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敵でもなく味方でもない

「はぁーあ。なんだか暇だぜ」


 廊下を歩きながら大きく口を開けてあくびをするエド。


 その様子を見て隣のシャルは呆れた様子で口を開いた。


「暇じゃないわよ。これから訓練でしょ」


「そうですよ。気合を入れて頑張りましょう!」


 小さくガッツポーズをとるアミ。


 いつになくやる気のアミを俺たちはじっと見つめた。


「--なんかあったのかアミ? なんだかいつもより元気な気が……」


 俺がそう言うとシャルとエドも首を縦に振る。


 すると、アミは少し恥ずかしそうに頬を赤くさせて口を開いた。


「この間の模擬戦私は全く役に立てなくて……だから、これからは皆さんの力になれるよう頑張りたいなって思ったんです」


 真剣な瞳を見せるアミに俺たちは顔を見合わせた。


 最初に口を開いたのはエド。


「なんかあんた真面目だな。もう少し気を抜いてやったほうがいいんじゃねえか?」

 

 そんなエドの言葉にアミはその場でガクッと肩を落とす。


「他にかける言葉は無いんですか……」


 うなだれるアミだったが、シャルがすぐにそばによって肩を優しく叩いた。


 それによりアミはゆっくりと顔を上げる。


「私も何もできなかったのはアミと同じ。こんな男の言うことなんか気にしないでこれから一緒に頑張りましょ?」


 優しく微笑んだ後シャルは鬼のような形相でエドを睨みつけた。


「俺は本当のことを言っただけで……」


 エドは言い返そうとするが、言葉を発するたびに鋭くなっていくシャルの視線についには黙り込んだ。


「ーーそれにしても、イスラさん滅茶苦茶強かったですよね?」


 少ししてアミは思い出したかのようにそう言った。


 みんなの視線が一気に俺へと集中する。


 俺は内心ぎくりとしていたがなんとか平静を装った。


「あの『勇者』あいてに正面から押し勝っちゃうなんてね。スキルもなしで一体どうやったのよ?」


 不思議そうに尋ねてくるシャル。


 しかし、俺は言いよどむばかりでまともに返事を返せない。


「いや……あれは……」


 すると、今まで黙り込んでいたエリナが突然口を開く。


「そろそろ教室に着きます。その話はまたあとでにしましょう」


 エリナの言う通り、いつのまにか正面には指定された『45』の数字が書かれている教室が見えていた。


「この学校本当教室多いわよね。しかも、小さい教室が……」


 今まで歩いてきた廊下を振り返るシャル。


 俺も合わせて振り返るが、「この廊下は無限に続いているのでは?」と思ってしまうほどに長かった。


 外から見るにここまで長く感じなかったような気がする。


「どうせどっかの誰かのスキルで捻じ曲げてんだろ」


 エドは特に気にした様子は見せずに言い放つ。


「それでは入りましょうか」


 エリナも興味のない話題だったらしく、一人だけすたすたと教室に入っていってしまった。


 それを見てシャルとアミも教室に入っていく。


 俺も続こうと足を前に踏み出そうとした瞬間、突然エドが小声で言った。


「一体どんな手を使って『勇者』に勝ったんだ? 自称『人形使い』さんよ」


 その言葉に俺は足を止めて硬直してしまう。


 エドは俺の正体を知っている? どう答えるべきか? エドの目的は?


 様々な考えが駆け巡るなか、どういうわけかエドはそれ以上は何も言わずに教室内へと入っていってしまった。


「……」


 高鳴る心臓の音を聞きながら俺はエドの背中を目で追う。


「--イスラ? どうしたのよ。速く入りなさい。まだ時間じゃないからか誰もいないけどね」


 シャルのその声掛けに俺はようやく動けるようになった。


 俺は恐る恐る教室内に足を踏み入れエドの姿を捜す。


 エドは俺には目もくれず教室の隅の席でボーっとしている。


「悪い。ちょっと考え事してた」


「あそこで急に? 随分いきなりね……」


 じっと俺を見つめるシャルだったが、すぐに「まあいいわ」と言って俺から視線を外した。


 俺はゆっくりと足を進めてエドとは反対側の席に着く。


 それから俺は盗み見るようにエドの姿を見続けた。




 ーー数分後。教室に現れたのは何故か教師ではなかった。


「あれ? あんたは……」


 四人の女の子。


 見知った顔だ。


 まず口を開いたのはエミリアだった。


「エミリア? って言うことは……」


 俺は視線を横にずらしていく。


 模擬戦で見かけた二人の少女。


 そして、俺の視線は最後の少女で止められる。


「リリー。どうしてリリーのパーティーがここにいるんだ?」


「……えっと、それは」


 どこか気まずそうに話すリリーに俺は困惑してしまう。


 この間の模擬戦のせいだろうか?


「イスラ聞いてないの? 今回の授業は……」


 話し始めるエミリアだったが、その背後から現れた人を見て声を止める。


 リリーは何故か「名前で呼んでる……」と意味の分からないことを言いながらエミリアを見つめていた。


「君たちには合同で訓練を受けてもらいます。私は監督を務めることになったレベッカと言います」


 そう話すのは以前入学式で司会を務めていた若い女性。


 妙にインパクトを残していたため記憶に残っていた。


「今回君たち二つのパーティーには競い合ってもらいます」


 リリーたちは事前に聞いていたようだが、初耳の俺たちパーティーは全員動揺を隠せない。


 しかし、エドはすぐに楽しそうに声を弾ませて口を開いた。


「楽しくなってきたじゃねえか」


 俺はその様子をじっと見つめる。


 教室内の全員、それぞれが様々な感情を胸に秘めていた。




 ーー俺たち全員がそれぞれ席に着くと監督は教壇で話し始めた。

 

 何故かエミリアは俺の隣の席に座っている。


 俺は特に気にはしなかったが、教室のどこかから向けられる視線を感じていた。


「単刀直入に言います。今回の訓練の内容は『魔獣の討伐』です。ウド村という場所でここ最近目撃されている魔獣をあなたたちに狩っていただきます」


 その話に教室内は一気にざわざわとし始める。


 この様子を見るにリリーたちも訓練の内容までは聞かされていなかったらしい。


「どうして私たち二つのパーティーなのよ。しかも競い合うって……。別にお互いに協力すればいいんじゃないの?」


 まず不満を口にしたのはシャルだった。


 その場にいたほとんどが首を縦に何度も振る。


 しかし、それに答えたのは監督ではなくエドだった。


「それじゃ意味ないだろ。競い合ってこそお互いの評価ができるってもんだ。協力なんてしてたら評価できるものもできなくなっちまう」


「それは……」


 エドの言ったことにシャルは言葉を失ってしまう。


 すると、監督はエドに付け加えるように話し始めた。


「別に協力をしても問題はありません。ただ、最終的に私があなたたちに優劣の判定を付けることになります。ここ『アテネ』も学校ですので成績というものを付けなければいけません」


 『成績』という言葉が重く俺たちにのしかかる。


 その場の誰もが何も言わずに監督の話に聞き入った。


「互いに邪魔しあえというわけではありません。より素早くより的確に問題を解決する。そう言った能力をあなたたちには見せてもらいたいのです。ここにいる全員『勇者』を目指すという目的は同じはず。互いに切磋琢磨することを私は楽しみにしています」


 そこまで話を聞き、俺たちの中に文句を言う人間はいなかった。


 お互いに顔を見合わせ、それぞれが再度今の状況を認識する。


 この場の誰もが同じ道を進もうとしているのだ。


「なんだか難しいことになってきたわね。ここまで言われると嫌でも相手を意識しちゃうだろうし」


 隣に座っていたエミリアは特に慌てた様子も見せずにそう言った。


「なんだかやけに落ち着いてるな」


「まあ監督はああいっているけど、結局私たちのやることは変わらないでしょ? 魔獣って言うのをたおせばいいのよ。なにもそこまで互いを意識する必要もないの」


 模擬戦後というせいもあるのだろう。


 もしかしたら監督はそう言った部分も考えてああいう風に言ったのかもしれない。


 俺は再度監督に視線を向けるが、監督はいつもの表情のままだ。


「訓練の詳しい日程などを説明します。後日またお知らせしますが、ここでの話はできるだけ頭に入れておいてください」


 それから監督は訓練について詳しい話を始めた。


 ウド村の場所。魔獣についての情報。


 俺たちは落ち着かない気持ちのまま監督の話に耳を傾けた。

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