レイズの無自覚な告白
今日はこの後にもう一話投稿します!いつも通り20時半を目指しています。プロローグに挿絵入れました。良かったら見て下さい!応援がてらブックマークもよろしくお願いいたします!!
お婆さんの店を出てからは他に旅に必要となりそうな物をあれこれとレイズに教えてもらい、片っ端から購入した。
それから練習だと言われ、関所まで徒歩で抜けてから、羽を使って帰った。レイズは風を呼んでリタの先を行き、それを追う形でクロリア地に向かった。
もちろん、針は装備したままである。その状態で湖に着くと、案の定ワラワラ死者が飛び出てきた。
怖くない、怖くない、と青き衣じゃなくてスカイブルーのワンピースをまといて金色の野じゃなくて死者で土っぽいところに降り立つ女子のごとく、頭の中で復唱する。
「あ、ありがとう?」
お礼を行っているリタのそばには女性が立っている。湖で休憩がてら落ちていた丸太に座っている2人の周りには、無数の死者が取り囲んでいた。今までと異なるのは、女性と思しき死者にリタが頭を撫でられていることか。
「愛されてるな。」
それを面白そうにレイズはニヤニヤ見つめている。
「お婆さんの言った通りだね。でも死者に愛されて、私にどうしろと……私も獣に愛される方が良かった!」
「良いじゃないか。俺もお前のこと……」
言いかけてからレイズは、俺は何を言おうとしていたんだとハッとした。やはり針は収納させておいたほうがいいかもしれない。いや、触れなければ大丈夫だと自分をなだめ、誤魔化すように話題を変えた。
「ネクロマンサー補佐をこれからも続ければ良いだろ!幸い俺もこれという人もいなければ、婚約者もいないしな!種族王達への挨拶が終わればずっと屋敷にいればいい!お前の針のことがあるだろ?!その、他に行かれると俺が困る!」
言い訳がましく言っているが、顔は真っ赤だ。これではせっかくさっき堪えた言葉を遠回しに言っているだけに過ぎない。その事に言ってから気がついて、手を額に押し当て、顔をリタから背けた。
それでもリタは嬉しそうに、「そうするよ」と伝えた。
どことなく甘くなった雰囲気を払拭しようとレイズは思い出したように魔獣のことをリタに尋ねた。
「そういえばアイザック達がここで魔獣に襲われたんだ。お前ここで何かしたのか?」
リタが強張った顔をしたのと同時に、死者達がリタを囲み、何故かリタとレイズの間に壁を作った。
「うわっ!なんだ急に?おい死者よ、リタを囲んで何をしている。」
「あの、怒らないで聞いてくれる……?」
リタの防衛本能に反応して死者が守ろうとしてくれたのだ。
「やっぱりお前がキャナズマットを起こしたんだな?」
「水浴びして遊んでたの!危害を加えるつもりはなかったのよ?水中に洞窟を見つけて、つい好奇心で……それが結果的にアイザック達を傷つけることになるとは思わなかったの……」
死者達は皆一様にリタの背中を撫でたり、頭を撫でたりして慰めている。死者に意思はないはずなのに、おかしな光景だ。きっとリタの申し訳ないという思いが死者を動かしているのだろう。
「起こったことは仕方がない。急にキャナズマットが現れたから何故だろうと思っただけだ。全員無事だった事だし、もう気にするな。」
レイズがリタの頭にポンと手を置くと、死者達も手を叩いて喜んで見せ、リタの顔を覗き込んでいる。その様子はまるでリタに良かったねと語りかけているようだ。
「これからは気をつけるね。次の国に行く時他の魔獣とも会うかもしれないし、魔獣について勉強してから行くよ。」
「そうだな、あとは遺族への手紙と薬の調合と、魔力譲渡も覚えて貰わないとな!」
これからやることは沢山ある。
「譲渡ってできないんでしょ?他人の魔力は気分が悪くなったり、最悪それで体調を壊したりして大変なことになるって前教えてくれたじゃない。」
「それが出来るようになればもっと霊魂を冥土に送れるだろ?それだけじゃなくてこっちで浄化させてすぐ冥土に送ることだってできるかもしれない。俺だってそこそこ魔力ある方なのに、お前はそれを遥かに上回るんだからな。その上知識も色々あるんだろう?だからなんとかしろよ。」
「鬼畜だわ!ブラック上司なのね?そうなのね?!」
「くだらないこと言ってないで早く帰るぞ。飛べ、練習だ。」
「うわーん。馬車が楽だったよーう。」
「楽をするな、置いていくぞ!」
レイズに急かされリタは渋々『飛翔』を唱えた。
クロリア地に戻ってそれから1ヶ月はひたすらネクロマンサー補佐をこなした。レイズから渡された、昔学院で使用したという魔法に関する書物や魔獣の生態についてもその合間に教えてもらった。また、針の扱いに慣れるため、時折死者を連れて領地内の魔獣狩りも行った。
針が医療でも使われると聞いて、レイズに治癒魔法はないのか、と学院で学ぶ事を勉強をさせて貰った時に聞いた事があった。
すると驚くことに、これだけ魔法が発展していても治癒魔法はないと聞いた。体力や魔力は回復できるが、疲れを飛ばしたり、魔力回復薬でまた魔法を行使出来る様になるだけらしい。
つまり、血を流せば輸血が必要になるし、四脚が欠損すれば、部位が残っていれば縫合でなんとかなるが、傷を完全に魔法ですぐ治すことは出来ないのだ。
この世界に治癒魔法はないと聞いて、それでも縫合は可能である以上、治癒魔法に近いことは可能だと分かり、何かが起こった時ようにそれも特訓することにした。
さらに薬の調合も上達し、死者の扱いにも慣れて来た頃、より効率的に霊魂を送るため、魔力譲渡の取得研究に取りかかった。
前世の知識があったとしても、最初から上手くはいかなかった。
『魔力譲渡』
試しに弱い魔獣相手に魔力譲渡を試みたが、酷い時は魔力を与えた途端に相手の肉体が爆散し、辺りに血と肉を飛び散らせた。イメージがこの世界に適切ではないのだろう。
まだまだイメージを練る必要がありそうだ。
そんな時、書物伝令、メールがジルクからリタに直接飛んできた。
説明を兼ねて騎士団の状況を把握するために1週間滞在しに来て欲しい、とのことだった。その間は騎士団の宿舎に滞在させてもらえるらしい。
以前浄化した霊魂の送り出しや遺族の手紙も順調に複製できていたので、あと数ヶ月でその分は送り出せるくらいになっていた。
今はリタの調合した薬が十分にある事だし、行っても良いとレイズの許可も出た。
こうしてリタは騎士団へ向かうことになった。




