魔法で出来ることと出来ないこと
ボタッ
「うがああああああ」
もはや何回目のポタッだろうか、わからない。1枚の紙は真っ黒になり、かけるところは見当たらない。
「あー無理よ、私には無理なんだわ。コピペできないの、これ。複写魔法とか絶対あるでしょ、絶対。請求書とか出す業務の人はどうしてるのよ。見積書とか請求書発行するだけで1日が終わるわよ!!!」
いったいリタに以前何があったのかはわからないがとても怒りが込もっているのは確かだ。そうだ、スキャナープリンターよ。具現化できないの?
『スキャナー』
今まで詠唱して何の音沙汰もないのは魔力欠乏を起こしている時だけだ。ペンの練習でまさか?!と思ってポシェットを除いて見たが、しっかりタブレット型インベントリが入っていた。
「物体となると、具現化できないのかな?魔法も万能ではないのね。ということは、例えば箸とかもダメなのかな。お箸が欲しいですー!!!!」
『箸』
ダメでした!!!
「オーケー落ち着くんだ私。業務効率化よ。さあ、考えるんだ……あっわかったかも。」
一応紙も観察してみたが、普通の紙のようだ。ならば魔力をインクのように使うのではなく、魔力に色をつけて、紙に傷をつけるイメージかもしれない。ちょっと考えただけでヒントが浮かんだ。便利な頭の中である。これでいけるはず。
『執筆』
キター!!!天才かー!!
微妙な魔力の使い方にコツを掴んでからというものの、スラスラと書くことができるようになった。文章の終わりまで書くと、ペンを置いた。ボツになった場合を想定して、宛名はまだ書かない。
「一枚書き上げるのに1〜2時間ぐらいかかったんじゃないか……この部屋時計がないわ、なんてこと!時間なんか気にしている場合かとでも言うの?ああ、言いそう……」
書き終わった一枚の誤字脱字や書き間違えがないかをしっかり確認したが、出来栄えはまずまずと言ったところだった。どことなく、たまに線が太い気がするし、色も濃かったり薄かったりまちまちだ。悪くないが、よくもない。リタがやろうとしていることは、完璧な一枚を仕上げてからようやく手を出せる試みだ。
「うふふっ。そのためならば、もう一枚書くわよ!次こそは完璧な一枚を書いてやる!」
気合が入ったリタはまた机に向かって同じ作業を繰り返した。魔法はイメージ、魔法はイメージ!と頭に浮かべながら作業を続け、5枚目が終わったところで、かなり満足の行く一枚が出来上がった。
「これよ、これ!これこそが吾輩の求めていた代物ふっはっはっはー!」
たった5枚のようだが、不慣れな方法で書き、長い時間のかかった5枚だ。リタはお手紙を書く達人になりきっていた。そう、魔法はイメージなのだ。単純なリタは形から入ってみたのである。だが達人ごっこはもうこれで終わり。今からは職人さんになるのだ。
「さあ今こそ!紙とインクめ!我が事務職歴8年間の能力を思い知るがいい!OLの秘技コピペだ!!!『コピー』!!」魔力で書いた手紙になら適用されるはず!!!
リタはコピペ職人になった!
リタの詠唱で、魔力で書いた文字全体が白く発光しだした。
「これは選択の状態になっているのかな?」
試しに全体選択になっているはずの文字を指でズズズッと動かし、新しい紙に指を乗せ、『ペースト』と詠唱した。
「この世界の人たちも、こうやって複製してるのかな?でもコピペの文章でいいのかな……一応聞いてみよう。」
手書きの5枚とコピペの1枚を持って、レイズの仕事部屋に向かうことにした。
トントントン
「レイズー、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今良い?」
「ああ、いいぞ、入ってくれ。」
扉を開けるとレイズも執務机に座って何か書類を読んでいた。レイズの仕事部屋には作業台が一つとそれとはまた別に執務机が一つあり、他にも何に使うのかわからない道具がいくつか床に置かれていた。
「今忙しくなかった?大丈夫?」
「ああ、遺体が1日1回運ばれてくるかこないかなんだが、今日は遺体が運ばれて来ない日のようでな。普段ならそこで遺体の修繕作業をやっている。今日はアイザックから預かったお前に関する書類と王宮への手紙を書いていた。」
「そうなんだ、開ける時は細心の注意が必要なドアなのね……わかったわ。レイズが王宮に行くの?」
「俺は今後のクロリア地における運営方針に関する会議があるんだ。リタも王宮に行く必要があるからその時一緒に行こう。王への挨拶に俺は不要だから、お前も会議の間に面会を設定するといいかもしれない。」
「え、私も王宮に行く必要があるの?」
「そうだ、リタにもアイザックから預かった王宮からの手紙がある。人族の王との面会だそうだ。渡しておく。返事も今日書いてもらえれば、明日には運び屋が来るだろうから渡しておくぞ。」
「そういえばアイザックが言ってたような……!そういうことね、なら王との面会が終わった後に会議に出席っていうスケジュールかな?」
「逆だ。死者の眠りの時間は朝から夕方までだ。滅多なことでもない限り昼間に出歩くことはない。会議のある時間帯はクロリア地一帯を魔法陣で封鎖する。俺の魔力で起動させるから時間に限りはあるが、1日ぐらいは余裕で持つ。1週間後の朝9時から会議だから面会もその日、その時間に設定してくれ。会議は昼には終わる。お前の面会が先に終わったら、こちらの会議に来てくれ。俺が同行して王宮に行くとも書いておいてくれ。書き終わったら一度見せてくれるか?」
「わかった、じゃあ面会の時間は9時にって返事出しとくね!」
「それで、なにか用事があったんじゃないのか?」
「そうなの!6枚書いてみたんだけど、一回見てもらえる?」
「ああ、見てやろう。貸してみろ。」
6枚をレイズの前に並べると、レイズはじーっと観察した。
「これとこれとこれは残念ながら破棄だな。だが他の3枚は問題ない。引き続き書いてくれ。」
レイズの挙げた3枚は最初に書いたもので、やはりインクの色や太さに問題があったようだ。
「あれ?気がつかない?この3枚をよーく見て?」
ボツになった3枚を取り下げ、コピペが1枚混じった状態だ。
「んー?あれ、この2枚全く見栄えが一緒だな?何をした?」
「お!気づいたか!これはねえ複写したの!」
「もうそんな繊細な魔法が使えるようになったのか!その魔法は人族でも庶務に長けた者でないと取得も難しいというのにお前は……あ!また魔力欠乏を起こすんじゃないか?!」
「えー、つけペンでなんとなく魔力の扱い方も分かってきたし、そんなに魔力使ってない気がするから大丈夫だと思うよ?」
「魔力の残量値確認はどうやっている?」
「感覚?」
「今日の分の手紙を書き終える前に教えておいた方が良いな……」
呆れた顔でレイズは魔力値の確認方法を教えてくれた。
「目を瞑れ。俺の言う言葉をその状態で想像してくれ。わかったか?」
「はい!」
言われた通りに目を瞑っているとレイズが説明を開始した。
「自分に流れている血が全て魔力である想像をしろ。」
「うん。」
「それはお前の皮膚の中に全て敷き詰まっている。体の中身は全て魔力なんだ。お前の場合は羽から大気中に溢れる魔力も集めることができると同時に、体内にある魔力を羽から放出することもできる。体内に保有できる魔力は限りがあるから、上手く羽で排出したり、逆に取り込んだりするんだ。それがお前の魔力の動きであり、お前の呼吸の仕方だ。」
レイズの説明で、口や鼻で呼吸するするように、羽で呼吸するようにして自分の魔力は体を巡回していると言うことを理解した。言葉にされて、初めて自分の羽が膨大な魔力の塊であり、魔力を司る器官であることがわかった。
「無尽蔵に魔力を得ようと思えば得られるのね?」
「そうだ。一度に使える魔力は自分が保有する魔力値だから、魔力値が低ければ使える魔法も限られる。だが、お前ならば。魔力の動きがわかりさえすればそれも可能だろうな。」
「ありがとう、自分の体や羽にこんな力があっただなんて思いもしなかった。言われないとわからないものだね。」
「まあ、何かの拍子で気がつくことはあったかもしれないな。じゃあ、もう一度目を閉じろ。」
「はい!よろしくお願いいたします!」
「今身体中全体に魔力が溢れていて、保有できなかった分が羽から放出されている流れを感じると思う。頭から手足の先まで全てが満たされているのがわかるだろう?」
「うん、私の肉は緑色なのね!」
「それがお前の魔力だ!お前の血は多分赤い。多分な。」
「何よそれー!あ、これが私の魔力の色かあ!」
「そうだ。お前は木の属性が強いらしいな。だがそれしか使えないというわけではなさそうだ。他の属性も感じるし、あるにはあるようだから、時間がある時に自分で木の属性を抑えて他の色も探ってみるといい。」
「水色はあるね!」
「わかった、わかった。また後でやってくれ。とにかく魔力の残量値というのは、身体中が魔力で満たされている状態かどうかで判断する。今のお前は起きたばかりでかつ、魔力袋を常に使用している上、魔力で手紙を書いた。ということは完全に満たされている状態よりは少し緑が薄まっているはずだ。」
「そう?ものすごく真緑だけど!濃い緑茶よ!」
「緑茶?そんな高級な色して不釣り合いだな。やめちまえ。」
「ひっど!あ、緑茶って高級なんだ?じゃあ私、高級な女?ウフフッ」
「あ、お帰りはあちらです。」
「調子に乗りました、すみません。」
口では冷たいことを言っているように聞こえるが、終始楽しげにレイズは言葉を交わしてくれた。
「初めて発動した魔法を使ってもあまり削られないのかもしれないな。どの程度の難易度なのかにもよりそうだが、そういった考察も今後自分でやると良い。どれくらい使ったら自分の色が薄まって行くのか、最初は探り探りやっていくしかないな。」
「なるほど、勉強になります!」
「よし、複写ができるのならそれをガンガン使って一気全部に書き上げてこい。」
「それはどうなの?ブラックなのここ?そうなのね?」
「ブラック?なんのことだ。冗談だよ。とりあえず残りの17枚を書き上げてこい。今日はさっきので魔力の勉強は終わりな。次は薬作ってもらうから。」
「うえええええ……終わりじゃないのー?」
「陽が落ちたら霊魂の送り出しもやるからな。これから俺と同じ時間帯で行動してもらうぞ。朝方から昼までお前も寝る時間だ。今は働く時間!」
「うわーん夜勤じゃなーい!お肌がー!お肌がー!」
「お前まだ17歳だろ?なんとかなるって。」
「あ、そうだった。じゃあいける……かな?」
チョロイ。リタを丸め込むのが上手なレイズだった。
……
その後はひたすらコピペを行い、自分宛の王宮への手紙を書き、祭壇の準備を手伝って霊魂を送り出した。途中10体目の霊魂あたりでレイズがダウンして、ご飯の休憩をいれて、また霊魂を送り出した。1体送り出すために、長い祝詞を唱えてから送り出すのだが、これがないと魔力が高まらないらしい。冥土への扉を開けるのが一番大変だとのことだった。
霊魂が冥土に送られて行く光景はおどろおどろしく、正直にいうと怖かった。祭壇には扉が置かれてあり、その扉がまたなんともゴシックな雰囲気があり恐怖を助長させていた。祝詞を唱えている間、扉の隙間から煙が吹き出し、部屋全体の床を真っ白に染め上げる。リタやレイズの足元が見えなくなった頃、扉の中から今度は白く細長い腕が一本現れる。それが霊魂に絡みつき、霊魂は身動きが取れなくなる。どうみても貞ゲフンゲフン。
絶対霊魂も怖いだろ!という感じがするのだが、大人しく掴まれていて、そのチグハグな様子が余計に非現実的な世界を演出している。そうこうして扉の隙間が徐々に、徐々に開いて行くのだ。最後だけ一気にバーンと扉が開くと、暗闇からまた無数の手が伸びてきて、霊魂を攫っていき、勢いよくバタン!と扉が閉められて終了だ。
思わずきゃー!!霊魂!!!大丈夫?!と叫びそうになるぐらいの勢いでさらっていかれる。本当にあれで浄化されているのだろうか……不安だ。
だが、レイズが言うにはこれで良いとのことだった。一体、一体の送り出しが終わるたびにレイズは部屋の奥に置かれた大量の瓶を一本一本開けて行く。魔力を補っているらしい。
こうして休憩を挟みながら送り出しが終わったかと思うと、足りないとかで、魔力を回復する薬を作ることになった。魔力を回復するための素材を領地で集める必要があり、どこに何があるかを教えてもらった。
調合する方法が書かれた本をリタの執務机に置いておいたから取ってこいと言われ、取りに行き、レイズの仕事部屋に戻った。そうして集めた素材の調合もレイズの仕事部屋で行うらしい。
こうした日々が1週間、休みなく毎日続き、王に面会する日を迎えた。




