ケセナイキオク、ウズクニクシミ
天に御坐す我等がカミよ。清く尊い、可愛い可愛いてめえの祝福なんかいらねえよクソッタレ。 どうでもいい日に放った言葉。by D12セル指揮器官153
『反体制言動として記録』
その言葉とともに、一瞬の閃光がほと走り、俺の頭を思いっきりノックする衝撃。ドアノッカーがいくら頑丈でもぶっ壊れるぞ。ドアノッカーが。
くだらない雑念もつかの間、環境音に等しいくらい聞き慣れた戦場音楽がキンキン言ってる俺の聴覚の隙間から染み出す。悲鳴が、罵声が、銃声が、剣戟が、エンジン音が。。。ほんで、笑い声が、そこかしこにばら撒かれてる。どうやらクソッタレのクソに意識をクソ飛ばされていたらしい。
「敵性体による超高密EMP攻撃。当機ポッド011による支援対象D12セル153への電磁スタン攻撃を実行」
「電スタつかってんじゃねえよクソがIFF(識別信号)こわれてんじゃねぇかクソポッド」
「当機ポッド011に対する反抗を確認。戦術規則5条6項に抵触する恐れあり。発言を撤回するか、電磁スタン攻撃か、選べ」
ポッドが言い終わるか否かで至近で巨大な閃光と爆発音。さっきから聞こえてた狂ったピエロみてえな笑い声が聞こえなくなる。
「至近に着弾。僚機ポッド11925、その支援対象であるD12セル119、ロスト」
本気か冗談かその合成機械音声からは判別つかなかったが、相棒は逐次クソッタレな周囲の状況をアナウンスしてくる。少しは良い事も言ったらどうだこのポンコツめ。舌打ちしながらポッドに答える。
「119はブレイクアウトだ。オペレーションメンバーから外せ。・・・みんな聞こえたな!?どでかいジャックをケツに突っ込まれたクソピエロ野郎は一回休みだ!しばらくリムーブできねえからあのアホ抜きでやるそ!右から127、128、左から131、132だ!俺は正面から奴の金タマを蹴り上げてやる!お前らは左右から機械油シャンパン浴びせまくって奴等を天国の表彰台で踊らせてやれ!」
「「「「ヤー!」」」」
「目標、再度EMP攻撃の兆し。3、2、」
俺は塹壕から飛び出して正面30mくらい先、敵『バリケード』目掛けて腰に括りつけてる『キカイボム』を『同時に』3個励起状態にして投げつける。
敵からは火線が俺に一気に集中しやがる。556、9、127、20、40、76、36、46、HE,AP,HEIAP…ああもうhannbetuすらでkinee…!
前方120度から上から砲弾まみれで文字通り光の中に消える俺・・・視点が上空から見下ろすカメラになる。陽動に釣られていた敵は俺の投げたもんで『バリケード』を丸ごとぶっ壊された。更に左右から『キカイ用拘束弾』でファックされた間抜け共は地面に転がる。作戦要員がそいつらに駆け寄って無力化弾を打ち込む。必要以上に打ち込む。打ち込む。こいつぁ相当たまってんぜ。だんだん引き絵になっていく。もう人影が米粒くらいになる。
「153、ブレイクアウト。戦時指揮権臨時規定に則り指揮権限をD12セル132へ移譲。以降は作戦参謀業務をポッド011、ポッド11943が兼務。D12セル臨時指揮器官132、及びポッド11943へ。当該作戦は70%までのプロセスを消化。無力化した『資材』を速やかに回収、バンカーαへ移送を推奨。バンカーαへは作戦進捗状況をアップロード済み。約1200秒で当該作戦区域へ現着。その他、クソったれなブレイクアウト要員は・・・」
画面がブラックアウトする。
眩しい。どこのアホがホースで光をぶちまけてんだ。こっちは酷い二日酔い明けさながらに最悪な気分なんだぞ。それと最後にあのポンコツがなんか言ってたが・・・
「・・・誰がクソッタレだ、ったく」
まだ眩しい。目ん玉の調光機能が逝かれたか。これだから流用モンは。頭もふらつく。重い。
「チェック。調光機能。当該器官にエラーは無し。敵EMPによる脳漿チップの一時的な混乱によるものと推定。。おはよう、ヤクタタズ」
「いちいち頭ん中をのぞくんじゃねえ変態ポッド。それから・・・喧嘩もノーセールだ。買取してねぇよ。状況報告」
「了解。D12セル153ブレイクアウト後、敵性体を資材回収することに成功。回収の後、撤収後17秒程で敵の増援部隊が到着。目的は救出と思われる。しかし『キカイセン』の速力には敵わず、また、D13セルポッド98部隊が敵増援部隊を攻撃。敵増部隊は5分ほど追跡してきた後、6体をロストし撤退。また、D12セル119は損傷が激しく暫くは戦線復帰が困難。再生促進剤を投与の後、敵性アンドロイド部材を補修材料に使用予定。他、D12セル各員、及びバンカーαにおける特筆事項なし」
淡々と男のような低い合成機械音声で説明するポッド011。彼の体は50センチの立方体で、空中に浮遊しており、金属質な灰色に旧世界のロボットアーム然とした蛇腹構造の腕が2本下から生えている構造だ。
「結局付いて来ちまったのか98(キュッパチ)。アイツ次軍令違反したら軍法会議だろ?大丈夫なのかよ?」
俺は頭ん中であのイビツなポッドを思い浮かべ、溜め息をつく。作戦指揮側としては責任を負わさせるだろうなぁ、と。
「回答。問題はない。理由。当該作戦における深刻な戦力不足は誰の目にも明らかである。特に、回収後における防衛戦力はマイナス60%の戦力比だった。そこへ、D13セルポッド98が参戦することによりプラス480%まで上昇。結論、ポッド98は必要不可欠であり、当該作戦における『エンジェル』に他ならない」
「オマエ、やっぱ98には甘いよな」
「否定。甘いも辛いもない。適正な評価。軍法会議には作戦参謀業務の担当者として、当機ポッド011も出席する。作戦立案書はすでにクラッキング済みであり、オペレーションメンバーリストにはD13セルポッド98の名前を明記完了。つまり、あの子は良い子である、証明終了」
「あー、はいはい、ずいぶんとご苦労なこって。…ん?まてまて。そういや、あるだろ。注目度No. 1の特筆事項が!大事な賭けのショーダウンだよ!」
「・・・今回、司令官Aセル020は作戦後に自室で拳銃を使い頭蓋を撃ち抜いた。かねてよりの賭け、『いつ、どこで、なにで、司令官が頭をクラッカーがわりに打ち出すかvol67』は作戦後、自室にて、拳銃にて、になる。よってオッズの8番人気である。3連単、D12セル153の予想。作戦中、トイレで、ライフルで、という賭けは見事外れ。ちなみにこれは大穴49番人気。当機ポッド011は見事当たり。言うことを聞かないからだ。バーカバーカ、ザマアミロ、ミツウデ」
くるくる回りながら喋るクソ機械。・・・早くぶっ壊れねぇかなマジで。割と本気で思っている。あー。これも『読まれる』な。クソくだらねぇ。
「当然。支援対象と当機におけるコミュニケーションコスト低減の為、脳漿チップアセンブリ内にナノマシンを配置。また、このナノマシンを使えば支援対象を行動不能にさせる事も可能。提案。当機に対するあらゆる畏敬の念と、服属の表明」
「なにさらっと脅迫してんだよ。どーせ、前らクソポンコッドでも俺らB兵器群は破壊できねぇんだから脅したって無駄だろ。ま、どーせなら派手に壊して『終わらせて』くれよ」
俺、153はそう言ってようやく眩しくなくなった室内を上半身を起こし、見渡す。今までベッドに横にされていた。見慣れた俺の部屋だ。相変わらず何もねぇな。いらねえけど。さて、破損箇所の修復状況でもチェックするか。
「了解。ミラーを展開」
「こういう時だけ便利だな」
「肯定。こういう時だけ素直だな」
「うるせえ」
ポッドが展開したミラー。実際にはポッドが撮影している映像を反転、補正し、ホログラフィックとして空中へ投影している技術である。主に敵地でのデコイに使う機能。
ま、長く戦ってりゃなんでも日常的に使うモンなんだよ。
投影された自分を見る。いつも通りといえばそれまでだが。
筋肉質で引き締まった身体。頭が一つ半、腕が三つ、足が二本に・・・なんだこりゃ、脇腹からE個体特有の触手が垂れ下がって膝までありやがる。
「報告。支援対象D12セル153ブレイクアウト時における破損部分が50%を突破。B兵器固有能力『再生』も過剰に発揮。結果、B兵器製造初期におけるE個体情報が顕現。脳漿チップ内DNA管理プロセスにより完全な『先祖返り』は免れたものの、一部失敗。結論、90%は負傷前のまま。誤差の範囲内」
「誤差もクソもあるかよ・・・たく・・・」
この触手、『バリケード』にも生えてやがったな。嫌なモン思い出しちまうぜ。
「肯定。今回のオペレーション:0099112における敵性体、中型2足、小型4足が用意していたバリケード内に確認。本数おおよそ50。ちなみに、当該バリケードの長さは楕円形で15m。高さは3m。B兵器個体数はおおよそ100体が使用されていると思われる」
「いらねえコト教えてくれてありがとうよ。要は、俺がその新鮮な100体消したってコトだろ?部隊内表彰まっしぐらだぜ。懲罰房のな。ま、冗談はいいが、聞きてえのは一つ。生存者は?」
「回答。いない。『キカイボム』による高度消滅現象により肉片はおろか細胞すら残っていない。完全な『ディメンジョンオフ』を観測。よって、支援対象D12セル153は予定されていた作戦行動を完全に遂行した、と当機ポッド011は戦術アーカイブ内オペレーションライブラリ作戦報告隷下資材回収セクトへ記載済み。それと、この内容に苦情を加えた陳情書をバンカーα司令官Aセル020へ提出。数は10、提出方法は5通り。内容は全て若干変えてある。成果は、正当に評価されねばならない。あらためて、任務遂行を労おう。D12セル所属部隊指揮器官153、器官の働き実に見事だった。我等が先祖、ヒューマノイドに栄光あれ」
「随行支援ポッドサマ直々に褒めていただいて涙もでねえよ。いよいよ末期もいいとこだな。論功行賞が無えどころか、上官どもが揃いも揃って機能してねぇ。みんな自分のケツの穴守るために必死だ。クソッタレなミサイルをねじ込まれる前に相手のディックを切り落とすのに夢中になってやがる。どいつもこいつもゲイばかりだ」
「反体制言動を記録」
「オメエはそればっかりだな」
「肯定。オマエもそればっかりだな」
「愚痴ぐらい言わせろよハゲ」
「否定。当機にハゲという概念は無い、ハゲ」
「「ポンコツめ」」
いつも通りポッドとくだらねえやり取りをしていると不意に自室の入口が開く音がする。
「おい!覚醒したと報告を受けたぞ!作戦指揮をなんだと思っている153!自分を囮にしてのオペレーションなぞ愚の骨頂!後はどうするつもりだったんだ!」
入ってくるなり怒鳴り散らしながらやってくるこいつはA020。お偉い司令官サマだ。賭けのメインイベンターとも言える。頭を吹っ飛ばしても元気にしてるあたり誰も心配しないわけだな。今は相当お冠らしい。背後にポッドが2体浮いているが、心なしか司令官の背後に隠れるようにしている。
「おいおい、怪我人に早速お説教たぁ仕事熱心なことだなクソ司令官。お前は頭を吹っ飛ばすかいらねぇ作戦立てるかしか能がないと思ってたが、追加だぜ。縦割り組のルールを無視するアホだ。ああ、上の奴らのご機嫌取りもな」
ハゲてんのか剃ってんのかよくわからん頭を真っ赤にしていく司令官。分かりやすく激昂してんだなと言いながら観察すると横からポッド011が俺と司令官の間に割り込んでくる。
「確認。司令官Aセル020は当機ポッド011が提出した陳情書には目を通したのか?その中の内容には現有戦力における当該作戦の成功率の低さを指摘した項目がある。更には併せて改善要求をしているが、そちらの具体的な回答はあるのか?そもそも、当該作戦における作戦参謀業務は当機ポッド011にあり、当機支援対象D12セル153は立案された作戦計画に沿って部隊指揮に傾注したのみ。よって、本案件における問題提起の相手はこのポッド011にあり、153を弾劾する権利は誰も有さない。そうだな?Aセル020支援担当副司令相当官ポッド、053、091」
な…な…と声にならない叫びを漏らしている司令官A020を尻目に。
機械音声だが剣呑な雰囲気を出すポッド011に名前を呼ばれると、ピクリと震えてから、2体が恐る恐る020の背後から出てくる。しかし、小刻みに右左に向きを動かす様は、非常に生き物臭い。
「…肯定。ポッド011における提出意見、文句があるなら011に言え、は本問題における責任所在を明確にしていることを認めます」
「…提案、ポッド011へ。司令官Aセル020は度重なる『ヘッドショット』により深刻なエラーが発生。セルフチェック後、改めて必要な場合は問題提起を行いたい。結論、許してください」
ポッド達が器用に頭を下げてくる。
「な!?お前たち、わ、私に深刻なエラーだと!?何様のつもりだ、ただのポッドのくせに!」
喚きちらす司令官A020の左右に素早く移動するポッド2体。司令官A020の体を2対の腕でガッチリホールドし、持ち上げる
「副司令相当官ポッド053より司令官Aセル020へ。当該作戦成功率28%を承認したのは誰だ。提案、黙れ」
「副司令相当官ポッド091より司令官Aセル020へ。副司令相当官たる我々2体の意見を無視した挙句、今次作戦が成功した功労者に対する行為ではない。最終通告、くたばれ」
言いながら司令官Aセル020を持ち上げたまま、部屋から出て行くポッド達。
「な、お前ら、じ、上官に対する言葉とは思えん!まだ私の話は終わってないぞ!そもそも私は貴様らより階級が…上…好き勝手に…はなせ…くそ…いぃ、いちごうさぁぁん!」
だんだんと遠のいていく司令官の声が、遂に部屋のスライドドアが閉まると同時に聞こえなくなる。
「相変わらずクソ騒がしいなアイツも。しかし嫌われたモンだよなぁ。そう思わねぇか?」
閉まったスライドドアをぼけっと見つめながら、零す。
「驚愕。嫌われる、という前提条件として司令官A020へ暴行を働いた記憶を忘却したと理解するべきか?」
司令官と話していた向きから180度反転して言葉を発するポッド011。顔がねぇからどっちが表かわかんねーよ。
「ああ、んなコトもあったな。どーでもいいことだから忘れてたわ」
「同意。どうでもいい司令官A020はせいぜいクソッタレなケツで汚いイスを磨く仕事に励んでもらいたいとポッド011は思考する」
「ハハ…オマエもクチ悪くなったなぁ…だぁれににたんだか…」
「当機ポッド011は『学習進化プログラム』を搭載している。変化する、とはいわば進化しているのであり、『生きている』と定義することが可能。であるため、似る、という印象を受けるとははつまり…」
「ああもう次から次へと減らねークチだな。オマエが叫ぼうが喚こうが喘ごうがF言葉使おうが、俺には関係ねぇよ。ただ…気づいたか?020、相当バカになってんなありゃ」
「同意。作戦後の参加要員メンテナンスすら実行出来ないと認識。おそらく司令官業務による一定以上のストレス値が蓄積されており、自己の感情レベルをコントロール不可と推測および観測。もはや頭を撃ち抜いてキャッシュをクリアしても意味がない。セルフではなく、要ヘビィメンテナンス推奨」
言いながら、器用に片手で頭を撃つジェスチャーをするポッド011。いやにコミカルに見える。
「メンテナンスするやつがいりゃいいんだがな、そういう面じゃ、俺はアイツに同情するぜ…本当にな」
そう言い、俺はベッドから立つ。立ちくらみと右足に違和感を感じるが、構わず軍服の上を掴む。そのまま自室から出て行こうとする。
「提案、消耗した体力の回復を…」
「やめてくれ、お前が俺に世話焼いてくれんのはありがたいが…止まっちまうと、アタマん中にあん時のコト、思い出しちまうんだ」
「……」
「ポッド011に命令。当該作戦後の休息期限である明朝12:00まで単独行動を容認する。鋭意休息されたし。なお、153における連絡は最小限に留めるべし。…さっきは守ってくれてありがとよ。でも、クソ過保護過ぎだぜ」
スライドドアが開いて、俺は軍服を羽織り出でいく。残されたポッドがなんか言ってたが、よく聞き取れなかった。
初投稿です。細く長くやっていければ良いなと思ってます。作中153の声は大塚芳忠さんで脳内再生して頂くと少しは楽しめるかも・・?