騎士団にて2 世紀末は再来する
「ニチアメリ王国、アメリゴ都市を歩いてみよう1」、「王宮に行ってきます」、「クロリア地に向かいます1」にもこっそり世界マップの挿絵を入れてみましたが、評価やブクマを頂けるとより一層クオリティ上げて頑張ります!よろしくお願いしますm(__)m
騎士団の現状は聞いていた通り、あまり良い状態だとは言えなかった。
「少ないね?」
「だろ?かなりの人数が脱退しちまったんだ。これでも前はこの演習場にみっちり人がいたんだ。」
「体調が悪くなるってどんな状態になったの?」
「熱が下がらなかったり、やたらと怪我をしたり、人それぞれだったな。ちょっと吐き気がするぐらいはかなり軽症なほうだった。団長でさえ一時暗い顔をしてたから、精神的な不調もあったのかもしれない。ルーク団長って団長としては最年少なんだよ。今の団長になる三歴前は別の人がやってたんだけど、その人は運悪く崖から足を踏み外して、戦に出れない体になっちまった。それで今の団長になったんだ。」
「道理で若いわけだ。上官が上にいるから中間なのかなって思ってた。」
「あながち中間てのも間違いではないぜ。騎士団は王様直属の部隊だからな。それでも騎士団の責任者は団長だけど。」
「すごい人だったのね……」
あの微笑みはやっぱり幻覚だったのかもしれない、とリタは思い直した。
「そうだ、今あの端っこにいるあいつ、まだ体調が戻らないらしい。ちょっと見てやってくれ。おーいモブリオス!」
その名前を聞いて、リタは「ん?」と思った。どこかで聞いたことがある……
「ヒャッハー!なんすか分隊長!」
「前からジルクで言いっつってんだろ!体調まだ悪いんだろ?見てもらえ!」
え?こんな若いのに、もう分隊長やってるの?と驚いたが、それもそのはずかと説明されずとも納得した。妖精族や魔族に劣るとは言え、人族の中では魔力値が高いはず。それに歩き方や身のこなし方を見るに、それなりに強そうではある。チャラそうな割に、真面目に仕事はこなすタイプか、意外としっかりしてるんだ、と感心した。
「イエッサー!ひゃっふー!妖精族の美女イエーイ!……あれ?どこかでお会いしたことありませんでしたか……?」
ジト目で見つめるリタの表情に気がつき上機嫌だったのが一瞬にして急降下し、
「あ、やべっ」とモブリオスは漏らした。
「あなた!路地裏でもモブオって呼ばれてた人じゃない?!ちょっと!あの後大変だったんだからね!」
「なんだ、知り合いか?」
「ひいいいいサーセン!サーセン!あまりにも可愛かったんでつい声かけてちゃったんす!まさか騎士団の顧問守護官さんだなんて知らなかったんす!」
今にも床に平伏しそうな勢いで謝るモブリオスを冷ややかに見たものの、それよりもさっき言われた事が気になった。
「顧問守護官?」
聞いたことない単語をいうモブリオスは何を言っているんだろうとジルクの方を見る。
「そうだ、この1週間だけ顧問守護官さんは騎士団の調子を見てくださる!無礼を働くなよ。もうなんかやった後だろうけどな!」
あははと笑うジルクの腕をとりあえずリタはつねっておいた。なるほど、理解した。顧問守護官さんね?そういう名目でここに来させたわけか。まあ、それほど間違いでもないか。
「もういいよ、結局何とかなったし。名前はモブオじゃないの?」
「あれは下町の幼馴染みから呼ばれてるあだ名っす!本名はモブリオスっす!平民っす!」
もはや出会った当初と話し口調が変わっているが、これがモブオの目上の者に対する話し方なのだろうと追求しないでおくことにした。
「そっか、もうモブオで良いよね。私はリタって言うの。とりあえず、体見せてもらえる?」
「わわわ!愛称で呼ぶなんて!可愛すぎて照れるっす!しかもわわワイもリタさんって下の名前で呼んでいいんっすか?鼻血でるっす!恐れ多いっす!嬉しいっす!やっぱワイとお付き合いを……」
モブオが言い切る前にゲンコツをジルクに落とされ、正座になって大人しくなった所で病状を話して貰った。
「イテテッ、はい、三歴前もそうだったんすけど……最近もとにかく体が怠いっす。例の防具は外してるんすけど、でもまだなんか怠いっす。」
「うーん、他に怪しい防具は付けていないのよね?」
「付けてないっす。今無防備っす。あ、よかったらワイ結構腕の筋肉が自慢なんっすけど、触ってみます?」
「触りたくない。んー因みに怠いってどんな不調が起こるの?」
がくりと項垂れながらもモブオは説明を続けた。
「ワイは魔力はないんで魔法石を使って魔法を放つっす。でも上手く発動できない感じで。その上魔力なんてないはずなのに、魔力欠乏症みたいな症状にずっと悩まされてるっす。」
「うーん、話はわかったけど、その防具に刺繍されていたのはどんなまじないだったの?」
ジルクに聞くと、すぐ答えが返ってきた。
「全員同じで、身体不調だ。」
身体不調とは、かなり幅広い。頭痛だって、吐き気だって、腰痛だってすべて身体不調だ。でも一貫して言えることは、全て血の巡りが悪くなることで起こりうるということか。厳密には他にも原因はあるだろうけど、まずは体をしっかり温めて睡眠や食事を規則的にすること。
上手く魔法も発動出来ないと言っているので、やっぱり体の巡りが防具をきっかけに悪化したと言うところだろうか。
今リタに出来ることは血の巡りが悪くなっている原因を潰す事ぐらいだ。
「じゃあ、偏ってるとこ潰して行こうか?大丈夫、痛くないから。はい、まずは手から行こう。」
魔獣相手に試してきたので他人には初めてだが、この世界の医療知識も本で読んだしなんとかなるだろう。自分の手のひらに試した時は上手くいって、紙で切ってしまった切り傷があった箇所がたちまち治り、治癒魔法と称しても良いくらいの効果を発揮した。切り傷の箇所から針を入れたので、上手く縫合が働いたのもあるかもしれない。
一気にやれば大丈夫。
『治癒促進』
ポシェットから体力回復薬を出し、1/4ほど瓶から出した液体のそれを、治癒促進の詠唱で囲み、水滴の形状を手のひらに保った。
「『蚊の針形状』『糸紡ぎ』とりゃ!」
手のひらにポヨンと出した体力回復薬を糸に素早く形状を変化させ、スッと針に通す。
針の太さと長さの比率は変えられないなら蚊の針ぐらいに小さくして、血管に挿入。一気に針を血流に乗せたら、刺したところから針を出す。自分の魔力に引き寄せたら簡単に針は手元に戻ってくる。
練習通りだ。
「え?今何したっすか?」
蚊の針程に細くした事で、リタがモブオの体に針を刺した事さえ気がつかなかったらしい。
「この針を体内に巡らせてみたよ。体力回復薬を直接血流に流し込んだから、かなり効くと思う。魔獣なんてこれで全快して強化までしちゃったから、倒すの大変だったんだから。」
元の針の大きさに戻してモブオに見せるとギョッとした顔を見せたが、そんな事が気にならないほどにたちまち顔色が良くなってきた。
「あ、確かになんか力がみなぎってきたっす!おおおおおお今なら何でも出来る気がするっす!リタさん!ワイとお付き」
ゴツン!
またもやゲンコツをジルクにお見舞いされたが、今度はモブオが怯む様子はない!
「痛いけど痛くないっす!凄いっす!やられて即座に痛みが飛んでったっす!これ誰でも出来るっすか?!」
「出来ないんじゃないかなあ?ここまで針を使いこなすのも、使い手と針の相性によるってお婆さんが言ってたし……」
「ヒャッフー!あざっす!ちょっと訓練行ってきます!ワイ頑張りますんで!リタさん絶対見ててください!」
「はいはーい。ジルク、他にはいないの?お次の人〜なーんちゃって……ええ?!」
モブオがその場を離れると、モブオがいたところにはズラっと他の騎士達が並んでいた。
「リタ、他にもいっぱいいたようだわ。全員見てやってくれる?」
「リタさんって言うんですか?可愛いですね!今おいくつなんですか?ボクずっと吐き気がしてまして。治りますかね?あ、今度ご飯食べに行きませんか?」
「抜け駆けか!ズルイぞ!リタさん、こいつ彼女いるんで!あ、私は今23で彼女も婚約者もいません。ちなみに腕の古傷がずっと痛みます。」
「最近フラれて心が痛むのでリタさんに癒して欲しいです!」
「こっち見て!こっち見て!」
もはや本当にこいつらは体調不良なのかと疑問に思うほどワイワイガヤガヤしているが、ジルク曰く、事実、皆体調不良らしい。
「全員を今すぐは無理だな。ここにいる奴らだけでも150人はいるし。他4つある棟にも150人ずついる。棟ごとに分隊されているんだ。この棟はオレが指揮する隊員達で、騎士団長は分隊長の上にいて全体の指揮をとる。前は倍の人数が一つの棟ごとに所属していたのに……。」
「それでさっきジルク、分隊長って呼ばれてたのね!つまり、150人がいる棟が全部で5つで、750人ね。平民もいるってことは魔法で主に戦うわけじゃないのね。なら魔法を主戦力とする人もいるってことかな?」
「うん、その通り。ちなみに騎士団所属の王宮魔術士は別の研究棟にいて、それが250人だ。王宮騎士団は今、合計1000人で成り立っているんだ。以前は3000人の規模で王宮を守っていたんだけど、あの事件から半分以上が辞めていった。」
「ずいぶん減ったんだね。騎士団はそれで全部なの?」
「いや、他の街にも騎士団はいるけど辺境伯の直属とか、各街の派出所や各中継拠点にも数千名単位で派遣されているよ?騎士の仕事についているものは全体で二十万、ニチアメリ王国の0.5%が騎士団に所属している。王宮騎士団はほんの一部に過ぎないが、騎士団の中でも選りすぐりが集められているだけに、これ以上優秀な人材が辞めていくのは惜しいと思わない?」
「なるほど……王宮騎士団の人数は少なくても優れた人達が集められているのね。え?モブオもその一人?うそー?」
先ほど特訓だと言って走って行ったモブオの姿を探すと、木に向かって蹴りを入れている所だった。そこらへんにあった木を試しに蹴ってみただけだったようで、ミシッ!と音がして慌てていた。蹴りを入れて木にヒビを入れられるのは確かに凄いと思うが、慌てているあたりが残念だ。
ジルクはリタのモブオに対する評価に苦笑いしつつも、他の騎士団を見てもらえないか打診する。
「だからリタちゃん、薬が必要ならあとで支給するから、今並んでる奴らの半分ぐらい見てやってくれないかなあ?ちなみに全体の約半数、500人はまだ不調を訴えているみたいで、ここにいる間は1日平均70人の騎士を見て貰えればいいと思ってる。それが終わったら防具の調整って感じで。ちなみに防具は前衛の分だけだから300着な!一日のノルマが終わったら好きなことしてて良いから!」
「1日1時間の休憩込みで8時間労働だとして、1時間に約14人診るのを5時間と、残り2時間のうち1時間で20〜22着の防具を刺繍し直す……無理でしょ!激務すぎでしょ!キツすぎだって!」
「おおー細かく計算するとそうなるのか!そうそう、今回の報酬は出してくれるって!なんと一週間で金貨2枚!すごい!一般兵の初任給1ヶ月分です!」
ジルクがリタを頑張って煽てているが、守護の付与付き防具は1着金貨1枚はくだらないのをリタは知識として知っている!
「それぐらいなきゃ割に合わないよ!うわーん!本当にやるのー?」
「リタちゃん!見ろよこいつら!毎日お国のためにと頑張っているのに、日々体調不良に悩まされて……でもどの医者に診てもらっても魔法で引き起こされた体調不良は薬では治すのは難しいって言われてどうしようもないんだ……頼むよ!もうリタちゃんしかいないんだ!」
そう言われたらどうしようもない。引き受けるしかどうせ選択肢は残されていないのだ。
「もー!ちょっとゴネて見ただけよ!みんなもそんな目で見ないで!やるわよ!やってやろうじゃないの。一日8時間って決めるからしんどいのよ。良いわよ、サビ残上等、どんとこい!……ふえーん!くっそー!さあ、お次の人は誰?!」
「ありがとう、リタちゃん!よし、リタちゃんの気が変わらないうちに早く診てもらえ!残り半分は速やかに体力回復薬を運んでこい!余ったやつは引き続き訓練に取り掛かれ!今すぐ診てもらいたい奴だけ残るんだぞー!」
明日からは自分で各棟の演習場に向かって行う必要があるらしく、防具の場所も診療しながらジルクに教えてもらった。
残り499人と300着!!




