第八話 ー 最後の四鳥(しちょう)
気付くと、辺りはもう暗闇となっていた。
午後十時を迎えた頃だろう。
「ーーこれで三鳥目か。」
「はい、何とか。」
「シャッフー! もう夜だネ☆」
ラクネスさんが辺りを見て、
「ここは街からかなり離れた孤島だ。今夜はここで野宿だな。」
「ソウソウ、魔物も近くにはいないヨー!☆ お腹空いたー!」
「そうだな…何か食べるか。」
リーグさんが魔法袋を出現させ、中にある水やチョコレート、カップ麺やらを取り出す。
「今度は鍋でも食べたいネ☆」
「偶にはいいか。」
「冬にはぴったりですね!」
「イヤッハー! 今度用意しておくヨ☆」
楽しい食事の時間。
どれくらいぶりだろう。
仲間っていいな。
時間はあっという間に過ぎてーー。
やがて私を含め、三人は寝袋に入った。
「正当化…か。」
寝る前、ラクネスさんが呟く声がしたが、風の中に消されていった。
*
明け方。
「おはよう。」
「おはようございます!」
「ハァイ、おはよう☆」
挨拶をしていると、
ひゅんっ
”それ”は近くの方で、一瞬だけその姿を現した。
「!」
私もラクネスさんも、ほぼ同時に気が付いた。
「今の…」
「リザベルス…か…?」
「ギャアア、スリルさ・い・こ・う☆」
ラクネスさんはちょっただけ考え、
「皆、この説は間違っていないのかもしれない。時間がない、急ぐぞ!」
「はい!」
「リョカりょかーい☆」
しかしーー
あれから何度も最後の四鳥を探しても、全く見つからないのだ。
今までは本を参考に探していたが、どこにもその姿はない。
時間がないというのが、私達を余計に焦らせていた。
「ヒャッホウ! 見当たらないネ☆」
「まずいな…。また街が襲われる前に見付けねば。」
ラクネスさんにも、焦りが見てとれる。
「でも、まだ街にも行ってないですよね…? 巨
大な時に見つけたら戦えばいいのでは…?」
私の発言に、ラクネスさんははっとして、
「そうか…その通りだったな。 焦ってばかりだった。すまない。」
「そんな、『仲間に遠慮はいらない』じゃないですか。」
目を伏せ、ラクネスさんは微笑む。
「…そうだな。 ありがとう、シェミィ。」
「いえ、仲間の力になりたいですし!」
「…成長したな、君は。」
「成長…ですか?」
「以前は戸惑う事が多かったが、今では仲間の意見まで指摘できるようになっている。充分成長したといっていいと私は思う。だが、それに比べて、私は…。」
ラクネスさんの声に元気がない。
「そんな…そんなのラクネスさんらしくないです! ラクネスさんがいたからここまで来れたんです! 私の相談も聞いてくれたし、ラクネスさんは大事な仲間です! もちろんリーグさんもです!」
「……そうか。 二度目になる。シェミィ、ありがとう。」
「そんな事ないです。」
恥ずかしくなり、思わず顔が赤くなる。
ラクネスさんも、いろいろ抱えてたんだ。
「ヘーイ! すすすと飛んでくよー☆」
リーグさんは相変わらずスピードが早く、ぐるぐると回りながら私達を待っていた。
ありがた迷惑かもしれないけど、もっと皆の力になりたい。
*
その日の夜だった。
「今日はこの位にして野宿しよう。そろそろ夜の一時だ。」
「はい」
「イヤッヒャー! お鍋タイムだネ☆」
と思ったら、
グワアアアッ!
三人揃って吹き飛ばされた。
「っ、何だこの風!?」
「きゃあっ!」
「イェイフー! ごめん魔物察知気が付かなかったヨ、忘れてた☆」
「忘れてたって鍋に夢中になっていたからだろう!」
現れたのはーー
念願叶って、最後の四鳥。
そう、ブラックバードだった。
「僕のお鍋~!」
「そんな事を言っている場合ではないだろう! リーグ、鍋の前に明かりを!」
「お鍋…」
言いながら三つ程の光る玉を魔法で出し、それぞれの下へと運んだ。
それだけでも充分な程の明かりだった。
ビュウっ、という音。
風圧だけでその場から海辺に吹き飛ばされそうになる。
「なるほど、暗闇によってその存在を隠していた訳か。」
ラクネスさんは不意を付き、ブラックバードの上に飛び込む。
「ラクネスさん、飛ばなくていいですか!?」
「平気だ!」
私はとっさにミスちゃんを呼び出し、飛行する。
「イックゾォウゥ、ブラックバードちゃんは色的に光属性に弱いカナ? それ☆」
リーグさんは光の球を作ると、ブラックバードにぶつけ、貫いた。
「召喚、オーク!」
私は召喚して援護に回る。
やがて、ラクネスさんがブラックバードの頭を貫く。
「ギギギイキャガア!」
ブラックバードはレッドバードと同様に雄たけびを上げ、
「後は頼んだ、シェミィ!」
「はい!」
私は少しだけブラックバードの近くに寄る。
「ーー聞け、黒き輝く獣よ。 我が命に応えよ。我が名はシェミィ・ユミアル。いざ、我がものとなり、従え!」
ーーブラックバードは、他の四鳥と同じように、球体となって私に吸収された。
「やりましたね!」
「ああ、召喚士とは見事なものだ。」
「ブラボー☆ これでお鍋が食べられるネ!☆」
リーグさん、本当にお鍋が食べたかったんだんだな。
資金や食糧等は、ブラックバードを見付ける過程で揃えてある。
リーグさんが先程の光る玉を密集させ、明かりも充分。
野宿だというのに、今夜は豪勢な夕食となった。
*
「オッハヨゴサマー!」
私達はリーグさんのその大声で目が覚めた。
「今日は早いな、リーグ。おはよう。」
「おはようございます!」
リーグさん、よっぽどお鍋が嬉しかったんだな。
「後はリザベルスを探すだけだ。」
「リザベルス、本当に出てきますかね…。」
私は不安を募らせる。
「あ、そうだ。」
リーグさんが魔法袋の中から回復剤を四つ取り出し、二つずつ、私とラクネスさんに渡した。
「今まで使わなかったけど、緊急時に使ってネ☆ 飲んでも傷に塗ってもオッケー☆」
珍しくリーグさんが真面目にくれた。
「ありがとう、リーグ。」
「ありがとうございます。」
「イェイハー☆ 気にしなくて言いヨー!☆」
「後は、私が四鳥に乗って囮になります。いつになるかわかりませんが、頑張ります。」
私は最初に従えたイエローバードを召喚した。
その上に乗る。
「ラクネスさん、危険ですが乗りますか?」
「では乗らせて貰おうか。心配いらない。」
ラクネスさんを乗せ、私達は広大な海の上で待ち伏せをする事となった。
*
「来ませんね」
「まだ一日目だからな。根気よく待とう。」
二日目。
「来ないネ☆」
「楽しそうだな、リーグ…。」
三日目。
「来なぁぁい!」
「まだ三日目です。焦らず待ちませんか?」
四日目、五日目と続き、近くの平原で野宿をし、食事を取りながら飛行していると、待つ事十日間。
ようやくだった。
”奴”が現れたのは。
次回、最終話となります。