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私は誘惑する!  作者: 舞夢
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おっとり加奈子は、ヒッソリ涼に、なかなか声もかけられない

加奈子は音大の一年生。

専攻はフルート。

性格がとにかくおとなしい。

自分でも「おっとりタイプ」だと思う。

容姿は、自分では「まあ、普通」。

ステージの真ん中で、ソロを吹けるような華やかさはないと思う。


フルートの技術の指導教授の評価は

「きちんとていねい」

「楽譜に忠実」

「音程もビブラートもリズムも完璧」

「でも、何かが足りない」

「ものたりない」

「オーケストラで第二フルートかな」

「ソロパートを吹かせると地味過ぎる」


要するに、加奈子もフルートも「地味で堅実、おっとりタイプ」なのである。


さて、そんな加奈子も、注目している学生がいる。

その学生は

「涼」、同じ一年生。

楽器は、ピアノ。

指揮も習っているようだ。

容姿は、とにかく華奢。

雰囲気も、加奈子でさえ心配するほど「ヒッソリ」タイプ。

よく見ると、すごく可愛らしい、美顔。

でも、「おおよそアクが強い」音大生の中では、全く埋没している。


他の音大生たちの評価は

「涼君って誰?」

「ああ、やさしいピアノ弾くね、でも迫力がない」

「周りに打ち解けないし、話もしない」

「田舎出身?コンプレックス?」

「いや、都内出身らしい」

「へーーー知らなかった」

「でも、どうでもいいや」

およそ、そんな感じ。


さて、そんな涼に加奈子が注目している理由は、最近たまたまフルートのレッスンで涼がピアノの伴奏をしてくれたこと。


加奈子としては

「すっごく吹きやすい」

「合わせるのが上手だなあ、涼君」

「涼君の伴奏だったら、もう少し私の音楽も広がる」

と思う。

しかし、加奈子は「おっとり」タイプ。

そのため、レッスンが終わってから声を涼にかけられない。


涼も「ヒッソリ」タイプなので、レッスンが終われば、「じゃあ」と小声で一言。

ソソクサと帰ってしまうのである。



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