針一本の理由
「ここからは防具屋と武器屋が近い。リタの装備を整えるぞ。」
「レイズ、待って!早いよ〜!」
「ああ、悪い。」
言われて気がつき、掴んだままだった腕をパッと離した。
「迷子になるらしいからアイザックさんも手を繋いでくれてたけど、レイズも心配性だなあ。腕を引っ張られるのは歩きづらいけど手なら大丈夫だよ。はい、手」
アイザックに言われた事を信じていて男性はエスコートして歩く文化だと思い込んでいるリタは、なんて事ないようにレイズの手を握った。
「んな!そんな事してたのか、あいつは!」
そう言いつつもリタの手を振り解けない。
「うん?エスコートするものなんでしょう?」
「それはそうだが、こういう時は別に……し、しかもこの状況では……」
誰がどう見ても恋人同士だ。説明するのも面倒だったので、レイズは黙ってその状況を受け入れることにした。決して邪な考えからではない!断じて!そう、迷子になるからだ!
「じゃあ行こっか!」
「迷子になるからな。そうだな。うん。もう良いやこれで。はぐれるなよ。あっちだ、ついてこい。」
「はーい!」
ギルドを出て中央市場通りに入り先へ進むと、レイズが普段防具を揃えている店に連れて行かれた。
「らっしゃーせー!」
店に入ると、獣人族のガタイが良いひげを蓄えたおじさんが出てきた。耳は垂れていて、大型犬のようだ。ふさふさの尻尾が後ろでブンブン勢い良くふられているのを見ると、やっぱり犬のようだとリタは思った。
「久しぶりだな、店長。今日はこいつの防具を揃えに来た。他の国を旅するのに支障がないものを頼む。」
「クロリア伯爵じゃねえか!元気だったか?!うわっはっはは!」
太く力強い声が店内によく響く。鎧や肘当てなどの防具が所狭しと並んでいる店内は2、30畳くらいの広さだ。
「珍しく空いてるな。今日は人通りが少ないのか?」
「いやー、それがな、最近また頻繁している事件のせいで獣人族の店が敬遠されてるんだよ。ほんっと商売上がったりだ。うちは関係ないってのによお!」
事件の被害は街の防具屋にまで影響しているようだ。
「お前の所なら品質でなんとかなるんじゃないのか?」
「そうでもないな。最近は人族が冒険者を雇って素材調達をしているみたいでな。自分のとこで賄うようにしてるらしい。品質は劣るものの、安全に越したことはないから仕方がないんだろうな。それで、今日はそのお嬢ちゃんか?」
「そうだ。見てやってくれ。」
「ふむ。魔力に応じた防具を繕うから羽を広げてもらえるか?」
重ねていた羽を広げると、大きな4枚の羽を露わにした。
「公爵家様か!珍しいもんだ!!公爵家様に見合うようなもんはこれしかねえ!最高級の防御率を誇る奴がある!待ってろ!!」
「公爵家じゃないですよー……」
リタの声が届くはずもなく、興奮した店主は嬉々として在庫をあさりにいった。
「こ・れ・だあ!!」
奥から声が上がるとドタドタ足音を鳴らしてリタたちの元へ戻ってきた。
店主が見せてくれたのは重厚感のある鎧一式だった。
「この鎧はかの有名な戦士が着用していたシリーズの一種で、素材は普通の鉄でありながらも」
キラキラした少年の目で店主は語り出したが、長くなりそうだったので店主の話にレイズが割り込んだ。
「これはリタには装備するのは無理だろう」
「うん、歩けないね。まず筋力が足りないよ」
「なに?!ならこれはどうだ!アクセサリーの防具で守護が付与されている!このブレスレットを身につけていれば突然の攻撃にも」
店主の話をまたもやレイズはぶった切った
「これつけてみろ。」
「お嬢ちゃん、いいじゃねえか!……あれ?光らないな?」
「ひかるのか、これ?」
レイズがリタの代わりに聞いてくれた。
「装備して適正があれば一瞬光るはずなんだが、光らないな。誰にでも適性があるはずなんだが、残念だったなお嬢ちゃんには適性がないようだ。」
「えーそんなことあるの?」
「ごくまれにだがある。それならこっちのネックレスはどうだ?」
「これもダメみたい?」
「ならこの指輪は?ピアスもか?」
「うーん、反応なしね。」
「おかしいなぁ。これらは流石に誰にでも適性があるはずなんだが……下手に魔力値が高いと適正装備がないのかもしれないな。」
「ええ〜!そんなあ!防具……」
「それなら完全に付与がない、素材だけ上等なガウンはどうだ?これなら適正もなにもない。」
「じゃあ、それでお願いします……」
「自分で防具に刺繍で守護を付与したほうが間違いないんじゃないか?」
「そうだね、でも自分が付与するんじゃなくて、既に付与がかかっている感じが魔法っぽくって憧れてたのに!残念すぎる……」
結局リタが選んだのは虫型の魔獣が吐き出した糸で出来た、軽量かつ丈夫なガウンだった。普段のワンピースにも守護を刺繍し、ガウンにも別の守護を自分で刺繍することで話が纏まった。
「ガウンが売れただけでも良し!金貨一枚な!まいど!」
たっか!と思ったのが顔に出ていたのか、外衣なので普段着の上から纏える利便性があるのと、かなりレアな素材で出来ているらしく、寧ろ非常にお買い得だとレイズが教えてくれた。
たかがガウン一枚と思っていたが、そう聞くとお買い得な気がしてきたので、こうして見ると中々悪くないように思えた。
手触りはまるでシルクのようで薄い生地なのに鋼のようにしっかりしている。まるでリタの羽のような素材だと思った。
自分のギルドカードをこっそりインベントリから取り出し、お勘定を済ませ、商品を受け取ると、サッとポシェットに突っ込むフリをしてインベントリにガウンを収納した。
「毎度ありー!またいつでもこいよ〜」
「ああ、またよろしく頼む。」
「ありがとうございました!」
思った以上に満足のいく買い物ができてリタは上機嫌だ。
「次は武器かな!武器だね?!」
「なんだ嬉しそうだな。」
「冒険に行くみたいでなんだか楽しみで!どんな武器があるのかな!」
「そうだなあまり防具が選べなかった分、武器は何かいいのがあるといいな。俺がお勧めする武器屋はこっちだ。」
「待って、待って!先に行ったらはぐれちゃうよ!私が!」
「分かった、分かった。待ってやるからはやくこい。」
「はい、手をどうぞ!じゃあ行こう!」
レイズがリタの伸ばした手を握る。満更でもないレイズだった。
次にやってきたのは魔族が経営する武器屋だ。
「防具と武器は両方揃う店もあるが、俺は武器専門のここの短剣を愛用している。自分に合う武器の製作もやってくれているから確実だ。ここにしよう。」
「レイズ、短剣なんか持ってたっけ?」
「ジャケットに隠れるから見えないだろうがベルトに引っ掛けてある。俺は魔法も使うから短剣が邪魔にならなくて使い勝手がいいんだ。」
「なるほど」リタは頷いた。
しかし自分1人では絶対に入らなさそうな、おどろおどろしいゴシックな外観に圧倒され足を踏み出せずにいると、レイズがグッとリタの手を引っ張って店のドアを開けた。
「いらっしゃあ〜い?」
店内にはセクシーに胸元がガバッと開いた黒いドレスを着た魔族のお姉さんが気怠げに肘をカウンターに置き、手を顎に当てていた。真っ黒な長い髪に真っ赤な目と艶めかしい唇から覗く牙がなんとも妖艶な雰囲気を醸し出している。
「どうした、いつもの淫乱女はどこに行った?」
「失礼しちゃうわね!淫乱じゃないわよん!今はちょっと暇なだけよ!」
「ほう?まさかあの事件のせいか?」
「あら、よく知ってるじゃなぁい?そうなのよお。魔族が獣人族と人族に嫌がらせしてるだなんて言われてるのよん!そんな暇じゃなかったわよ!」
「ここにも影響があるのね……酷いね。事件に関係があるかもわからない、ただ魔族って言うだけなのに。」
「ぁはん?あなた、だぁれぇ?」
「こいつはリタだ。武器を見繕ってやって欲しい。」
「妖精族ぅ?なら羽を見せなさいよー。どの程度の武器が使えるのかしらん?」
防具屋でやった時と同じように4枚の羽を見せると、防具屋の店主のように目がキラッと光った。
突然乗り気になりだした魔族のお姉さんは、うふふん。とっておきがあるわん。と上機嫌で店の奥に消えていった。
上質な物は奥にどこの店も隠しているらしい。
「どんな武器かな!なにがでるかな!なにがでるかな!」
「なんだその陳腐な歌は。」
「えへへ。こういう時に歌う歌だよ!」
「うふん!あなたにはこれよおん!」
魔族のお姉さんが見せてくれたのは、細長い剣のレイピアだ。
「魔道具なのよん!さあ、適性を見せなさあい!」
「なにそれ、どうやるの?」
「剣を手に持って、ぐっと力を入れて柄を握ってみろ。試しに自分の魔力を流してみるんだ。」
「こうかな?」
柄に魔力を流した途端、手から勢いよくレイピアが弾け飛び、床に落下した。
「だめねえん。良い剣なんだけどお。あなたの魔力なら絶対扱えるはずなのに?じゃあこっちはどお?」
次に渡された剣はレイピアほどではないが、刃の部分が細めの洗練された剣だった。同じように魔力をこめてみる。
しかし、また弾かれてしまう。
「なんでええ!!嫌われてるの?!」
「そういうわけじゃないようだけど……もしかして、あなた既に魔力登録している魔道具をお持ち?」
「あるにはあるけど……武器じゃないんですけど。」
「きっとそれね。武器かどうかは関係ないわん。あなたの魔力がそれと相性が良すぎるのが問題なのん。ここであなたに売れるのは、料理や縄を切ったりするようのナイフぐらいね。はい、これ。銀貨5枚。何もないよりマシだわ。」
それはよくあるハサミや栓抜き、ナイフが一緒になった掌サイズのアウトドアナイフだ。もちろん、ナイフ以外の機能はない。
「え?これ武器って言えます……?」
「旅先で野菜が切れるぞ。よかったな。せっかくだから俺が短剣を一本買おう。後日フューネラルに渡してくれ。」
「あらん、気前がいいわね?2人合わせて金貨3枚と銀貨5枚よん。」
「銀貨5枚せめて払います……ううっ。」
せっかく魔法が溢れる世界に来て、カッコいい防具や武器が手に入ると思ったのに、私の装備は針一本ですか……。
「構わん。それで美味しい料理でも旅先で作るといい。」
くっくっくと笑いが漏れていて堪えられていない。
「バカにしてるでしょー!もう!そんなこと言うんだったら私のナイフはレイズに払ってもらいます!ふーんだ!」
「お安い御用だ。カードで払う。」
「お買い上げありがとうございますわん。クロリア伯爵の剣は調整してからフューネラルに渡しておくわねん。」
「ああ、それじゃあ、また。」
店を出てからリタは憤怒していた。
「こうなったら一言でもあの老婆に文句を言わなきゃ気がすまないわ!防具も武器も片っ端から装備できなかったのは、絶対この針のせいでしょ!」
「お前はその老婆がどこにいるか分かってそっちの道に行こうとしてるのか?」
「そうよ!確かこっちだったはず!」
「いや、違うな。こっちだ。」
「え?レイズも場所を知ってるの?」
「アイザックから場所をメモってもらったんだ。はあ……お前は本当に手を繋いでいないと迷子になるんだな。ほら、手を貸せ。こっちだ。」
今度はレイズからリタの手を求めた。
ほわっと甘い感じが好きな人はブクマをどうぞ。ドロドロに甘いのが好きな人もブクマをどうぞ!そして感想か評価で教えて下さい!^^




