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これからは激務になりそうです

リタを抱き抱えてレイズは玄関を過ぎて、二階に上がった。


「リタの部屋は準備できたのか?」


声を発したら霊魂が二階の奥、レイズの部屋の方からやってきた。


霊魂は上下に揺れて用意が出来たことを伝えた。霊魂の声はネクロマンサー以外に届かない。今の霊魂はやっぱりレイズの隣の部屋というにはいかがなものかと抗議している。


それを無視してリタを専用部屋へ移動させようと、お姫様抱っこのまま足を進めたその時、フワッと守護の光に包まれた。レイズも一緒になって光に包まれている。


弾かれない。触れているからか?


リタを中心地点に包んでいる光は、半径1メイルほどの大きさの守護壁になっている。これが普段からできたらたとえ死者だろうと魔獣がだろうと、怖い物などないだろうに、などと考察しながら、ジャケットを被せたままリタをベッドに横たえた。


「無意識下では防御魔法が張れるのに、残念な奴だ。」


試しにもう一度触れようとしてみたが、今度は弾かれた。なるほど、そういう仕組みか。


あとは霊魂に任せることにした。


「気がついたら教えろ」


霊魂が上下に揺れた。


リタの魔法のせいでレイズの仕事はこれから山積みだ。誰が霊魂になったのかとその人数の確認、遺族の宛先や名簿の洗い出し、文章の作成、何人をどれだけ送り出せるのかの期間見積もり、送り出しのスケジューリング、祭壇の準備、ちょっと考えただけでもいくつもやる事が思い浮かぶ。


その前に……


「ギルド長への手紙だったな。」


簡潔に業務連絡だけでいいだろう。レイズは国の業務管轄だし、今まで関わり合いもギルドからの一方的なものだけだ。丁寧に書いたところで大して意味もない。


さらっとアイザック宛の手紙を書き、4時に来る運び屋に渡させることに決める。手間賃を渡せば手紙を渡すぐらいはやってくれるだろう。最悪手紙が渡らなかったところで、困る事は無い。


あとは部屋に何か置きっ放しだとも言っていたな、それも回収しといてやるか。ついでのように、手紙に記載した。どうせしばらくはここに居たくなくてもいることだろう。なんせ仕事は山ほどある。


「運び屋が来るまでは遺体の修繕準備をするか。時間が余ったら霊魂の件に取り掛かろう」


考えるだけで気が重くなってくる。霊魂の送り出しにはかなりの魔力を消費する。リタが死者を喪失させたお陰で抑えつけるために必要だった日常的に消費される魔力がなくなったとしても、結局送り出しに膨大な魔力を必要とする。


日々ちょっとずつ消費するか、一気に消費するかの違いしかないが、何分、霊魂になった数が見当もつかない。


目の前の仕事をまずは一つずつこなしていくしかなさそうだ。



……



チリンチリン


仕事部屋で作業をしていたレイズの執務机の上で装置が音を立てている。外にいる者が中にいるものに用事がある時は、玄関に設置された魔道具の『音伝令』で室内の者に声を届ける。


「はい」


「あっしでっさ。遺体を置きに来やしたぜ。まだ死者にはなっとりやせん。」


「ご苦労だった。手伝おう。」

今日は頼み事をする打算があったので、珍しく手伝うことにした。


外へ出ると、運び屋が馬車から遺体の積まれた棺を出す為に、馬車全体に巻かれた縄を解いているところだった。馬車から棺を下ろすまでが運び屋の仕事だ。普段ならば棺を置いたらすぐ帰れと言われるのに、手伝おうだなんて言う時は必ず何かがあるのを運び屋の男は知っていた。


「縄を解きやしたぜ。」


「ありがとう。ここまでご苦労だった。ところで、フューネラル、頼みがある。」


ほら来たと言わんばかりにフューネラルは笑みを浮かべた。


「なんです旦那、あっしに頼みごとなんて珍しいですな。内容にもよりますが何なんなりと」


「銀貨5枚をやるからこの手紙をカポルネギルド長に渡してくれないか。」


「簡単な御用ですな。お渡しいたしましょう。しかし銀貨5枚でそれだけとは言いやせんでしょう?」


「察しがいいな。実はギルド長が後見人となっている子の身柄を彼女の依頼で預かることになったんだ。そしたら私物を部屋に置きっぱなしにしてこちらへ来てしまったらしいことがわかってな。ギルド長に手紙を渡したら部屋を開けてもらい、彼女の私物をまとめて、また持ってきて欲しい。できるか?」


「それは少々手間がかかりますぜ。実は今ちょっと手持ちが寂しくて……」


「銀貨10枚でいいか?」


「ありがとうごぜえやす。必ずや手紙を渡して、荷物を運んで来やす。ですがあっし、今日から数日休みをいただくんでっさ。手紙はその後でもいいですかい?」


「ああ、いつになっても渡してさえくれれば問題ない。」


「ではお受けしますぜ。ぐへへ。ありがとうごぜぇやす。」


話が付いたので、チャランと音を鳴らして銀貨と手紙をフューネラルに渡した。別に運び屋に頼まなくても死者に行かせてもいいが、リタがいると思わぬ事態に巻き込まれることが多い。できるだけ魔力を温存する方向でいくには運び屋を使うのが1番手っ取り早い。死者を利用した場合、臭い等の対策が少々面倒だと言う理由もある。自分が行くと言う選択肢は鼻からない。それよりもやる事で溢れているからだ、誰かさんのお陰で!


棺を馬車から下ろすと、ここからはレイズの仕事だ。


「棺も受け取ったし、もう行っていいぞ。一応死者は抑えておくけど、できるだけ早く帰れ」


「承知しやした。ではまた死者が生まれるその時まで……」


フューネラルが去って行ったのを確認すると、レイズは棺をパカッと開けた。


まだ死者にはなっていない、か。


『腐敗促進』


遺体の経過時間を早めるとそれまでカチカチになっていた遺体の筋肉が緩み、意思を持ったかのような気配に変化した。レイズは死者にはあらゆる命令下すことができる。それはもちろん、遺体にも有効だ。

レイズの詠唱で遺体だったそれは死者へ変貌した。


『追従』


「俺についてこい。」


左腕が肩からと、左足首が取れていて、顔が削れてなくなった死者は自分の欠損部位を持ってレイズの後に続いた。


仕事部屋に着くと欠損部位を身体と繋ぎ合わせる作業に入る。


机の上に横たわるよう指示し、『硬直』を唱えた。


道具を取り出し、慣れた手つきで難なく縫い合わせる。『縫合』とレイズが唱えると、糸が白く発光し、死者の体に吸い込まれ、溶け込んだ。顔は擦り下ろされたようで、欠損部位が残っていないのでどうしようもできないので、そのままだ。


他に気になる部分がないかあらかた確認したら、最後の仕上げだ。


『硬直消失』『始動』


硬直していた死者がレイズの声に応えて体を机から起き上がらせた。


「問題なさそうだな。『追従』ついてこい。」


また外に出ると、玄関に立てかけていたスコップを手に取ってから、死者が入っていた棺の前にやってきた。


そのスコップを死者に持つように施すと、棺を埋める位置まで足を運ぶ。空いている場所を見つけたレイズは死者に命じた。


「王の命によって告ぐ。お前の棺を埋めるための穴をそのスコップで掘れ。棺は開けた状態で埋めろ。また命ずる時に出てくるのが遅れるからな。作業が終わったら土の中で休むと良い。」


「うぐああああああああごううう」


もうこの者に自我も意思もないので、これは返事なんてものではない。ただ喉から漏れ出た音に過ぎない。


死者がザクザクと穴を掘り始めたので、レイズはまた仕事部屋に戻る。


今回受け入れた死者を名簿に残したり、その他書類を書いたりして過ごす。王宮へ業務連絡も死者を受け入れるたびにかく。


これが終わると、普段であれば領地の見回りや開拓・改修などのメンテナンスをするが、今日はそうはいかない。


「霊魂の確認をするか……」


一気に霊魂が生まれるようなことは今まで一度もなかったので、単純ではあるものの、量が量なだけに、簡単な作業ではない。霊魂を一斉に集め、棺の上にとどまらせ、墓標と名簿との照らし合わせをするのだ。


「どんだけ浄化したんだよ……魔力ありすぎだろ……」


敷地をザッと見渡しただけでも、数千ぐらいは優にありそうだ。


まだ三十の霊魂の身元確認ができただけだったが、レイズは一生かかるかと思われるほどの数にゲンナリとなっていた。


「やめだ、やめ。一個一個確認していたんじゃ効率が悪すぎる。今送り出せるやつだけを集めて先に確認しよう。」


プラン変更で、青い光を放っている霊魂を除外する。霊魂は憂いが晴れると青から白に色が変わる。送り出す前に存在が消失しかかっている霊魂は透き通っている。幸い透き通っている霊魂がなかったので、安心した。もしくはリタが消失しかかっていたのを浄化又は消し去った後だろうが、それは考えないことにする、今は。


冥土に送り出せるのはネクロマンサーしかいないので、恐らく透き通っていたのがいたとしたら……。しかしレイズは真面目に仕事するタイプなので、透き通るまで放置することはないから大丈夫なはずだ、たぶん。


そんなこんなで青い霊魂を全て森の偵察に行かせ、白い霊魂だけを残した。


『定位置へ移動』


レイズの号令で白い霊魂がすべて元居た棺の上に移動した。白い霊魂だけでもかなりの数にのぼる。


恐らく、リタが死者を浄化した時、青い霊魂も一気に浄化したのだろう。通常、送り出しは1週間に1、2回程度行われる。

数万の死者が収容されているクロリア地はそのぐらいが通常だ。


だが、すでに白い霊魂へと数百ほど変化していた。これは急がねばならない。


「毎日20霊魂は最低でも送らないと、最後らへんは消失するんじゃないか……魔力回復薬を摂取しながら無理やり送り出す激務になりそうだな。俺が死ぬかも……」


あいつの魔力なら1日で100は余裕なんだろうな。何せ、どう見ても青い霊魂も含めると数千はいる。


「魔法薬高いんだよな。あ、あいつ妖精族だから回復系は得意なはずじゃないか?薬作れんのかな……。それか魔力の譲渡操作仕込むか。できんのか知らんけど。普通は無理だけど。異世界人は規格外らしいし、原理を教えりゃなんとかなるかもな。」


レイズはリタの教育計画を立てながら、まだ二階で寝ているリタの部屋に目線を向けた。


今日の仕事はまだまだ終わりそうにない。


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