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そんな簡単には帰れません

リタが叫んだ瞬間、レイズは死者達がざわめくのを感じ取った。


「ん?何やら騒がしくなってきたな」


レイズはリタが当初木に落ちてきた時と同じざわめきを感じとった。


まさか、また何か起こったのだろうか?

魔獣でも出たか?でもそのはずはない。街を行き来する道は一本道だし、夜中は魔獣駆除を含めて死者や霊魂に整備させている。


人恋しくなって自分の幻覚じゃないのか?


それを確かめるべくレイズは感覚を研ぎ澄まし、領地全体に散らばらせている死者に集中した。


幻想ではない。間違いなく騒ついている。


一瞬よぎった嫌な考えに、『恐らくリタの速さなら今頃は湖付近だろう』と時計を見て予想した。


レイズの予想はドンピシャだ。


今日は新しい死者が4時ごろ運び込まれてくる予定だ。死者の体に損傷があった場合、それを治すのもネクロマンサーの仕事だった。今日の死者は事故で亡くなったとのことで、葬儀後こちらに直送されてくる。一階の仕事部屋でレイズは予定時刻まで死者の身体パーツを縫い合わせる裁縫用具の確認や修繕などメンテナンスと埋葬する位置を検討しながら時間を潰す予定をしていた。


予定変更だ。死者が運び込まれてくるまであと2時間。その間になんとか出来るだろうか。


異変が起きている辺りを死者のざわめきで感知し、方向はやはり湖だと判断する。


「霊魂に王が告ぐ、『湖付近の死者の状況把握』だ。」


先に1つの霊魂に命じてから、急いで玄関の外に出た。


また別の霊魂を捕まえて告げる。


「答えよ、霊魂!死者の王の命により告ぐ!『暴風』!『状態維持』!!」


湖に向かって飛び始めたところで最初に命令を下した霊魂が他の霊魂を連れて戻ってきた。


「なんだと?!またあいつ死者に追われているのか!魔力欠乏を起こしかけているとか、何をやればそうなるんだよ!……あっ!」


そういえば昼間に起きてからレイズに裁縫を施していたのを思いついた。それだけなら大丈夫だろうが、何か事情があって他にも初めての魔法を何度か行使したのかもしれない。


はしゃいで水浴びしていたら、物足りなくなって初めての魔法をたくさん行使した事は、レイズにだけは絶対知られてはならない。飛ぶのを練習しながら帰っていたこともだ。絶対にだ。


「あいつ!!今度は何やらかした!!」


早歩き程度の速さで飛んで魔力を消費するぐらいなら、おとなしく歩いて帰ったとしても4時間くらいで関所に着く。


まさか不慣れなことをしたことによって魔力欠乏症を起こし、倒れたのに、また同じことをやって帰るとはつゆほどに思っていなかったレイズだった。


暴風に乗れば30分もしないうちに湖の方には着くだろう。急いで様子を見にいくしかない。


レイズは出来るだけ飛ばして風を操った。



その頃、一定の間隔を開けて付いて来ていたはずの死者がリタを掴み取ろうと手を伸ばしていた。


「ちょっと!!さっきまで遠巻きにしてたくせに、なんで急に近づいて来てんのよ!嫌ってば!髪!こら!手を伸ばすな!」


息が苦しい。足も疲れて来た。日頃の運動不足が祟っても息も絶え絶えだ。

突然向かい風になって来たのも相まって、走るスピードも落ち、無駄に体力も使う。


「お願い!気づいて!……レイズ!!」


リタが助けを口にしたとたん、タイミングを見計らったように前方から風に乗って何かが向かって来るのが見えた。しかし一本道だから見えるものの、距離はまだ3kmはある。


きっとレイズだ!!助かった!!


安心し力がふっと抜けたのがいけなかった。髪を後ろからグッと引っ張られたのだ。


「キャーーー!!!!イッ!!痛いってば!!!やめて、お願い!!!」


レイズが来るまであと数分はかかる距離だ。

リタの姿が見えたレイズだったが、まだ追いつけない。まさに今死者に襲われているのに、手が届かない。


大声で前方に向かって詠唱する。


『レイズ・クロリアの名の下に、死者よ、命令を聞くが良い!!我に平伏すのだ!!!!』


レイズが命じても死者達は全く聞き入れようとしない。


「レイズ!!!」


髪を引っ張られたことで足止めをくらい、後方に控えていた一体に肩を掴まれ地面に転がされた。

死者に覆い被さられ、一気に恐怖が襲った。


レイズが蹴散らす前にこのままではやられる。リタが自分でなんとかするしかない。レイズが間に合え、と必死にスピードを上げた時だった。



リタは閃いた。



そうだ!防御だ!跳ね返すイメージだ!これしかない!私の魔法、言うことを聞いて!


「光の壁、私を包んで守って!!」


リタが詠唱紛いの願いを口にした途端、リタを中心に眩い光で辺り一体が包まれた。しかし、それは爆発付きで。



ドカーーーーーーン!!!!!!!!



「リタ!!」


くそっ間に合わなかった!なんてことだ!魔力暴発か?!


カッと光が走り、視界が真っ白になり何も見えなくなった。それは一瞬の出来事で、音が止み、光は収束したものの、土埃で周りが見えない。


静寂が広がり、爆風の中心地にかろうじてリタが座り込んでいるのが見えた。


レイズはまた何か起きるのではないかと身構えたが、様子がおかしい。静かすぎる。リタの周囲を囲んでいた死者も、後方にいた行列も、全ていなくなっていた。その代わりに数え切れないほどの霊魂が漂っている。


「もしかして、死者を消滅させたのか……?」


暴風を消失させ、リタに近寄った。


レイズに気がついたリタは、座っている状態から腰を上げ、スッと立ち上がった。ワンピースも消失し、下着姿になってしまったが、それも今にも消えてしまいそうだ。しかしリタはそれに気がついていない。


人は亡くなると死者になり、王の名に従い仕えることで魂を綺麗にして霊魂になる。その後ネクロマンサーによって冥土に送り出されてまた生まれ変わってくる。


そう、リタはそれを全て省略させてしまったのだ。


リタは死者の体を浄化したあげく、強制的に魂を浄め、霊魂を大量に製造してしまった。幸い消失した死者は全体の四分の一程度で、領地運営に困窮する事はなさそうだ。そうして憂いがまだ残っている霊魂が大量生産された。


その事を一瞬で理解したレイズは思わずリタに怒鳴りちらした。


「ばかやろう!!強制的に浄化してどうする!!!死者が霊魂になったら遺族に霊魂の送り出しについて連絡しなければならない!仕事が増えたーー!!!!」


状況がまだ飲み込めていないリタは呆然としている。


「え?何が起こったの?レイズがやったの?」


「俺じゃねーよ!犯人はお前だ!!死者の罪は流れに任せて晴れていくのが一番自然なんだ!霊魂の送り出しが出来る数にも魔力にも限度があるんだよ!!これじゃあ、今送り出せそうな奴からどんどん送り出さねば、次から次へと霊魂になる死者に追いつかない。送り出しが遅れると霊魂は勝手に消えて無くなって、冥土にも行けず、輪廻の輪にも入れなくなって、二度と生まれ変われなくなるんだぞ!」


とりあえずまた何かをやらかした事は理解できた。ようやく自分がどれだけのことをしてしまったのか実感が湧いて来て、申し訳なさで涙が出そうになる。謝罪の言葉を喉の奥から絞り出してもレイズの怒りはまだ治らない。


「手伝え!!!」


「はい、もちろんです……何をすればよろしいでしょうか……」


罪悪感でリタは頭が上がらない。


「遺族に手紙をお前が俺の代わりに書け。誰が霊魂になったのかの確認は俺がする。文面も後で見せるからそれをひたすら複製しろ。」


はい、と言いかけたところで思い出した。


「でもアイザックさんに一週間に一回はギルドに来いって言われてるの。まだこの世界のこともよくわかってないし」


「アイザック?ああ、あいつか。俺は国の運営管轄だが、それでも何か商いを営むものは皆ギルド長と関わりがある。俺も例外じゃない。アイザックには俺が手紙を書いておく。」



「え、でもっ!あ!服を部屋に置きっぱなしだし!」


「そうは言っても仕事もまだないんだろ?ならしばらくここで働け。俺の所を定職としても自由にギルドの依頼は受けられる。生活保護を受けている最中はギルドの依頼受領は禁止されているが、もし俺の所の給金が足りなければ、ギルドの依頼を自由に受けられるようになる。」


「そうは言っても、しばらくなんて中途半端が一番困るよ!生活保護を受けさせてもらっているの。期間限定で終わったらサヨナラとか、その後どうやって生きて行けばいいのよ!」


「俺の所の仕事が終わって、金に困ったらギルドで依頼を受けろ」


「そんなあー!!私の悠々自適保護対象生活があ!!」


泣き言を言ってみたが、悪いのは完全に自分だ。たとえ悪気がなかったとしても起こってしまった事はどうしようもない。


「あーあ、遺族はかわいそうだなー」


『遺族』『かわいそう』と言う単語を聞いてリタはハッと顔を上げた。


「霊魂になるのはまだ先だと思って弔いを後回しにしていた遺族もいただろうに」


嘘だけど。誰も死者になった後は死者の地に足を踏み入れてはならない決まりだし。だって危ないし。


「うっ!!!!」グサっと心にナイフが刺さる。


「いきなり霊魂になったと伝えたら、驚くだろうなあ」


「うううううっ……」グサグサッ!


「最後に会いたかっただろうなあ。」


グサグサグサ!!!


胸を押さえ、下着姿のリタは真っ青になって崩れ落ちた。後もう一押しか?


「責任を取らずに逃げる気か?」


「でも、でもね。週一で魔法をアイザックに教わることになってて……ほら、私まだ魔法下手くそだからさ!だから!」


なんだそんなことか、という顔でリタを見つめる。ああ、なんの問題もないじゃないか。


「俺がそれはこれから毎日教えてやる。」


「え?」


「衣食住保証の三食、教育付きだ。報酬は金貨2枚。たまには街にも連れてってやらんでもない。でも、しっかり働いてもらうからな。」


あれ?意外と好条件?


「……しばらくお世話になります!」


チョロい。レイズはリタに気がつかれぬよう、ニヤリとした。


「で?お前はいつまで下着姿でいるつもりだ?」


「え?!やだーーー!!!キャーーー!!!!!」


言われて気が付き、焦って全身を手で隠そうにも、隠れるわけがない。


自分のしでかしたことの重大さと、ずっと晒していた醜態への羞恥、そして定職が決まったことに対する安堵でキャパオーバーになったリタは気を失った。同時に、なけなしの下着も消え去った。集中が切れて魔力欠乏症に陥ったのだろう。


「はあ。これじゃあ先が思いやられるな……」


ため息をつきながらも自分のジャケットを脱ぎ、眠ってしまった裸のリタにかけてやった。そのままリタをお姫様抱っこすると、屋敷に一旦入ることにした。


心配そうに霊魂がレイズとリタの周りをくるくると回っている。


「大丈夫だ。また1週間もすれば起きる。客室とは違う部屋を用意しろ。部屋は俺の隣で良い。」


霊魂は上下に揺れたり、横に揺れたりして、部屋を隣にすると言ったレイズに対して抗議めいた動きをしているが、レイズはそれを無視した。


「目の届かないところに置いたら何をするかわからないだろう。ちなみにその部屋は今後、リタ専用にする。」


それを聞いた霊魂は嬉しそうに、先に玄関へと飛び込んで行ったのだった。


今日は花金!と言うことで、あともう一話投稿します!!ブックマークも頂いたのでやる気も十分です!!!ありがとうございます!!!


20時半までには・・・投稿できるはず!?


よろしくお願いいたします!

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