表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚士、頑張ります。  作者: 泉あられ
6/9

第六話 ー 魔導士のカン

「大切な人…か。」


 ミスちゃんに乗りながら、ラクネスさんは低いトーンで呟いた。

 胸元に手を入れ、ペンダントのようなものを取り出す。


「ラクネスさん…?」


 ラクネスさんは私に気付くと、


「ああ…聞こえていたか。」

「大事なもの、ですか…?」


 ラクネスさんはペンダントを見つめると、


「…形見だ。師匠のな。…過去にリザベルスに溶かされてしまった。」

「そうだったんですか…。すみません、嫌な事を言わせでしまって。」

「構わない。幼い頃から、師匠には沢山の事を教えて頂いた。剣技や、魔物の捉え方に、魔物の捌き方等、様々だ。私がまだ幼い頃だった。当時はわんわんと泣いたものだ。」

「………。」


 私は押し黙る。

 大切な人が溶かされたって、お師匠さんの事だったんだ…。

 ラクネスさんはペンダントをまた胸元にしまう。


「悔やんでいても仕方がない。前に進むだけだ。二人共、これからギルドへ向かうぞ。」

「…リーグさん、まだ寝てるんですけど…。」

「………………。」




 午前九時。

 どこのお店もまだ開店前。

 だけど、ギルドの方は違うようだ。



 魔物討伐の依頼を受け、いつものように生息地へと飛行する。

 死臭もある程度慣れてきて、徐々に私も討伐に参加できるようになってきた。


「よし、今日はこの位にしておこう。後は買い出しだ。」






 日保ちする食料、着替えや…回復剤ポーションといった旅に必要なものを買い込み、私達は店を後にする。


「リーグ、袋の中から本をだしてくれ。」

「ハイハーイ!」


 いつものように、リーグさんが魔法でアイテム袋を出現させる。

 本を受け取り、ラクネスさんは読みいる。


「シェミィ、どう思う?」

「そうですね…レッドバードを狙うのならコランクルという所もありかと…。」

「僕はねぇ、ノーストイドっていう洞窟がいいな☆ これ、魔導士の()()☆」

「ノーストイドか…試しに行ってみよう。」


 本を閉じ、リーグさんが袋を消す。




 ノーストイドという洞窟は、リュンガミールとは違い、特に明かりもないのにとても明るい洞窟だった。


「意外ですね。」

「洞窟にしてはな…。ここなら辺りを見渡せる。」

「イエーイ! ラッキーだネ☆」


 歩く事十分じゅっぷん。未だに敵の姿がない。


「リーグ、魔物の気配は?」

「ウ~ン、無い事はないけど…近くにはいないネ。」

「ではもう少し奥まで行ってみよう。」


 ラクネスさんの言う通り、私達は奥まで進んでいった。





「いるョウいるョウ! この辺りに一匹いるョウ!」

「よし。皆、気を抜くな!」

「はい!」

「ハイヨッ」


 周りを警戒しつつ、更に奥へと歩いていく。

すると、


「シギャアアア!」


 魔物の声が聞こえた。


「今度は何鳥なんちょうでーー」


 私が言いかけると、

 …現れたのは、巨大な猪だった。



「…リーグ、魔導士のカンは。」

「これも予測通りだヨ☆」

「魔導士のカンは。」

「これも予測通りだヨ☆」

「魔導士のカンは。」

「これも予測通りだヨ☆」


 ラクネスさんはため息をつくと、


「こういう場合も確かにあるか…。しかし逃げている場合でもない。戦うぞ!」


 そう宣言すると、ラクネスさんはタッと地面を蹴って、


「はあああぁぁッ!」


 猪に斬りかかる。

 すると猪も突進し、ラクネスさんは反射的に盾で応戦する。

 私は巨大な狐を召喚し、猪に隙を作ろうとしている。


「ハーイ! 二人とも、危ないよ☆」


 ボンっと音がしたかと思うと、猪はひっくり返って燃えていた。


「多分今ので終わりだヨ☆」


 猪は悶えながら、火に焼けていた。

 暫くすると、猪は完全に動かなくなった。


「ヤッホウ! せっかくだから食べていこうよ!」

「ひぃっ、食べるんですか?」

「そうだな、他に魔物もいないようだ。私が捌こう。」

「バッチグー☆」




 猪を食べて一段落すると、私達は洞窟の中から出る。


「次はシェミィの言っていたコランクルにーー」


 ラクネスさんが言いかけた、その時だった。

 ビュオオオ、と唸る風が私達を襲った。


「な、何だ!?」


 叫んだ先にーー


「あれ、レッドバードじゃないですか!?」


 真っ赤な体、羽根。

 今にも食い殺してやろうか、と言いそうな立派な牙、威圧感。

 間違いない、あれはレッドバードだ。

 しかし私達のいる地上には、洞窟があるだけで、陸地は殆どない。


「洞窟内まで引き付けますか!?」

「いや、この風では無理だ! シェミィ、飛べるか!? 大型の鳥でも構わない!」

「ハァーイ! 僕はいつでも行けるよん☆」


 先に上昇したリーグさんは、あっという間にレッドバードの下へ飛んでいった。

「大型の鳥だと食べられるんじゃーー」


ーーそうだーー


「召喚! 出てきて、イエローバードっ!」


 私は先日吸収したイエローバードを呼び出した。

 これならかじるのも大変だろう。


「乗って下さい!」

「助かる。」


 ラクネスさんを乗せると、私達も飛び立った。


 四鳥しちょうたい四鳥しちょう。空中戦だ。


 ……本当は、ミスちゃんが食べられてしまうのが怖かった。



「シェミィ、私達が弱らせる。後は任せたぞ!」

「はい!」


 レッドバードの所まで飛んでーー


「レッドバードちゃんは、何属性に弱いのかな? 色的に水魔法カナ?」


 リーグさんは隙を見て、縦に渦が延々と回るような水魔法で攻撃している。

 私達もそこに近付き、イエローバードの羽根を勢いを付けぶつける。

 ラクネスさんは、素早くレッドバードの頭辺りに跳び移り、


「そこだ!」


 頭を剣で突き刺した。

 グルルル、というレッドバードの鳴き声と共に、ラクネスさんが叫ぶ。


「シェミィ、今だ!」

「はいっ」


 私は詠唱を始めた。



「ーー聞け、深く赤く光る獣よ。 我が命に応えよ。我が名はシェミィ・ユミアル。いざ、我がものとなり、従え!」



 レッドバードは赤い光とともに、小さく丸くなって、私に吸収されていった。

 ふと、私は目眩がし、イエローバードの上に倒れ込む。


「シェミィ!」

「シェミィちゃん!」


 素早くイエローバードに戻ったラクネスさんや、魔法陣の上に乗ったリーグさんが、声と共に近付いてくる。


「…すみません、空中戦なんて初めてで、緊張してしまって。」


 空中戦。

 今はまだ慣れないけど、こういうパターンもあるんだ…。頑張らないと。


「無事でよかった。今日はもう宿に泊まろう。…すまない、シェミィ。いけそうか…?」

「平気です、私も体力つけたいし、召喚の腕も上げたいので。」


 そう言って私はミスちゃんを召喚し、イエローバードから移動して、イエローバードを召喚解除した。



 宿に向かう途中。


「あの、一ついいですか?」


 私は切り出した。


「毎回同じ詠唱、ちょっと恥ずかしいです…。」

「そうなのか? 私は気にならないが。」

「僕みたいになると、詠唱なんていらないヨ☆」

「リーグ、魔導士と召喚士は違うぞ。」


 詠唱が必要ない魔導士なんて、聞いた事がない。

 リーグさん、本当に強いんだ。


「そういえば、僕凄かったでショ? イェイェイェイ! 魔導士のカン!」

「まさかあんな形で当たるとはな…。街から遠くとはいっても、いきなり現れて驚いた。」

「やっぱり凄いです、リーグさん!」

「イヤッフー! 僕って天才☆」




 談笑していると、あっという間に宿へ着いた。





「久々の温泉だな…。」


 壁の向こうで、ヘイヘーイ! というリーグさんの声が聞こえる。

 ラクネスさんと一緒に入っている私は、眠くて時折り浴槽の中で寝そうになる。


「無理するな、シェミィ。早く出たいのなら遠慮はいらない。」

「はい…ちょっと先に出ますね。」


 私はそう言って、足早に温泉から出た。


 疲れているのか、部屋に戻って着替えをした後、私はあっという間に寝入った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ