金髪のスナイパー?
13.金髪のスナイパー?
『磯子区のコンビニエンスストアで起こった拳銃強盗事件は事件当時、防犯カメラの録画装置が何者かに壊されていたことが新たに判った。この事件では数名が銃を持って押し入り、店内で銃を乱射後、何も盗らずに逃走。その際3名が死亡。警察では死亡した3名の身元確認を急ぐとともに逃走したその他の犯人の行方を追っている』
録画装置が破壊された? 流れ弾に当たったのか?
いや、カメラならともかく、録画装置ならバックヤードかオフィスの中だろう。
流れ弾が当たるような場所にはないはずだ。
そうなると、あの現場に、別の人物またはグループがいたということか?
僕たちを襲った男たちはフルフェイスのヘルメットを被っていた。
つまり、防犯カメラに写ってもかまわない格好だった。
録画装置を破壊したのは連中の仲間ではないとすると……
オレンジのトヨタ・ハイラックスは国道一号線を保土ヶ谷方面に向かっていた。
「桜ヶ丘って、この踏切渡ればいいのか」
アレックスは独り言のように呟きながらハイラックスを左折させた。
ダッシュボードの上にはカーナビ代わりのスマホが貼り付けてある。
上り坂をしばらく走ると、2棟のタワーマンションが見えてきた。
「暴走族にしちゃ洒落たところに住んでるじゃねえか」
アレックスは言うと、ハイラックスをマンションの入り口付近に駐めた。
「東側の22階か」
アレックスは後部座席の床に置いてあった大型の工具箱の中から、銀色のダクトテープ1巻と、大型のペンチやドライバーなどの工具を取り出した。
「こんなことになると判ってたら、もう少しましな道具を用意してたんだが……」
アレックスはテープや工具類を段ボール箱に詰め込みながら言った。
「あの、ここで何を?」
アレックスに訊いた。
「後藤っていう神奈川連合のナンバー2がここに住んでいる。こいつなら新井の居場所を知ってるんじゃないかと思ってね」
アレックスは空を指さした。
「こいつは横浜の西側で未成年を使った売春組織の元締めのようなことをやってる。俺たちの追ってる件に一番近いところにいるはずだ」
「未成年売春……」
「まず、これを着ておけ」
アレックスは緑色のジャンパーと帽子を差し出した。
同時に、アレックス自身も同じジャンパーを着て帽子を被った。
「あたしは何すればよかと?」
ジャンナが興味深そうに覗き込んでいた。
「お嬢さん。あんたは目立ちすぎる。ここで待っていてくれ。それにこれからすることはあんまり子供には見せたくない…… ま、クーラーきいた車の中でおにぎりでも食っていてくれ。何かあったらこれで連絡する」
アレックスは小型のトランシーバーをジャンナに放り投げた。
「了解たい。何かあったらすぐに行くけん」
「緊張してるのか、少年」
最上階へ向かうエレベーターの中でアレックスが言った。
「あ…… いえ……」
アレックスの問いに曖昧な返事を返しながら、僕は管理人室で縛られている初老の管理人を思い出していた。
防犯カメラを止めるため、アレックスが銃で脅して僕が椅子に縛り付けたのだ。
彩姉たちを救うためとはいえ、無関係な人に危害を加えたことを後悔していた。
銃を向けられ、恐怖に凍り付いた管理人の表情を忘れることはできないだろう。
「やり方はさっき教えた通りだ。できるな」
アレックスが念を押すように言った。
「は、はい……」
僕は手にしたワイヤーカッターの重みを感じながら答えた。
冷たい鉄の感触とオイルと錆の混じった匂い。
「ここか」
最上階に着いた。
最上階の2201号室が後藤の住居だ。
「後藤…… 達夫さんですね。お荷物お届けに上がりました」
チャイムを鳴らすとドアが開き、大柄で人相の悪い男が顔を覗かせた。
「な、何を……」
アレックスが隠し持っていたバールをドアに引っかけ、固定した。
「早くチェーンを!」
僕はワイヤーカッターをドアの隙間にねじこみ、チェーン代わりのU字金具を切った。
意外と冷静に、できるもんだな……
「て、てめえらどこの……」
大柄な男はアレックスに銃を突きつけられ後退りしながら呻いた。
金色の刺繍が入った黒いジャージ。
「あんたのボスにちょっとばかし用があるんだが、居場所が判らないんで訊きに来たのさ」
アレックスは男に、奥のリビングに行くように促した。
フローリング、大きな液晶テレビに豪華なソファのセット。
広く大きな窓から横浜の町が一望できた。
「いいマンションだ。防音も完璧だな」
「!」
突然の銃声!
アレックスが天井に向かって拳銃を撃ったのだ。
ライトが割れ、ガラス片が飛び散った。
「玩具じゃない、本物だよ」
アレックスはそう言いながら銃身の下に装着しているウエポンライトを点灯させ、威嚇するように男の顔を照らした。
「ま、待て」
男は眩しそうに顔を顰めた
「あんたたち何なの?」
突然、奥の部屋から若い女が現れ叫んだ。
外国人? 褐色の肌で年は20代前半くらいだろうか。
派手な柄物の赤いジャージを着ていた。
「タツオ! 何なのこいつら! どこのグループ?」
日本語も達者なようだ。
「少年。ちょっとその女おとなしくさせておいてくれ」
「え?」
僕が?
「な、なによ?、あんた……」
女は僕に敵意の視線を向けた。
「す、すみません。ちょっと……」
僕は女の腕を掴んで、なるべく痛くしないように後ろへ捻った。
「い、痛い」
「ご、ごめんなさい」
僕が手を緩めると女は腕を振り解き、僕の頬に平手打ちをした。
「何すんの! 痛いじゃない」
「おい、何やってる! 早くしろ」
アレックスが怒鳴る。
「は、はい…… 、ごめんなさい、ちょっとだけ我慢して……」
僕はテーブルの上にあったスマホ充電器の電源ケーブルを引っこ抜くと、女の両腕を後ろ手に縛り、ダクトテープを口に貼り付けた。
「う……」
女は恐怖と怒りの混じった目で僕を睨み付けた。
「よし、次はおまえだ」
アレックスは銃で男を威嚇しながら言った。
「あ、新井の居場所なら俺は知らん…… あいつは誰も信用してないんだ」
怯えながら後藤は答えた。
「だったら、心当たりだけでもいい。奴のいそうな場所を教えろ」
「それは……」
「!」
銃声!
ガラスの割れる音と同時に後藤の胸が弾けた。
血の臭いが広がる。
後藤は背中から銃弾を受けていた。
「伏せろ! 狙撃だ!」
アレックスが叫んだ。
僕は身を屈めると同時に女の腕を掴んで強引に引き下ろした。
「隣か」
銃弾は隣のマンションの屋上から飛来したようだ。
アレックスは素早く窓の死角に移動すると、隣のマンションに向かって拳銃を撃った。
「危ない! 窓から離れろ!」
僕が外の様子を見ようと窓に近寄ったとき、アレックスに頭を押さえられた。
頭上を銃弾が通り過ぎた。
プラチナブロンド?
はっきりとは判らなかった。
逆光のせいでそう見えたのかもしれなかった。
しかし、マンションの屋上でライフルを持った狙撃者は輝くプラチナブロンドのロングヘアーに見えた。
無線機の呼び出し音が鳴っていた。
ジャンナか?
『警察たい。警察が来とっと』
「警察?」
アレックスが無線機に訊いた。
『アウトポリツィアえらい来とっと』
「判った、すぐに下へ行く」
アレックスは姿勢を低くして窓から離れた。
僕は部屋の隅で踞り、恐怖で震えている女に近づくと、手を縛っていたコードを解き、口のダクトテープを剥がした。
「何なの……」
「奥の部屋で隠れてるんだ。窓に近づいちゃだめだ」
僕は女にそう言うとアレックスの後を追った。
「そうだ、これを……」
テーブルの上にあったスマホを咄嗟に掴んだ。




