経験済みか。」


「幸いその時はしばらくしてから放出したので昏睡することはありませんでした。あと私は痛みや体調不良がないようでして、詳細は分かりかねますが、意識はあるのに3日ほど体が動きませんでした。暇だったので結局土の中で寝て過ごしました。」


「不死者も寝るんだな。」


「寝ると言うより、機能を停止させる感じですね。寝るという感覚とは少し異なります。なんなら今停止させる事もできますよ。」


「いやいや、それはいい。しかし、まずいじゃないか。早くどうにかして放出しろよ。」


「そうしましたら、死者を浄化してみせましょう。リタ様のように無詠唱とはいきませんが。」


「なに?お前も浄化できるのか?」


返事をする代わりにイルは詠唱した。


『私を巡る母なる魔力よ、死者の憂いを払い浄化したまえ!』


イルは胸の中央に光の球を出現させ、それを左手で触れ、上に押し上げるようにして空に向かって高く腕を上げた。光の球は噴水のようにふわっとあたり一体を照らし、光の粒子がキラキラと土に舞い降りた。


光が土の上にふわりと落ちると、粒子が土に中に吸い込まれていく。すると、土の中から霊魂がポンっといくつも現れた。


「リタ様の純粋な魔力が巡っている時だけ行使可能でございます。それだけ我がリタ様のお力は儚くも美しいということでしょう。また、私が行使した場合、リタ様ほどの浄化力はないため、ある程度既に浄化が進んだ死者のみ、霊魂の段階に進めることが可能となっております。」


途中何やら教会の信者が神を崇める時に言うようなことを口走っていたが、それに突っ込みを入れる者はここにはいない。こういう奴はスルーが一番だ。


「これをやればいいんだな?」


「そう!今のレイズの魔力値はどのぐらい?」


「今は8割ぐらい残っている。」


「じゃあ、ほんのちょっと、レイズの全体量の1/100ぐらいの魔力譲渡を一回やってみない?それなら今までの譲渡方法でさえ身体に変化が現れないし。針でのやり方をあくまで試して見る目的で!」


「分かった、やってみよう。……いよいよだな!」

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