魔力譲渡の原理1 魔力を与えると起きること
「呼ぶ?実践と言っていたが、今まで何で練習していたんだ?」
「何って、死者だけど?」
「はあああああ?あいつら意思もなけりゃ、死んでるから魔力も保持できないだろう?」
「そうだよ。だ、か、ら、お願いして手伝って貰ってたの」
「どういうことだ?」
「呼ぶ前に少し原理を話す必要がありそうだね。聞いてくれる?」
「ああ、教えてくれ。」
「私の意思に死者は左右されるの。ついでに私の魔力にも影響されるみたい。だから操りやすいじゃない。練習するのに条件が当てはまるのが死者だったと言うだけ。」
「ああ、俺も最近死者が俺の意思に影響されていることには気がついた。俺が落ち込んでいると、死者もなんとなく元気がない様子を見せるし、俺がイラだっていると死者も投げやりな気がした。」
「ん?最近?落ち込んでたの?」
「べ、別になんだっていいだろう!で?!それがどうしたんだ?」
「試しにちょっとだけ魔力を流したの。死者は既に死んでるから、命を奪う心配もないし。それに、魔力がないなら魔力を流し込んだところで、影響はないと思ったの。吐き気とかも起きないだろうし。なぜ魔力譲渡が魔力のある対象には影響を及ぼしてしまうのかを知りたかったの。魔力の無い者に魔力を与えることでどういう変化が起きるのか、0しかない者に1を与えることで、魔力の性質を観察しやすいと考えたの。」
「色々書き込まれている紙に情報を書き込むと訳が分からなくなるが、白紙ならば見やすいもんな。」
「そう、それ!だからまずはほんの少しだけ魔力譲渡を行ったの。」
「ほう、そしたらどうなった?」
「今までのやり方で譲渡したら、体が朽ちかけて浄化が始まっちゃった!」
「ええ?!魔力を与えると死者は浄化するのか?!」
「他の人の魔力を与えたらどうなるかは分からないけど、私の魔力の場合、死者には浄化作用があることが分かったよ!」
「なるほど、俺がやったらまた違う事が起こる可能性もあるということだな。」
「うん、針をくれたお婆さんが以前、私の魔力は良質だって言ってたことも何か関係してるかもね。」
「しかしこれで霊魂が頻繁に生まれていた理由が何だったのか分かったぞ。お前が死者で練習していたんだな。だからたまに新しく霊魂がたくさん生まれた日があったのか。自然に浄化したにしては頻度も数も多いなと思っていたんだ。そういう事だったのか」
「黙っててごめん。」
「いや、問題ない。今日全部送り出せるはずなんだろう?」
ニヤリとレイズが口を歪ませる。
「それで?」
続きをレイズが催促する。
「魔力譲渡は双方の意思が必要なんじゃないかと一番最初に仮説を立てたの。与えると言う意思と、貰い受けるという意思。一方的に与えると、拒否反応が起きる。拒否反応を起こさせないためには血液を輸血するように、魔力も相手に適合する型である必要がある。輸血の技術はこの世界でもあるみたいね?医学の文献をちょっと読ませて貰ったわ。」
「そうだな、あるぞ。じゃあ輸血のように魔力を譲渡するには魔力をどうやって相手の型にはめるんだ?相手の型に嵌め込めるなら、意思は必要ないんじゃないか?」
「うん、でもその前に、相手に魔力がそもそもなくて意思もないのなら、今の仮説を全て考慮せずに、魔力譲渡だけに専念出来るじゃない?魔力譲渡が出来たらその後に相手に意思がある場合や魔力がある場合に応用したら良い。だからまずは、魔力譲渡を確立する方が先だと考えたの。でもこれを生きた人で試すのは危険でしょ?」
「やりたいことはわかった。最初は死者に魔力を譲渡したんだな?そしたら浄化してしまった。すると、やっぱり双方の意思が必要なのではないか、の仮説に戻ったんだな。だが、死者は意思を持たない、そうだろう?」
「おっしゃる通り。でも私の意思と魔力は針の力で死者に反映される。」
「そこで針が出てくるのか。」
「私の針がないと効力はないのかもしれない。だから普通の人が死者に対して魔力譲渡を行うにはまた別な方法を生み出す必要があるとは思う。」
「なんとなく分かってきた。お前の魔力と針があってはじめて、死者に譲渡が可能になるということか?」
「死者に意思を持って私の魔力を受け取らせることができれば、それを生きた人でも応用できるはず、そう思ったの。幸いその仮定で魔力の型を合わせる方法も分かった。これは、針を介するだけでいいの。死者で成功した後、意思疎通の出来ない魔獣でも成功したわ。」
「そうか、魔力はリタの針を介すると譲渡が可能な魔力に変換されるのか。なんでだろう?」
「多分電池と電気の原理と似ているんだと思う。」
「なんだそれは?」
「後で詳しく話すよ。とにかく、まずは死者で最初は試したの。針を使えば私の意思が宿った死者になったも同然だし、魔力をそもそも持っていないところに私の魔力を流した所で大して意味はないか、もしくは0に1を与えたことで逆に何かが起こるかもしれない、そう思ったの。」
「どうやって死者に針を介して意思を持たせたんだ?」
「魔力譲渡を手で行ったら浄化しちゃったし、試しに針を使ってみようと思っただけだったの。単に針を持って死者に突き刺しただけ。これは騎士団に体力回復薬を糸状にして流した時にヒントを得たの。針を極小にして、魔力を固まった血流になんとか流そうとして魔力を込めた時、たまたま虫魔獣が現れてね?追い払おうと思って風魔法を発動したら、風魔法が糸状に変化して、死者に刺さった針に魔力が吸い取られたの。虫魔獣を追い払おうとする直前までやろうとしていたことをやっちゃったっていう失敗ではあったんだけど、それが成功の鍵だった。」
「ほう、それでどうなった?」
「いきなり死者が風魔法を放ったの!私がやろうとしていた意思がそのまま死者に反映されちゃったのね。でも死者が魔法を放ったことにすごく驚いた!」
「いや、聞いてる俺も半信半疑なんだが。」
「でも、これがあったから針と糸を介せば死者に魔力を流すことは可能なことが分かったの。」
「あー、だがこれは死者への冒涜だと捉えかねられない。」
「うん、分かってる。研究者みたいなこと言わせてもらうと、でも死者は意思を持たない。痛みもない。あるのは魂を浄化するという目的だけ。その目的のために死者は死者の王が命ずるがままに動く。私は王ではないけれど。たまたま針のお陰で好意って言っていいのかな?を持って貰ってるだけで。」
「これは完全に秘匿する必要がありそうだな。遺族が知ったらなんていうか……」
「私も遺族のことを全く考えなかったわけじゃない。でもこの技術がレイズだけじゃなくて広く行き渡れば、魔力のない平民だって魔法を使える日が来るかもしれない。そもそもなんで貴族にしか魔力が発現しないの?異なる種族間でも魔力の保持量は違う。」
「それは今でも王宮魔術士が研究しているところだ。」
「うん、私もこの仮説を立てたときに文献をいくつか読んだよ。魔力を保持している機構は体の、どのパーツかって話を。」
「それも判明していないなあ。」
「でも霊魂は魔力を保有している。それを知っている人は王宮にだっているよね。とにかく霊魂が鍵なのは間違いないでしょう?」
「そうだな、霊魂が鍵なのは分かる。」
「活動する霊魂が体になんらかの作用を及ぼして体全体に魔力を流してるの。だから実際体は保持していないんじゃなのかな、って思ったの。」
「だが魔力を体内で感じる事はできるぞ?保持されているんじゃないのか?」
「ううん、霊魂はずっと魔力を体に流し続けているだけに過ぎないんじゃないかと思うの。保持しているというよりも、循環しているんじゃないかな。そして魔法で放出しなかった分はそのまま霊魂に戻る。放出した分は妖精なら羽で大気からまた補って、魔族ならもしかしたら鋭い牙や角が大気中の魔力を吸い取ってるのかもしれない。獣人族はそもそも放出できないから体の中でグルグルずっと魔力が循環してるのかも。体力に還元はされてるからその活動で放出はしているだろうけど。」
「保持せず体で循環しているのか。なら人族はどうなんだ?」
「人族ははっきり言うと、よく分からない。放出した魔力を補う器官が他と比べて劣っているのかもしれない気はするけど。何で補っているんだろう?食べ物とかかな?私や他の種族も食べ物を摂取するけど、種族によって食べ物を摂取する理由が異なるのかも。人族は魔力の補充と体の維持で他の種族はあくまで体の維持だけとかなのかも?獣人族はあの特有の耳や尻尾がなにか魔力補う役割を果たしているのかもよ?」
「なんで人族は魔力補う方法が他の種族異なると思うに至ったんだ?」
「だって人族は短命じゃない。魔力も弱かったり、使えない者もいる。角や羽、獣人は耳や尻尾を欠損したりすると、出血も要因にはなるけど、人族以外の種族はそれ以前に人族が欠損した時より先に動けなくなるんでしょう?魔族に至っては一気に老いて体が消滅するらしいじゃない。一方人族はたとえ体の欠損があっても他の種族みたいにいきなりすぐ動けなくなったり、亡くなったりすることはないでしょう?」
「それは一理あるな。欠損した部位があっても止血さえすれば他の種族よりは長く行動出来る。それに欠損部位を縫合で閉じて、それが治ってしまえば生活に不自由することはあっても死にはしない。他の種族は羽や角、尻尾など種族の特有部位が欠損すると、傷が治った所で衰弱死するからな。」
「人族は魔力を他種族ほど補う器官がないことと、寿命を犠牲にした代わりに弱点はその分少ないんじゃないかな?魔力を保持させる、私の世界で言うところの電池を魔法石として開発したり、魔術を生み出して魔力が良く流れる別の原理を作ったり、魔法にそれほど頼らない分、知性が発達した。なんて思わない?」
「まあ、面白い話ではあるな。さっきも電気や電池と言っていたが、そのことはまた後で聞こう。続けてくれ。」
「それで、特に平民の寿命は貴族と比べると随分短い。平民の平均寿命は40、50代で、貴族になると80代前後。この差、不思議だと思わない?貴族は失った魔力を食べることで補う。怪我や病も循環する魔力で治癒力が上がるとかかな?けど平民は体に異変が起きたらどうしようもないじゃない。ある意味失いっぱなしとも言えるね。」
「失ってはいないんじゃないか?放出出来ないんだから。」
「そうともいえないかも。体を動かすのが霊魂の持つ魔力だとしたら、ずっと魔力を失いっぱなしじゃない。食べることである程度は補えるんだろうけど、そもそも魔力が通りにくい体をしているから、魔力を摂取出来る量も貴族比べて少ないんじゃないかな。」
「そもそも通りにくい?そういう考えもあるのか?」
「補充したところで循環出来ないから貴族ほど怪我や病に強くないし。その分放出はしないから力仕事が得意な人が多いし、同じく放出できない獣人族と役割がちょっと似てるところがあるよね。でも獣人族は循環できるし耳や尻尾から魔力を補充できるから長命だと考えられる。魔力が霊魂や体を活動させるエネルギーでもあるのかなって……」
「よくこれだけのことをこの短期間で考えたな!異世界の知識は伊達じゃないな!」
「ふふふ!これだけじゃないよ。」
「まだあるのか?」
「霊魂は全て魔力を使えるけど、平民の血筋に生まれると魔法が扱えない。さっきも言ったように、平民は魔力が体を通りにくいんだと思う。という事は、電気とゴムの関係のように、魔力を通しやすい、通しにくいとかがあると思うの。電気はこの世界に流通していないよね?魔法や魔法石がそれを代用しているからこの考えに至るのは難しいだろうけど。」
「うーん、電気とは、なんだ?」
「そうなるよね。雷ってあるでしょう?ここでは雨や雪と同じような天候の一種として捉えられているけど、あれは電気よ。さっき言った電池はその電気を貯めておけるの。電気は一度流れちゃうと貯めておけないんだけど、違うエネルギーに変換しておいたらまた使えるの。電池は電気を違うエネルギーに変換したものってこと。詳しい事は私も説明するのが難しいんだけど。」
「なんとなく電池と電気の説明は分かったが、雷は電気?言い換えただけじゃないのか?雨は水、みたいな。」
「近い!乾燥した冬にニットのセーターがよく『バチッ』とくるあれ、ここではなんていうの?」
「ルローキトの悪戯という。ルローキトは悪戯好きの神で、雷を操る。創造神カイルスの子供で大地の神サートゥルの兄弟だ。」
「神様の仕業なんだ。でも『パチッ』っとくるあれ、私が来た世界だと静電気って言うの。とても小さい雷のことね。簡単に言うと雷って、いっぱい雲に溜まった静電気がバーンって放出される現象なの。」
「ほう?その雷がどうしたんだ?」
「ゴムは電気を通さないって言ったでしょう?平民はゴムみたいな感じで、霊魂が流してくる魔力が雷だとしたら、体に魔力が流れないんだってこと!確証はないけど!」
「魔力の回路が体にあるかないかってことだな。霊魂が魔力の正体なら、まあ、平民にはきっとその回路はないんだろうな、というのはわかる。」
「だから貴族だった死者をまずは選ぶ必要があったわ。」
「なんとなく掴めた。ようは死者にどうやったら電池と言ったか?電池のように魔力を保持させるか、又は流すか、ということだな。」
「そういうこと!それで、まずは魔力の性質を検証するために、とりあえず流れるか見てみたの。そしたら流れる以前の問題で、最初は浄化、死者の魂を真っ白にしちゃって、すぐ霊魂になっちゃったの。それで針と糸を使うに至って、結果的に魔力を流すことだけは成功したの。
「やっと最初に戻るわけか。」




