招かれざる客
10 招かれざる客
「こいつらか。舐めた真似してくれたのは」
荒々しくドアを開け、入ってきたのは4人の男とひとりの女。
先頭は日本人か?
20代前半くらいで黒いサテンのスーツにネクタイ姿。
隣にダークスーツ姿で四十代くらいの白人男性、頭頂部が薄くなったタークブラウンの髪。
白いシャネルのスーツを着た恰幅の良い中年の白人女性は金髪で若作りした派手な化粧。
そして両脇に黒のジャージにサングラス、突撃銃を抱えている若い男がふたり。
ミケランジェロの部下がスーツの胸元に手を入れる。
しかし、ミケランジェロはそれを制した。
ナターリャは白人男性の姿を一目見るなり憎悪の表情を浮かべ、凝視した。
「Who are you? (おまえたちは何者だ?)What is the purpose? (何が目的か?)」
ミケランジェロが立ち上がり、言った。
「ここは日本なんだよ。日本語で話せ、おっさん」
下品な笑みを浮かべながら、若い日本人の男が答えた。
「……」
「OK、There is a man who do not understand Japanese in my group. (こっちにも日本語解らない奴がいるからな)This is special.(特別大サービスだ)」
男は英語で続けた。
「おい、そこのガキ。おまえらか、昨夜から勝手なことしてくれたのは」
男は僕たちに向き直った。
「こいつか、かわいい顔して派手にやりやがって。こっちは大損害だ。防弾仕様のベンツは高かったんだぜ」
日本人の男が腰を落とし、ナターリャの顔をのぞき込んだ。
ナターリャは男を無視、険しい顔で白人の男を睨み、低い声で、唸るように呟いた。
「オレーグ……」
「ベラルーシから逃げ出したと思ったら、ロシア人の手先になっていたとはな……」
オレーグと呼ばれた白人の男がロシア訛りの英語で言った。
「ユリアはどこ? ユリアを返して!」
ナターリャが叫んだ。
この男はナターリャとユリアを拉致したウクライナ・マフィアか。
「ユリア? ああ、安心しろ。元気だよ。おまえには感謝している。おまえがミハイルを殺してくれたから今じゃ俺がナンバー・ワンだからな。ははは……」
オレーグは高笑いをし、ナターリャは険しい表情のまま男を睨み付けていた。
「こんな人形みたいなのが殺し屋とは、ロシア人もえげつないことをする…… ビデオ見てなけりゃ信じられなかったところだ。 ……あんたが御執心なのが解るよ。確かにスペシャルだ」
日本人の男がナターリャの顔に手を伸ばし、ナターリャが撥ねつけた。
「おっと、おっかねえ」
「気をつけろよ、そいつは見かけとは裏腹に、凶暴な殺人マシーンだ」
オレーグが言った。
「ナターリャちゃんに触らないで!」
彩姉が叫んだ。
「何だ、おまえは……」
「南米辺りで人気出そうだな」
彩姉を見てオレーグが言った。
「よし、こいつも連れてけ」
男は銃を持った手下に指示した。
「やめろ、この人は関係ない!」
僕は咄嗟に彩姉を庇おうとした。
「邪魔だ」
手下は突撃銃を振り上げ、銃身で殴りつける。
防いだ左腕に激痛が走った。
「うっ」
思わず身を屈めた背中に追い打ちをかけるように銃を叩きつけてくる。
「レオ君!」
気を失いかけた耳に彩姉の叫び声が聞こえた。
倒れそうになるのを必死にテーブルに掴まり、持ちこたえる。
「こっちの女もだ、こいつも高く売れそうだ」
男はジャンナを顎で示した。
「糞野郎!」
ジャンナは抵抗するも銃を突きつけられ、押し黙った。
「ジャンナ様!」
ミケランジェロの若い部下がスーツの胸元から自動拳銃を取り出し構えた。
「んだ、てめえ」
突撃銃の一連射。
「ニーノ!」
ミケランジェロが叫ぶ。
しかし銃弾はニーノと呼ばれた若い部下の肩を僅かに掠めた。
「うっ」
ニーノは銃を取り落とす。
「Don't it!(やめて!)、Don't killin the sight of me.(私の目の前で人殺しはしないで)」
白人の中年女性が男の銃を押さえ、狙いを外させたのだ。
「Figlio di puttana……(野郎……)」
ミケランジェロが突撃銃の男を鋭い目で睨み付けた。
「失礼、ミズ。あなた、血を見るのが嫌いでしたね」
日本人の男がスーツの前をはだけると、右肩に大型拳銃を吊っているホルスターが見えた。
男はホルスターから銀色の大型自動拳銃を抜いた。
デザートイーグルかよ!
男は銃の遊底を引くと、天井に向けて発射した。
「!」
轟音が耳に突き刺さる。
マグナム弾が天井を破壊し、コンクリート片が落ちてくる。
「おとなしくしてろ、そうすりゃ苦しまずに地獄へ送ってやる」
マンガの悪役のような台詞を言いながら、リーダー格の男は大型自動拳銃を右手に構え、僕たちを威嚇しながら左手をスーツのポケットに入れた。
そしてプラスティック製の白い紐のような物を取り出した。
拘束バンドか。
「何するの! やめてよ」
彩姉の抗議を無視して男たちはナターリャ、彩姉、ジャンナを、それぞれ後ろ手に縛り上げた。
「それじゃ、後は頼んだぞ」
男たちはは突撃銃を持った男をひとり残し、3人の女たちを連れて部屋を出て行った。
そして、ひとり残された男は、薄ら笑いを浮かべながら銃を構えた。
先刻、ニーノを撃った男だ。
「まずおまえからだな」
男は銃口を僕に向けた。
「……」
この距離では絶対逃れられない、絶体絶命か……
「Che cazzo vuoi(おい、おまえ!)」
突然ミケランジェロが叫んだ。
男の銃口と視線が僕から外れた。
僕は咄嗟に跳躍し、男にタックルした。
「な!」
男は仰向けに転倒し、弾みで引き金を引いた。
弾丸は天井のシャンデリアに当たり、クリスタルガラスの破片が雪のように降り注いだ。
僕は素早く体勢を立て直すと、男から銃を奪った。
「お、おい…… やめ……」
僕に銃口を向けられた男は、尻餅をついたまま、恐怖の表情で僕を凝視していた。
あと少し、この指に力を入れれば、この男の命を奪うことができる……
?
どこでカタカタと音がしている……
いや、音がしているのは僕が持っている銃からだ。無意識に腕が震えている?
「ふっ…… 撃てねえのか」
男が立ち上がり、銃身を掴んだ。
「!」
後方から銃声!
男の肩に真っ赤な花が咲き、男はうめき声を上げながら踞った。
振り返るとミケランジェロがクロムメッキされた旧型の回転拳銃を構えていた。
「ミケランジェロ……」
「ゴキブリ野郎にレオ様が手を汚す必要はありません…… こんな奴、殺す価値も…… う……」
ミケランジェロは左の肩を押さえて踞った。
出血している?
流れ弾が当たったのか?
「ミケランジェロ!」
「大丈夫、掠っただけです。…… チェザーレに穴を開けてしまった、またパトリツィアに怒られる」
ミケランジェロは苦しそうな笑みを浮かべ言った。
「そうだ、彩姉たちを……」
「レオ様お待ちください!」
レストランを出ようとする僕にミケランジェロが声をかけた。
「ひとりでは危険です。今、手勢を集めますからそれまでお待ちを……」
しかし僕は、その言葉を振り切ってレストランを飛び出した。




