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私の種族はなんですか?

アイザックから渡された手鏡を覗き込むと、私ではない女の子がいた。これはあの有名な鏡よ鏡、この世で一番美しいのだーれ?の魔法の鏡だろうか?


クルクルと鏡を回してみたり、逆さにしたり、裏面を確認したりするリタの様子を見てニコニコと微笑むアイザック。


ただの手鏡のようだ……、とようやく納得したがもう一度手鏡を覗いて見ると、そこにはやはり自分ではない女の子が見つめ返している。


肌は透き通るように白く、明らかに日本人のそれではない。薄く明るいふんわりとウエーブのかかった緑の髪の毛と緑の瞳にパッチリとした大きな目。ファサファサと音まで聞こえてくる気がするほど長く、くるんっと上を向いたダークグリーンのまつ毛。鼻は小さくともツンと高く、瑞々しい唇はぷるんっと整っており、まるでさくらんぼのよう。口元にある艶ボクロがあどけなく見える容貌とは裏腹に妖艶な存在感を主張している。年齢は16、17歳ぐらいに見える。


あら、可愛い、なんて首を傾げながら手を頬にやると、鏡の中の女の子も同じ動きをする。あ、これ、もしかして私か?!と驚いた顔をして鏡から顔を離すと女の子もまた遠のいた。なんとなく元の顔の原型が残っているような気がしないでもない。


そう、もしかしなくてもこれは私だ。でも、なんで見た目まで変わってるの?構造が変わればいいだけじゃないの?あ、でも動物と比べると人間の鼻が高いのは、言葉を発音するためだとか、鼻の穴が下を向いているのは泳ぐためだとか言われている。

この世界に適応するためにはこの容貌である必要性があるのかもしれない。


「どう?以前の君に少しは似ているのかな?」


「いえ、ほぼ別人ですね。」


流石に違いすぎて動揺が隠せない。決して美人ではなかったが、30年も連れ添った体だ。愛着がなかったわけではない。とは言え、こうなってしまった以上どうすることもできないだろう。

はあ、と重いため息がこぼれた。


「体が作り変えられて、この世界に適応できるようになったんだ。多少違うのは仕方がないよ。君の容貌が変わっていることに自覚が出てきた所で、種族の登録をしよう。」


どうやって種族が分かるんだ?という疑問を見透かしたかのように、朱肉のようなクッションに小さな針が突き出た物体が目の前に置かれた。


「少しチクッとするんだけど。この針に親指を押し付けてくれる?そしたら種族を記載する欄に、血判を押してみて。唾液でもいいんだけど……魔力の大きさが測定できないから、血判の方がいいと思う。」


唾液を紙に付ける方がなんとなく恥ずかしい上、魔力の測定ができないのであれば多少痛くても仕方がない。言われた通りに指を押し付けると、チクッとした痛みの後、プクッと血が親指から湧き出てきた。


名前の下の空欄にそれをグイッと押し付ける。


血判が魔用紙に染み込むように、じわりじわりと血判だったものが空欄全体に広がり、赤く染め上がった。

一瞬ピカッと光ったかと思うと、妖精族という文字が浮かび上がった。


「うん、これで種族の登録も完了。君が生まれながらの妖精であれば、本来は妖精王がやるんだけど……異世界人は私の管轄だからね。

妖精王への挨拶はまた後日にしよう。とりあえず、これで君は妖精族であることが無事証明されたよ。」


驚きの原理である。この魔用紙はDNA検査までできるのか!魔法って凄い。

段々とこの状況に慣れ始めている自分にも驚きだ。


「ちょっと待ってね。魔力が測定されているから。」


アイザックから渡されたハンカチを受け取り、お礼を言いながら親指の血を止める。今度洗って返そう、いや、血がついたのを返されても嫌だろう。新しいの買って返すか。あ、お金ってどうしたらいいんだろう。詰んだな、これ。


「ハンカチ、今度洗ってお返しします……」


苦し紛れに、洗って返す提案をすると、あげるよ、と爽やかな顔で言われた。

ですよねー、血がついたハンカチとかいりませんよねー。はあ、お金稼ぐか……でもどうやって?


今後ここで生きていくことに若干の不安を抱きながら、しばらく二人で紙を見つめていると、妖精族の文字の下にある空欄が光り始め、そこを起点に2cmほどの光の帯が紙を横切った。光がゆるゆるとおさまり、次に色が浮かび上がる。

種族名が表れた時と同じように、一瞬ピカッとまた光ると、光の帯は真っ黒に染め上がった。


「流石は異世界人だね。最強の魔力だ。」


無表情に見えるが、言葉は少し冷たい感じがした。


しかし、私からしたら最強で当然だろうと思った。あんな痛い思いをしたというのに最弱だったら、元の世界に戻せ、というかなぜ転移させた!と、この状況を生み出した元凶を殴り飛ばした事だろう。


苦い顔をした私をチラリと横目で確認すると、帯から下の欄をアイザックが埋め出した。


「性別は女性で、住まいは明日案内する場所ね。年齢は、へえー17歳なんだ?」


「え!私30歳……です……」


ごにょごにょと最後は声が小さくなってしまう。お恥ずかしい。若作りしたわけではないけど。


「そうなの?私の5歳下じゃないか。でもなんでだろう?実年齢が記載されるはずなんだけど……年齢の数え方も同じだと聞いているし。時間が逆行したのかな?そういうことも稀にあるとも噂には聞いていたけど。とにかく、この世界で君は17歳だよ。」


「はあ、左様ですか。」


時間軸が世界線で異なるのか?この世界は不思議で満ち溢れている。若返る分には不満はないが、混乱はする。


「推測も一応書いておくか。実年齢は30歳との申し出あり、これで良し。備考欄も記入確認!完了っと。」


最後の仕上げにアイザックが署名すると、魔用紙が全体をキラキラと瞬かせ粒子になって消え去った。


「まあ、妖精は老化が人族に比べて遅いから、ちょうど良くなるんじゃない?でもこの世界で自己紹介するときは17歳ね。」


「私は17歳……」


「はい、リタちゃん。よくできました!」


もう完全に子供扱いである。ニコリとした微笑みに小さな罪悪感が心に生まれた。


「見た目が変化しているから、生活上、今まで通りとはいかないよ。17歳の扱いを受けるだろうから、夜道には今後気をつけてね。」


コクリと頷きを返す。


「ありがとうございました。」


「いえいえ、これが仕事ですから。さっき魔用紙を妖精王に送っておいたから、明日には妖精の力が使えるようになっているはず。今夜はもう休んで、羽のことは明日にしよう。

ここの客室に泊まっていくと良い。案内するよ。」


至れり尽くせりである。


スッと立ち上がると、またエスコートされ、部屋を移動した。先ほどの赤いカーペットを歩き進めると、暫くして階段が見えてきた。


3階もあるのか。


階段を上がるアイザックに連れられ、最初に転移してきた時の部屋に取り付けられていたドアと同じ重厚感溢れる扉の前に着いた。


「今後の詳しいことは明日説明するから、今日はゆっくり休んで。また明日10時ごろ迎えに来る。ランプは触れるだけで消えるからね。」


アイザックが扉を開けるとそこはビジネスホテルの一室のような空間が広がっていた。壁には時計がかかっていた。時の刻み方に違いはなさそうで、夜中の2時を指している。


部屋に足を踏み入れ、アイザックに振り返りお礼を言う。


「こんな夜遅くまで、何から何までありがとうございました。また明日よろしくお願いいたします。」


また明日、と声をかけられ、パタンとドアが閉まる。ここにもドアノブが内側に存在していない。やっぱり窓もない。その代わり、本来であれば窓がある位置に、ランプが取り付けられていた。


一時期的に監禁されているような状況に不安を覚えないこともないが、それよりも疲れた。羽ってなんだろう?お風呂も明日の朝でいいかな。

準備がいいことに、ベッドの上にはローブが置いてあった。


着ている服を脱ごうとして、はっとした。これは私の服ではない。ホームレスに追いかけられて脱げたヒールさえも別の靴になっていた。


いつの間にスーツからワンピースに着替えたのだろうか?薄い緑で、透け感はあるが決して肌の色は見えない。ワンピースは背中が大きく開いており、力を加えるとすぐ千切れてしまいそうなほど細い紐で吊り下げられている。良く見ると生地が花模様のレースになっている。裏地にシルクのような生地が当てられている。遠目で見ると、無地に見えるが、ランプの光が当たるとレースの模様が浮き出る。


見たところ汚れていない。艶々と輝く生地は軽く、とても快適だ。この上にローブを羽織って寝るか。


難しいことを考えるのは明日にしようと決め、ベッドの上に体を投げ込んだ。興奮して寝れないと言う事はなく、意識をすぐに手放した。


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