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異世界転移で妖精になったので、針一本で厄介ごとを片っ端から解決していきます!  作者: 春夜くる佳
第一部 人族の国

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クロリア地に向かいます3

「手なんか湖で洗うんじゃなかった!いつもなら放っておくのに、人前だからって気ぃ使っちまったからだ!」


フューネラルは自分を責めた。


「あっしのせいであの従者が死んじまう!あっしのせいだ……」


真っ白になるほど握った手綱にさらに力を入れる。


アイザックの言う通り、今は遺体の損失を気にしている場合じゃない。


「すまねえ、死者さんよ。こんなことになると思わなかったんだ。出来るだけ気をつけて行くから今回は勘弁してくれ……偉大なる創造神のカイルスと大地を司る素晴らしきサートゥルよ、この死者が安らかな眠りを得られるようお守りください。そして愚かな人族にどうかご慈悲をお授け下さい……」


フューネラルは死者への弔いの言葉と神に祈りをブツブツと捧げ続けた。




ようやく屋敷に一時間後到着し、音伝令をポケットに忍ばせていた魔法石を使って鳴らす。魔力を持たない市井の民は、魔道具を起動するのに魔法石を必要とする。この世は魔道具に頼った生活をしているので、魔法石は常に携帯しているのだ。4時着予定が、魔獣のトラブルで5時を過ぎていた。


「クロリア伯爵!!すいやせん!遅れやした!!でも魔獣が出たんでっさ!!」


普段ならすぐ返事があるのに、レイズの返事がない。遅刻一回で専属を切ることにしたのか?それともご立腹なのか?判断が付かない。フューネラルは焦った。


もう一度魔石を音伝令に押し当て呼び出しを試みる。


「遅れたのは申し訳ないっすが、ギルド長と従者の方が襲われていやす!!!……伯爵!!!」


その頃レイズは珍しくまだ寝ていた。朝方すぎても仕事が終わらず、昼頃まで霊魂の送り出しをしていたのだ。魔力を限界近くまで使ったことで、深い眠りについていたのだ。


屋敷内にいないのか?物理的にドアを叩けば屋敷を離れていても聞こえるかもしれない。


ドンドン!!!ドンドンドンドン!!!


フューネラルは力一杯、何度も扉を叩き続けた。こんな時に自分にも魔力があれば、と悔やむ。しかしそうも言ってられない。


フューネラルに出来ることは、とにかくドアを叩き続けることだけだ。


拳が赤くなり、擦れてヒリヒリしてきて、もうこれ以上は腕の力が限界だ、という所でやっと音伝令に反応が返ってきた。


「どうした、ドアを叩くな。すまんな、寝ていた。今そちらに行く。」


それだけを伝えると、フューネラルが何かを言う前にブツと音が途切れた。


寝ていただけだと知れて、フューネラルは安堵した。専属が切られるわけじゃない、とアイザック達のことより自分を心配してしまう卑しい自分が嫌になる。


ガチャ


「クロリア伯爵!!」


ドアが開くと勢いよく伯爵に詰め寄った。


「魔獣がでやした!」


「なんだと?!普段死者に魔獣狩りもさせているのに、なぜ?」


「キャナズマットでっさ!それより、ギルド長と従者が戦っていやす!!助けて下せえ!!」


「部外者を入れたのか!!それとも尾行されたか?」


「王宮の手紙があるとかで断りきれやせんでした!!」


「なるほど、分かった。詳しい事は後で聞く。キャナズマットは今どこだ。」


「湖の方でやす!」


「そろそろ死者も動き出す時間帯だ!俺は助けに向かうから、死者の抑えが緩まる可能性がある。お前は屋敷に避難してろ。」


「すいやせん……全部あっしが悪いんでやす……」


「弁解も後で聞いてやる。霊魂、こことフューネラルを頼む。」


ふわりと青い光が舞い、フューネラルを客間へ誘った。


「次から次へと面倒なことを起こすな、あいつは!」


レイズはリタが魔獣と一悶着あったのを知らないので、レイズはあくまでギルド長たちを連れてきてしまったことに対して言っている。


二階のリタの部屋をチラリと窺うが、まだ眠っている気配がする。


「また湖の方面か。リタが湖で何かしたのか?あいつが魔力欠乏を起こしたのも、魔獣が原因だったのか?」


とりあえず急ぐか。


『爆風!』『状態維持!』


レイズは風に乗って湖の方へと急いだ。


……



「馬車がありました、お館様。馬車は無事ですね。」


「そのようだな。それより日が落ちて来たな。急いで伯爵の元へ向かおう。死者もそろそろ動き出す時間だ。」


「そうですね。伯爵がいるので襲っては来ないでしょうが、万が一ということもありますでしょうし。」


「私が御者の席に座ろう。お前は中で休んでいたほうがいいだろう。」


「お館様、私を侮っていただいては困ります。これも私の仕事の範疇でございますから、お気遣いなく。さあ、お入りください。」


ヴァンピーロはアイザックに有無も言わさず扉の中にアイザックを押し込んだ。

中を見ると、リタの荷物も自分のカバンも無事だった。


ため息を一つ漏らすと、呆れた顔でアイザックはわかった、とだけ伝えた。


しばらく馬車で進んでいると、突然馬車のスピードが減速した。


「どうした?」


また何かあったかとヴァンピーロに尋ねる。


「伯爵が来ました。中でお待ちください。」


「魔獣が出たと聞いた!大丈夫か?!怪我は!」


「問題ありません。私が少々血を失っただけにございます。クロリア伯爵とお見受けしますが、お間違いありませんでしょうか?」


「そうだ、ギルド長が来ていると運び屋から伺った。ギルド長は大丈夫なのか?」


「ただいまお呼びいたします。お館様?ドアを開けてもよろしいでしょうか?」


「構わないよ。」


「こちらはクロリア伯爵です。」


「私がこの地を治めるレイズ・クロリアだ。よろしく。」


「何の連絡もなく訪れてしまい申し訳ない。アイザック・カポルネです。ご存知の通りギルド長を務めています。そちらに今一時期的にお世話になっているリタに対して王宮から手紙が来たので、届けに参りました。」


あえて『一時期的に』を強調したように聞こえたが、気のせいかもしれない。


「それも運び屋から聞いている。魔獣と一戦あったというのは本当か?」


「ええ、そこのヴァンピーロ、私の従者ですが、血を多量に失いまして。それでなんとか倒せました。」


「災難だったな、私の領地で起こったことだ、申し訳ない。お詫びと言ってはなんだが、今日は泊まって行くといい。」


本当は気が進まないが、たとえレイズが望んだ客人でなくとも、負傷しているのでは後味が悪い。仕方なく言っている様子をおくびにも出さず、レイズは申し出た。


「それはありがたい!流石に死者の地を夜で歩く余力はもう残っていないのでね。助かります。」


アイザックは胸に手を当て、騎士の礼を返し、お礼を表した。


騎士の礼は貴族の間でも有効だ。貴族同士では腹に手を当て、頭を小さく下げるが、普段は皆簡易的な騎士の礼を交わす。正式な場でのみ貴族の礼は交わされるのだ。


レイズも同様に、礼を返すと、屋敷に残した運び屋が心配だから先に戻って待っていると言って去っていった。


霊魂に任してあるので、レイズは大して心配でもなんでもなかったが、親しくもない相手と馬車の同乗を従者に言われる前に去っておきたかった。


人とはあまり関わりたくない。自分の魔力がなんらかの拍子で暴走し、危害を加えてしまう可能性をレイズはいつも恐れていた。


「さっさと行かれてしまいましたね。どうやら一本道のようで安心しました。では、参りましょう、お館様。」


馬車が屋敷の前に到着した。そこには運び屋の乗って来た馬車以外は小屋が一つと無数の墓標が並んでいた。馬車の縄が解かれているので、既に遺体の処理は終わったのだろう。見たところ空になっていた。


あたり一面を覆うほどの量の霊魂がふわふわ暗闇の中漂っており、薄寒い中に幻想的な風景が広がっていた。

馬車を降りたアイザックは、それを見て驚きの声を上げた。


「すごい霊魂がこんなに……!」


「クロリア伯爵に到着の連絡をして参ります。こちらでお待ち下さい。」


「……ああ、……わかった。」


景色に見惚れているアイザックの返事は上の空だ。


ヴァンピーロが扉の数メートル前にある音伝令を起動させ、話し終えてからアイザックの元に戻ると、ちょうどそのタイミングでガチャ、と扉が開いた。


「今度は無事たどり着いたか。今は抑えているが、この時間帯は死者の行動時間だ。そろそろ辛抱たまらなくなってくる頃だろうから、早く拘束を解除してやりたい。悪いが夜の間は屋敷から出ないようにしてくれ。」


アイザックとヴァンピーロが同時に返事をする。

「承知いたしました。」

「わかりました。お招きありがとうございます。」


「屋敷の中へ案内する。話もあることだ。夕食も用意した。ゆっくり休むと良い。」


最初は気が進まなかったものの、レイズは客人をもてなさねば、と少しソワソワしていた。


今まで運び屋ぐらいしか来たことのなかった地に誰かが足を踏み入れるのは、リタを含めると、まだ二回目だった。


屋敷に招いてしまった後で、夕食の準備や客室の用意などやる事があることを思い出し、手当たり次第霊魂を集めて急遽準備させたのだ。


場所はリタが寝ている部屋とは階段を挟んで反対側にある部屋にした。


「そうだ、運び屋さんは大丈夫でしたか?」


ハッと思い出したようにアイザックは尋ねた。


「今夜は運び屋にも泊まってもらうことにした。ギルド長と従者殿の隣の部屋になるが、構わないか?」


中には遺体を扱う運び屋を嫌がる者もおり。運び屋について来ている以上それはないと思ったが、一応確認した。また、同様の理由で運び屋からその名前を聞いたのに名前を呼ばない者もいる。運び屋の名前さえ毛嫌いする奴もいる事実から、アイザックがそうでないか判断がつかなかったので名前を伏せて職業で呼んでいた。


アイザックも同様の理由から、レイズと話すときはあえて運び屋と言っている。


「どうぞ私のことはアイザックとお呼び下さい、クロリア伯爵。共通の友人もいることですし。


共通の友人とはもちろんリタのことだ。


「そういうことならば、私のこともレイズと呼んでくれて構わない。あと言葉も崩してくれると助かる。堅苦しいのは苦手なんだ。」


「ではレイズ、と呼ばせてもらうよ。ありがとう。」


「いやいや、こちらこそ。立ち話もなんだ。屋敷の中に入ってくれ。」


そうして客間に全員が集められた。


細長く大きなダイニングテーブルには既に運び屋が座っていた。安心したアイザックは思わず口を開いた。


「フューネラル!無事だったか!」


アイザックの声でガタッと席を立ち、青ざめていた顔をホッとさせた。


「ええ、従者様のお陰で助かりやした。本当によかった……」フューネラルの目には涙が浮かんでいる。


おや?運び屋に嫌悪はないのか、と少しホッとしたレイズはアイザックとヴァンピーロに着席を促した。

顔に出さないだけで、一緒に食卓を囲むのも嫌がっていたらどうしようかと心配していたのだ。


着席を合図に、霊魂がタイミングを見計らっていたように赤ワインやスープを運んできた。


「ここでは霊魂が給仕をするんだね。初めて見たよ。」


そう言いながら横目でアイザックは、ヴァンピーロはスープを食べれるのだろうかと見ていると、普通に口にしていたので、食べれるのかと隠れてそのことにも驚いた。


「そうか、長らく1人だったので、意識したことがなかったが……。普通は珍しい光景だよな。」


「あっしもこの時間帯までこの地にいたことがないので、驚きやした。窓の外を覗いたら霊魂がいっぱいいやした!綺麗なもんでっさな!」


初めての死者の地での一泊にレイズもフューネラルも興奮しているようだ。一方従者の方は会話にたまに加わる程度で、ニコニコ話を聞いていることが多かった。


思った以上に楽しく歓談は進み、そんな中霊魂達はタイミングを見てスープ皿を下げたり、サラダを置いたり忙しい。


メインディッシュの鳥の魔獣、エイヴィズのソテーとパンを食べ終わった辺りで、アイザックが本題を切り出した。


「ところで、リタさんについてお尋ねしたいのだけど……」


口元をナプキンで上品に拭きながら、まるで明日の天気を尋ねるような気軽さを装ってレイズに聞いた。


遂にこの質問が来たか!


レイズはどう答えようか迷い、少し考えたあげく辛うじて、

「リタは今眠っている。」と答えた。


「食事にいらっしゃらないので、そんなところだろうとは思っていたよ。今はどちらに?」


「二階にいる。ただ、まだ暫くは会えないだろうな。」


ワインを口にして、レイズもなんでもないことのような素振りで返す。


「リタさんに何かあったのか?」


目線が鋭くなるのを抑え、出来るだけ心配そうにした。


「話せば長くなる。まだ夜は長い。酒でも飲みながら話そうか。フューネラル、客室を用意したから先に休んでてくれ。早くに起きたら好きな時に帰ると良い。今回は迷惑をかけたな。受け取ってくれ。」


霊魂が袋に入った硬貨をジャラジャラ持って現れ、フューネラルの目の前にそっと置いた。


「お気遣いありがとうごぜえやす。ではあっしはこれで。」


「ああ、これからもよろしく頼む。」


フューネラルは専属を切られずにすみ、よかったあーーー!!!!と心の中で叫んだ。その上高額な臨時収入が入ったようだ。フューネラルはウキウキする様子を隠しながら、恭しく頭を下げて霊魂に連れられて客間を出た。


「そこの従者は大丈夫か?」


レイズがヴァンピーロも客間に残るのか暗に尋ねると、霊魂がテーブルをサッと片付け、また別の霊魂が酒類をお盆に色々乗せてやってきた。


「大丈夫、ヴァンピーロも関係者だよ。」


ヴァンピーロが異世界人なのは伏せ、問題ないことだけを伝える。


「ああ、しかしお館様。」


ん?と返事をするとヴァンピーロは声を潜めた。


「私少々血が足りません。外で魔獣を狩ってきてもよろしいですかな?」


「レイズ、ヴァンピーロは外の見回りも兼ねて魔獣を狩りたいらしい。外出の許可をいただけるだろうか?」


「ふむ……この時間はあえて死者を自由にさせているんだ。襲われる可能性があるが……」


「私、非常に素早いので死者相手であれば問題ありません。たとえ魔獣を相手にしたとして負傷しても、責任は全てお館様が負いますので、お気になさらず。」


「ん?私が責任を負うのか?いや、まあ、そうだけど!それなら外出させてもいいか?」


ヴァンピーロはアイザックの従者なので、従者がやったことはその主人が責任を負うのは当然だ。


「ああ、行ってくると良い。魔獣は来た道から外れて山に向かって歩けば、いくらでもいると思うぞ。戻ってくる時は音伝令を鳴らしてくれ。」


「承知いたしました。では失礼いたします。」


貴族の礼をして、ヴァンピーロも客間の外へ出て行った。


それを確認したレイズはお盆の上から透明な液体の入った酒瓶を選び、ロックグラスに注ぐと、少しだけ口に含んだ。


「さて、何から話そうか……」

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