第五話 ー 気持ちを新たに
「イエーイ! ラ・ス・ボ・ス☆」
「調子に乗る暇があったら戦え。」
イエローバードは、立派な羽で私達を吹き飛ばそうとする。
私はミスちゃんを召喚し、空中からそれらを見下ろす。
リーグさんも浮遊魔法を使っていた。
「リーグ、皆に回復魔法を!」
「オッケーイ! それっ☆」
皆の体が光に包まれる。
すると、傷がみるみる内に小さくなっていった。
「助かった、リーグ。」
「ヘーイ! 魔法なら任せてよォッ!」
私も、戦わなきゃ。
「いっくよー、召喚、ゴブリン大!」
魔法陣が現れーー
巨大なゴブリンを喚びだした。
ゴブリンはイエローバードを棍棒でなぐり、または蹴り。
「やるじゃないか、シェミィ。」
「はい、頑張ります!」
どれ程時間が経っただろう。
「キリがないネ☆」
リーグさんは倒せずイライラしているのか、それとも楽しんで言ってるのかわからない。多分後者。
その時、私ははっとした。
どうして今まで気付かなかったのだろう。
「ラクネスさん、リーグさん!」
二人の名前を呼ぶ。
「私に考えがあります!」
私は少し下降して、
「考え…か?」
「はい。今まで気が付かなかったのか恥ずかしいです。自分の事だけで精一杯だったからでしょうか…。」
私は続ける。
「とにかく、やってみます。」
私は更に下降する。
「ーー聞け、黄色く光る獣よ。 我が命に応えよ。」
グゴゴゴ…
イエローバードは攻撃をやめた。
そうーー
「我が名はシェミィ・ユミアル。いざ、我がものとなり、従え!」
私は、召喚士なんだッ!
イエローバードは雄叫びをあげ、光と共に私に吸収された。
「ヒャッホー! 鳥さんが消えたヨ☆」
「これは一体…」
驚く二人に、私は説明する。
「召喚士って、魔物を召喚するだけではなくて、さっきのように吸収して、従える事もできるんです。一度取り込めば、また召喚したりと自由にできます。ただ、大分弱らせないと吸収できなくて。」
「なるほど…便利だな。」
「ヘーイ! 僕も凄いけど、召喚士って凄いんダネ☆」
「…あと、残りの四鳥も私が従えます。そうしていったら、リザベルスも私に近付いてくると思うんです。」
「つまり、君が囮になると。」
「はい、あくまでこの説が正しければですが…。」
ラクネスさんは少し考え、
「わかった。四鳥は君に任せよう。私達が弱らせるから、君はタイミングを見て吸収してくれ。だが、無茶はするな。危なくなったら私達に任せろ。逃げていてもいい。」
「わかりました。」
「戦闘に参加したければ戦っても構わない。それでいいか?」
「はい!」
「よし、今日はもう遅い。洞窟から出て野宿だ。少しでも睡眠を取ろう。リーグもそれでい…、」
「ぐーーーーー。」
…リーグさんは、浮遊魔法を使いながら既に寝ていた。洞窟の中なのに。
けれど、寝袋を二つ袋から取り出してくれていた。こういっては難だけど、意外と気が利く。
「リーグは放っておいて、出口まで戻ろう。」
踵を返すと、リーグさんは寝ながら私達についてきた。
*
私とラクネスさんは寝袋に入り、多少の睡眠をとろうとした。
「ラクネスさん、まだ起きてます…?」
「どうかしたのか?」
ラクネスさんは軽く私の方を向いた。
「…旅立つ前、もしかしたら、復讐心を皆を助ける為だと言い替えて、自分を正当化しているんじゃないかと言っていましたよね。」
「ああ…言った記憶がある。」
「私もなんです。 皆を助ける為と言いつつ、本当は復讐心を満たしたいだけなんじゃないか、自分の欲望を満たす為にリザベルスを倒そうとしているんじゃないか、って時々思うんです。」
「…なるほど。」
「レイさんの話はしましたっけ?」
「ああ、他の者から聞いている。」
「…今でも時折、脳裏を過ぎるんです。見殺しにしたんじゃないか、お前がレイさんを殺したんじゃないかって。」
「……。」
ラクネスさんは何やら考え込む。
「もしや、洞窟内で取り乱していたのはそれが原因か?」
「はい。」
理解が早くて助かる。
「…どうだろうな。私は難しい事には頭が回らない方だが、助けたいと思う気持ちも、復讐心が籠る気持ちも、どちらも自分自身が持っている面だ。ーーすぐにではなくていい。私も思う所がある。少しずつ自分と向き合っていけばいいと私は思っている。」
「少しずつ自分と向き合う、ですか…。」
「ああ。 …私も他者の事は何とも言えないがな。話はそれだけか?」
「あ、はい、すみません。時間遅いのに。」
慌てて謝罪する。
「気にするな。仲間の気持ちは大事だ。寧ろ話してくれて有難い。また何かあったら言ってくれ。一人で悩むな。私達は仲間だ。」
「はい、ありがとうございます。」
「ではそろそろ寝ようか。」
「はい。おやすみなさい。」
…リーグさん、寒くないのかな。
ふとリーグさんの方を見ると、
魔法陣の上で座り込み、魔法でランプを出して寝ているリーグさんの姿が。本当に寝ながらやっているのだろうか。相変わらず凄い。
翌朝ーー
私とラクネスさんは、私が長話に付き合わせてしまい、三時間位しか寝ていない。
「オッハヨーウ!☆」
一足先に寝ていた…のだろうか、リーグさんの発言が頭がキーンと響く。
「おはよう。今日は買い出しと金策をしようと思う。」
「おはようございます。 …ちょっと先に寄りたい所があるんですけど、いいですか?」
*
「シェミィ!」
お姉ちゃんは私を見て、手を振った。
「ヤッホーシェミィ! 生きてたか!」
ルアリーもいた。
「久しぶりね、元気だった?」
「そこそこ。お姉ちゃんは?」
「そりゃ私もルアリーちゃんも心配してたわよ!まだ生きててよかったわ。」
まだ? ってお姉ちゃん…
「心配かけてごめんね。何だか急に会いたくなっちゃって。」
「あたしも会いたかったよー大切な親友だもん、会いに来てくれて嬉しいよ! …あれ、そこの人達は…?ラクネスさん?」
ルアリーは、少し離れた所にいるラクネスさんとリーグさんを見付けると、お姉ちゃんと一緒にこんにちは、と挨拶した。
「邪魔かと思い隠れていたが、見つかってしまったか。」
「ヘーイ! シェミィちゃんのオトモダチさんだね☆ 僕リーグ、よろしくぅ!」
「…何あれ」
「気にしなくていいよ、ルアリー。」
私達は小声で言い交わした。
「ラクネスさん、うちの義理の妹がお世話になってます。」
「お世話になっているのは私達の方だ。先日の魔物は、彼女がいなければ危なかった。召喚士が如何に凄いか、考えさせられた。」
「お、やるじゃんシェミィ~。」
ルアリーが肘で私をつつく。
懐かしい感覚。皆に顔見せできて本当によかった。
「じゃあ、私急ぐから!」
「シェミィ、もういいのか?」
「はい! 皆の顔見られてよかったです!」
私達は水辺にいるミスちゃんの方へと戻っていく。
「シェミィ!」
私はルアリーの声で振り返る。
「また遊ぼうね!」
私の目から、思わず何かがーー。
目を擦り、
「もちろん!」
私は大きな声で、笑顔で応えた。