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レイズがしたかったこと

「それでね、魔力操作でまずは防具にかけられていた『身体不調』を解除したの。それから『身体健康』に書き換えて、刺繍を複製することが出来るまでになったよ!あとはね、あとはね」


レイズにとっての朝ごはん、リタにとっての昼食を食べてながらリタは騎士団での報告をレイズにしている。


しばらくリタの話に相槌を打つだけのレイズだったが、意を決したようにレイズは口を開いた。


「リタ」


「ん?今度は一緒に行こうよ!きっとレイズにとっても良い経験になるよ!」


「ああ、そうだな。だからリタ、頼みたい事があるんだ。」


「どうしたの?改まっちゃって。らしくないぞー」


久しぶりのレイズとの会話を楽しそうにしながらパスーゴ、いわゆるスパゲティを口にしていたリタは、フォークをテーブルに置いた。


「出来るだけ早く、『魔力譲渡』を完成させられないか?」


「いいよー。多分もうすぐで完成する気がするし。」


リタは軽く返事したが、レイズはそれに対してものすごい喜びようを表した。


「本当か?!本当に出来るのか?!それが可能なら前みたいに一気に死者も浄化して欲しいんだ!」


「どうしたのそんなに喜んで。以前やっちゃった時はあれほど怒っていたのに。どんな気の変わりようがあったの?」


「リタがいないこの一週間、俺、考えていたんだ。」


「うん。」


真剣な顔つきでレイズの話に相槌を打つ。


「ネクロマンサーになってから、俺はほぼこの地を離れた経験がない。」


レイズは何かを思い起こすように、目線を上にして宙を眺めている。


次の言葉を発する前に、フッとテーブルにあった水に左手を伸ばし、喉を潤した。口を開けては閉じてを繰り返し、レイズは言おうか言うまいか迷っている。右手にはまだフォークを持ったままだ。


「どうしたの、レイズ?言ってみて?」


リタの言葉で言うことに決めたレイズは、手に持っていたコップから手を離した。


「俺も他の国に行ってみたいんだ。このままずっと、ただこの地でじっとしているのは……本当は嫌なんだ……」


「うん……」


「お前が騎士団の所に行くって聞いて、俺、少し苛立ったんだ。なんでそんなに自由なんだ、って。俺と同じネクロマンサーの仕事をしているのに、なんでお前だけって。確かにお前はネクロマンサーの能力はない。だが何もしがらみがないお前を羨ましいと思った自分がいたのは本当だ……すまない。」


「レイズは何も悪くないよ。しばらくお休みしちゃってごめんね。また暫く次の挨拶には時間があるはずだから、私も頑張るし」


「そうじゃないんだ。俺が一番許せなかったのは、自分の状況を棚に上げ、それを言い訳にしてただ心を殺して、何でもないようにネクロマンサーをやっていた自分が許せないんだ!」


レイズの手に握られているフォークが震えている。


「レイズ……」


「もしやりたい事があったのなら諦めず、なぜ打開策を考えなかった?なぜ心を殺す必要があった?なぜ友人達から、家族から、俺は離れたんだ?本当なら遠ざける以外にもっとやり方があったはずだ!」


フォークがカランと音を立て、テーブルに落ちた。


「だからリタ、お願いだ。」


「うん。」


「俺が少しでも、この地を結界なんぞはらなくても離れられるような時間を作って欲しいんだ。虫がいい話なのも分かっている。お前を今後ネクロマンサー補佐から俺からは外さないことを絶対に約束する。頼む。魔力譲渡を完成させてくれ。この通りだ。」


頭をテーブルに押しつけ、体を震わせて頼み込むレイズに思わずリタは駆け寄った。


「レイズ。レイズがいてくれたから、私は今無事に生きてる。私を木の上で発見したのがレイズじゃなかったら今頃、どういう扱いを輸送先で受けていたのか想像もつかない。けど、レイズが私に教育を施してくれたお陰でなんとかこの世界に順応できてるのは間違いないわ。お願い、頭を上げてレイズ。」


レイズは頭を上げ、椅子に座ったままリタと向かい合う。


レイズの目を覗き込むと、グレーの目が少し赤い。リタはレイズの体を抱きしめ、安心させるように言葉を続ける。


「私、絶対完成させるから。だから次の種族王への挨拶には一緒に行こう。私が絶対レイズも連れて行くから。」


「ありがとう。俺も一緒に次の国に行かせてくれ。」


リタはレイズが落ち着くまで暫くそのままの格好でレイズの背中を撫で続けた。



その日の晩からリタはネクロマンサー補佐の仕事の他、魔獣を対象に魔力譲渡を研究する日々を送った。



・・・



「なんか最近霊魂が生まれる頻度が高いな。リタが来てから浄化作用でも強まったのか?」


霊魂が今日は10体も新しく生まれている。1日でこの数はほぼありえない。


「まあ、いいや。死者が減るのは悪い事じゃない。ほら、お前の墓標はどこだったのか教えろ」


そうして、完成の日は突然やってきた。




「レイズ!レイズ!!」


あれから1ヵ月、リタは来る日も来る日も練習を続けていた。遺族への手紙は既に書き終え、あとは霊魂を送り出すだけとなった。

最初の1日に20枚書いてから、次の日から複写しまくって、手紙は早々に書き終えていたのだ。


浄化した分を処理するのも丸3ヶ月はかかるだろうと最初は予想していた。しかし魔力回復薬を調合しまくったお陰で、 1日20体の見込みが日に日に増え、3ヶ月目に入った辺りで終わりが見えてきた。今日一日で残りの300体を送り出す。


今までなら到底叶わない数の霊魂を今日送り出すのだ。


これが完成した今なら出来る、そうリタは確信を持っていた。


今は夜中の12時。リタ達にとっては夕飯時だ。霊魂が忙しなく夜食を用意する中、執務を一段落させたレイズが食卓に着いたところだ。


「どうした。今日はスクローファの煮込みだ。そんなに好きだったのか?」


フォークとナイフを優雅に動かして口に肉を運ぶと、レイズは今日も美味いなーと呑気な声をあげている。


「そうじゃないの!完成したよ!『魔力譲渡』!」


カラン!


ナイフが皿の上に音を立てて落ちたのを合図に椅子からレイズが立ち上がった。


ガタッ!


勢いあまって椅子も床に転がる。



「本当か!どうやって?!それは安全なのか?!試したのか?!今すぐ見せてくれ!」


「レイズ、今日で残りの300体を送り出すよ!食べてからにしよう!スクローファの煮込みは私、大好きなの!」


「早く食え!霊魂!デザートは後にする!ワインもいらない!ほら、リタ、何を笑ってる!早く食うぞ!」


「あはは!レイズったら焦りすぎ!もう何回か試して効果があるのはわかってるの!だから焦らなくても大丈夫!今日、絶対成功させるよ!」


レイズは急いでご飯を掻き込み、飲み物かのように流し込む。


「わかったから!ほら、早く!早く!俺外で待ってるから!」


「ちょっと!食べるの早すぎ!待って!」


「早く来いよー」レイズは食卓を飛び出て行ってしまった。


リタも急いで食べ終わると、レイズの後を追いかけた。



「遅い!」


「いやいや、大して時間かかってないし!では早速!」


「おう!」


「っとその前に」


「なんだ?勿体ぶるなよ!ずっと楽しみにしていたんだからな!」


「まあ、まあ。そう焦らずに。先に原理の解説が必要なの。あと、今から実践するから見てて!」


「なるほど!わかった!」


レイズはどかっと土の上に胡座をかき、聞く準備万端だ。


「それじゃあ、呼ぶよ。」

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