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俺の正義

 12. 俺の正義


 警察?

 車内に緊張が走った。

 アレックスは左腕をさりげなく腰の後ろに回した。

 ジャンナはライフルケースを引き寄せた。

 おいおい、まさか警察と撃ち合いする気じゃないだろうな。

「あの、あなた携帯しながら運転してましたよね」

 どうやら運転中に携帯電話で話しているところを見咎められたようだ。

「けす あるご け ぷえど あせる ぽる うすてっど? ぽりふぃあ」

 スペイン語?

 アレックスは日本語が判らないふりをして警官に応えた。

「あ…… あの。てれふぉん、のー…… いん、どらいぶ……」

 警官はアレックスの携帯電話を指さし両手でバッテンを作った。


「あー、ゆーすぴーく、じゃぱにーず?」

 警官は僕に向かって話しかけてきた。

「Mi dispiace.(ごめんなさい)Non parlo giapponese(僕も日本語話せません)」

 日本語が話せないふりをしてイタリア語で応えた。

「まいったな……」

 後部座席で微笑んでいるジャンナを見て、さらに絶望的な顔になった警官は、アレックスに言った。

「おーけー…… ばっと、てれふぉん、のーのー」

 警官は諦めて手振りで『行け』の合図をした。


 スマホが鳴っている。

 バックパックからスマホを取り出した。

 知らない番号だ……

「もしもし……」

 恐る恐る出てみると、聞き覚えのある声がした。

『おまえら、昨夜(ゆうべ)からずいぶん派手にやってるじゃねえか』

 風祭とかいう女刑事だった。

「風祭さん…… どうしてこの番号が……」

『おまえ…… 警察を舐めてるだろ』

「いや、そんなつもりは……」

『金髪のガキが殺しまくったおかげで、今頃、県警の奴らてんてこ舞い。いい気味だ』

 警視庁と神奈川県警が仲が悪いって噂、本当だったんだ。

「あの、それは……」

『安心しろ。ロシアだかウクライナだか知らないが、そっちには手を出すつもりはない、上からストップがかかってるんでな』


 -各国は財団の活動を、黙認している…… -

 そういうことか……


『それに、14歳未満じゃとっ捕まえても罪に問えんしな。町のダニが何人殺されようとこっちは知ったこっちゃないが』

 あの…… この人本当に警官か?

 言ってることが無茶苦茶だぞ。

「あの、母の件ならまだ何も……」

『横浜にシチリア・マフィアが集結してるって情報があるんだが……』

「そのことなら……」

 僕はホテルでの出来事をアレックスとジャンナのことを省いて説明した。

『で、おまえは今何やってるんだ?』

「え?」

『まさか、ひとりで彼女を救い出そうと思ってるのか?』

「いや、それは……」

『車の中のようだが……』

「……」

『財団関係者と一緒か』

「いや、その……」

『高校生のガキに何ができると思ってる。危ない連中と関わるんじゃない。情報は県警の組対に伝えておくから、おまえは家に帰って宿題でもやってろ』

「いやです。彩姉(あやねえ)…… いや、彩さんやナターリャは人身売買組織に売られるかもしれないんだ、早く助けないと……」

『あのな、今おまえがいる世界はアニメやゲームの中じゃなくて現実の日本だぞ。法律を犯せばおまわりさんに捕まる法治国家なんだぞ』

「しかし…… 、僕は大切な人を見捨てるなんてできない。人任せにして後悔したくないんです。人を助けることが犯罪というなら、僕は……」

 犯罪者の汚名を着ることになっても……

『ガキのくせに知ったふうな…… おまえにとって正義でも犯罪は犯罪なんだよ。無頼を気取るには10年、いや、50年早い』

「……」

 しばらくの沈黙の後、風祭刑事はぽつりと言った。

『やはり血は争えんか…… おまえの彼女になる奴は幸せだな……』

「え?」

『もうひとつ警告しといてやる。昨夜(ゆうべ)からから暴走族みたいな連中が大勢繰り出して、携帯片手に横浜中を走り回ってるぞ。誰かを探しているようだな』

「え?」

『連中の情報収集力と組織力を甘く見るなよ。いつどこで見られているか判らないぞ』

 そうか、僕たちは昨日から奴らに監視されていたんだ。

 僕たちの行く先々に「敵」が現れるのはそのためだったのか……


「女から電話か」

 風祭刑事からの電話を終え、しばらく放心していた僕にアレックスが訊いた。

「え、あ…… 警察です。警視庁の刑事だって…… 母が、いや俺の母親だった人が国際刑事警察機構(インターポール)から国際手配されてるとかで……」

「少年…… 。おまえさんもなかなか人生ハードモードなんだな……」

 アレックスは感心したような口ぶりで嘯いた。


『横浜のホテルでまた発砲事件です。今日、午前7時頃、横浜市中区のホテル・ミラノグランデのレストランに賊が押し入り銃を乱射、少なくとも2名が負傷した模様です。港南区の環状2号線での大型乗用車とトレーラーの事故も、他の車両からの銃撃が原因との目撃情報が寄せられており、これも含めると横浜市内では昨夜から4件の発砲事件が連続して起こっており、警察では関連性について調べています……』


 コンビニの駐車場で小休止。

「さすが先進国、情報が早い」

 アレックスは小型のタブレット端末を僕に差し出した。

 端末を受け取り、画面を見ると、クラブのVIPルームだろうか、周りに女性を侍らし相好を崩している男の画像があった。

「今日、ホテルに来た男はそいつに間違いないな」

『新井慶輔、27歳。暴走族神奈川連合リーダー。住所不定、職業不詳』と画面表示されている。

「間違いありません」

 この、人を小馬鹿にしたような下品な笑いは忘れない。

「よし、今度はこいつだ。こっちは財団からの情報だ」

 アレックスはスクリーンをフリックし、次の画面を出した。

 数人の強面に囲まれた白人男性の姿があった。

「オレーグ・シドレンコ。ロシア系ウクライナ人。年齢不詳。現在、ウクライナ東部を拠点にしたウクライナ・マフィアの実質的ナンバー・ワン。麻薬、武器密輸、人身売買が主な収入源」

 アレックスは画像に下に表示されたロシア語を読んだ。

「間違いありません、さっきの新井とかいう奴と一緒にいた男です」

「次はこいつだ」

 画面には中年の白人女性。

 空港の防犯カメラの映像だろうか、これも目つきの悪い数人の男に囲まれていた。

「この女だと思います」

「マーガレット・マックレー。年齢、国籍不明。複数の旅券(パスポート)を所持。モロッコを中心にスペインと北アフリカで行われている人身売買組織の元締め。つまりやり手ババアか。通称ミズ・M、ってまんまだな」

「モロッコ……」

「つまり、ヨーロッパ西と東の人身売買の大物がこの日本に集まっているということか」

 アレックスはタブレットをグローブボックスに放り込んだ。


ただいま。(Rieccomi.)こげんでよかと?」

 大きなコンビニ袋を抱えるようにジャンナが帰ってきた。

 中には大量の弁当、おにぎり、ペットボトル。

ありがとう(Grazie.)お嬢さん(シニヨリーナ)。ちょうど腹が減ってたところだ。少年。君も朝から何も食べてないんだろう」

「は、はい…… ありがとうございます」

 言われてみれば確かに腹ぺこだ。

 それにしても、振り袖の白人少女なんて違和感ありすぎだろ。

 コンビニの客や従業員が物珍しそうにこちらを見ている。

「ねえ、ジャンナ。その着物だけど、この夏場で暑くないのか?」

 8月下旬とはいえ残暑はまだ厳しい。

 振り袖はいかにも暑苦しく感じた。

「これか? こりゃ絽の着物ばってん夏でも涼しいんよ」

 ジャンナは腕を上げ、袖の部分を広げて見せた。

 薄手の生地に光が透け、赤い牡丹の花が輝いて見えた。


 ネットに続報が上がっていた。

『磯子区のマンションで起きた発砲事件は、重傷者のうちひとりの死亡が確認され、この事件での死亡者は5名となった。犯人は依然逃亡中で人数や人相その他の特徴も全く不明。被害者は以前から地元の暴力団とトラブルを抱えていたとの情報もあり、警察は慎重に捜査を進めている』



-こんな人形みたいなのが殺し屋(ヒットマン)とは、ロシア人もえげつないことをする…… ビデオ見てなけりゃ信じられなかったところだ-

 警察は防犯ビデオを見てないのか。


 

-旭台の割と目立つところにあるマンションなんだけど、所有者が元暴走族で…… -

 マンションの管理会社も神奈川連合とグルということか……

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