おかえり
今日もこの後一話アップします!20時半頃を目指しています!
クロリア地に戻ると、レイズは昨日出ていったばかりのように、「なんだもう帰ってきたのか」と玄関の扉を開けながら素っ気なく言った。
まるでリタが帰ってくるのが当然のような言い方がやけに嬉しく、玄関にリタの大きな声が響き渡った。
「ただいま!!」
朝の9時頃に挨拶してすぐ飛び立ったとは言え、ゆっくり『飛翔』して帰ってきたので、今は昼を少し回ったあたりだ。
普段のレイズならまだ寝ている時間のはずだが、そういう日もあるかとあまり気にしなかった。
でも音伝令でまだ合図もしていないのに、玄関の扉にリタが手をかける前に、扉が開いたのには驚いた。
「で?騎士団の様子はどうだったんだ?」
リタの肩に提げられていた荷物をレイズがヒョイっと取った。
「ありがとう。大変だったよ!皆体調悪そうにしてるし、防具の修理もあったしで、すごく忙しかった!」
「移動もあって疲れただろう。今日はゆっくり休んでいいぞ。」
2人で二階に上がり、リタの部屋の前に来ると荷物を返してくれた。わざわざ運んでくれたのだ。
「レイズが優しい!」
「働かすぞ、こら。」
口調は荒くても、表情は柔らかい。
「あれ?そういえば屋敷中がピカピカだね!来客でもあった?」
「ん?気のせいじゃないか?いつも通りだぞ。」
「うん?そっか!霊魂さんも良く頑張ってたんだね!偉いぞー!」
まるで何もしていなかったかのような言い方だが、それは嘘である。リタがやっと帰って来ると張り切って霊魂に掃除を命じていたのは他ならぬレイズだ。
霊魂も喜んで掃除をしていたのだから、綺麗で当然だ。なぜなら皆リタの帰りを今か今かと待ちわびていたのだから。
「リタの分の仕事はしっかり残しておいてやったからな。感謝して良いぞ。」
「やっておいてくれて良かったんだよ?」
「仕事がなくなって居場所がなくなったら困るのはお前だろ。残しておいてやったんだ。」
やっぱり言い方は冷たいが、解釈次第ではここにいても良いのだと、了承を得たようで嬉しくなる。
だからリタはお礼を述べた。
「ありがとう。ただいま、レイズ」
「お、おう。礼を言うほどここの仕事が気に入ったようだな?まあ、その、なんだ……おかえり。それより昼飯がまだだろう?お茶でも飲みながら話を聞かせろよ。」
おかえりと言ったのが余程恥ずかしかったのか、すぐに話題を移した。
「レイズからお茶に誘ってくれる日が来るなんて思いもしなかったな!この荷物を整理したらすぐ下に行くね!」
「くっ!ちょっと騎士団が心配なだけだ!善良な一市民として!」
「ふふふっ、分かってるよ」
リタがいないことで、レイズも少し寂しく思ってくれていたのかな、と思うと照れ臭い気分になるリタだった。
事実、この一週間のレイズの有り様は酷いものだった。
・・・
「一週間か、今はまだ薬も足りてるし、行ってきても良いぞ。」
「わかった!じゃあ、3日後に行くって返事しておくー。」
そうしてリタが朝から1人で騎士団へ向かった当日、昼頃起き出したレイズは、今までも1人でやってきたのに、その日はなんとなく仕事に身が入らなかった。
「あいつちゃんと飛んで行けたのかな?やっぱり馬車を呼んでやる方が良かったか?」
レイズの発した言葉に返答を返す者は今は誰もいない。
「こんな暇だったっけ?いや、そんなはずはない。そうだ、送り出した霊魂の遺体があった位置に次の死者を埋められるよう、少し整備しておこう。うん、そうしよう。」
誰に話すでもなく、レイズは今日1日でやるべきことを口にしながら整理した。
領地を整備しながらスコップ片手にくまなく歩いていると、以前アイザック達が戦った跡地が見えてきた。
「あー、ここ荒れ放題になってるな。そろそろ夕方だし、ちょっと早めに死者を起こすか。」
「王の命によって告ぐ。霊魂よ、倉庫からありったけのスコップを運んでこい。死者よ、スコップが届いたら整備を開始しろ。木材は屋敷の前に運べ。」
「ぐえええうごおっがううう……」
「なんだお前達。死者の王が命ずる。キビキビ働け!」
どこか不満げな死者に苛立ちを覚え、厳格な命令を下した。まさかこいつらまでリタがいないことが不満なのか?
「……こいつら『も?』」
別に俺は不満になんか思っていない!!『も』ってなんだよ!あいつがいなくても今まで1人でやってきた!あいつがちょっといないからって、だからなんだ!仕方がないじゃないか!王からの命令だぞ?!あいつが断れるわけないじゃないか!
「くそっ!」
死者達もまるでレイズに同調しているかのように動きがどこか投げやりだ。感情や意思なんてないはずなのに不思議なものだ。命ずる側の意思に行動が伴うものなのだろうか?
「確か、こいつらリタが命じてもいないのに勝手に慰めてたこともあったしな。そういうもんなのかもしれないな。」
そんなこと考えたこともなかったし、気がつきもしなかった。レイズは自分の感情を殺して、ただ日々淡々と、死者の埋葬をしていただけだったのだから。
昔を思い返してみると、ネクロマンサーの力が目覚める前は将来について色々考えていたかもしれない。
もっと学友と遊びたかった。自分だけネクロマンサーの地で修行なんてしたくなかった。友人達と一緒に実技の授業を受けて、切磋琢磨したかった。毎日吐き気と頭痛と戦いながら膨大な魔力が欲しかったんじゃない。
少し昔を振り返るだけも、当時は不満があったことを思い出す。
「俺だってもっと……」
もっとなんだろう?考えてみたものの、その先が思い浮かばない。
ふっと思い付いた事があったそれはとても良いアイディアのように思えたが、そんな事して何になる、と希望めいたそれを頭からその時はふるい落とした。
レイズはその後、リタが帰って来るまでひたすら心を無にして働いた。
たった一週間だ。伯爵になったばかりの時のように、その日は疲れているはずなのに、上手く眠りにつく事が出来なかった。
リタが帰ってくる前日、まだ一日あるのにレイズは昼前からソワソワしていた。
霊魂も帰ってくるの、明日だよ?と言っている。
「おい、階段が汚れているぞ!あ、床に泥が付いている!早く拭け!待て待て、リタの部屋の清掃と俺の部屋も頼む。なに?忙しい?当たり前だ!いいから早くやれって!」
ずっと一日中こんな状態だったので、霊魂はリタ、頼むから絶対明日には帰ってきてくれ……!と願った。




