王宮に行って来ます!
「リタ!行くぞ!何してるんだ!」
朝の5時半からリタとレイズは準備に忙しくしていた。前日の夜にレイズは魔法陣を起動したり、今日の会議と昼からある面会のために時間を調整して休息をとったりなど準備をし、慌ただしく過ごした。十分な睡眠が取れているはずだが、1週間も夜勤生活をしていたのでまだ調子がでない。
「待って、待って!髪型おかしくない?服装はどうかな?靴これしか持ってないんだけど!良いの?」
リタが選んだのは、ペネロペにお任せして選んでもらった一枚のうちのワンピースで、スカイブルーのものだった。全て総レースでできた繊細な一品だ。光が当たるとわずかに花柄の模様が入っているのがわかる。自分で作り出した魔力のワンピースとどことなく似た雰囲気があった。Aラインのワンピースでフリルはなく、かっちりして見えるのでこれにした。袖はなく、襟元はVカットで際どいところまでスリットが入っているが、レースで上から覆われて隠されているので、下品にはなっていない。背中が羽のためにがっつり空いているが、羽を背中に重ねてしまうと背中の露出が見えなくなるので、あまり気にならない。
髪の毛は下ろしていると王宮にそぐわないかもしれないと思い、数日前フューネラルに頼んで買って来てもらったリボンでハーフアップにしてまとめた。
「大丈夫だ!お前は、その。いや、お前ちゃんと魔力袋に針しまったか?!」
「しまってあるに決まってるじゃない!なんなの急に!それより大丈夫かな?どう思う?」
「はいはい、可愛い可愛い……いいからさっさと馬車に乗れ!」
「何よ適当すぎるー!ちょっとー?ねえ、フューネラルさん!大丈夫かなあ?」
「リタ様は、それは、それは美しゅうございやすぜ。その服もお似合いですが、きっと何を着てもリタ様ならばお似合いになることでしょう。まさか旦那がこんな可愛いお姫様みたいな子を屋敷に隠していたとは、いやはや人とは見た目に依らないといいますか……」
「その含みのある言い方はやめろ!それとリタが今後はいるから、その『旦那』って呼び方もやめろ!!勘違いされるだろ!!」
「おや、旦那、お顔が赤くありや……「赤くなってねーよ!!!レイズでいいから!頼むからもうレイズって呼んでくれ!!」
「あっはっは、ではレイズ様とお呼びしやっさー。長年『旦那』で呼んできていやすから、間違えることもあるかもしれやせんけど、ご容赦くだせえ。」
ニヤニヤしながら言うフューネラルにイラっとするが、これ以上反抗すると何を言われたかわからない。黙ってやり過ごした。普段フューネラルも身なりの気を使うのが面倒臭いので薄汚い格好をフードとマントで覆って隠しているが、今日だけは従者代りとして綺麗な身なりをしていた。
「綺麗な馬車ねー!本当に、お姫様が乗るみたいな馬車!馬もすごくかっこいい!」
「リタ様がお乗りになられると聞いて、あっし、レイズ様に言われて必死になって良い馬車を配送場から探してきやしたんでやす!妖精族の女の子だと聞きやしたんで、それに相応しいものをと思いやして!」
「そうだったの?なんだか手間をかけさせてしまったかもしれないわね、ありがとう!」
リタは満面の笑みでそうフューネラルに答えると、プイッとレイズがなぜかそっぽを向いて、さっさと馬車に乗り込んで行った。何か気に入らないことを言ってしまったのだろうか、とレイズの様子を窺っていると、ニュッと手を馬車から出してきた。どうやら引っ張り上げてくれるらしい。
レイズにもお礼を言っておこう。
「レイズもありがとう、フューネラルに馬車を頼んでくれたんでしょう?すごく素敵で気に入っちゃった!嬉しい!」
素直な気持ちを伝えると、お礼を言われ慣れていないレイズは顔を少し赤らめ、ぶっきらぼうに、
「さっさと手を取れ」と言ってきた。
そんな様子でも手を差し出してくれたことが嬉しくて、リタはふふふっと笑みをこぼし、レイズの手を借りて馬車の中へ乗り込んだ。レイズの隣にリタが座ると、口をパクパクさせて何かを言いたげなレイズだったが、リタが首をかしげると、今度は慌てた様子でなんでもない!と言って窓を見始めてしまった。
レイズがボソッと、やっぱり針しまえてないだろ……と言ったのは誰の耳にも聞こえていなかった。
二人ともまだ体内時計が整っていないこともあり、馬車の中に乗り込んでしばらくすると二人とも寝てしまっていた。
馬車が減速したことでふっと目が覚めたリタは外がガヤガヤしていることに気がついた。半覚醒状態で耳をすませていると、どうやら関所についたようだった。
「クロリア伯爵とネクロマンサー補佐殿をお連れして王宮に行きやす。今は馬車の中で休んでいらっしゃいやす。」
「そうか。お休み中悪いが、確認はさせてもらうぞ。」
「へい、わかりやした。伯爵!補佐殿!関所につきやした。確認のため扉を開けやすが、よろしいですかい?」
隣を見るとレイズはまだ寝ているようだったので、リタが代わりに答える。
「はーい。大丈夫ですよ。まだレイズが寝てるから静かに開けてね。」
リタの注意通り、静かにフューネラルが扉を開けた。
憲兵がひょいっと顔を覗かせ、騎士の礼をとったので、ニコリと笑みで返した。憲兵はそれを見て機嫌が良くなり頷くと、声を落として話しかけてきた。
「補佐殿は妖精族でしたか。これまたお美しい妖精族さんですね。アメリゴ都市へようこそ。王宮まではもうすぐですので、それまでごゆっくりとお過ごしください。」
リタも同じように静かに答えた。
「ご丁寧にありがとうございます。行ってきます。」
リタが行ってきます、と言ったのがよほど嬉しかったのか、憲兵は勢いよく手を口に当て、ゴフッと慌てていた。リタは特に気にせず、とりあえずニコニコしておいた。
そうしたやり取りの後、無事馬車は進み出し、リタたちは王宮の前に着いたのだった。
……
「ここが王宮……!広いねー!」
王宮はアメリゴ都市のど真ん中にあり、王宮の半径2kmは木々で覆われている。さらにその敷地は100mぐらいの幅がある池に囲まれており、お堀になっている。王宮に行きたかったら橋を渡らなければならない。その橋を騎士が守っており、身分を確認してから入場が認められる。今はその橋の前で騎士に止められていた。
「止まれ!」
「クロリア伯爵とその補佐殿をお連れしやした!」
「馬車の紋章を見る限り本物のようだな。会議だと話は聞いている。お顔だけ確認させていただく。」
配送場から馬車を借りた後、取り外しのきく紋章の彫られたプレートを取り付けてあったので、誰が乗っているのか分かるようになっていた。
「扉をまた開けやすよ?よろしいでっさ?」
「ええ、大丈夫よ。レイズ!ちょっと!流石に起きて!もう着くよ!」
「んーまだ朝じゃないか。」
「……寝ぼけてる!」
ガチャッ
「お休みのところ申し訳ございません。クロリア伯爵でいらっしゃいますね。確認できました。補佐殿はお初にお目にかかります。」
「ご苦労様です。」
騎士はリタに頷きを返すと、さっと礼をして、それ以上は何も言わず持ち場に戻って言った。
内心、起きろ、レイズ!!とヒヤヒヤしながら様子を窺っていたリタだったが、騎士が何も触れずに去ってくれたことに安堵した。目の前で起こせと言われたらどうしようかと思った。
「馬車が行けるのはここまででやす。ここからは歩いて行って下せえ。」
「なんと!馬車で行けるのはお堀の前までなのね?!起きて!レイズ!ねえレイズってば!」
全く起きる気配のないレイズに困っていると、フューネラルは悪戯を思いついた。
「リタ様、レイズ様の耳元で、起きて、一緒に朝を迎えちゃったね、と言えばすぐレイズ様は起きやす。ぜひお試し下せえ。」
「そうなんだ!流石付き合いが長いだけあるね!やってみる!」
フューネラルの思惑を知らずにリタは言われた通りのことをレイズの耳元で囁いた。
「起きて、レイズ。一緒に朝を迎えちゃったね?」
「うわっ!!!ええええ!!!まさか!ヤッたのか?!」
「おお!起きたね!フューネラルの言った通りだったよ!ありがとう、フューネラル!」
「いえいえ、お力になれたようで何よりでっさ!」
「フューネラル!お前の入れ知恵か!」
「はて?なんのことやらわかりやせん。」
「もう!フューネラルは起こすのに知恵を貸してくれただけだよ!ほら!行くよ?」
「なんだ、着いたのか。うーん」
レイズは勘違いだったことにホッとした顔を見せ、伸びをした。
残念なような気持ちに一瞬なったが、なんでちょっと俺は残念がってるんだ!と寝ぼけた頭を起こすようにフルフルと首を振った。
さあ、王への挨拶と会議を済ませてしまおう。
会議が開催される場所はいつも同じ場所とのことで、入口を入ってから左に曲がり、まっすぐ廊下を進んだら右で、5つ目の扉の中とのことだった。言葉で説明されただけなので不確かだが、聞いた限り迷いそうにはないので、最悪周りの人に聞こうと思った。
王への挨拶に関しては、面会待機室にまずは行く必要があるらしく、レイズがそこまで一緒に同行してくれた。入口から三階まで階段を上って連れてこられた待機の中は、病院の待合室のようになっており、受付のような場所があり、そこで執務を行なっている人たちが優雅な空気の中働いていた。どうやらまだ私だけのようだ。
レイズがそこで何やら書類を渡されそれに書き込むと、長椅子に腰掛け呼ばれるまであとは待っていればいいと教えてくれた。
「じゃあ、また後でね。」
「面会の方が先に終わるだろうから、ちゃんと会議室に来いよ。もし入れ違いになりそうだったら入り口で待っておけ。」
「はーい!」
「あとキョロキョロしてたら「もうわかったってば!子供じゃないんだから!」
「はあ……わかった。じゃあ俺はもう行く。」
「行ってらっしゃい!」
「リタ・サルヴァドールさん、いらっしゃいますか?」
レイズが去って行ってすぐに呼ばれたので、案内係の女性に連れられて奥に向かった。
扉の前で止まると、部屋に入るように言われた。
「中へお入りください」
「ありがとうございます。」
女性が扉を開けてくれたので、足を先へ進めると後ろでバタンと扉が閉まった。




