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猫首相  作者: 下酉新
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第2話 オタとヤンキ

「さあ、どうしようかな」

 自宅警備員から解放された小判は、高台の丘から、美しい港の街並みを見つめていた。これかれの自分の事を考えねばならなかったが、思い出すのは大切な両親との思いでばかりだ。

 二人の生きてきたキメラ災禍とは、百年前に起こった戦争と、戦後の混乱期のことだ。

 その時代、キメラ技術は軍事転用されていた。その時の疎開先の中国で子供時代をすごした朝日と戦後生まれた墨名が出合い、家族を作ったのだ。キメラはは生殖機能が遺伝的に退化しているが、男と女の性があり、人を慈しみ家族や共同体になりたい気持ちは人間と変わらず持ち合わせていた。二人は、あおと小判の二人を、兄弟として受け入れることにした。

 青はロシアンブルーみたいな毛皮を持つ弟だったが、優秀で、直ぐに頭角を現し、独り立ちした。今は外国で暮らしている。兄はしかし、遺伝的な疾患を持つ奇形キメラだった。外見ではなく、遺伝子に生殖欲求があることで、世間から忌避された。さらに言うと小児性愛者、つまりロリコンだ。

 性の多様性がビッグバンを起こした二十五世紀に、小児性愛が問題になることは少なかったが、問題は生殖欲求だ。

 キメラはもともと、孤独や孤立が深刻な社会問題だった時代に、人間の孤独を癒すために日本企業が生み出した生物だ。人間並みの知性と、人間並みの肉体。まず犬のキメラが作られ、数年置いて猫のキメラが作られた。その後同時多発紛争の激化により軍事転用が図られ、飛躍的にキメラ生産技術が向上し、人間以上に強靭な肉体を持つキリングアニマルが生まれた。世界中の紛争地域で暗躍したが、戦争が終結した後で危険視され、犬と猫と人型キメラ以外の研究開発が国際的に禁止された。

 もともと、生殖欲求を持たせるのはキメラの愛玩動物としての有用性を減ずるという保守的な判断から、普通は遺伝レベルで性欲を排除させられている。しかし、戦争の混乱の中で生まれたキメラの中には、無理矢理生殖欲求を持たせて戦略的レイプに利用したり、勝利の名のもとに実験に使われたりして、いろいろな奇形キメラが生まれた。誰かが何かの理由で奇形キメラをたくさん生み出す行為が、戦後かなりの期間続いた。その中の一人が小判だった。

「よし、ワークステーションでもいくか」

 丘の上の公園から降りて、小判はワークステーションに行こうとした。その時、誰かの怒声がかすかに聴こえた。

 何だ、一体…。小判は人気のない丘を下り、丘の中腹にある繁みの中を覗いてみた。

 青年が何人かいた。二人の青年を十人くらいで取り囲み一触即発の雰囲気だ。

「どうしました?」

 小判が話しかけると、大勢いた男たちがこちらを振り向いた。小判の姿を目にとめると、一瞬驚き、少し困った表情を浮かべていたが、やがて毒気を抜かれたようにぞろぞろ帰っていった。キメラじゃ相手にならん、とすれ違いざまにこぼれる言葉。後には、二人の人間が残された。

「大丈夫ですか?」

 二人の青年は見たところ二十歳そこそこだ。眼鏡をかけ、チェックのTシャツにリュック、ジーパンにスニーカー。洒落っ気のない頭髪。このゆるゆるファッションは紛れもなく、由緒正しきオタ族の青年だ。ということは、さっきのやつらはヤンキ族ということになる。

「ありがとうございます、助かりました」

 一方の比較的背の高い真面目そうな青年が頭をさげて礼を言い、もう一人の少し太った青年が珍しそうに黄金のキメラ猫を見ていた。

「やっぱり、絡まれていたのか」

「ええ、まあ」

 青年はあいまいに答えた。あまり考えたくないのかもしれない。小判はさっそく見つけた人との関係を壊したくなかったので深く追求しなかった。その代わり、別の事を聴いた。

「おれさ、奇形キメラなんだけど、最近軟禁から解放されてさ。もし良かったら、ワークステーションの手続きを教えてくれないかな?」

「奇形キメラ?マジで⁉」

 さっきまでじろじろ見ていた太っちょ青年が大声を上げた。甲高い良く通る声だ。

「ああ。こう見えてちょっと障害があってさ、普通のキメラじゃないんだ」

「へえ~なるほどね~」

 太っちょ青年は感心した様子でしげしげと眺めてきた。好機の目に晒されるのは覚悟していたが、反感や嫌悪じゃないだけマシか。

「世の中について全く分からないんだ。申し訳ないけど教えてくれないかな?」

「かまわないよ」

 真面目そうな青年が答えた。誠実そうに見える。

「おれは、山吹小判だ。よろしく」

「僕はカン・ヨンヒ。よろしく」

「おれはレイジ・タイラーだ。ぽっちゃりレイジと言われてる」

 三人は握手した。小判に最初の友人ができた。










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